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EP 12
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神殿の最奥。
そこは、世界の全てを統べる場所にしては、あまりにも静かで、空虚な空間だった。
玉座の裏、逃げ場を失い尻餅をつく老人の前に、世一はゆらりと立った。
「さて、何処に逃げる気だ、ジジイ?」
「ひ、ヒィ……」
大神と呼ばれた創造主は、恐怖に顔を歪めた。
その視線が、世一の背後にいる少女に向けられる。
「あ、天照よ! 天の子よ! その悍(おぞ)ましい物を退治せぬか! 余の命令が聞けぬのか!」
「……」
少女は一歩、前に出た。だが、それは神を守るためではない。世一を背に庇うように立ち塞がったのだ。
「……わ、私の名前は『結』です。世一様の侮辱は許しません!」
凛とした声が響く。かつての神としての名は、彼女自身が捨て去った。
大神は狼狽した。
「の、のの、望みはなんだ? 財宝か? 力か? 女か? 望むもの全てやろう! この世の全ては余の思いのままなのじゃ!」
必死の命乞い。しかし、世一の反応は冷淡極まりなかった。
「だまれ」
「ヒィっ」
世一は吐き捨てるように言った。
「この世界は最悪だ。何にもしなくても、貴様らに媚びてれば餌を与えられ、何もかも得られる」
それがこの世界の理(ことわり)。神に祈れば救われる。従えば満たされる。それは一見、楽園のようだが――世一にとっては虫唾が走る箱庭だった。
「そ、そ、それが何が悪いのじゃ! 我ら神は外界の望み全て叶え、何の不満もない世界に……」
「ばーか」
世一は鼻で笑った。
「そんなものは『生きてる』とは言わない。飯ってのはな、自分で探して、奪って、食う方が旨いんだよ」
「???」
大神は口をポカンと開けた。理解できない。苦労せず得られる方が良いに決まっている。この男は何を言っているのだ。
世一は大神の理解など求めていなかった。彼の視線は、玉座の後ろに浮遊する、虹色に輝く巨大な宝玉に向けられた。
この世界の源。そして、結を「神」という役割に縛り付ける鎖の正体。
「よし、これか。この宝玉が有るから、結は苦しむ」
世一が拳を振り上げる。
その殺気に気づいた大神が、悲鳴のような声を上げた。
「!? よ、よせ! それを壊すと、我も貴様も、天照も……世界そのものが無くなるのだぞ!?」
「!?」
結が息を呑む。
この宝玉は世界の核。壊せば、現世も、地獄も、天界も、全てが虚無へと帰す。
「貴様ら神は死なない。なら、壊すしかないだろ」
世一は拳を下ろさなかった。その瞳には、一点の曇りもない。
「神がいない世界に。何もない世界にするしかねぇんだよ」
「世一様!」
結が叫ぶ。世界が消えれば、世一もまた消滅する。
だが、世一は振り返り、ニカッと笑った。悪党の、しかしどこまでも晴れやかな笑顔だった。
「結……ヤニ、美味かったぜ。……またな」
その一言で、結は悟った。
彼は知っているのだ。この世界が終わっても、魂までは消えないことを。そして、彼が選んだ結末を。
結の目から涙が溢れ出した。だが、それは悲しみの涙ではなかった。
「わ、私、必ず貴方に会いに行きます! 何千、何万回生まれ変わっても、必ず世一様を見つけます!」
結は叫んだ。消えゆく世界への恐怖よりも、彼への愛が勝った。
「それが私の願いだから! だ、だから……ありがと……う」
「……ふ」
世一は短く笑い、そして――。
「っ!!」
渾身の力が込められた拳が、美しい宝玉へと放たれた。
「やめろおおおー!!」
大神の絶叫。
バキィィィィン!!
甲高い破砕音が響き渡り、虹色の光が弾け飛ぶ。
光が全てを包み込む。
神殿も、地獄も、燃える江戸の町も。
悪党も、女神も、神々も。
全てが白一色に染まり、そして、静寂が訪れた。
物語は一度、ここで終わる。
しかし、それは終わりではなく、
神のいない、自由で、自分たちの足で歩くための、新しい物語の始まりでもあった。
そこは、世界の全てを統べる場所にしては、あまりにも静かで、空虚な空間だった。
玉座の裏、逃げ場を失い尻餅をつく老人の前に、世一はゆらりと立った。
「さて、何処に逃げる気だ、ジジイ?」
「ひ、ヒィ……」
大神と呼ばれた創造主は、恐怖に顔を歪めた。
その視線が、世一の背後にいる少女に向けられる。
「あ、天照よ! 天の子よ! その悍(おぞ)ましい物を退治せぬか! 余の命令が聞けぬのか!」
「……」
少女は一歩、前に出た。だが、それは神を守るためではない。世一を背に庇うように立ち塞がったのだ。
「……わ、私の名前は『結』です。世一様の侮辱は許しません!」
凛とした声が響く。かつての神としての名は、彼女自身が捨て去った。
大神は狼狽した。
「の、のの、望みはなんだ? 財宝か? 力か? 女か? 望むもの全てやろう! この世の全ては余の思いのままなのじゃ!」
必死の命乞い。しかし、世一の反応は冷淡極まりなかった。
「だまれ」
「ヒィっ」
世一は吐き捨てるように言った。
「この世界は最悪だ。何にもしなくても、貴様らに媚びてれば餌を与えられ、何もかも得られる」
それがこの世界の理(ことわり)。神に祈れば救われる。従えば満たされる。それは一見、楽園のようだが――世一にとっては虫唾が走る箱庭だった。
「そ、そ、それが何が悪いのじゃ! 我ら神は外界の望み全て叶え、何の不満もない世界に……」
「ばーか」
世一は鼻で笑った。
「そんなものは『生きてる』とは言わない。飯ってのはな、自分で探して、奪って、食う方が旨いんだよ」
「???」
大神は口をポカンと開けた。理解できない。苦労せず得られる方が良いに決まっている。この男は何を言っているのだ。
世一は大神の理解など求めていなかった。彼の視線は、玉座の後ろに浮遊する、虹色に輝く巨大な宝玉に向けられた。
この世界の源。そして、結を「神」という役割に縛り付ける鎖の正体。
「よし、これか。この宝玉が有るから、結は苦しむ」
世一が拳を振り上げる。
その殺気に気づいた大神が、悲鳴のような声を上げた。
「!? よ、よせ! それを壊すと、我も貴様も、天照も……世界そのものが無くなるのだぞ!?」
「!?」
結が息を呑む。
この宝玉は世界の核。壊せば、現世も、地獄も、天界も、全てが虚無へと帰す。
「貴様ら神は死なない。なら、壊すしかないだろ」
世一は拳を下ろさなかった。その瞳には、一点の曇りもない。
「神がいない世界に。何もない世界にするしかねぇんだよ」
「世一様!」
結が叫ぶ。世界が消えれば、世一もまた消滅する。
だが、世一は振り返り、ニカッと笑った。悪党の、しかしどこまでも晴れやかな笑顔だった。
「結……ヤニ、美味かったぜ。……またな」
その一言で、結は悟った。
彼は知っているのだ。この世界が終わっても、魂までは消えないことを。そして、彼が選んだ結末を。
結の目から涙が溢れ出した。だが、それは悲しみの涙ではなかった。
「わ、私、必ず貴方に会いに行きます! 何千、何万回生まれ変わっても、必ず世一様を見つけます!」
結は叫んだ。消えゆく世界への恐怖よりも、彼への愛が勝った。
「それが私の願いだから! だ、だから……ありがと……う」
「……ふ」
世一は短く笑い、そして――。
「っ!!」
渾身の力が込められた拳が、美しい宝玉へと放たれた。
「やめろおおおー!!」
大神の絶叫。
バキィィィィン!!
甲高い破砕音が響き渡り、虹色の光が弾け飛ぶ。
光が全てを包み込む。
神殿も、地獄も、燃える江戸の町も。
悪党も、女神も、神々も。
全てが白一色に染まり、そして、静寂が訪れた。
物語は一度、ここで終わる。
しかし、それは終わりではなく、
神のいない、自由で、自分たちの足で歩くための、新しい物語の始まりでもあった。
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