祖国を離れて三千里の歌姫リーザは太郎国で最強ルームメイト達と楽しくパンの耳を齧る貧乏生活をしています!

月神世一

文字の大きさ
20 / 20
第二章 カツ丼とアイドル

EP 10

しおりを挟む
覚醒! ライブ・オブ・グリード
 週末の夜。第9倉庫前の広場は、異様な熱気に包まれていた。
 急造されたトラックの荷台ステージ。
 集まったのは、テント村の住人、パチンコ帰りの労働者、そして噂を聞きつけた物好きな市民たち。
 決して上品な客層じゃない。酒の匂いと、生活の匂いが充満する場所だ。
 ステージ袖で、私は震える手でマイクを握りしめていた。
 衣装は、リベラ様が貸してくれた金ピカのスパンコールドレス。
 スポットライトの光が、処刑台への階段のように見える。
「……怖いか?」
 背後から声をかけられた。
 ジャージ姿のプロデューサー、太郎国王だ。
 彼は私の震える肩をポンと叩いた。
「リーザ。今までのお前は、『清く正しく美しい』自分を演じようとしてた。だから誰の心にも刺さらなかったんだ」
 太郎陛下は、ステージの向こうでざわめく観衆を指差した。
「あいつらは敏感だ。作り笑顔や、綺麗事の嘘なんてすぐに見抜く。……嘘をつく奴は本物のアイドルじゃねぇ」
 彼は私の瞳を真っ直ぐに見据えた。
「お前の全部を見して、客を掴んで来い。……お前の貧乏も、ハングリーさも、金への執着も、全部武器にしろ」
 全部、見せる。
 私の恥部も、欲望も。
 私は深く息を吸い込んだ。
 不思議と、震えは止まっていた。
 腹の底から、熱いものがこみ上げてくる。
「……はい!」
 私は力強く頷いた。
 瞬間、ステージの照明が落ちる。
 イグニスさんが操作する巨大スピーカーから、ファンキーなスラップベースのイントロが爆音で鳴り響いた。
「行ってきますわ……!!」
 私はステージへと飛び出した。
 ◇
 眩しいライト。数百の視線。
 私はセンターに立ち、不敵な笑みを浮かべた。
 さあ、開幕(ショータイム)よ!
 ♪All: 愛!アイ!愛!アイ!ラ~ブラブ!
 ♪All: (Fu Fu!)
 ♪All: マネー!マネ!ローン!ダーリン!グ!
 ♪All: (Yeah!!)
 冒頭からエンジン全開。
 「愛」と叫びながら「マネー」と続ける狂気の歌詞に、観客が一瞬ポカンとする。
 構うものか。私は踊った。
 キャルルさんとの特訓で培った、音速のステップで!
 ♪【1A】
 ♪朝に目覚ましがなったわ (ジリリリ!)
 ♪私はまだ眠いわ (おはよー!)
 ♪朝シャンしなきゃ (Fu!)
 ♪朝メニュー食べなきゃ (パクパク!)
 ♪鏡の前で メイクをしなきゃ
 ♪(魔法をかけて~! )
 キュートに、あざとく。
 完璧なアイドルの仕草で歌う。
 でも、ここからが本番だ。私の本性は、1LDK(城)に置いてきた!
 ♪【1B】
 ♪さぁショーの始まりよ (It’s Show Time!)
 ♪のんびりな私は 1LDKに置いて行くわ (バイバイ!)
 ♪扉を開ければ 私が主人公 (オ・レ・の! アイドルー!)
 最前列で、サクラ役のキャルルさんが「オ・レ・の! アイドルー!」と叫ぶ。
 つられて、数人の酔っ払いが拳を突き上げる。
 いいわ、その調子よ!
 ♪【1サビ】
 ♪今日も私の為に世界が動く (まわって!まわって!)
 ♪全て上手くいくわ (絶対!)
 ♪愛も富も一つの物 (どっちもちょーだい!)
 私は客席に向かって手を伸ばした。
 握りしめるようなジェスチャー。
 「どっちもちょーだい!」。その叫びは、演技じゃない。魂の渇望だ。
 ♪ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪ (Want You! Want You!)
 ♪貴方の愛(とキャッシュ)で生きていける (Fuuu~!)
 「土地も欲しい!」と歌った瞬間、ホームレスのおじいちゃんたちが「俺もだぁぁぁ!」と涙を流して叫んだ。
 刺さった。共感の槍が、彼らの心臓を貫いたのだ。
 ♪【Post-Chorus 1】
 ♪だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ
 ♪だから、何処までもついて来てね♡
 ♪(一生ついていくよー!!)
 そして、決め台詞。
 私はカメラ(配信用の魔導具)に向かって、極上のウインクを飛ばした。
 ♪ダーリン!
 ♪(チュッ♡)
 ズキュゥゥゥン!!
 会場の男性陣が、一斉に胸を押さえて仰け反った。
 落ちた。今、確実に数十人の財布の紐が緩んだ音がした!
 間奏に入る。
 ステージの端で、イグニスさんがベースをぶん回し、キャルルさんがブレイクダンスを踊る。カオスだ。でも最高に熱い。
 ♪【2A】
 ♪夕方の鐘が鳴ったわ (キンコンカン!)
 ♪お腹はもうペコペコよ (ぐ~!)
 ♪スーパーのシール見なきゃ (半額!)
 ♪ポイントカードも出さなきゃ (ピッ!ピッ!)
 ♪家賃のために 節約しなきゃ
 ♪(現実はシビア~! ガマン!)
 2番の歌詞は、さらにリアル(貧乏)に寄せていく。
 「半額シール」「ポイントカード」「家賃」。
 アイドルの口から出るはずのない単語の羅列に、観客の目が釘付けになる。
 「わかる……わかるぞぉぉ!」という声が上がる。
 そう、私たちは同志(貧民)なのだ!
 ♪【2B】
 ♪さぁ魔法の時間の始まりよ (Change The World!)
 ♪地味な私は 楽屋に置いて行くわ (バイバイ!)
 ♪マイクを握れば 私が女王様 (オ・レ・の! 女王様ー!)
 ♪【2サビ】
 ♪今夜も私の為に星が降る (ひかって!ひかって!)
 ♪全部手に入れるわ (強欲!)
 ♪夢も金貨も輝くもの (どっちも好きー!)
 ♪株券欲しい♪ お城も欲しい♪ (Buy Now! Buy Now!)
 ♪貴方の愛(と貢ぎ)で輝いていける (Fuuu~!)
 ステージ袖で、リベラ様がうんうんと頷きながら電卓を叩いているのが見える。
 「貢ぎ」という歌詞で、彼女の眼鏡がキラリと光った。
 私の背後には、ルナさんの魔法演出で、きらびやかなお城と株券のホログラムが浮かび上がる。
 ♪【Post-Chorus 2】
 ♪だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ
 ♪だから、何処までもついて来てね♡
 ♪(一生ついていくよー!!)
 ♪ダーリン!
 ♪(チュッ♡)
 会場のボルテージは最高潮。
 そして、訪れる静寂。Cメロ。
 私はマイクスタンドを握りしめ、切ない表情で語りかける。
 ♪【Cメロ】
 ♪だって女の子だもん 夢見るだけじゃお腹は空くの
 ♪綺麗なドレスも ガラスの靴も 維持費がかかるのよ
 ♪(そうだー!!)
 観客からの「そうだー!!」という怒号のような肯定。
 そう、夢には維持費がかかる。
 私がパンの耳をかじって繋いだ命。このドレスのクリーニング代。
 全部、タダじゃない。
 私は涙目で叫んだ。
 ♪だから…もっともっと、愛して(課金して)ね?
 ♪覚悟はいい?
 私の本音。
 私の全部。
 喰らえ、世界!
 ♪【ラスサビ】
 ♪世界中が私の為に愛を叫ぶ (まわって!まわって!)
 ♪全部抱きしめるわ (最強!)
 ♪愛も富も同じ輝き (どっちも本物ー!)
 ルナさんが杖を振るう。
 ドォォォン!!
 ステージから金色の紙吹雪が噴き出した。まるで金貨の雨のように。
 ♪ダイヤも株も♪ 土地も愛も♪ (All Need! All Need!)
 ♪貴方の全て(人生)を背負って生きていける (Fuuu~!)
 貴方の人生(サイフ)を背負う。
 その覚悟が、今の私にはある!
 ♪【Outro】
 ♪だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ
 ♪だから、何処までもついて来てね♡
 ♪(一生ついていくよー!!)
 最後は、全員で合唱だ。
 薄汚いおじさんも、強面のSWAT隊員も、みんな拳を突き上げて叫んでいる。
 「一生ついていくよー!!」と。
 ♪ダーリン!
 ♪(チュッ♡)
 私は最高の笑顔で投げキッスを放ち、両手でお金を受け取るポーズを決めた。
 ♪(ジャーン! …ジャン!)
 静寂。
 そして、最後に響く、SE(効果音)。
 (チャリーン♪)
 ――ワァァァァァァァァァァッ!!!!!
 爆発的な歓声。
 拍手喝采。
 そして、ステージに投げ込まれる無数のおひねり(小銭、お札、食券)。
 チャリン、チャリンと、本物の音が私の足元で響く。
「……はぁ、はぁ……」
 私は肩で息をしながら、その光景を見た。
 誰も、私を笑っていない。
 みんな、笑顔だ。熱狂している。
 私の「欲望」を受け入れ、肯定してくれている。
 袖で、太郎陛下がニヤリと笑って親指を立てたのが見えた。
 リベラ様も、満足そうに丸のサインを出している。
「……勝ちましたわ」
 私は汗だくの顔を拭い、満面の笑みで叫んだ。
「ありがとうございまーす! 物販コーナーはあちらですわよーッ! 今日は握手券付きCDも販売しますから、限界まで回してくださいましーッ!!」
 こうして。
 伝説のライブは幕を閉じた。
 元人魚姫リーザは死んだ。
 そして今ここに、強欲でキュートな『守銭奴アイドル』が爆誕したのだ。
 私のアイドル伝説は、ここから本当の意味で始まる――!
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

最強魔導師は不毛の大地でスローライフを送る ~凶悪な魔物が跋扈し瘴気漂う腐界でも、魔法があれば快適です~

えぞぎんぎつね
ファンタジー
 平民出身の最強の宮廷魔導師ティル・リッシュは貴族主義の宮廷魔導師長に疎まれ、凶悪な魔物がはびこり、瘴気漂う腐界の地の領主として左遷されることになった。  元々腐界の研究がしたかったティルはこれ幸いと辞令を受けて任地に向かう。  途中で仲間になった聖獣の子牛のモラクスと共に腐界で快適なスローライフを始めたのだった。  瘴気は自作の結界で完全に防ぎ、人族の脅威たる魔物はあっさり倒す。 「魔物の肉がうますぎる! 腐界で採れる野菜もうまい!」 「もっも~」 「建築も魔法を使えば簡単だし、水も魔法で出し放題だ」  病気になった聖獣の子狼がやってきたり、腐界で人知れず過ごしてきたエルフ族が仲間になったり。  これは後に至高神の使徒の弟子にして、聖獣の友、エルフの守護者、人族の救世主と呼ばれることになる偉大なるティル・リッシュの腐界開拓の物語である。 ※ネオページ、小説家になろう、カクヨムでも公開しています

処理中です...