​簿記1級とネット通販スキルで異世界無双! ~隣のポンコツエルフ王女が善意でハイパーインフレを起こすので、俺が経済を牛耳ることにしました~

月神世一

文字の大きさ
12 / 23

EP 12

しおりを挟む
殺人鬼、シェイカーを握る
 『Dining Bar AOTA』の開店を数時間後に控えた店内。
 カウンターの中で、異様な光景が繰り広げられていた。
「……おい、優也。これは何の拷問だ?」
 漆黒の高級タキシードに身を包んだ龍魔呂が、首元の蝶ネクタイを苦しそうに引っ張りながら唸る。
 オールバックに固めた髪。鋭い眼光。そして溢れ出る「カタギじゃない」オーラ。
 どう見てもバーテンダーというよりは、「裏社会のフィクサー」か「ラスボスの側近」だ。
「拷問じゃない、特訓だ。お前のその手は、今日から敵の骨を折るためじゃなく、客の心を酔わせるためにある」
 俺はカウンターの上に、ネット通販で取り寄せた『業務用カクテルシェイカー(ステンレス製)』を置いた。
「いいか、バーテンダーの基本はシェイクだ。この中に氷と酒を入れ、空気を混ぜ込むように振る。やってみろ」
 俺は見本を見せた後、龍魔呂にシェイカーを渡した。
 龍魔呂は不承不承といった様子で、それを巨大な手で掴んだ。
「……こうか?」
 グシャァッ。
 嫌な音がした。
 龍魔呂が軽く握っただけで、ステンレスのシェイカーがアルミ缶のようにひしゃげ、スクラップの塊になった。
「…………柔いな」
「柔いんじゃねぇ! お前の握力がゴリラなんだよ!」
 俺は頭を抱えた。
 やはり、DEATH4に繊細な作業は無理だったか?
 いや、諦めるのはまだ早い。こいつの身体能力は異常だ。使いこなせば化けるはずだ。
「龍魔呂、イメージを変えろ」
 俺は新しいシェイカー(予備)を渡しながら、彼に分かりやすい言葉を選んだ。
「そのシェイカーを『敵の首』だと思え」
「……首?」
 龍魔呂の目の色が少し変わった。
「そうだ。力任せに握り潰すんじゃない。一瞬の衝撃で、痛みを感じさせる間もなく意識を刈り取る……『瞬殺』のイメージだ」
「……なるほど。打撃ではなく、浸透勁(しんとうけい)か」
 龍魔呂が納得したように頷く。
 彼はシェイカーを構えた。
 その立ち姿から、無駄な力が抜ける。まるで、居合の達人が刀に手をかけた時のような静謐な空気が漂う。
「……フッ」
 龍魔呂の手が動いた。
 いや、動いたように見えなかった。
 ヒュンッ!!
 風切り音すら置き去りにする速度。
 俺の動体視力でも、腕が何本にも増えたようにしか見えない。
 カシャカシャという氷の音ではない。
 『キィィィィィン……』という、高周波の金属音が響き渡る。
「な、なんや今の音!? 耳がキーンてなるわ!」
 フロアで開店準備をしていたニャングルが耳を押さえる。
 ルナに至っては、あまりの速さに目を回して気絶しかけている。
「……ふぅ」
 数秒後。龍魔呂が動きを止めた。
 シェイカーの表面には、びっしりと霜が降りている。
 俺は恐る恐る中身をグラスに注いだ。
「こ、これは……」
 液体が出てこない。
 いや、液体なのだが、まるで霧(ミスト)のように白濁し、グラスの中で対流している。
 氷が砕けたのではない。氷と酒が、超高速振動によってナノレベルで融合しているのだ。
【スキル覚醒:高速振動(ソニック・シェイク)】
【効果:素材の分子結合を一時的に解き、極限まで滑らかにする】
「……飲んでみろ」
 俺は震える手でグラスを煽った。
「――ッ!?」
 衝撃だった。
 アルコールの角(カド)が完全に消えている。
 舌の上でトロリと溶け、喉を通り過ぎた後に、芳醇な香りが爆発する。
 これは酒じゃない。「飲む麻薬」だ。
「……どうだ?」
「天才だ。お前、才能あるぞ」
 俺が称賛すると、龍魔呂は少しだけ口角を上げ、自身で作ったカクテルを一口飲んだ。
「……マズい」
「は?」
「甘さが足りん。角砂糖を入れろ」
「入れんな! お前の舌は基準にするな!」
 俺は慌てて止めたが、技術的な問題はクリアだ。
 むしろ、この技術は俺の料理にも応用できるかもしれない。
 ◇
 その時、ルナがフラフラとカウンターに近づいてきた。
 彼女の視線は、カクテルではなく、タキシード姿の龍魔呂に釘付けだ。
「あ、あのぉ……龍魔呂さん……」
「……あ? なんだ」
 龍魔呂が蝶ネクタイを緩めながら、気だるげに振り返る。
 その仕草。
 鋭い眼光と、乱れた黒髪。そして滲み出る「危険な男」のフェロモン。
 ブーッ!!
 ルナが鼻血を噴水のように吹き出して倒れた。
「ちょ、お嬢様ァァァ!? 大丈夫でっか!?」
「き、刺激が……強すぎますぅ……ハキュゥ……」
 ルナは幸せそうな顔で気絶した。
 ニャングルがそれを介抱しながら、ニヤリと笑う。
「社長……これはイケるで。この色気、貴族の奥様方が見たらイチコロや。酒より先に、龍魔呂に酔い潰れよるわ」
「ああ。間違いなく『夜の帝王』になるな」
 俺は確信した。
 この店は、ただのバーではない。
 最高の酒と、最強のホスト(元殺人鬼)がいる、魔窟になるだろう。
「よし、準備は整った!」
 俺はカウンターの中に立ち、全員に告げた。
「これより、『Dining Bar AOTA』を開店する! ルミナス帝国の夜を支配するぞ!」
 カランカラン、と入り口のベルが鳴る。
 記念すべき最初のお客様のご来店だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

50歳元艦長、スキル【酒保】と指揮能力で異世界を生き抜く。残り物の狂犬と天然エルフを拾ったら、現代物資と戦術で最強部隊ができあがりました

月神世一
ファンタジー
​「命を捨てて勝つな。生きて勝て」 50歳の元イージス艦長が、ブラックコーヒーと海軍カレー、そして『指揮能力』で異世界を席巻する! ​海上自衛隊の艦長だった坂上真一(50歳)は、ある日突然、剣と魔法の異世界へ転移してしまう。 再就職先を求めて人材ギルドへ向かうも、受付嬢に言われた言葉は―― 「50歳ですか? シルバー求人はやってないんですよね」 ​途方に暮れる坂上の前にいたのは、誰からも見放された二人の問題児。 子供の泣き声を聞くと殺戮マシーンと化す「狂犬」龍魔呂。 規格外の魔力を持つが、方向音痴で市場を破壊する「天然」エルフのルナ。 ​「やれやれ。手のかかる部下を持ったもんだ」 ​坂上は彼らを拾い、ユニークスキル【酒保(PX)】を発動する。 呼び出すのは、自衛隊の補給物資。 高品質な食料、衛生用品、そして戦場の士気を高めるコーヒーと甘味。 ​魔法は使えない。だが、現代の戦術と無限の補給があれば負けはない。 これは、熟練の指揮官が「残り物」たちを最強の部隊へと育て上げ、美味しいご飯を食べるだけの、大人の冒険譚。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

処理中です...