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第六章 5歳児の勇者
EP 8
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ルナハン騎士団の野営地。
勝利の報せは、早朝の冷気を一瞬にして熱気へと変えた。
「野郎ども! 聞けぇ!!」
ゼノン騎士団長が、本国からの伝令書を握りしめ、高らかに声を張り上げた。
「えぇ、本国から通達があった! 敵軍は完全に撤退! 条約が締結された! ……ルナミス帝国は、勝ったぞおおおお!!」
一瞬の静寂の後、爆発的な歓声が沸き起こった。
「やったああああ!! マジかよ!!」
「帰れる! 生きて帰れるんだ!!」
「うおおおおおおお!!」
兜を放り投げる者、抱き合って泣く者。
死の恐怖から解放された男たちの叫びが、空に木霊する。
その喧騒の中、アークスはその場に崩れ落ちるように膝をつき、天を仰いだ。
「やった……! リアン! マーサ! オニヒメ! ……俺は、俺は生き残ったぞぉぉぉ!!」
約束を守れた。家族の元へ帰れる。
その事実だけで、目頭が熱くなる。
「アークス!」
大きな手が、アークスの肩を叩いた。ゼノンだ。
「貴様らは俺の誇りだ。胸を張れ。そして、帰って家族達を喜ばせて来い!」
「ありがとうございます、団長!」
アークスが涙を拭い、敬礼する。
ゼノンはニカっと笑い、声を潜めて言った。
「アークス、貴様の活躍は目を見張る物があった。あの的確な状況判断、そして何故かお前の部隊が行く先々で敵が自滅していく強運……。上には、たっぷりと『色』を付けて報告してやるからな。昇進と報奨金、楽しみにしておけ」
「い、いえ! 俺はただ、生き残るのにがむしゃらで……」
「ハッハッハ! 謙遜するな!」
その様子を、遥か上空の森の木陰から見つめる影があった。
(……戦争が終わったか。父さんも無事だ。良かった)
リアンは安堵の息を吐いた。
村での悲劇は忘れない。だが、最大の目的である「父の生存」は達成された。
リアンは『竜丸』を操り、人知れずルナハンの街近くへと移動した。
(さて……。俺は数日間、行方不明だったわけだが)
人気のない森の中で、リアンは竜丸やセンチネル達を魔法ポーチに収納した。
ここからは、5歳児としての「演技」の時間だ。
(俺は『誘拐』された設定だったな。犯人の顔を見られたら殺されるのがセオリーだ。だから『目隠しをされていて、何も見ていない』……うん、これで行こう。そうすれば、犯人の特徴を言わなくて済む)
リアンは地面の泥を掬い上げると、自分の高級な子供服に塗りたくった。
袖を引きちぎり、髪をぐしゃぐしゃにする。
靴も片方、森の奥に捨ててきた。
「……よし。演出完了」
リアンは深呼吸をして、表情筋を緩めた。
冷徹な指揮官の顔から、可哀想な迷子の顔へ。
ルナハンの街外れ、検問所近く。
「うわああん! うわああああん!! 助けてえええ!!」
森の中から、悲痛な泣き声が響いてきた。
警備をしていた憲兵たちが、色めき立つ。
「む! どうした坊や!? 何があった!?」
森から這い出てきたのは、泥だらけでボロボロになった小さな子供だった。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で、リアンは憲兵の足にしがみついた。
「怖いよおおお! 暗いよおおお! マーサママに会いたいいぃぃぃ!!」
「き、君は……!?」
憲兵の一人が、手配書の似顔絵と目の前の少年を見比べ、驚愕の声を上げた。
「まさか、シンフォニア家のリアン君!? 捜索願いが出ていた、あの行方不明の……!?」
「ううっ、おじちゃん……ここ何処ぉぉ……?」
「すぐに保護しろ! 救護班を呼べ! アークス卿のご子息が見つかったぞ!!」
憲兵たちが慌ただしく動き出す。
毛布にくるまれ、背負われるリアン。
その顔は憲兵の背中で隠れていたが、心の中では冷静に次の台詞(言い訳)をシミュレーションしていた。
(……第一段階クリア。次は母さんとオニヒメへの言い訳だ。……しっかし、プロテインバー以外の物が食いたい)
こうして、幼き勇者の長い戦争は終わり、再び「日常」という名の戦場へと帰還したのだった。
勝利の報せは、早朝の冷気を一瞬にして熱気へと変えた。
「野郎ども! 聞けぇ!!」
ゼノン騎士団長が、本国からの伝令書を握りしめ、高らかに声を張り上げた。
「えぇ、本国から通達があった! 敵軍は完全に撤退! 条約が締結された! ……ルナミス帝国は、勝ったぞおおおお!!」
一瞬の静寂の後、爆発的な歓声が沸き起こった。
「やったああああ!! マジかよ!!」
「帰れる! 生きて帰れるんだ!!」
「うおおおおおおお!!」
兜を放り投げる者、抱き合って泣く者。
死の恐怖から解放された男たちの叫びが、空に木霊する。
その喧騒の中、アークスはその場に崩れ落ちるように膝をつき、天を仰いだ。
「やった……! リアン! マーサ! オニヒメ! ……俺は、俺は生き残ったぞぉぉぉ!!」
約束を守れた。家族の元へ帰れる。
その事実だけで、目頭が熱くなる。
「アークス!」
大きな手が、アークスの肩を叩いた。ゼノンだ。
「貴様らは俺の誇りだ。胸を張れ。そして、帰って家族達を喜ばせて来い!」
「ありがとうございます、団長!」
アークスが涙を拭い、敬礼する。
ゼノンはニカっと笑い、声を潜めて言った。
「アークス、貴様の活躍は目を見張る物があった。あの的確な状況判断、そして何故かお前の部隊が行く先々で敵が自滅していく強運……。上には、たっぷりと『色』を付けて報告してやるからな。昇進と報奨金、楽しみにしておけ」
「い、いえ! 俺はただ、生き残るのにがむしゃらで……」
「ハッハッハ! 謙遜するな!」
その様子を、遥か上空の森の木陰から見つめる影があった。
(……戦争が終わったか。父さんも無事だ。良かった)
リアンは安堵の息を吐いた。
村での悲劇は忘れない。だが、最大の目的である「父の生存」は達成された。
リアンは『竜丸』を操り、人知れずルナハンの街近くへと移動した。
(さて……。俺は数日間、行方不明だったわけだが)
人気のない森の中で、リアンは竜丸やセンチネル達を魔法ポーチに収納した。
ここからは、5歳児としての「演技」の時間だ。
(俺は『誘拐』された設定だったな。犯人の顔を見られたら殺されるのがセオリーだ。だから『目隠しをされていて、何も見ていない』……うん、これで行こう。そうすれば、犯人の特徴を言わなくて済む)
リアンは地面の泥を掬い上げると、自分の高級な子供服に塗りたくった。
袖を引きちぎり、髪をぐしゃぐしゃにする。
靴も片方、森の奥に捨ててきた。
「……よし。演出完了」
リアンは深呼吸をして、表情筋を緩めた。
冷徹な指揮官の顔から、可哀想な迷子の顔へ。
ルナハンの街外れ、検問所近く。
「うわああん! うわああああん!! 助けてえええ!!」
森の中から、悲痛な泣き声が響いてきた。
警備をしていた憲兵たちが、色めき立つ。
「む! どうした坊や!? 何があった!?」
森から這い出てきたのは、泥だらけでボロボロになった小さな子供だった。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で、リアンは憲兵の足にしがみついた。
「怖いよおおお! 暗いよおおお! マーサママに会いたいいぃぃぃ!!」
「き、君は……!?」
憲兵の一人が、手配書の似顔絵と目の前の少年を見比べ、驚愕の声を上げた。
「まさか、シンフォニア家のリアン君!? 捜索願いが出ていた、あの行方不明の……!?」
「ううっ、おじちゃん……ここ何処ぉぉ……?」
「すぐに保護しろ! 救護班を呼べ! アークス卿のご子息が見つかったぞ!!」
憲兵たちが慌ただしく動き出す。
毛布にくるまれ、背負われるリアン。
その顔は憲兵の背中で隠れていたが、心の中では冷静に次の台詞(言い訳)をシミュレーションしていた。
(……第一段階クリア。次は母さんとオニヒメへの言い訳だ。……しっかし、プロテインバー以外の物が食いたい)
こうして、幼き勇者の長い戦争は終わり、再び「日常」という名の戦場へと帰還したのだった。
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