祖国を離れて三千里の歌姫リーザは太郎国で最強ルームメイト達と楽しくパンの耳を齧る貧乏生活をしています!

月神世一

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第三章 密着24時貧乏アイドル

EP 4

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全国放送! 衝撃の「鳩奪取アイドル」
​ 数日後の夜。
 シェアハウスのリビングは、いつになく平和な空気に包まれていた。
 夕食(半額のり弁の残りと、キャルルさんがSWATの食堂から貰ってきたパン)を終え、私たちはダラダラとテレビを見ていた。
​「ねえリーザちゃん、今日『TNK』で面白そうな特番やるんだって! 『突撃! 隣の極貧さん』!」
「あら、世の中には苦労されている方が多いのですわね……。私なんてまだ恵まれている方ですわ」
​ 私は他人事のように紅茶(出がらしのティーバッグ3回目)を啜った。
 画面の中で、派手なテロップが踊る。
​ 【今夜の特集! 大都会の片隅で……元・一国の姫(自称)が壮絶サバイバル!?】
​「あら? 『元・一国の姫』ですって。奇遇ですわね、私と同じ設定の人がいるなんて」
「うんうん……って、え?」
​ キャルルさんが動きを止めた。
 私もカップを持つ手が止まった。
 画面が切り替わり、どこか見覚えのある公園の映像が映し出される。
​ ――ポロロン……♪(悲しげなピアノのBGM)
​ ナレーター(低音ボイス):
 『タロウ国、第3区。平和な公園の昼下がり。そこに、目を疑うような光景があった……』
​ 画面の中央。
 ボサボサの髪をなびかせ、鬼の形相でベンチから飛び出す少女の姿。
 その少女は、ジャージ姿で鳩の群れにダイブし、空中で何かをキャッチした。
​ テロップ:【衝撃映像! 鳩と餌を奪い合う美少女!】
​「ブッ!!」
​ 私は紅茶を噴き出した。
 画面の中の少女が、ドヤ顔でパンの耳を掲げている。
 口の周りにパンくずをつけ、鳩に対して勝利宣言をしているその姿。
 どこからどう見ても、私――リーザ・フォン・シーランその人だった。
​「いやぁぁぁぁぁッ!? これ私ですわぁぁぁッ!!」
​ 私は絶叫してテレビの前へスライディングした。
 消さなきゃ! こんな恥ずかしい映像、放送事故ですわ!
​ しかし、非情にもナレーションは続く。
​ 『彼女の名はリーザさん。かつてはアイドルを夢見ていたが、今はその日暮らしの極貧生活……。彼女が主食にしているのは、なんと鳩に撒かれたパンの耳だった』
​ テロップ:【主食は鳩の餌】
​「違いますわ! あれは高級生食パンの耳だったから確保したんですの! 普段はちゃんとお店で貰ったパンの耳を食べてますわよ!」
​ 必死に弁解するが、テレビの向こうのコメンテーターたちは涙を拭っている。
​ 『ううっ……可哀想に……まだあんなに若いのに……』
 『誰かご飯を食べさせてあげてほしいですね……』
 『でも、必死に生きる姿が美しい……』
​ 画面はスローモーションになり、私がパンの耳を頬張るシーンが、キラキラとしたエフェクト付きで流された。
​ テロップ:【生きるって、素晴らしい。】
​ 番組終了。
​「…………」
​ リビングに静寂が訪れた。
 私は真っ白に燃え尽きていた。
 終わった。アイドルとしての尊厳が。
 これでもう、「清純派」どころか「人間」としての扱いすら危うい。
​「あははははは! すごいよリーザちゃん! 鳩と喧嘩してる顔、すごい迫力だった!」
​ キャルルさんが腹を抱えて爆笑している。
​「あらあら……リーザさん。そんなにお腹が空いていたのなら、言ってくだされば良かったのに。私の庭の雑草(マンドラゴラ)を炒めて差し上げましたのに」
​ ルナさんが本気で同情した目で、そっとハンカチを差し出してくる。
​「ち、違いますの……! あれはエンターテイメントで……SDGs的な活動で……!」
​ 私が蚊の鳴くような声で言い訳をしていると、テーブルの上の魔導スマホが狂ったように震え出した。
​ ブブブブブブブブッ!!!!
​ SNSの通知が止まらない。
 恐る恐る画面を見ると、トレンドワードの一位に輝いていたのは――。
​ #鳩アイドル
 #リーザちゃんにご飯をあげたい
 #可愛すぎるホームレス
​「えっ……?」
​ コメント欄は、予想外の反応で溢れかえっていた。
​ 『泣いた。応援したい』
 『たくましすぎて好きになった』
 『パンの耳をあんなに美味しそうに食べるアイドル、初めて見た』
 『推せる。俺の給料全部貢ぎたい』
​ ……バズっている。
 しかも、同情と好感度が爆上がりしている!?
​「こ、これは……チャンス、なのかしら……?」
​ 私は震える手でスマホを握りしめた。
 恥辱と引き換えに手に入れた、全国区の知名度。
 この「貧乏」という烙印が、明日から私に大量の支援物資と、そして最悪の敵(税務署)を呼び寄せることになるとは、この時の私はまだ知る由もなかった。
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