祖国を離れて三千里の歌姫リーザは太郎国で最強ルームメイト達と楽しくパンの耳を齧る貧乏生活をしています!

月神世一

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第三章 密着24時貧乏アイドル

EP 5

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同情するなら金をくれ
​ 翌日。
 『太郎芸能プロダクション(プレハブ)』の前には、宅配業者のトラックが列をなしていた。
​「お届けものでーす! リーザ様宛、ダンボール20箱!」
「こっちもだ! 『全国リーザちゃんを肥えさせ隊』様より、米俵一票!」
​ 次々と運び込まれる物資。
 狭い事務所は、あっという間に食料品と古着の山で埋め尽くされた。
​「……な、なんですのこれ……」
​ 私が呆然としていると、奥のデスクで太郎陛下が電卓を叩きながら高笑いしていた。
​「ギャハハ! すげぇぞリーザ! 昨日の放送のおかげで、事務所への支援物資が止まらねぇ!」
​ 太郎陛下は、山積みになった『高級食パンの耳(業務用)』の袋を私に投げ渡した。
​「ほら食え。一生分のパンの耳だぞ」
「うっ……ありがとうございます……」
​ 嬉しい。確かに嬉しい。
 食費が浮くのは助かるし、これで飢える心配はない。
 でも、届いているのは「パンの耳」「賞味期限ギリギリの缶詰」「少し穴の空いたセーター」ばかり。
 現金(キャッシュ)の差し入れは……?
​「あの、陛下。出演依頼とかは来てませんの? CMとか、雑誌のグラビアとか!」
「おう、来てるぞ。山ほどな」
​ 太郎陛下は、デスクの上の企画書を指差した。
​ 【求む! 雑草ソムリエ(無人島ロケ)】
 【検証番組:人はパンの耳だけで何日生きられるか?】
 【ドキュメンタリー:鳩と暮らす少女】
​「全部イロモノじゃありませんのぉぉぉッ!!」
​ 私は企画書をちゃぶ台返しした。
 アイドルとしての仕事がない! キラキラしたステージも、可愛い衣装もない!
 あるのは泥臭いサバイバル案件ばかり。
​「贅沢言うな。今のテメェの売りは『貧乏』と『哀愁』だ。この波に乗れ」
「うぐぐ……」
​ 悔しいけれど、反論できない。
 現に、私のSNSフォロワー数は爆増している。
 みんな、私の歌声よりも「私が道端の草を天ぷらにして食べる動画」を求めているのだ。
​「……わかりましたわ。やりますわよ」
​ 私はパンの耳を齧りながら、覚悟を決めた。
​「雑草でも泥水でも何でも来いですわ! 全部ネタにして、稼いで稼いで……いつか本物のステーキを食べてやりますわ!」
​ こうして、私の「貧乏アイドル」としての活動は本格化した。
 来る日も来る日も、体当たりのロケ。
 川で魚を手づかみし、野草図鑑を片手に山を歩き、もらった古着をリメイクして着こなす。
​ そのひたむきな姿は、国民の涙と笑いを誘い、私のお財布(と事務所の金庫)は少しずつ、確実に潤っていった。
 銀貨が金貨になり、貯金箱が重くなっていく。
​ 平和だった。
 順調だった。
 このままいけば、来月には念願の「家賃完済」も夢じゃない。
​ ――そう思っていた。
 あの「黒い封筒」が届くまでは。
​ ◇
​ 数週間後。
 ロケから帰宅した私は、シェアハウスのポストに一通の封筒が入っているのを見つけた。
 ファンレターではない。
 請求書でもない。
 重厚な黒い和紙のような封筒に、金色の箔押しで、禍々しい紋章と文字が刻まれている。
​ 差出人:【タロウ国税務署・特別徴収課】
​「ぜ……税務署……?」
​ その単語を見た瞬間、私の本能が警鐘を鳴らした。
 魔王よりも、ドラゴンよりも恐ろしい存在。
 それが、国家権力による「徴収」だ。
​ 私は震える指で封を開けた。
 中に入っていたのは、一枚の紙きれ。
​ 【出頭命令書】
 【リーザ・フォン・シーラン殿。貴殿の所得申告について重大な疑義が生じております。直ちに出頭されたし】
​「ひっ!?」
​ 所得申告? 疑義?
 私はただ、パンの耳を貰って、少しのお小遣いを稼いでいただけなのに!
 何も悪いことなんてしていませんわ!
​ しかし、紙の下部には小さく、しかし残酷な追伸が書かれていた。
​ ※正当な理由なく拒否した場合、財産の差し押さえ及び身柄の拘束(マグロ漁船行き)を執行します。
​「いやぁぁぁぁぁッ!!」
​ 夕暮れの住宅街に、私の悲鳴がこだました。
 パンの耳も、半額弁当も、私のささやかな幸せも。
 全てを飲み込む巨大な闇が、すぐそこまで迫っていたのだ。
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