祖国を離れて三千里の歌姫リーザは太郎国で最強ルームメイト達と楽しくパンの耳を齧る貧乏生活をしています!

月神世一

文字の大きさ
12 / 29
第二章 カツ丼とアイドル

EP 2

しおりを挟む
突入! ボロ倉庫の取り調べ室
 その瞬間は、唐突に訪れた。
 私が「空き缶を拾って、また置く」という、環境美化なのかポイ捨てなのか法的にグレーな高等戦術を繰り広げようとした、その時だ。
 ガガガガッ……!
 重苦しい金属音と共に、目の前の錆びついたシャッターが勢いよく巻き上がった。
 来た!
 ついにSWATのお出ましだ!
 私は空き缶を握りしめ、精一杯の「悪のポーズ」を取ろうとした。
「フフフ……ようやくお出出ましか、公権力の――」
 しかし、私の口上が終わるより早く、シャッターの奥から何かが転がってきた。
 黒い、筒状の物体。
 それが私の足元でピタりと止まる。
「……え? 水筒?」
 カッッッ!!!!
 直後、視界が真っ白に染まった。
 閃光弾(スタングレネード)だ。
 強烈な閃光と、鼓膜をつんざく爆音が、私の三半規管をシェイクする。
「目が! 目がぁぁぁぁッ!?」
「突入(ゴー)! 確保しろ!」
「了解(ラジャー)!」
 ドカドカドカッ!
 視力を失った私の周囲に、複数の足音が殺到する。
 え、ちょっと待って。手錠をかけられて「お前を逮捕する!」って言われるんじゃないの?
 いきなり実力行使!?
「ちょ、タンマ! 私、ただのカツ丼希望者で……!」
 言い訳をする間もなく、私の身体はプロの手つきで地面に押さえつけられた。
 冷たいコンクリートの感触。ねじ上げられる腕。
「容疑者確保! 連行する!」
 薄れゆく意識の中で、私は思った。
 ……公務員、容赦なさすぎですわ……。
 ◇
 ――ポタ、ポタ。
 水滴の落ちる音で、私は目を覚ました。
 頭が重い。鼻の奥に、湿ったカビと鉄錆の匂いがする。
「……ここは?」
 目を開けると、そこは薄暗いコンクリート打ちっぱなしの部屋だった。
 天井から裸電球が一つぶら下がり、頼りない光を投げかけている。
 私は部屋の中央にあるパイプ椅子に座らされていた。手首には手錠(プラスチック製)……ではなく、なぜか結束バンド。
「気がついたか」
 前方の闇から、低い声が響いた。
 パイプ椅子を逆向きに座り、背もたれに腕を乗せて私を見下ろす男。
 タロウ国T-SWAT隊長、鮫島勇護だ。
 逆光で表情は見えないが、タバコの火だけが赤く明滅している。
「ひぃッ……鮫島さん!?」
「ここでは隊長と呼べ。……さて、尋問を始める」
 鮫島隊長は、口から紫煙を長く吐き出した。
 その迫力は、完全に映画で見る「汚職刑事」か「マフィアのボス」のそれだ。
「吐け。誰の差し金だ? ナンバーズか? それとも旧王国の残党か?」
「えっ、あ、あの……」
「この倉庫の前で、石を投げ、反復横跳びをするという高度な挑発行為……。ただの愉快犯じゃねぇな? 目的は何だ」
 鋭い眼光がサングラス越しに突き刺さる。
 怖い。おしっこ漏れそう。
 でも、私には引けない理由がある。
 私は結束バンドで縛られたまま、身を乗り出した。
「も、目的は……たった一つですわ!」
「ほう。言ってみろ」
「カツ丼です!!」
「……あ?」
 鮫島隊長の眉がピクリと動いた。
「カ、カツ丼が出ると聞いたんです! ここに取り調べられると、絶品のカツ丼が食べられると! だから私、必死に悪ぶって……!」
 私は涙ながらに訴えた。
 パンの耳生活の辛さ。雑草の苦さ。そして、豚肉への渇望。
 鮫島隊長は、しばらくポカンとしていたが、やがて深くため息をつき、頭を抱えた。
「……お前、バカだろ」
「バカとはなんですの! 食欲は生きる源ですわ!」
「カツ丼が出るのはドラマの中だけだ。ここは現実(リアル)だぞ。予算が出るわけねぇだろ」
「そ、そんなぁぁぁッ!!」
 絶望。
 私の作戦は、根本から破綻していたのだ。
 カツ丼がないなら、私はただ、痛い思いをして結束バンドで縛られただけの不審者ではないか。
 その時だった。
 コンコン。
 重厚な鉄扉がノックされた。
「隊長~! お茶淹れましたよ~! あと、コンビニでカツ丼買ってきました~!」
 え?
 カツ丼?
 ガチャリと扉が開き、明るい声と共に二人の人物が入ってきた。
 一人は、SWATのロゴ入りタクティカルベストを着込んだ、兎耳の少女。
 もう一人は、特注の防弾プロテクターで巨体を包んだ、強面の竜人。
「……へ?」
 私は我が目を疑った。
「あら、リーザちゃん起きた? はい、お茶」
「よう、ライバル。……じゃなかった、容疑者」
 そこには、私のルームメイトであるキャルルさんと、テント村の顔馴染みであるイグニスさんが立っていたのだ。
 しかも、二人ともバッチリと制服を着こなしている。
「きゃ、キャルルさん!? イグニスさん!? なんでここに!? しかもその格好……!」
「え? だって私たち、今日からSWAT隊員だもん」
 キャルルさんは、私の前の机に「タローソンのカツ丼(温め済み)」とお茶を置きながら、あっけらかんと言った。
「隊員……?」
「うん! 鮫島隊長にスカウトされたの! 『お前の足なら弾より速い』って! 月給は金貨20枚(20万円)だって!」
「お、俺もだ……。『お前の火力なら壁を抜ける』って言われてな。……もう無職じゃねぇ。公務員だ」
 イグニスさんが、少し照れくさそうに、しかし誇らしげに敬礼をして見せた。
 金貨20枚。
 公務員。
 安定収入。
 その単語が、私の脳内で木霊する。
 私がパンの耳をかじり、五円玉を鼻に詰めて小銭を稼いでいる間に。
 この二人は、しれっと就職して、高給取りになっていたのだ。
「う……うそ……」
「さ、カツ丼食っていいぞ。キャルルの奢りだ」
 鮫島隊長が私の結束バンドをナイフで切った。
 自由になった手。
 目の前には、湯気を立てるカツ丼。
 求めていた夢の食事。
 なのに、なぜだろう。
 ちっとも嬉しくない。
 むしろ、カツ丼の湯気が、私の惨めな涙で霞んで見えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

無能と追放された鑑定士の俺、実は未来まで見通す超チートスキル持ちでした。のんびりスローライフのはずが、気づけば伝説の英雄に!?

黒崎隼人
ファンタジー
Sランクパーティの鑑定士アルノは、地味なスキルを理由にリーダーの勇者から追放宣告を受ける。 古代迷宮の深層に置き去りにされ、絶望的な状況――しかし、それは彼にとって新たな人生の始まりだった。 これまでパーティのために抑制していたスキル【万物鑑定】。 その真の力は、あらゆるものの真価、未来、最適解までも見抜く神の眼だった。 隠された脱出路、道端の石に眠る価値、呪われたエルフの少女を救う方法。 彼は、追放をきっかけに手に入れた自由と力で、心優しい仲間たちと共に、誰もが笑って暮らせる理想郷『アルカディア』を創り上げていく。 一方、アルノを失った勇者パーティは、坂道を転がるように凋落していき……。 痛快な逆転成り上がりファンタジーが、ここに開幕する。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

小さな貴族は色々最強!?

谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。 本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。 神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。 その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。 転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。 魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。 ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。

公爵令嬢やめて15年、噂の森でスローライフしてたら最強になりました!〜レベルカンストなので冒険に出る準備、なんて思ったけどハプニングだらけ〜

咲月ねむと
ファンタジー
息苦しい貴族社会から逃げ出して15年。 元公爵令嬢の私、リーナは「魔物の森」の奥で、相棒のもふもふフェンリルと気ままなスローライフを満喫していた。 そんなある日、ひょんなことから自分のレベルがカンストしていることに気づいてしまう。 ​「せっかくだし、冒険に出てみようかしら?」 ​軽い気持ちで始めた“冒険の準備”は、しかし、初日からハプニングの連続! 金策のために採った薬草は、国宝級の秘薬で鑑定士が気絶。 街でチンピラに絡まれれば、無自覚な威圧で撃退し、 初仕事では天災級の魔法でギルドの備品を物理的に破壊! 気づけばいきなり最高ランクの「Sランク冒険者」に認定され、 ボロボロの城壁を「日曜大工のノリ」で修理したら、神々しすぎる城塞が爆誕してしまった。 ​本人はいたって平和に、堅実に、お金を稼ぎたいだけなのに、規格外の生活魔法は今日も今日とて大暴走! ついには帝国の精鋭部隊に追われる亡国の王子様まで保護してしまい、私の「冒険の準備」は、いつの間にか世界の運命を左右する壮大な旅へと変わってしまって……!? ​これは、最強の力を持ってしまったおっとり元令嬢が、その力に全く気づかないまま、周囲に勘違いと畏怖と伝説を振りまいていく、勘違いスローライフ・コメディ! 本人はいつでも、至って真面目にお掃除とお料理をしたいだけなんです。信じてください!

処理中です...