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第三章 密着24時貧乏アイドル
EP 9
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経費で落ちますか?
冷房が効きすぎた聴取室の机の上に、私のプライド(と貧乏生活の結晶)がぶちまけられた。
クシャクシャに丸まったレシート。
裏紙に書かれた手書きのメモ。
スーパーの値引きシール(台紙付き)。
「……なんですか、このゴミの山は」
灰原が心底嫌そうな顔で眼鏡を押し上げた。
「ゴミではありませんわ! 私が血を吐くような思いで集めた、生活の記録……いえ、事業活動の記録ですのよ!」
「生活の記録と言っている時点でアウトです。家事関連費は経費に算入できません」
灰原が冷たく切り捨てる。
しかし、リベラ様は不敵な笑みを崩さない。
「ええ、プライベートな支出は経費になりません。……ですが、彼女は『24時間アイドル』。息を吸うのも事業の一環ですわ。さあ、一つずつ精査していきましょう」
リベラ様は、レシートの山から一枚を拾い上げた。
【エントリーNo.1:タロウマート特製・半額のり弁(240円)】
「まずはこれですわね、リーザさん」
「はいっ! これは私がライブの翌日に、激しいカロリー消費を補うために購入した、いわば『燃料代』ですわ! 立派な経費――」
「却下ですわ」
ビリッ。
リベラ様は私の目の前で、のり弁のレシートを破り捨てた。
「ええええッ!?」
「食事代は原則として経費になりません。打ち合わせを伴う『会議費』か、接待目的の『交際費』でなければ無効です。貴女、これを一人で食べましたわよね?」
「は、はい……テレビを見ながら……」
「ならただの食費(プライベート)です。次!」
味方のはずのリベラ様が、灰原よりも厳しい査定を下す。
灰原は「ほう、まともな弁護士ですね」と少し感心していた。
【エントリーNo.2:タロウの天然水(68円)】
「では、これはどうです!? ドラッグストアで買ったお水ですわ!」
「ただの飲料水ですね。食費と同じく却下――」
「異議あり!」
灰原が弾こうとしたレシートを、リベラ様が素早く押さえた。
「これは飲料水ではありません。彼女はこれを『化粧水』として肌に塗布していました。アイドルにとって美肌の維持は生命線。よってこれは**『美容費』あるいは『消耗品費』**として計上すべきです」
「なっ……! 成分表に『採水地:浄水場』とありますよ! ただの水道水だ!」
「水道水だろうと泥水だろうと、本人が『美容液』として事業用に使用した実態があれば経費ですわ! ……リーザさん、証言を」
「は、はい! 私、コットン(100均)にひたひたにして、毎晩顔に貼り付けておりますわ! おかげでお肌プルプルですの!」
私の必死の証言(と安い美容法)に、灰原は顔を引きつらせた。
「……くっ、たかが68円……認めましょう」
「よしっ! 経費計上(デダクション)、一つ獲得ですわ!」
【エントリーNo.3:ハート型サングラス(100円)&古着のトレンチコート(500円)】
「これはどう見ても日用品……いや、変装グッズですね。プライベートの外出用でしょう」
「いいえ。彼女はこれを着用して、SWAT本部という『危険地帯』へ潜入しました。いわば、アイドルの知名度を守るための**『衣装代』、あるいはスキャンダル対策の『防犯費』**です」
リベラ様が六法全書を机に叩きつける。
「現に、彼女は『情報屋』としてのキャラ作りのためにこのコートを購入しました。事業に直結する投資(プロップス)ですわ!」
「あんなボロボロのコートが衣装……!? アイドルの定義が崩れる……!」
灰原が頭を抱え始めた。
リベラ様の詭弁(ロジック)が、税務署の常識を次々と破壊していく。
【エントリーNo.4:五円玉(複数枚)】
「待ってください。この『五円玉』というのは何ですか? 現金の支出証拠がない!」
「ああ、それはですね……」
私は恥ずかしそうに指を突き合わせた。
「私、路上ライブで『一発芸』をする時に、鼻の穴にこの五円玉を詰めて『ポンポコ節』を歌うんですの。だから、これは絶対に必要な……」
「立派な**『舞台小道具費』**ですわね!」
リベラ様が力強く宣言した。
「はぁぁ!? 硬貨を鼻に詰める!? それがアイドルのライブだと!?」
「ええ、彼女は身体を張って観客の笑顔(とおひねり)をもぎ取っているのです。この五円玉は流通貨幣としての機能を失い、完全に『小道具』と化しています。経費として計上しなさい!」
◇
それから数時間。
白熱する「経費計上大会」は、泥沼の様相を呈していた。
「公園の雑草を炒めるためのごま油代(特売で198円)!」
「……自炊の範疇だ! 却下!」
「いいえ、テレビ番組『隣の極貧さん』のロケで使われた『美術協力費』です!」
「ぐぬぬ……!」
リベラ様の容赦ない交渉術と、私のあまりにも惨めな生活実態のコンボ攻撃。
一枚、また一枚と、ゴミのようなレシートが「必要経費」という名の黄金の盾に変わっていく。
最初は冷徹だった灰原の顔は、今や脂汗でテカテカに光っていた。
「……はぁ、はぁ……」
灰原がネクタイを緩め、力なく電卓を叩く。
そして、ついに彼が白旗を上げた。
「……わかりました。経費の計上、および『現物支給』の評価額の見直しを……認めます……」
ガックリと項垂れる税務官。
勝った。
私たちは、国家権力(税務署)から、私のお金と未来をもぎ取ったのだ!
「やりましたわ、リベラ様! 完全勝利ですわーッ!」
「ふふっ……チョロいものですわね」
私はリベラ様に抱きつこうとした。
しかし、彼女は冷たい手で私を制し、あの「悪魔の笑顔」を浮かべた。
「喜ぶのはまだ早いですわよ、リーザさん。……税金の計算は終わりましたが、一番大切な『お支払い』が残っていますものね?」
嫌な予感がした。
聴取室の温度が、冷房とは違う理由で、さらに5度ほど下がった気がした。
冷房が効きすぎた聴取室の机の上に、私のプライド(と貧乏生活の結晶)がぶちまけられた。
クシャクシャに丸まったレシート。
裏紙に書かれた手書きのメモ。
スーパーの値引きシール(台紙付き)。
「……なんですか、このゴミの山は」
灰原が心底嫌そうな顔で眼鏡を押し上げた。
「ゴミではありませんわ! 私が血を吐くような思いで集めた、生活の記録……いえ、事業活動の記録ですのよ!」
「生活の記録と言っている時点でアウトです。家事関連費は経費に算入できません」
灰原が冷たく切り捨てる。
しかし、リベラ様は不敵な笑みを崩さない。
「ええ、プライベートな支出は経費になりません。……ですが、彼女は『24時間アイドル』。息を吸うのも事業の一環ですわ。さあ、一つずつ精査していきましょう」
リベラ様は、レシートの山から一枚を拾い上げた。
【エントリーNo.1:タロウマート特製・半額のり弁(240円)】
「まずはこれですわね、リーザさん」
「はいっ! これは私がライブの翌日に、激しいカロリー消費を補うために購入した、いわば『燃料代』ですわ! 立派な経費――」
「却下ですわ」
ビリッ。
リベラ様は私の目の前で、のり弁のレシートを破り捨てた。
「ええええッ!?」
「食事代は原則として経費になりません。打ち合わせを伴う『会議費』か、接待目的の『交際費』でなければ無効です。貴女、これを一人で食べましたわよね?」
「は、はい……テレビを見ながら……」
「ならただの食費(プライベート)です。次!」
味方のはずのリベラ様が、灰原よりも厳しい査定を下す。
灰原は「ほう、まともな弁護士ですね」と少し感心していた。
【エントリーNo.2:タロウの天然水(68円)】
「では、これはどうです!? ドラッグストアで買ったお水ですわ!」
「ただの飲料水ですね。食費と同じく却下――」
「異議あり!」
灰原が弾こうとしたレシートを、リベラ様が素早く押さえた。
「これは飲料水ではありません。彼女はこれを『化粧水』として肌に塗布していました。アイドルにとって美肌の維持は生命線。よってこれは**『美容費』あるいは『消耗品費』**として計上すべきです」
「なっ……! 成分表に『採水地:浄水場』とありますよ! ただの水道水だ!」
「水道水だろうと泥水だろうと、本人が『美容液』として事業用に使用した実態があれば経費ですわ! ……リーザさん、証言を」
「は、はい! 私、コットン(100均)にひたひたにして、毎晩顔に貼り付けておりますわ! おかげでお肌プルプルですの!」
私の必死の証言(と安い美容法)に、灰原は顔を引きつらせた。
「……くっ、たかが68円……認めましょう」
「よしっ! 経費計上(デダクション)、一つ獲得ですわ!」
【エントリーNo.3:ハート型サングラス(100円)&古着のトレンチコート(500円)】
「これはどう見ても日用品……いや、変装グッズですね。プライベートの外出用でしょう」
「いいえ。彼女はこれを着用して、SWAT本部という『危険地帯』へ潜入しました。いわば、アイドルの知名度を守るための**『衣装代』、あるいはスキャンダル対策の『防犯費』**です」
リベラ様が六法全書を机に叩きつける。
「現に、彼女は『情報屋』としてのキャラ作りのためにこのコートを購入しました。事業に直結する投資(プロップス)ですわ!」
「あんなボロボロのコートが衣装……!? アイドルの定義が崩れる……!」
灰原が頭を抱え始めた。
リベラ様の詭弁(ロジック)が、税務署の常識を次々と破壊していく。
【エントリーNo.4:五円玉(複数枚)】
「待ってください。この『五円玉』というのは何ですか? 現金の支出証拠がない!」
「ああ、それはですね……」
私は恥ずかしそうに指を突き合わせた。
「私、路上ライブで『一発芸』をする時に、鼻の穴にこの五円玉を詰めて『ポンポコ節』を歌うんですの。だから、これは絶対に必要な……」
「立派な**『舞台小道具費』**ですわね!」
リベラ様が力強く宣言した。
「はぁぁ!? 硬貨を鼻に詰める!? それがアイドルのライブだと!?」
「ええ、彼女は身体を張って観客の笑顔(とおひねり)をもぎ取っているのです。この五円玉は流通貨幣としての機能を失い、完全に『小道具』と化しています。経費として計上しなさい!」
◇
それから数時間。
白熱する「経費計上大会」は、泥沼の様相を呈していた。
「公園の雑草を炒めるためのごま油代(特売で198円)!」
「……自炊の範疇だ! 却下!」
「いいえ、テレビ番組『隣の極貧さん』のロケで使われた『美術協力費』です!」
「ぐぬぬ……!」
リベラ様の容赦ない交渉術と、私のあまりにも惨めな生活実態のコンボ攻撃。
一枚、また一枚と、ゴミのようなレシートが「必要経費」という名の黄金の盾に変わっていく。
最初は冷徹だった灰原の顔は、今や脂汗でテカテカに光っていた。
「……はぁ、はぁ……」
灰原がネクタイを緩め、力なく電卓を叩く。
そして、ついに彼が白旗を上げた。
「……わかりました。経費の計上、および『現物支給』の評価額の見直しを……認めます……」
ガックリと項垂れる税務官。
勝った。
私たちは、国家権力(税務署)から、私のお金と未来をもぎ取ったのだ!
「やりましたわ、リベラ様! 完全勝利ですわーッ!」
「ふふっ……チョロいものですわね」
私はリベラ様に抱きつこうとした。
しかし、彼女は冷たい手で私を制し、あの「悪魔の笑顔」を浮かべた。
「喜ぶのはまだ早いですわよ、リーザさん。……税金の計算は終わりましたが、一番大切な『お支払い』が残っていますものね?」
嫌な予感がした。
聴取室の温度が、冷房とは違う理由で、さらに5度ほど下がった気がした。
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