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EP 1
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カップ麺を作ったら、伝説の錬金術師と勘違いされました
マンルシア大陸、中央平原。
周辺諸国が「世界最強の軍事国家」と恐れおののく新興国、タロー皇国。
その中枢である王城の玉座の間には、今日も重苦しい空気が流れて……いなかった。
「あー、腹減った」
玉座の上で胡座(あぐら)をかいている男が一人。
佐藤太郎(さとう・たろう)、34歳。この国の国王である。
王冠こそ被っているものの、服装は上下グレーのジャージ。足元は健康サンダル。
威厳のカケラもないその姿を、天井裏から凝視する影があった。
(……見つけたぞ。奴が『戦慄の覇王』タローか)
影の正体は、北方の魔導大国・ワイズ皇国から送り込まれた密偵、ガラムである。
彼の任務は、謎に包まれたタロー王の「力の源」を探ること。
(噂では、一撃で山を消し飛ばす『神の雷』を操ると聞く。だが……魔力は微塵も感じない。ただの昼寝好きのオッサンにしか見えんが……)
ガラムが疑念を抱いた、その時だった。
タローが虚空に手をかざし、ボソリと呟く。
「スキル発動――【100円ショップ】」
直後、ガラムは我が目を疑った。
空間が歪み、タローの手元に『異界の物質』が召喚されたのだ。
「今日はシーフードの気分だな。ビッグサイズでいくか」
タローが取り出したのは、赤と青の奇妙な文字が描かれた「円筒形の容器(カップ麺)」。
そしてもう一つ、銀色に輝く「金属の筒(魔法瓶)」である。
(な、なんだあれは!? 詠唱も魔法陣もなしに物質転移だと!?)
ガラムの背筋に冷たい汗が伝う。
だが、驚愕はここからが本番だった。
タローは金属の筒(魔法瓶)の蓋を開け、円筒形の容器(カップ麺)に中身を注いだのだ。
とぷとぷ、という音と共に、熱気が立ち昇る。
(……湯気!? バカな、火種がないぞ!?)
ガラムは混乱した。
この世界で湯を沸かすには、火を起こすか、火魔法を使うしかない。
だが、あの銀色の筒は、なんの変哲もない金属に見える。
(まさか……『永久熱源機関』か!? 内部の熱を完全に遮断し、数刻前の熱量を保存し続けているとでも言うのか!?)
それは、ドワーフの工学技術でも不可能な神の御業だった。
そんなオーパーツを、この男はあろうことか昼食のために使っている。
「よし、あとは3分待つだけだ」
タローは次に、小さな四角い板――「キッチンタイマー」を取り出し、ボタンを押した。
ピピッ。
無機質な電子音が響く。
ガラムの顔色が蒼白になる。
(……音で『時』を刻んでいる? いや、違う。あれは時間の流れを制御する魔導具だ! 奴は今、あの容器の中だけの時間を加速させ、食材を熟成させようとしているんだ!)
時空魔法の行使。
伝説の大賢者クラスしか使えない禁呪を、タローは鼻歌まじりに行っている。
そして、運命の3分後。
ピピピピピ!
タイマーが鳴り響くと同時に、タローは容器の蓋を剥がした。
ふわぁぁぁ……。
濃厚な魚介の香りが、広い玉座の間に充満する。
天井裏のガラムの鼻腔を、暴力的なまでの「旨味」が直撃した。
(っ!? なんだこの芳醇な香りは……! 乾燥していたはずの謎の物体が、黄金の麺と、色とりどりの具材に変化している!?)
錬金術の極致、「完全物質変換」。
干からびた保存食を一瞬で、宮廷料理ごときが裸足で逃げ出すほどの至高の料理に変えたのだ。
「ずずっ……ずぞぞぞーッ! ぷはぁ、やっぱこれだわ」
タローは至福の表情で麺をすする。
ガラムは震える手で、必死にメモを取った。
『報告。タロー王は、無詠唱での「物質転移」、熱源を無視した「永久保温技術」、さらには時間を操る「時空魔法」と、乾燥物を黄金に変える「錬金術」を併せ持つ。――勝てるわけがない』
ガラムは音もなく天井裏から撤退した。
一刻も早く、本国のルーベンス公爵に知らせねばならない。この国と戦争になれば、我が国は兵站(ロジスティクス)の差だけで敗北すると。
……数分後。
「ごちそーさん。あースープまで飲んじまった。塩分ヤバいな」
タローは満足げにゲップをすると、空になった発泡スチロールの容器をゴミ箱にポイッと捨てた。
後に、このゴミ箱から回収された容器(発泡スチロール)を解析したワイズ皇国の研究者たちは、こう叫ぶことになる。
「羽毛より軽く、陶器より熱を伝えない!? これは間違いなく、伝説の『白竜の皮』だ! 王が食べたのは、竜の肉だったのか……ッ!!」
タロー皇国の脅威度が、また一つ(勝手に)ランクアップした瞬間だった。
「さてと。腹も膨れたし、昼寝の続きでもすっかな」
世界を震撼させた覇王は、ジャージのズボンをボリボリとかきながら、再び夢の中へと落ちていくのだった。
マンルシア大陸、中央平原。
周辺諸国が「世界最強の軍事国家」と恐れおののく新興国、タロー皇国。
その中枢である王城の玉座の間には、今日も重苦しい空気が流れて……いなかった。
「あー、腹減った」
玉座の上で胡座(あぐら)をかいている男が一人。
佐藤太郎(さとう・たろう)、34歳。この国の国王である。
王冠こそ被っているものの、服装は上下グレーのジャージ。足元は健康サンダル。
威厳のカケラもないその姿を、天井裏から凝視する影があった。
(……見つけたぞ。奴が『戦慄の覇王』タローか)
影の正体は、北方の魔導大国・ワイズ皇国から送り込まれた密偵、ガラムである。
彼の任務は、謎に包まれたタロー王の「力の源」を探ること。
(噂では、一撃で山を消し飛ばす『神の雷』を操ると聞く。だが……魔力は微塵も感じない。ただの昼寝好きのオッサンにしか見えんが……)
ガラムが疑念を抱いた、その時だった。
タローが虚空に手をかざし、ボソリと呟く。
「スキル発動――【100円ショップ】」
直後、ガラムは我が目を疑った。
空間が歪み、タローの手元に『異界の物質』が召喚されたのだ。
「今日はシーフードの気分だな。ビッグサイズでいくか」
タローが取り出したのは、赤と青の奇妙な文字が描かれた「円筒形の容器(カップ麺)」。
そしてもう一つ、銀色に輝く「金属の筒(魔法瓶)」である。
(な、なんだあれは!? 詠唱も魔法陣もなしに物質転移だと!?)
ガラムの背筋に冷たい汗が伝う。
だが、驚愕はここからが本番だった。
タローは金属の筒(魔法瓶)の蓋を開け、円筒形の容器(カップ麺)に中身を注いだのだ。
とぷとぷ、という音と共に、熱気が立ち昇る。
(……湯気!? バカな、火種がないぞ!?)
ガラムは混乱した。
この世界で湯を沸かすには、火を起こすか、火魔法を使うしかない。
だが、あの銀色の筒は、なんの変哲もない金属に見える。
(まさか……『永久熱源機関』か!? 内部の熱を完全に遮断し、数刻前の熱量を保存し続けているとでも言うのか!?)
それは、ドワーフの工学技術でも不可能な神の御業だった。
そんなオーパーツを、この男はあろうことか昼食のために使っている。
「よし、あとは3分待つだけだ」
タローは次に、小さな四角い板――「キッチンタイマー」を取り出し、ボタンを押した。
ピピッ。
無機質な電子音が響く。
ガラムの顔色が蒼白になる。
(……音で『時』を刻んでいる? いや、違う。あれは時間の流れを制御する魔導具だ! 奴は今、あの容器の中だけの時間を加速させ、食材を熟成させようとしているんだ!)
時空魔法の行使。
伝説の大賢者クラスしか使えない禁呪を、タローは鼻歌まじりに行っている。
そして、運命の3分後。
ピピピピピ!
タイマーが鳴り響くと同時に、タローは容器の蓋を剥がした。
ふわぁぁぁ……。
濃厚な魚介の香りが、広い玉座の間に充満する。
天井裏のガラムの鼻腔を、暴力的なまでの「旨味」が直撃した。
(っ!? なんだこの芳醇な香りは……! 乾燥していたはずの謎の物体が、黄金の麺と、色とりどりの具材に変化している!?)
錬金術の極致、「完全物質変換」。
干からびた保存食を一瞬で、宮廷料理ごときが裸足で逃げ出すほどの至高の料理に変えたのだ。
「ずずっ……ずぞぞぞーッ! ぷはぁ、やっぱこれだわ」
タローは至福の表情で麺をすする。
ガラムは震える手で、必死にメモを取った。
『報告。タロー王は、無詠唱での「物質転移」、熱源を無視した「永久保温技術」、さらには時間を操る「時空魔法」と、乾燥物を黄金に変える「錬金術」を併せ持つ。――勝てるわけがない』
ガラムは音もなく天井裏から撤退した。
一刻も早く、本国のルーベンス公爵に知らせねばならない。この国と戦争になれば、我が国は兵站(ロジスティクス)の差だけで敗北すると。
……数分後。
「ごちそーさん。あースープまで飲んじまった。塩分ヤバいな」
タローは満足げにゲップをすると、空になった発泡スチロールの容器をゴミ箱にポイッと捨てた。
後に、このゴミ箱から回収された容器(発泡スチロール)を解析したワイズ皇国の研究者たちは、こう叫ぶことになる。
「羽毛より軽く、陶器より熱を伝えない!? これは間違いなく、伝説の『白竜の皮』だ! 王が食べたのは、竜の肉だったのか……ッ!!」
タロー皇国の脅威度が、また一つ(勝手に)ランクアップした瞬間だった。
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