36 / 153
EP 36
しおりを挟む
プラチナ商人とEランク、冒険の扉を叩け
新設されたばかりの冒険者ギルド「ラックギオン」アルニア村支部は、その真新しい木の香りと、荒くれ者たちの汗と酒の匂いが混じり合った、独特の熱気に満ちていた。大陸中から「キュルリンのダンジョン」の噂を聞きつけた腕自慢たちが集い、依頼掲示板の前や併設の酒場は既に大きな賑わいを見せている。
その喧騒の中を、真守、フィリア、エルミナ、そしてデュラスの一行は、支部長室を目指して進んでいった。彼らの異質な組み合わせは、周囲の冒険者たちの好奇の視線を一身に集めている。
「おい、見ろよ…あいつが噂の『マモル先生』か?」
「隣にいるのは魔族と…まさか、天使様か!?なんてこった…」
「プラチナランクの商人が、なんでこんな場所に…」
支部長室の重厚な扉をノックすると、「入れ」という野太い声が響いた。
中にいたのは、屈強な肉体を持つ人狼族の男――支部長のアルマスだった。彼は山のような書類に目を通していたが、真守たちの姿を認めると、鋭い銀色の瞳を細めて立ち上がった。
「おお、これはこれは。商業ギルド『ゼニゲコ』が誇る、新進気鋭のプラチナランク商人、マモル殿ではありませんか。このような場所へ、一体どのようなご用件で?」
その言葉には、表向きの敬意と、その裏にある探るような響きが込められていた。
「デュラス殿、耳が早いな。流石はアルマス支部長殿、といったところか」
デュラスが、交渉の口火を切る。
「ハハハ、この村で起こることは、良いことも悪いことも、全て私の耳に入るようにしておりますので。ギルドマスターとして、当然のことです。貴殿の住まう、あの奇妙な『古びた館』の噂も、特にね……」
アルマスは意味ありげに笑い、続けた。
「それで、ご用件は?」
「冒険者登録をしたいんです。俺たち全員で」
真守が真っ直ぐにアルマスの目を見て言った。
その言葉に、アルマスは一瞬、驚きに目を見開いたが、すぐに面白そうな表情に変わった。
「何と!?プラチナランクの商人様が、今さら泥臭い冒険者に?これはまた、何と酔狂なことか。一体、どのようなお考えで?」
デュラスが、冷静に言葉を返す。
「アルマス殿が、我々のことをどこまでご存知かは存ぜぬが、理由は至ってシンプルだ。我々は、冒険がしたい。そして目の前には、大陸中が注目する未知のダンジョンがある。ただ、純粋にそこへ入りたい……それだけの事ですよ」
「ほう……」アルマスは顎に手をやり、値踏みするように真守たちを見つめる。
「マモル殿ほどの御方が、ただの冒険譚を求めているとは思えませんな。そのお立場を考えると、商業的な成功だけでなく、武勇伝という『飾り』も必要になってくる。違いますかな?」
アルマスの鋭い指摘に、真守は内心舌を巻いた。この男、全てお見通しか。
「我々はダンジョンを攻略し、名声を得る。冒険者ギルドは、我々が持ち帰るダンジョンの情報や希少な素材によって、大きな『旨味』を得られる。利害は一致しているはずですが?」
デュラスが、ギルド側のメリットを提示し、交渉の最後のカードを切る。
アルマスは、しばし黙考した後、ニヤリと口角を上げた。その口元から、人狼族らしい鋭い牙が覗く。
「――分かりました。話は飲みましょう。貴殿方の冒険者登録を認めます。ギルドの規律もありますのでな、実績のない貴殿方をいきなり高ランクにはできん。ただし……」
彼は、真守の瞳の奥にある覚悟を見抜いたかのように、言葉を続けた。
「貴殿方の今後の成長への期待を込めて、特別にパーティとしての登録を許可しましょう。ランクはEランクから、だ。それでよろしいかな?」
それは、ギルドの規則を守りつつも、真守たちに最大限の便宜を図ろうという、アルマスなりの判断だった。
「はい、ありがとうございます。それで結構です」真守は深々と頭を下げた。
「やったー! これで私たちも冒険者だね、マモル!」フィリアが嬉しそうに真守の腕に抱きつく。
「はい!マモル様、フィリア様、デュラス様。未熟者ですが、精一杯頑張りますわ!」エルミナも、新たな挑戦への決意を胸に、きゅっと拳を握った。
こうして、商業ギルドのプラチナ商人が、Eランクの新人冒険者パーティのリーダーになるという、前代未聞の登録が完了した。
真新しいギルドカードを手に、真守は依頼掲示板を見上げる。そこには、数多の依頼と共に、ひときわ異彩を放つ一枚の羊皮紙が貼られていた。
【緊急S級指定クエスト:『妖精女王の悪戯』第一層調査及び安全ルート確保】
「さて、と……」
真守は、仲間たちの期待に満ちた顔を見渡し、ニヤリと笑った。
「俺たちの最初の冒険は、いきなりS級ダンジョンからのスタート、みたいだな」
プラチナランクの肩書と、Eランクのギルドカード。二つの相反する身分を手にした加藤真守とその仲間たちの、伝説となる冒険の扉が、今まさに、叩かれようとしていた。
新設されたばかりの冒険者ギルド「ラックギオン」アルニア村支部は、その真新しい木の香りと、荒くれ者たちの汗と酒の匂いが混じり合った、独特の熱気に満ちていた。大陸中から「キュルリンのダンジョン」の噂を聞きつけた腕自慢たちが集い、依頼掲示板の前や併設の酒場は既に大きな賑わいを見せている。
その喧騒の中を、真守、フィリア、エルミナ、そしてデュラスの一行は、支部長室を目指して進んでいった。彼らの異質な組み合わせは、周囲の冒険者たちの好奇の視線を一身に集めている。
「おい、見ろよ…あいつが噂の『マモル先生』か?」
「隣にいるのは魔族と…まさか、天使様か!?なんてこった…」
「プラチナランクの商人が、なんでこんな場所に…」
支部長室の重厚な扉をノックすると、「入れ」という野太い声が響いた。
中にいたのは、屈強な肉体を持つ人狼族の男――支部長のアルマスだった。彼は山のような書類に目を通していたが、真守たちの姿を認めると、鋭い銀色の瞳を細めて立ち上がった。
「おお、これはこれは。商業ギルド『ゼニゲコ』が誇る、新進気鋭のプラチナランク商人、マモル殿ではありませんか。このような場所へ、一体どのようなご用件で?」
その言葉には、表向きの敬意と、その裏にある探るような響きが込められていた。
「デュラス殿、耳が早いな。流石はアルマス支部長殿、といったところか」
デュラスが、交渉の口火を切る。
「ハハハ、この村で起こることは、良いことも悪いことも、全て私の耳に入るようにしておりますので。ギルドマスターとして、当然のことです。貴殿の住まう、あの奇妙な『古びた館』の噂も、特にね……」
アルマスは意味ありげに笑い、続けた。
「それで、ご用件は?」
「冒険者登録をしたいんです。俺たち全員で」
真守が真っ直ぐにアルマスの目を見て言った。
その言葉に、アルマスは一瞬、驚きに目を見開いたが、すぐに面白そうな表情に変わった。
「何と!?プラチナランクの商人様が、今さら泥臭い冒険者に?これはまた、何と酔狂なことか。一体、どのようなお考えで?」
デュラスが、冷静に言葉を返す。
「アルマス殿が、我々のことをどこまでご存知かは存ぜぬが、理由は至ってシンプルだ。我々は、冒険がしたい。そして目の前には、大陸中が注目する未知のダンジョンがある。ただ、純粋にそこへ入りたい……それだけの事ですよ」
「ほう……」アルマスは顎に手をやり、値踏みするように真守たちを見つめる。
「マモル殿ほどの御方が、ただの冒険譚を求めているとは思えませんな。そのお立場を考えると、商業的な成功だけでなく、武勇伝という『飾り』も必要になってくる。違いますかな?」
アルマスの鋭い指摘に、真守は内心舌を巻いた。この男、全てお見通しか。
「我々はダンジョンを攻略し、名声を得る。冒険者ギルドは、我々が持ち帰るダンジョンの情報や希少な素材によって、大きな『旨味』を得られる。利害は一致しているはずですが?」
デュラスが、ギルド側のメリットを提示し、交渉の最後のカードを切る。
アルマスは、しばし黙考した後、ニヤリと口角を上げた。その口元から、人狼族らしい鋭い牙が覗く。
「――分かりました。話は飲みましょう。貴殿方の冒険者登録を認めます。ギルドの規律もありますのでな、実績のない貴殿方をいきなり高ランクにはできん。ただし……」
彼は、真守の瞳の奥にある覚悟を見抜いたかのように、言葉を続けた。
「貴殿方の今後の成長への期待を込めて、特別にパーティとしての登録を許可しましょう。ランクはEランクから、だ。それでよろしいかな?」
それは、ギルドの規則を守りつつも、真守たちに最大限の便宜を図ろうという、アルマスなりの判断だった。
「はい、ありがとうございます。それで結構です」真守は深々と頭を下げた。
「やったー! これで私たちも冒険者だね、マモル!」フィリアが嬉しそうに真守の腕に抱きつく。
「はい!マモル様、フィリア様、デュラス様。未熟者ですが、精一杯頑張りますわ!」エルミナも、新たな挑戦への決意を胸に、きゅっと拳を握った。
こうして、商業ギルドのプラチナ商人が、Eランクの新人冒険者パーティのリーダーになるという、前代未聞の登録が完了した。
真新しいギルドカードを手に、真守は依頼掲示板を見上げる。そこには、数多の依頼と共に、ひときわ異彩を放つ一枚の羊皮紙が貼られていた。
【緊急S級指定クエスト:『妖精女王の悪戯』第一層調査及び安全ルート確保】
「さて、と……」
真守は、仲間たちの期待に満ちた顔を見渡し、ニヤリと笑った。
「俺たちの最初の冒険は、いきなりS級ダンジョンからのスタート、みたいだな」
プラチナランクの肩書と、Eランクのギルドカード。二つの相反する身分を手にした加藤真守とその仲間たちの、伝説となる冒険の扉が、今まさに、叩かれようとしていた。
51
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。
黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。
そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。
しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの?
優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、
冒険者家業で地力を付けながら、
訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。
勇者ではありません。
召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。
でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる