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EP 31
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水晶の巨亀と絶望の淵
凶暴化した動物たちを鎮静させ、異変の核心へと迫る勇太たち四人。リーシャの案内と勇太の分析を頼りに「囁きの森」のさらに奥深くへと進むと、周囲の様相は一変した。木々はねじくれ、地面を覆う光る苔は絨毯のように広がり、不気味な青白い光が森全体を支配している。空気は重く淀み、魔力が異常なほど濃密に渦巻いているのを感じた。
やがて彼らは、森の開けた場所にたどり着いた。そこは、巨大な洞窟の入り口のようになっており、その奥からは、ひときわ強い光と、全ての異変の元凶と思しき禍々しい気配が漂ってくる。光る苔は、この洞窟を中心に広がっているようだ。
「ここが……異変の中心みたいね」
リーシャが杖を握りしめ、警戒を強める。
その時だった。洞窟の暗がりから、ズシン、ズシン、という重い地響きと共に、巨大な影が姿を現した。
それは、山と見紛うばかりの巨体を持つ亀型のモンスターだった。だが、その甲羅は通常の亀とは違い、無数の水晶や宝石のような結晶体でびっしりと覆われ、光る苔の青白い光を乱反射させて、妖しくも美しく輝いている。頭部や四肢も硬質な結晶に覆われ、その瞳は冷たい宝石のような光を放っていた。
「な、なんだ……あれは……!?」
イグニスが、戦斧を構えながらも息をのむ。
「クリスタルタートル……古文書で読んだことがあるわ。非常に硬い甲羅を持ち、結晶を操る強力な魔物よ!」
リーシャが緊張した面持ちで告げた。
クリスタルタートルは、ゆっくりと、しかし確実に勇太たちに狙いを定め、その巨大な口を開いた。
「来るぞ! 全員、散開!」
勇太の叫びと同時に、クリスタルタートルは結晶質の鋭い棘を、まるで散弾のように周囲にまき散らした!
「くっ!」
イグニスが大盾で棘を防ぎ、キャルルは俊敏な動きでそれを回避する。勇太も薙刀で数本を弾き飛ばすが、その威力は凄まじく、腕が痺れた。リーシャは魔法障壁を展開し、身を守る。
「こんなところで立ち止まってられるかよ!」
イグニスが雄叫びを上げ、戦斧をクリスタルタートルの脚部に叩きつける。だが、ガキン!という硬質な音と共に、戦斧は弾かれ、分厚い結晶の装甲にはほとんど傷一つついていない。
「硬かてえっ!?」
「月影流・穿虚脚せんきょきゃく!」
キャルルが、目にも留まらぬ速さでゴーレムの側面から連続蹴りを叩き込むが、これもまた効果は薄い。逆に、タートルの回転に合わせて振り回された尻尾の一撃が、キャルルの体を掠めた。
「きゃあ!」
「キャルルさん!」
勇太が駆け寄ろうとするが、タートルは新たな攻撃を仕掛けてくる。地面から鋭い結晶の柱が突き出し、行く手を阻んだ。
「フレイムストーム!」
リーシャが強力な範囲攻撃魔法を放つが、炎はクリスタルタートルの甲羅の上で虚しく踊るだけで、表面が少し煤ける程度だ。
「ダメだわ、魔法もほとんど通じない……! あの結晶の甲羅が、魔力すらも拡散させているのよ!」
圧倒的な防御力と、多彩な結晶質の攻撃。これまでの敵とは明らかに格が違う。
勇太は薙刀で応戦しつつ、「地球ショッピング」のボードを脳裏に展開する。
(こいつを倒すには……銃じゃ歯が立たないかもしれない。もっと強力な……対物ライフル? いや、ポイントが……爆薬か? でも、どうやって設置する?)
思考を巡らせる間にも、戦況は悪化していく。イグニスの大盾にはヒビが入り始め、キャルルも結晶の破片で腕を負傷している。リーシャのMPも、効果の薄い魔法を連発したせいで消耗が激しい。
「くそっ……どうすれば……!」
勇太が打開策を見出せないでいると、クリスタルタートルが、その巨大な頭部をゆっくりと持ち上げ、口の中に眩い光を収束させ始めた。
(まずい、何か強力なブレスが来る……!)
「リーシャさん、防御魔法を!」
「もう魔法力が……!」
リーシャの顔に絶望の色が浮かぶ。
「俺が止める!」
イグニスが、最後の力を振り絞るように、砕けかけた大盾を構え、タートルの前に立ちはだかった。
そして、クリスタルタートルの口から、全てを貫くような純粋なエネルギーの奔流が放たれた――!
「イグニスさーーーーん!!」
キャルルの悲痛な叫びが、森に木霊した。
勇太は、なすすべもなく、その絶望的な光景を見つめるしかなかった。
次回へ続く――。
凶暴化した動物たちを鎮静させ、異変の核心へと迫る勇太たち四人。リーシャの案内と勇太の分析を頼りに「囁きの森」のさらに奥深くへと進むと、周囲の様相は一変した。木々はねじくれ、地面を覆う光る苔は絨毯のように広がり、不気味な青白い光が森全体を支配している。空気は重く淀み、魔力が異常なほど濃密に渦巻いているのを感じた。
やがて彼らは、森の開けた場所にたどり着いた。そこは、巨大な洞窟の入り口のようになっており、その奥からは、ひときわ強い光と、全ての異変の元凶と思しき禍々しい気配が漂ってくる。光る苔は、この洞窟を中心に広がっているようだ。
「ここが……異変の中心みたいね」
リーシャが杖を握りしめ、警戒を強める。
その時だった。洞窟の暗がりから、ズシン、ズシン、という重い地響きと共に、巨大な影が姿を現した。
それは、山と見紛うばかりの巨体を持つ亀型のモンスターだった。だが、その甲羅は通常の亀とは違い、無数の水晶や宝石のような結晶体でびっしりと覆われ、光る苔の青白い光を乱反射させて、妖しくも美しく輝いている。頭部や四肢も硬質な結晶に覆われ、その瞳は冷たい宝石のような光を放っていた。
「な、なんだ……あれは……!?」
イグニスが、戦斧を構えながらも息をのむ。
「クリスタルタートル……古文書で読んだことがあるわ。非常に硬い甲羅を持ち、結晶を操る強力な魔物よ!」
リーシャが緊張した面持ちで告げた。
クリスタルタートルは、ゆっくりと、しかし確実に勇太たちに狙いを定め、その巨大な口を開いた。
「来るぞ! 全員、散開!」
勇太の叫びと同時に、クリスタルタートルは結晶質の鋭い棘を、まるで散弾のように周囲にまき散らした!
「くっ!」
イグニスが大盾で棘を防ぎ、キャルルは俊敏な動きでそれを回避する。勇太も薙刀で数本を弾き飛ばすが、その威力は凄まじく、腕が痺れた。リーシャは魔法障壁を展開し、身を守る。
「こんなところで立ち止まってられるかよ!」
イグニスが雄叫びを上げ、戦斧をクリスタルタートルの脚部に叩きつける。だが、ガキン!という硬質な音と共に、戦斧は弾かれ、分厚い結晶の装甲にはほとんど傷一つついていない。
「硬かてえっ!?」
「月影流・穿虚脚せんきょきゃく!」
キャルルが、目にも留まらぬ速さでゴーレムの側面から連続蹴りを叩き込むが、これもまた効果は薄い。逆に、タートルの回転に合わせて振り回された尻尾の一撃が、キャルルの体を掠めた。
「きゃあ!」
「キャルルさん!」
勇太が駆け寄ろうとするが、タートルは新たな攻撃を仕掛けてくる。地面から鋭い結晶の柱が突き出し、行く手を阻んだ。
「フレイムストーム!」
リーシャが強力な範囲攻撃魔法を放つが、炎はクリスタルタートルの甲羅の上で虚しく踊るだけで、表面が少し煤ける程度だ。
「ダメだわ、魔法もほとんど通じない……! あの結晶の甲羅が、魔力すらも拡散させているのよ!」
圧倒的な防御力と、多彩な結晶質の攻撃。これまでの敵とは明らかに格が違う。
勇太は薙刀で応戦しつつ、「地球ショッピング」のボードを脳裏に展開する。
(こいつを倒すには……銃じゃ歯が立たないかもしれない。もっと強力な……対物ライフル? いや、ポイントが……爆薬か? でも、どうやって設置する?)
思考を巡らせる間にも、戦況は悪化していく。イグニスの大盾にはヒビが入り始め、キャルルも結晶の破片で腕を負傷している。リーシャのMPも、効果の薄い魔法を連発したせいで消耗が激しい。
「くそっ……どうすれば……!」
勇太が打開策を見出せないでいると、クリスタルタートルが、その巨大な頭部をゆっくりと持ち上げ、口の中に眩い光を収束させ始めた。
(まずい、何か強力なブレスが来る……!)
「リーシャさん、防御魔法を!」
「もう魔法力が……!」
リーシャの顔に絶望の色が浮かぶ。
「俺が止める!」
イグニスが、最後の力を振り絞るように、砕けかけた大盾を構え、タートルの前に立ちはだかった。
そして、クリスタルタートルの口から、全てを貫くような純粋なエネルギーの奔流が放たれた――!
「イグニスさーーーーん!!」
キャルルの悲痛な叫びが、森に木霊した。
勇太は、なすすべもなく、その絶望的な光景を見つめるしかなかった。
次回へ続く――。
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