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第二章 1歳児の勇者
EP 14
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アークスが負傷してから数日後。
シンフォニア家は平穏を取り戻しつつあったが、リアン(1歳)の心は穏やかではなかった。
子供部屋のベビーベッド。
リアンは耳にイヤホン(ネット通販で購入した受信機の付属品)を押し当て、屋根裏に仕掛けた盗聴器からの情報に耳を澄ませていた。
(……父さんはリハビリ中か。だが、あの筋肉ダルマのことだ。完治する前に「俺がやらなきゃ誰がやる!」とか言って、無理してでも現場に戻るだろう)
前世の記憶にある「過労死」や「殉職」という言葉が脳裏をよぎる。
大切な家族を、再び危険な目に遭わせるわけにはいかない。
(戦わさせない。父さんが剣を握る前に、俺が脅威を排除する)
受信機から、ゼノン騎士団長の声がノイズ混じりに聞こえてきた。
『……斥候からの報告だ。森の北、岩場の陰にオークの小規模な根城を発見した。数は5体ほどだが、先日アークスを襲った変異種の群れの一部と見られる……』
(……森の北、オークの根城か。よし)
標的は定まった。
リアンはイヤホンを外し、冷たい目で天井を見つめた。
(深夜の「仕込み」の時間だ)
深夜2時。
月明かりが森を青白く照らす刻。
リアンは呼吸を整え、精神のスイッチを切り替えた。
(センチネル、起動)
意識が肉体を離れ、胡桃割り人形へと宿る。
カチリ、とセンチネルが立ち上がり、無機質な瞳で部下たちを見回した。
『弓丸、騎士丸、竜丸。……行くぞ! 今日は掃除(クリアリング)だ』
三体の人形は流れるような動作で合体し、竜丸に乗り込んだ。
音もなく窓が開き、シンフォニア小隊が夜空へと飛び立つ。
ルナハンの北に広がる深い森。
その一角にある岩場の陰で、オークたちが焚き火を囲んで野営をしていた。
先日、騎士団を相手に暴れた生き残りだろうか。棍棒を枕にし、豚のようなイビキをかいて泥のように眠っている。
上空の大枝の上。
竜丸が爪を立てて着陸し、眼下の獲物を見下ろした。
『数は5体か……。起きている奴はゼロ』
センチネル(リアン)は冷徹に状況を判断する。
真正面から戦えば、オークの怪力は脅威だ。だが、意識のない肉塊ならば、ただの肉屋の仕事と変わらない。
『関係ねぇ。寝てりゃ皆、ただの食材だ』
センチネルの指示で、竜丸の腹部からワイヤーが降ろされた。
弓丸と騎士丸が、闇に溶け込むように降下していく。
地面に降り立った二機は、足音を殺して焚き火のそばへ忍び寄った。
弓丸が魔法ポーチから取り出したのは、ネット通販で購入した『医療用シリンジ(注射器)』。中には、致死量ギリギリまで濃縮した『即効性液体睡眠薬』が満たされている。
(まずは一番デカい個体からだ)
弓丸が、大の字で寝ているオークの太い首筋に近づく。
皮膚が厚いが、針の先端はミスリル(に見立てたダイヤモンドヤスリ加工)並に尖らせてある。
ブスッ。
「……ぐご?」
オークが一瞬呻いたが、弓丸は素早く薬液を注入し、離脱した。
強烈な薬効が脳に達し、オークの呼吸がさらに深く、戻らないものへと変わっていく。
『……落ちたな。やれ、騎士丸』
待機していた騎士丸が、静かに歩み寄る。
手には、チタン製のアウトドア用肉切り包丁。
騎士丸はオークの首元に刃を当てると、体重を乗せて一気に引いた。
ザシュッ……。
鮮やかな手際。
頚動脈を断たれたオークは、声を上げることもなく、ただビクンと痙攣して絶命した。
噴き出した血が焚き火でジューと音を立てるが、他のオークは起きない。
『よし……次だ』
ここからは流れ作業だった。
弓丸が眠らせ、騎士丸が刈り取る。
感情のない処刑執行。
数分後には、焚き火を囲んでいた5体のオークは、すべて物言わぬ死体へと変わっていた。
『……終了(フィニッシュ)。オーク達は死体になった』
センチネルは、ワイヤーで二機を回収しようとした。
その時だった。
ガササッ……グルルルゥ……
茂みの奥から、複数の赤い目が光った。
鼻をひくつかせ、涎を垂らした狼の群れ。
『ボアウルフ』だ。血の匂いを嗅ぎつけてやってきたのだ。
『チッ……ハイエナ共が』
騎士丸が剣を構えようとするが、センチネルはそれを制した。
『待て。……好都合だ』
オークの死体が「刃物で切られた」ものだと騎士団に見つかれば、「誰がやった?」と騒ぎになる。
だが、魔獣に食い荒らされた死体ならば?
『魔獣同士の縄張り争い、あるいは共食い……。そう見せかければ、言い訳が出来る』
ボアウルフたちが、オークの死体に群がり始めた。
バリバリと肉を食らう音が森に響く。
それが、完全犯罪の仕上げとなる。
『……撤収だ。森の掃除は、自然の摂理に任せよう』
センチネルたちを乗せた竜丸は、音もなく枝を離れ、夜空へと舞い上がった。
翌朝、偵察に来た騎士団が見るのは、無残なオークの残骸だけだろう。
そしてアークスは、「討伐対象が消滅した」という報告を聞き、安心してリハビリに専念できるはずだ。
誰にも知られず、誰にも称賛されず。
1歳の守護者は、今日も家族の平和を裏側から守り抜いた。
シンフォニア家は平穏を取り戻しつつあったが、リアン(1歳)の心は穏やかではなかった。
子供部屋のベビーベッド。
リアンは耳にイヤホン(ネット通販で購入した受信機の付属品)を押し当て、屋根裏に仕掛けた盗聴器からの情報に耳を澄ませていた。
(……父さんはリハビリ中か。だが、あの筋肉ダルマのことだ。完治する前に「俺がやらなきゃ誰がやる!」とか言って、無理してでも現場に戻るだろう)
前世の記憶にある「過労死」や「殉職」という言葉が脳裏をよぎる。
大切な家族を、再び危険な目に遭わせるわけにはいかない。
(戦わさせない。父さんが剣を握る前に、俺が脅威を排除する)
受信機から、ゼノン騎士団長の声がノイズ混じりに聞こえてきた。
『……斥候からの報告だ。森の北、岩場の陰にオークの小規模な根城を発見した。数は5体ほどだが、先日アークスを襲った変異種の群れの一部と見られる……』
(……森の北、オークの根城か。よし)
標的は定まった。
リアンはイヤホンを外し、冷たい目で天井を見つめた。
(深夜の「仕込み」の時間だ)
深夜2時。
月明かりが森を青白く照らす刻。
リアンは呼吸を整え、精神のスイッチを切り替えた。
(センチネル、起動)
意識が肉体を離れ、胡桃割り人形へと宿る。
カチリ、とセンチネルが立ち上がり、無機質な瞳で部下たちを見回した。
『弓丸、騎士丸、竜丸。……行くぞ! 今日は掃除(クリアリング)だ』
三体の人形は流れるような動作で合体し、竜丸に乗り込んだ。
音もなく窓が開き、シンフォニア小隊が夜空へと飛び立つ。
ルナハンの北に広がる深い森。
その一角にある岩場の陰で、オークたちが焚き火を囲んで野営をしていた。
先日、騎士団を相手に暴れた生き残りだろうか。棍棒を枕にし、豚のようなイビキをかいて泥のように眠っている。
上空の大枝の上。
竜丸が爪を立てて着陸し、眼下の獲物を見下ろした。
『数は5体か……。起きている奴はゼロ』
センチネル(リアン)は冷徹に状況を判断する。
真正面から戦えば、オークの怪力は脅威だ。だが、意識のない肉塊ならば、ただの肉屋の仕事と変わらない。
『関係ねぇ。寝てりゃ皆、ただの食材だ』
センチネルの指示で、竜丸の腹部からワイヤーが降ろされた。
弓丸と騎士丸が、闇に溶け込むように降下していく。
地面に降り立った二機は、足音を殺して焚き火のそばへ忍び寄った。
弓丸が魔法ポーチから取り出したのは、ネット通販で購入した『医療用シリンジ(注射器)』。中には、致死量ギリギリまで濃縮した『即効性液体睡眠薬』が満たされている。
(まずは一番デカい個体からだ)
弓丸が、大の字で寝ているオークの太い首筋に近づく。
皮膚が厚いが、針の先端はミスリル(に見立てたダイヤモンドヤスリ加工)並に尖らせてある。
ブスッ。
「……ぐご?」
オークが一瞬呻いたが、弓丸は素早く薬液を注入し、離脱した。
強烈な薬効が脳に達し、オークの呼吸がさらに深く、戻らないものへと変わっていく。
『……落ちたな。やれ、騎士丸』
待機していた騎士丸が、静かに歩み寄る。
手には、チタン製のアウトドア用肉切り包丁。
騎士丸はオークの首元に刃を当てると、体重を乗せて一気に引いた。
ザシュッ……。
鮮やかな手際。
頚動脈を断たれたオークは、声を上げることもなく、ただビクンと痙攣して絶命した。
噴き出した血が焚き火でジューと音を立てるが、他のオークは起きない。
『よし……次だ』
ここからは流れ作業だった。
弓丸が眠らせ、騎士丸が刈り取る。
感情のない処刑執行。
数分後には、焚き火を囲んでいた5体のオークは、すべて物言わぬ死体へと変わっていた。
『……終了(フィニッシュ)。オーク達は死体になった』
センチネルは、ワイヤーで二機を回収しようとした。
その時だった。
ガササッ……グルルルゥ……
茂みの奥から、複数の赤い目が光った。
鼻をひくつかせ、涎を垂らした狼の群れ。
『ボアウルフ』だ。血の匂いを嗅ぎつけてやってきたのだ。
『チッ……ハイエナ共が』
騎士丸が剣を構えようとするが、センチネルはそれを制した。
『待て。……好都合だ』
オークの死体が「刃物で切られた」ものだと騎士団に見つかれば、「誰がやった?」と騒ぎになる。
だが、魔獣に食い荒らされた死体ならば?
『魔獣同士の縄張り争い、あるいは共食い……。そう見せかければ、言い訳が出来る』
ボアウルフたちが、オークの死体に群がり始めた。
バリバリと肉を食らう音が森に響く。
それが、完全犯罪の仕上げとなる。
『……撤収だ。森の掃除は、自然の摂理に任せよう』
センチネルたちを乗せた竜丸は、音もなく枝を離れ、夜空へと舞い上がった。
翌朝、偵察に来た騎士団が見るのは、無残なオークの残骸だけだろう。
そしてアークスは、「討伐対象が消滅した」という報告を聞き、安心してリハビリに専念できるはずだ。
誰にも知られず、誰にも称賛されず。
1歳の守護者は、今日も家族の平和を裏側から守り抜いた。
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