15 / 15
EP 15
しおりを挟む
「給料日の悲劇――女神(カキン)の強制徴収」
オーク・ジェネラル襲撃から数日後。
ポポロ村は復興作業の槌音に包まれていた。
そして、俺たちPMCシャークにとっても、待ちに待った日がやってきた。
「はい、これが今月分の報酬です! お二人とも、本当にありがとうございました!」
村長室で、キャルルが満面の笑みと共に分厚い封筒を差し出した。
その横では、ニャングルが悔しそうにハンカチを噛んでいる。
「うぅ……わてのへそくりが……。まあ、今回は特別ボーナスも込みや! 持ってけドロボウ!」
俺とニコラスは、震える手で封筒を受け取った。
ずしりと重い。
基本給20万円×2名+特別手当=合計50万円。
「ボ、ボス……! これ、現実っすよね!?」
ニコラスが目を潤ませて俺を見る。
「あぁ。現実だ、ニコラス。
これで……やっと『赤マル』がカートンで買える。コーヒーも、あの泥水みたいな代用茶じゃなく、本物の豆が挽けるぞ」
俺もまた、感極まって声が震えた。
命を懸けた戦いの対価。労働の喜び。
俺たちは英雄として村を守り、そして富を得たのだ。
「へへっ、俺はとりあえず、ベネリのカスタムパーツと……あと、キャルルちゃんに何か美味いもんでも奢りますかね!」
「いい心がけだ。俺はガンツに礼として、日本酒でも取り寄せてやるか」
夢が広がる。
俺たちはホクホク顔で村長宅を後にし、青空の下を歩き出した。
その時だった。
ピロリン♪
脳内に、ふざけた電子音が響いた。
俺とニコラスの足がピタリと止まる。
冷や汗が背中を伝う。この音は、あの部屋で聞いたスマホの通知音だ。
『あ、もしもし~? 勇護く~ん? ニコラスく~ん?』
脳に直接響く、能天気な声。
女神ルチアナだ。
「……何の用だ。報告なら定時連絡で済ませたはずだが」
俺は空に向かって低い声で唸った。
『いや~、君たちの活躍、天界から見てたよ! 凄かったね~、あの電光キック! あ、君たちの地味な射撃もよかったよ?』
「……用件を言え」
『あのさぁ……今ね、私のやってるソシャゲで「水着イベント」が始まったの。
で、限定キャラの「サマー・ヴァルキリー」がどうしても欲しいんだけど……石が足りなくてさぁ』
嫌な予感がした。
俺は無意識に懐の封筒を握り締める。
「……それで?」
『単刀直入に言うね。
45万円、課金してくれない?』
「はぁぁぁぁぁッ!?」
ニコラスが絶叫した。
「ふざけんな! 俺たちの給料だぞ!? 命懸けで稼いだ50万だぞ!?」
『え~? でも君たち、私のコネで異世界に来れたんだよね?
それに、今後の弾薬供給とか、メンテナンスキットの流通ルート……止まっちゃうと困るんじゃないかな~?(チラッ)』
恫喝だ。
神による、抗えないパワハラだ。
「……45万は高すぎる。せめて半額……」
『あ、もう引き落とし処理しといたから☆ 残りは手数料として天界の口座に入れとくね!』
シュンッ!
俺の手元の封筒が軽くなった。
慌てて中を確認する。
分厚かった札束は消滅し、中にはペラペラの紙幣が数枚、寂しそうに残されているだけだった。
残金……5万円。
二人合わせて、5万円。
『ありがと~! これで天井まで回せるわ! じゃ、来月もよろしくね~! お仕事頑張って☆』
プツン。
通信が切れた。
俺とニコラスは、ポポロ村の青空の下で立ち尽くした。
通りかかったキャルルが、不思議そうに首を傾げる。
「あれ? サメジマさんたち、どうしたんですか? 顔色が真っ青ですけど……」
「……いや、なんでもない」
俺は乾いた笑みを浮かべ、封筒をポケットにねじ込んだ。
「ニコラス」
「……はい、ボス」
「赤マルは諦めろ。コーヒーもだ」
俺は雑貨屋に向かって歩き出した。
「『わかば』だ。……一番安いタバコと、一番安い麦茶を買うぞ」
「……了解っす。うぅ……俺のカスタムパーツ……」
男泣きする相棒の背中を叩き、俺は空を見上げた。
そこには、昼間だというのに薄っすらと白い月が浮かんでいる。
あの月で、クソ女神がガチャを回して一喜一憂しているかと思うと、殺意が湧く。
だが、俺たちは生きていかねばならない。
この無作法な異世界で。
守るべき村と、理不尽な上司(女神)と共に。
PMCシャークの戦いは、まだ始まったばかりだ。
まずは――来月の家賃をどうするか、という戦いから。
オーク・ジェネラル襲撃から数日後。
ポポロ村は復興作業の槌音に包まれていた。
そして、俺たちPMCシャークにとっても、待ちに待った日がやってきた。
「はい、これが今月分の報酬です! お二人とも、本当にありがとうございました!」
村長室で、キャルルが満面の笑みと共に分厚い封筒を差し出した。
その横では、ニャングルが悔しそうにハンカチを噛んでいる。
「うぅ……わてのへそくりが……。まあ、今回は特別ボーナスも込みや! 持ってけドロボウ!」
俺とニコラスは、震える手で封筒を受け取った。
ずしりと重い。
基本給20万円×2名+特別手当=合計50万円。
「ボ、ボス……! これ、現実っすよね!?」
ニコラスが目を潤ませて俺を見る。
「あぁ。現実だ、ニコラス。
これで……やっと『赤マル』がカートンで買える。コーヒーも、あの泥水みたいな代用茶じゃなく、本物の豆が挽けるぞ」
俺もまた、感極まって声が震えた。
命を懸けた戦いの対価。労働の喜び。
俺たちは英雄として村を守り、そして富を得たのだ。
「へへっ、俺はとりあえず、ベネリのカスタムパーツと……あと、キャルルちゃんに何か美味いもんでも奢りますかね!」
「いい心がけだ。俺はガンツに礼として、日本酒でも取り寄せてやるか」
夢が広がる。
俺たちはホクホク顔で村長宅を後にし、青空の下を歩き出した。
その時だった。
ピロリン♪
脳内に、ふざけた電子音が響いた。
俺とニコラスの足がピタリと止まる。
冷や汗が背中を伝う。この音は、あの部屋で聞いたスマホの通知音だ。
『あ、もしもし~? 勇護く~ん? ニコラスく~ん?』
脳に直接響く、能天気な声。
女神ルチアナだ。
「……何の用だ。報告なら定時連絡で済ませたはずだが」
俺は空に向かって低い声で唸った。
『いや~、君たちの活躍、天界から見てたよ! 凄かったね~、あの電光キック! あ、君たちの地味な射撃もよかったよ?』
「……用件を言え」
『あのさぁ……今ね、私のやってるソシャゲで「水着イベント」が始まったの。
で、限定キャラの「サマー・ヴァルキリー」がどうしても欲しいんだけど……石が足りなくてさぁ』
嫌な予感がした。
俺は無意識に懐の封筒を握り締める。
「……それで?」
『単刀直入に言うね。
45万円、課金してくれない?』
「はぁぁぁぁぁッ!?」
ニコラスが絶叫した。
「ふざけんな! 俺たちの給料だぞ!? 命懸けで稼いだ50万だぞ!?」
『え~? でも君たち、私のコネで異世界に来れたんだよね?
それに、今後の弾薬供給とか、メンテナンスキットの流通ルート……止まっちゃうと困るんじゃないかな~?(チラッ)』
恫喝だ。
神による、抗えないパワハラだ。
「……45万は高すぎる。せめて半額……」
『あ、もう引き落とし処理しといたから☆ 残りは手数料として天界の口座に入れとくね!』
シュンッ!
俺の手元の封筒が軽くなった。
慌てて中を確認する。
分厚かった札束は消滅し、中にはペラペラの紙幣が数枚、寂しそうに残されているだけだった。
残金……5万円。
二人合わせて、5万円。
『ありがと~! これで天井まで回せるわ! じゃ、来月もよろしくね~! お仕事頑張って☆』
プツン。
通信が切れた。
俺とニコラスは、ポポロ村の青空の下で立ち尽くした。
通りかかったキャルルが、不思議そうに首を傾げる。
「あれ? サメジマさんたち、どうしたんですか? 顔色が真っ青ですけど……」
「……いや、なんでもない」
俺は乾いた笑みを浮かべ、封筒をポケットにねじ込んだ。
「ニコラス」
「……はい、ボス」
「赤マルは諦めろ。コーヒーもだ」
俺は雑貨屋に向かって歩き出した。
「『わかば』だ。……一番安いタバコと、一番安い麦茶を買うぞ」
「……了解っす。うぅ……俺のカスタムパーツ……」
男泣きする相棒の背中を叩き、俺は空を見上げた。
そこには、昼間だというのに薄っすらと白い月が浮かんでいる。
あの月で、クソ女神がガチャを回して一喜一憂しているかと思うと、殺意が湧く。
だが、俺たちは生きていかねばならない。
この無作法な異世界で。
守るべき村と、理不尽な上司(女神)と共に。
PMCシャークの戦いは、まだ始まったばかりだ。
まずは――来月の家賃をどうするか、という戦いから。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
『異世界でSWAT隊長になったが、部下が無職のドラゴンと婚活ウサギしか居ない件について〜 裁けぬ悪は、357マグナムとカツ丼で解決します〜』
月神世一
ファンタジー
「魔法? 知らん。閃光弾(フラバン)食らって手錠にかかれ!」元SWAT隊長が挑む、異世界警察24時!
【あらすじ】
元ロス市警SWAT隊員の鮫島勇護は、子供を庇って死んだ……はずが、気がつけば異世界の新興国「太郎国」で、特別機動隊『T-SWAT』の隊長になっていた!
支給されたのは、最強のリボルバー『Korth』と現代タクティカルギア。
魔法障壁? ゴム弾で割る。
詠唱? 閃光弾で黙らせる。
騎士道? 知るか、裏から制圧だ。
圧倒的な実力で凶悪犯を狩る鮫島だったが、彼には致命的な悩みがあった。
――部下がいない。そして、装備の維持費が高すぎて給料がマイナスだ。
安くて強い人材を求めた彼が採用したのは……
「火力が強すぎてクビになった無職のドラゴン」
「婚活資金のために戦う、安全靴を履いたウサギ」
さらには、取調室にカツ丼目当てで現れる貧乏アイドルまで!?
法で裁けぬ悪を、357マグナムとカツ丼で解決する!
ハードボイルド(になりきれない)痛快アクションコメディ、開幕!
水神飛鳥の異世界茶会記 ~戦闘力ゼロの茶道家が、神業の【陶芸】と至高の【和菓子】で、野蛮な異世界を「癒やし」で侵略するようです~
月神世一
ファンタジー
「剣を下ろし、靴を脱いでください。……茶が入りましたよ」
猫を助けて死んだ茶道家・水神飛鳥(23歳)。
彼が転生したのは、魔法と闘気が支配する弱肉強食のファンタジー世界だった。
チート能力? 攻撃魔法?
いいえ、彼が手にしたのは「茶道具一式」と「陶芸セット」が出せるスキルだけ。
「私がすべき事は、戦うことではありません。一服の茶を出し、心を整えることです」
ゴブリン相手に正座で茶を勧め、
戦場のど真ん中に「結界(茶室)」を展開して空気を変え、
牢屋にぶち込まれれば、そこを「隠れ家カフェ」にリフォームして看守を餌付けする。
そんな彼の振る舞う、異世界には存在しない「極上の甘味(カステラ・羊羹)」と、魔法よりも美しい「茶器」に、武闘派の獣人女王も、強欲な大商人も、次第に心を(胃袋を)掴まれていき……?
「野暮な振る舞いは許しません」
これは、ブレない茶道家が、殺伐とした異世界を「おもてなし」で平和に変えていく、一期一会の物語。
神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた
黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。
そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。
「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」
前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。
二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。
辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる