『無作法な異世界にSWAT流の鉄槌を ―弾丸一発一千円、女神と契約した俺たちの戦術防衛記―』

月神世一

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EP 4

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「交渉(ネゴシエーション)――正義の価格」
​ 案内されたのは、村の中央にある少し大きな木造建築だった。
 背後には、未だ殺気立ったままのモウラが、鎖をチャリチャリと鳴らしながらついてくる。
​「妙な動きしたら、そのヘルメットごと頭蓋骨カチ割るからな。覚悟しときな」
「おぉ、怖っ。……ボス、この姉ちゃんマジっすよ。俺の尻を狙ってる」
「黙って歩け、ニコラス」
​ 俺たちは村長宅の応接間に通された。
 古びているが掃除の行き届いた部屋だ。俺とニコラスは、勧められた木の椅子に腰を下ろし、装備を解除することなく背筋を伸ばした。
 対面には村長のキャルル。その横にはモウラと、新たに現れた二人の男――ドワーフの老人と、猫耳の獣人が並んでいる。
​「改めまして……。あなた達は、一体何者なんですか?」
​ キャルルが真っ直ぐな瞳で問いかけてきた。
 単なる余所者か、それとも侵略者の先兵か。その答え次第では、即座に戦闘が再開される空気だ。
​ 俺は一瞬だけ計算し、そして最も効果的であろう「カード」を切った。
​「我々は、とある世界から来た。――女神ルチアナ様の使いの者だ」
​「……は?」
 隣でニコラスが素っ頓狂な声を上げかけたのを、俺はテーブルの下でブーツの爪先で踏んで黙らせた。
​(……ボス、嘘だろ? あいつ、ただ俺たちをパシリに使っただけじゃ……)
​ ニコラスの心の声が聞こえるようだが、俺は表情一つ変えずに続ける。
​「我々の使命は、弱き民を守り、邪なる者を打ち払うこと。それが女神より賜った任務(ミッション)だ」
​(嘘だー! ソシャゲ代稼いでこいって放り出されただけだろー!)
​ ニコラスの視線が痛い。だが、効果は覿面(てきめん)だった。
​「ルチアナ様の……!? まあ、伝説の創造主様の御使いだったなんて!」
​ キャルルの長い耳がピーンと立ち、瞳が尊敬の眼差しで輝きだした。純粋すぎる。心が痛むが、背に腹は代えられない。
​「ほっほぉ……。確かに、こいつらの着ている『服』も『筒』も、この世界のモンじゃねぇな」
​ ドワーフの老人が、興味深そうに身を乗り出した。村の鍛冶師、ガンツだ。
 彼は俺の『Korth』を食い入るように見つめている。
​「ミスリルでもねぇ、見たことのない黒い樹脂と金属……。こりゃあ、人の手で作れる精度じゃねぇ。神の御業と言われりゃ信じるしかねぇわい」
​「せやけど、話が美味すぎまへんか?」
​ 疑いの目を向けてきたのは、猫耳の男――ゴルド商会のニャングルだ。彼は算盤をパチパチと弾きながら、胡散臭そうに俺たちを見ている。
​「正義の味方はんが、なんでまたこんな辺境の貧乏村に来なすった? 神様ならもっとマシな場所に行かせるんとちゃいます?」
​ 鋭い指摘だ。だが、俺は動じない。
​「……そうだ。単刀直入に言おう。我々は地上での活動にあたり、取り引きを希望する」
​「取り引き……ですか?」
 キャルルが首をかしげる。
​「我々がこのポポロ村を護衛し、あらゆる脅威を排除(クリア)する。その代償として――活動資金、つまり金銭を要求したい」
​ 部屋に沈黙が落ちた。
 最初に口を開いたのはニャングルだった。
​「ずこーっ! 給料かいな! 一気に庶民臭くなったな、正義の味方はんは!」
​「活動には維持費(ランニングコスト)がかかる。霞を食っては戦えん」
 俺は淡々と告げた。弾丸代、メンテナンス費、そして女神への上納金。金がなければ俺たちは死ぬ。
​ キャルルは少し困った顔をして、手元の帳簿に視線を落とした。
「……分かりました。お二人の実力は本物です。村を守ってくださるなら、これ以上心強いことはありません。でも……」
​ 彼女は申し訳なさそうに、指を二本立てた。
​「今のポポロ村の財政では……お一人、月額20万円が限界です」
​「に、20万!?」
 ニコラスが思わず叫んだ。
「安っ! 命張って月20万!? 俺たち元SWATだぞ!? 危険手当は!? 残業代は!?」
​ 現代日本のアルバイト並み、あるいは新卒の初任給レベルだ。
 マグナム弾なら200発、ベネリの弾なら400発撃てば赤字になる金額。
 だが、今の俺たちには「拠点」が必要だ。雨風を凌げる屋根と、身分を保証してくれる場所が。
​「……そうか。分かった」
「えっ、ボス!? いいんすか!?」
​ 俺はキャルルに手を差し出した。
​「契約成立だ、村長。……本日より『PMC(民間軍事会社)シャーク』は、ポポロ村と防衛契約を結ぶ」
​「は、はい! よろしくお願いします、サメジマさん!」
​ キャルルが嬉しそうに俺の手を握り返す。その手は小さく、温かかった。
 
 ――こうして俺たちは、月給20万円の「神の使い(正義の味方)」として再就職したのだった。
​(……ボス、今月もう弾撃てないっすよ、これ)
(……あぁ。コーヒーキャンディも節約だな)
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