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第二章 神竜の守護者
EP 51
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聖葉と枝豆、そして白熱する女子トーク
マモルとヴァルキュリアの武術談義は、意外なほどに盛り上がっていた。しかし、その熱量に比例するように、テーブルの向かい側から送られてくるフィリアとエルミナの氷の視線は、ますますその温度を下げていく。
その、あまりにも危険な空気を察したのか、あるいは単に次の展開が見たかっただけなのか、サルバロスがわざとらしく咳払いをした。
「よーし!トークも盛り上がってきたようだな!では、次のワードだ!―――『菜園』!!」
その言葉に、三つの手が、すっ、と上がった。
一つは、家庭菜園をこよなく愛する、マモル。
もう一つは、薬草栽培を得意とする、フィリア。
そして、三つ目は――またしても、聖騎士団長ヴァルキュリアだった。
(じ、地獄じゃないかよ、これ……!)
マモルは、内心で悲鳴を上げた。先程まで氷の視線を送ってきていたフィリアと、新たに会話の相手となったヴァルキュリアが、同じ土俵に上がってしまったのだ。エルミナは、興味がなかったのか、少し拗ねたように唇を尖らせている。
「まあ、ヴァルキュリア様も、菜園を?」
フィリアが、牽制するように、しかし笑顔で尋ねる。
「ええ、まあ、菜園と呼べるほどのものではありませんが」ヴァルキュリアは、優雅に頷いた。「わたくし、趣味で『天上の聖葉(ホーリーリーフ)』という植物を育てておりまして。数年に一度だけ、聖なる赤い実がなるのですが、その一粒を煎じれば、如何なる傷や病も癒すことができるのですわ」
「す、凄い植物ですね……!」
マモルが素直に感嘆する。
「はい。この実の力を薄め、下界の方々に薬として配るのも、わたくしの趣味の一つなのです」
ヴァルキュリアは、ふわりと微笑んだ。その姿は、まさに慈愛に満ちた聖女そのものだった。
「……素敵だなぁ」マモルは、感心しきった様子で呟いた。「俺なんて、庭で枝豆を植えて、獲れたてをビールのツマミにすることくらいしか考えてなくて……。お恥ずかしい限りだ」
「まあ、ホホホ」ヴァルキュリアは、楽しそうに笑った。「『えだまめ』?初めて聞きましたわ。どのようなお味がするのでしょう?」
「あ、それなら、良かったら今度、苗をお裾分けしますよ。育てやすいですし、きっと気に入ると……」
マモルが、そう言いかけた、その時だった。
「――はいはいはいっ!」
フィリアが、二人の間に割って入るように、元気よく声を上げた。
「菜園のことなら、私の方が詳しですから!ねっ!私も、自分の畑でたくさんのハーブを育ててるんです!ですから、ヴァルキュリア様のその『天上の聖葉』、もしよろしければ、このフィリアが、責任をもってお育てしますよ!」
その言葉は、親切な申し出のようでいて、しかし「あなたとマモルを、これ以上二人だけの世界にはさせないわ」という、強い意志の表れだった。
「まあ、そうなのですか?それは、心強いですわね」
ヴァルキュリアも、フィリアの意図を察し、優雅な笑みの下で、静かな火花を散らす。
(ヤバい、ヤバい、ヤバい……!完全に戦場だ、ここ……!)
マモルは、二人の美しい女性の間で、ただただ冷や汗を流すことしかできない。
その地獄のような光景を、テーブルの向かい側で眺めながら、デュラスは、静かに、そして実に美味そうに、新しい酒を呷っていた。
(……あぁ、今日の酒は、一段と旨いな)
最強の勇者魔王公爵は、今、人生で最も過酷な試練の真っ只中にいた。
その手には、もはや「王帝」はなく、ただ、ぬるくなったレモンサワーのグラスだけが、虚しく握りしめられているのだった。
マモルとヴァルキュリアの武術談義は、意外なほどに盛り上がっていた。しかし、その熱量に比例するように、テーブルの向かい側から送られてくるフィリアとエルミナの氷の視線は、ますますその温度を下げていく。
その、あまりにも危険な空気を察したのか、あるいは単に次の展開が見たかっただけなのか、サルバロスがわざとらしく咳払いをした。
「よーし!トークも盛り上がってきたようだな!では、次のワードだ!―――『菜園』!!」
その言葉に、三つの手が、すっ、と上がった。
一つは、家庭菜園をこよなく愛する、マモル。
もう一つは、薬草栽培を得意とする、フィリア。
そして、三つ目は――またしても、聖騎士団長ヴァルキュリアだった。
(じ、地獄じゃないかよ、これ……!)
マモルは、内心で悲鳴を上げた。先程まで氷の視線を送ってきていたフィリアと、新たに会話の相手となったヴァルキュリアが、同じ土俵に上がってしまったのだ。エルミナは、興味がなかったのか、少し拗ねたように唇を尖らせている。
「まあ、ヴァルキュリア様も、菜園を?」
フィリアが、牽制するように、しかし笑顔で尋ねる。
「ええ、まあ、菜園と呼べるほどのものではありませんが」ヴァルキュリアは、優雅に頷いた。「わたくし、趣味で『天上の聖葉(ホーリーリーフ)』という植物を育てておりまして。数年に一度だけ、聖なる赤い実がなるのですが、その一粒を煎じれば、如何なる傷や病も癒すことができるのですわ」
「す、凄い植物ですね……!」
マモルが素直に感嘆する。
「はい。この実の力を薄め、下界の方々に薬として配るのも、わたくしの趣味の一つなのです」
ヴァルキュリアは、ふわりと微笑んだ。その姿は、まさに慈愛に満ちた聖女そのものだった。
「……素敵だなぁ」マモルは、感心しきった様子で呟いた。「俺なんて、庭で枝豆を植えて、獲れたてをビールのツマミにすることくらいしか考えてなくて……。お恥ずかしい限りだ」
「まあ、ホホホ」ヴァルキュリアは、楽しそうに笑った。「『えだまめ』?初めて聞きましたわ。どのようなお味がするのでしょう?」
「あ、それなら、良かったら今度、苗をお裾分けしますよ。育てやすいですし、きっと気に入ると……」
マモルが、そう言いかけた、その時だった。
「――はいはいはいっ!」
フィリアが、二人の間に割って入るように、元気よく声を上げた。
「菜園のことなら、私の方が詳しですから!ねっ!私も、自分の畑でたくさんのハーブを育ててるんです!ですから、ヴァルキュリア様のその『天上の聖葉』、もしよろしければ、このフィリアが、責任をもってお育てしますよ!」
その言葉は、親切な申し出のようでいて、しかし「あなたとマモルを、これ以上二人だけの世界にはさせないわ」という、強い意志の表れだった。
「まあ、そうなのですか?それは、心強いですわね」
ヴァルキュリアも、フィリアの意図を察し、優雅な笑みの下で、静かな火花を散らす。
(ヤバい、ヤバい、ヤバい……!完全に戦場だ、ここ……!)
マモルは、二人の美しい女性の間で、ただただ冷や汗を流すことしかできない。
その地獄のような光景を、テーブルの向かい側で眺めながら、デュラスは、静かに、そして実に美味そうに、新しい酒を呷っていた。
(……あぁ、今日の酒は、一段と旨いな)
最強の勇者魔王公爵は、今、人生で最も過酷な試練の真っ只中にいた。
その手には、もはや「王帝」はなく、ただ、ぬるくなったレモンサワーのグラスだけが、虚しく握りしめられているのだった。
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