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第七章 6歳児の勇者
EP 8
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さらばルナハン、旅立ちの朝
ルナハン領、領主の館。
雲ひとつない快晴の朝。門の前には、シンフォニア家の紋章が入った馬車が停まっている。
「……忘れ物はないな」
リアンは『魔法ポーチ』の中身を最終確認していた。
着替えや洗面用具はもちろんのこと、学園生活を快適に過ごすための「秘密兵器」たちも詰め込んである。
『携帯用ウォシュレット(手動ポンプ式)』
『インスタント味噌汁の素(乾燥野菜入り)』
『マグナギア・カスタム(隠密・護身用)』
『安眠枕(最高級羽毛使用)』
(寮の設備がどれほど劣悪か分からん。衣食住の確保こそが、生存競争(スクールライフ)の鍵だ)
リアンは頷き、ポーチを腰に装着した。
振り返ると、そこには見慣れた我が家と、家族たちの姿があった。
「うっ……ううっ……!」
朝から不穏な嗚咽が響いている。
父、アークスだ。
身長190センチを超える巨漢の英雄が、まるで捨てられた子犬のように顔をくしゃくしゃにして泣いている。
「リアン……! 行くなぁ……! 俺を置いて行かないでくれぇぇ!!」
「あなた、みっともないですわよ。リアンは戦場に行くわけじゃないんですから」
マーサがハンカチでアークスの涙(と鼻水)を拭いているが、アークスは止まらない。
「戦場より酷いかもしれんぞ!? 寮のご飯が不味かったらどうする!? 先輩にいじめられたら!? 悪い女に騙されたらぁぁぁ!?」
「父上、苦しい……。骨が、骨が折れる……」
アークスの熱烈なハグ(締め技)を受け、リアンのHPが削られていく。
リアンは必死に「6歳の息子」の演技をした。
「だ、大丈夫だよ父上! 僕、立派な男爵になって帰ってくるから!」
「うおおおおおん!! 立派にならなくていい! そのままの可愛いリアンでいてくれぇぇ!!」
(……親バカもここまでくると災害だな)
リアンが白目を剥きかけたその時、救世主が現れた。
「旦那様、離してください。出発の時刻です」
オニヒメが冷静な手刀をアークスの脇腹に入れ、リアンを救出した。
「ゲハッ!?」
「リアン様。……お気をつけて」
オニヒメは乱れたリアンの襟を直し、小声で囁いた。
「『太陽芋』の収益報告書は、毎月手紙に忍ばせて送ります。……ニャングルとの定例会議も、手紙で指示を」
「あぁ、頼む。……留守の間、領地経営(父さんの操縦)は任せたぞ」
「御意に」
短いやり取りで通じ合う、主従の絆。
リアンは最後に、門の陰に隠れていた猫獣人――ニャングルに向けて、目配せをした。
ニャングルはニヤリと笑い、親指を立てた。
(商売は任せときなはれ)という合図だ。
「じゃあ、行ってきます!」
リアンは馬車に乗り込み、窓から身を乗り出して手を振った。
「あなたー! 身体に気をつけてねー!」
「リアーーーン!! 週末には絶対帰ってこいよぉぉぉ!!」
アークスの絶叫を背に、馬車が動き出す。
石畳の道をガタゴトと揺られながら、住み慣れたルナハンの街が遠ざかっていく。
整備された道路。活気ある商店街。笑顔の領民たち。
この5年間、リアンが影から作り上げた「箱庭」だ。
(……さらば、俺の聖域(サンクチュアリ))
リアンは窓を閉め、ふぅと息を吐いてシートに沈み込んだ。
(次に帰ってくる時まで、この平穏が維持されていればいいが)
センチメンタルな気分に浸れたのは、ほんの数分だった。
リアンの思考は、すぐに「未来」へと切り替わる。
(さて、ルナミス学園か。……目標はただ一つ。『目立たず、騒がず、平凡に卒業する』こと)
彼は貴族(男爵)になってしまったが、学園にはもっと上の位の貴族――伯爵や公爵、あるいは王族の子弟がいるはずだ。
彼らの影に隠れ、成績は中の上をキープし、面倒な派閥争いには関わらず、空気のように過ごす。
そして、適当な文官資格でも取って、さっさと領地に帰還する。
(完璧な計画だ。……あの『皇帝』に目をつけられているのが懸念点だが、まぁ、子供の戯言だと思って忘れてくれているだろう)
リアンはポーチから『干し芋(スティックタイプ)』を取り出し、齧った。
(それに、あの『嵐(ルナ)』もいない。エルフは入学できないって言ったしな。……静かな学園生活になりそうだ)
彼は知らなかった。
彼が向かう先には、孫可愛さに国家権力をねじ伏せた「最強のお祖母ちゃん」の手回しにより、核弾頭級の転入生(ルナ)が待ち構えていることを。
そして、かつて「公園」で因縁を持った、あの少年との再会が待っていることを。
馬車は一路、帝都ルナミスへ。
幼き勇者の、波乱万丈な学園生活(スクールライフ)の幕が上がろうとしていた。
ルナハン領、領主の館。
雲ひとつない快晴の朝。門の前には、シンフォニア家の紋章が入った馬車が停まっている。
「……忘れ物はないな」
リアンは『魔法ポーチ』の中身を最終確認していた。
着替えや洗面用具はもちろんのこと、学園生活を快適に過ごすための「秘密兵器」たちも詰め込んである。
『携帯用ウォシュレット(手動ポンプ式)』
『インスタント味噌汁の素(乾燥野菜入り)』
『マグナギア・カスタム(隠密・護身用)』
『安眠枕(最高級羽毛使用)』
(寮の設備がどれほど劣悪か分からん。衣食住の確保こそが、生存競争(スクールライフ)の鍵だ)
リアンは頷き、ポーチを腰に装着した。
振り返ると、そこには見慣れた我が家と、家族たちの姿があった。
「うっ……ううっ……!」
朝から不穏な嗚咽が響いている。
父、アークスだ。
身長190センチを超える巨漢の英雄が、まるで捨てられた子犬のように顔をくしゃくしゃにして泣いている。
「リアン……! 行くなぁ……! 俺を置いて行かないでくれぇぇ!!」
「あなた、みっともないですわよ。リアンは戦場に行くわけじゃないんですから」
マーサがハンカチでアークスの涙(と鼻水)を拭いているが、アークスは止まらない。
「戦場より酷いかもしれんぞ!? 寮のご飯が不味かったらどうする!? 先輩にいじめられたら!? 悪い女に騙されたらぁぁぁ!?」
「父上、苦しい……。骨が、骨が折れる……」
アークスの熱烈なハグ(締め技)を受け、リアンのHPが削られていく。
リアンは必死に「6歳の息子」の演技をした。
「だ、大丈夫だよ父上! 僕、立派な男爵になって帰ってくるから!」
「うおおおおおん!! 立派にならなくていい! そのままの可愛いリアンでいてくれぇぇ!!」
(……親バカもここまでくると災害だな)
リアンが白目を剥きかけたその時、救世主が現れた。
「旦那様、離してください。出発の時刻です」
オニヒメが冷静な手刀をアークスの脇腹に入れ、リアンを救出した。
「ゲハッ!?」
「リアン様。……お気をつけて」
オニヒメは乱れたリアンの襟を直し、小声で囁いた。
「『太陽芋』の収益報告書は、毎月手紙に忍ばせて送ります。……ニャングルとの定例会議も、手紙で指示を」
「あぁ、頼む。……留守の間、領地経営(父さんの操縦)は任せたぞ」
「御意に」
短いやり取りで通じ合う、主従の絆。
リアンは最後に、門の陰に隠れていた猫獣人――ニャングルに向けて、目配せをした。
ニャングルはニヤリと笑い、親指を立てた。
(商売は任せときなはれ)という合図だ。
「じゃあ、行ってきます!」
リアンは馬車に乗り込み、窓から身を乗り出して手を振った。
「あなたー! 身体に気をつけてねー!」
「リアーーーン!! 週末には絶対帰ってこいよぉぉぉ!!」
アークスの絶叫を背に、馬車が動き出す。
石畳の道をガタゴトと揺られながら、住み慣れたルナハンの街が遠ざかっていく。
整備された道路。活気ある商店街。笑顔の領民たち。
この5年間、リアンが影から作り上げた「箱庭」だ。
(……さらば、俺の聖域(サンクチュアリ))
リアンは窓を閉め、ふぅと息を吐いてシートに沈み込んだ。
(次に帰ってくる時まで、この平穏が維持されていればいいが)
センチメンタルな気分に浸れたのは、ほんの数分だった。
リアンの思考は、すぐに「未来」へと切り替わる。
(さて、ルナミス学園か。……目標はただ一つ。『目立たず、騒がず、平凡に卒業する』こと)
彼は貴族(男爵)になってしまったが、学園にはもっと上の位の貴族――伯爵や公爵、あるいは王族の子弟がいるはずだ。
彼らの影に隠れ、成績は中の上をキープし、面倒な派閥争いには関わらず、空気のように過ごす。
そして、適当な文官資格でも取って、さっさと領地に帰還する。
(完璧な計画だ。……あの『皇帝』に目をつけられているのが懸念点だが、まぁ、子供の戯言だと思って忘れてくれているだろう)
リアンはポーチから『干し芋(スティックタイプ)』を取り出し、齧った。
(それに、あの『嵐(ルナ)』もいない。エルフは入学できないって言ったしな。……静かな学園生活になりそうだ)
彼は知らなかった。
彼が向かう先には、孫可愛さに国家権力をねじ伏せた「最強のお祖母ちゃん」の手回しにより、核弾頭級の転入生(ルナ)が待ち構えていることを。
そして、かつて「公園」で因縁を持った、あの少年との再会が待っていることを。
馬車は一路、帝都ルナミスへ。
幼き勇者の、波乱万丈な学園生活(スクールライフ)の幕が上がろうとしていた。
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