37 / 153
EP 37
しおりを挟むダンジョン前の対峙、騎士の矜持と魔族のプライド
真新しい冒険者ギルドカードを懐に、加藤真守とその仲間たちは、アルニア村の西に広がる「ささやきの森」へと足を踏み入れた。目指すは、キュルリンが創り出したというS級指定ダンジョン「妖精女王の悪戯フェアリークイーン・トリック」だ。
森の奥深く、以前はただの木々が生い茂るだけだった場所に、その入り口はあった。まるで巨大な樹の根が絡み合ってできたかのような、不気味で、しかしどこか幻想的なアーチ状の洞窟。その奥からは、微かな魔力の気配と、挑戦者を誘うかのような冷たい空気が流れ出してきている。
しかし、その入り口は、屈強な兵士たちによって固められていた。白銀の鎧に獅子の紋章――エルドラド王国騎士団「獅子心隊」だ。彼らはダンジョンの入り口を封鎖するように陣を敷き、内部の調査と周囲の警戒にあたっているようだった。その中心には、一際立派な鎧を纏い、威厳のある表情で腕を組む壮年の騎士、レオパルド隊長の姿があった。
真守たちが近づくと、騎士の一人が鋭い視線で彼らを制止する。レオパルド隊長もまた、その異質な一行に気づき、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。彼の視線は、真っ直ぐにデュラスへと注がれている。
「――これはデュラス殿では有りませんか。魔族の貴公子様が、このような辺境のダンジョンにまでご足労とは。しかも、商業ギルドのプラチナ商人に、噂の天使族までお連れとは……一体、どのような組み合わせですかな?」
その言葉は丁寧だが、明らかに警戒と皮肉が込められていた。
「始めまして、レオパルド隊長殿。俺はマモルと申します。こちら、仲間たちのエルミナとフィリアです」
真守が一歩前に出て、自己紹介をする。エルミナとフィリアも、緊張した面持ちで小さく頭を下げた。
レオパルド隊長は、真守たちに一瞥をくれただけで、再びデュラスに視線を戻した。
「デュラス殿……魔族の貴方が、いつまで人間の、それもこのような小さな村に滞在されるおつもりですかな?」
「さあな。私も酔狂な質でしてね」デュラスは、動じることなく涼しい顔で答えた。「魔族の穏健派を代表する者として、大陸中を揺るがすこの『キュルリンダンジョン』のことは、詳細に知っておくのも良いかと思いましてな」
「そうで有りましたか」レオパルドは、わざとらしく頷くと、声のトーンを一つ落とした。「……でしたら、一つ忠告を。出来れば、早々にこの村を去って頂きたい。何せ、このダンジョンからはいつ魔物が出てくるとも知れませぬ。我が兵たちは、魔物も魔族も見分けがつかぬ者が多くて困りますのでな。万が一、兵たちの矢が、デュラス殿の背中に『誤って』向けられるやも知れませんので」
それは、騎士団という公的な立場を利用した、紛れもない脅迫だった。
「何だと!?」
真守が激昂し、前に出ようとする。その手を、デュラスが静かに制した。
「マモル、構うな」
デュラスは、レオパルドを真っ直ぐに見据え、その口元に冷たい笑みを浮かべた。
「レオパルド殿、ご心配には及びませんよ。私に向けられる程度の矢ならば、我が炎の前では、瞬時に塵となるだけですから。……まあ、その燃え盛る火の粉が、風に乗って、矢を放つよう指揮した者の顔にまで移らんとも限りませんがな」
デュラスの深紅の瞳が、燃えるような光を宿す。彼の周囲の温度が、気のせいか、わずかに上がったように感じられた。
「くっ……!」
レオパルドは、デュラスから放たれる圧倒的な魔力と気迫に、思わず一歩後ずさった。この魔族の青年が、ただのハッタリで言っているのではないことを、歴戦の騎士である彼の肌が感じ取っていた。
しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。彼は引きつった笑顔を浮かべた。
「ハッハッハッ!流石はアシュフィールド家のご子息、デュラス殿!ご冗談がお上手だ!」
「さて、冗談かどうか。それは、貴殿の部下がその引き金を引いた時にでも、お確かめいただこう」
デュラスは、一切の妥協を許さぬ冷たい声で突き放した。
「……し、失礼する!我々は任務の続きがある!」
レオパルドはそれだけ言うと、悔しげに顔を歪めながら、部下たちを連れて持ち場へと戻っていった。
その背中を見送りながら、フィリアが憤慨したように声を上げた。
「失礼なのはどっちよ!デュラスさんは私たちの仲間なのに、あんな言い方ないじゃない!」
「本当ですわ!王国の騎士ともあろう方が、あのような差別的で卑劣な脅しを口にするなんて!聖騎士の名において、断じて許せません!」
エルミナも、頬を赤くして怒りを露わにしている。
「デュラス、大丈夫かよ?あんなに突っかかっちまって」
真守が心配そうに声をかけると、デュラスはふっと息を吐き、いつもの冷静さを取り戻した。
「ふん、あの手合いは何処にでも居る。特に、規律を重んじる軍隊組織ではな。だが、最初が肝心だ。ここで一度でも舐められた態度を取れば、連中は何度でも同じことを繰り返す。我々は、誰にも見くびられてはならんのだ。……それは、お前の身を守るためでもあるんだぞ、マモル」
その言葉には、彼の魔族としてのプライドと、そして仲間たちを思う、不器用な優しさが込められていた。
真守は、そんなデュラスの横顔を見て、静かに頷いた。
目の前には、不気味に口を開けるS級ダンジョン。そして、その周りには、好意的ではない視線を向けてくる王国騎士団。
アルニア村での平穏な日々は、どうやら終わりを告げたようだ。
だが、真守の心には、不思議と恐怖よりも、これから始まるであろう困難な冒険への高揚感が満ちていた。
なぜなら、彼の隣には、種族も立場も超えて、互いを守り合おうとする、最高の仲間たちがいるのだから。
「さて、と」真守は三節棍「王帝」を握り直し、仲間たちに向き直った。「騎士団のお偉いさんへの挨拶も済んだことだし、そろそろ行きますか。俺たちの最初の冒Dベンチャーに、な」
その言葉に、三人の仲間たちは力強く頷き返した。
51
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。
黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。
そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。
しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの?
優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、
冒険者家業で地力を付けながら、
訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。
勇者ではありません。
召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。
でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる