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第七章 6歳児の勇者
EP 14
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リアン、静かなる制裁
「始め!」
ボブ教師の合図と共に、ランドルフが動いた。
「うおおおっ! 見よ! これぞバースト家に伝わる『王宮流・疾風の構え』!」
ランドルフは派手に剣を振り回し、無駄にステップを踏みながら距離を詰めてくる。
キラキラと宝石が埋め込まれた剣が、太陽の光を反射して鬱陶しいほど輝く。
「どうだ! この華麗なる剣捌き! 田舎者の目には速すぎて見えまい!」
ランドルフは自信満々だ。
周囲の取り巻きたちも「おおっ!」「さすがランドルフ様!」と囃し立てる。
だが、リアンの目には、それは「隙だらけのダンス」にしか見えなかった。
(……重心が高い。剣の振りが大きすぎる。足元がお留守だ。……父さんの剣術とは比較にもならない)
リアンは、父アークスの剣を思い出した。
元S級冒険者である父の剣は、泥臭く、地味だ。
魔物を一撃で仕留めるための、生きるための剣。
「華」などない。あるのは「実利」のみ。
それを「ゴミ」と笑った目の前の男。
(……教育的指導だ)
リアンは、剣をダラリと下げたまま、一歩も動かなかった。
「なんだ? ビビって動けないのか? ならば、このまま終わらせてやる!」
ランドルフが間合いに入った。
大上段から、渾身の力を込めて振り下ろされる一撃。
「死ねぇぇぇ!!」
刃がリアンの頭蓋を砕く――その寸前。
トンッ
軽い音がした。
「……え?」
ランドルフの視界がブレた。
振り下ろしたはずの剣が、空を切っている。
リアンの姿が消えていた。
いや、消えたのではない。
最小限の動き――半歩だけ前に踏み込み、ランドルフの剣の軌道の内側(インサイド)に滑り込んだのだ。
ランドルフの剣は、リアンの背後を虚しく通過した。
そして、ランドルフの目の前には、リアンの冷徹な瞳があった。
「……終わりだ」
リアンの剣先は、ランドルフの鳩尾(みぞおち)の皮一枚手前で、ピタリと止まっていた。
寸止め(スンドメ)。
もし、これが実戦なら。
もし、リアンがもう数センチ腕を伸ばしていれば。
ランドルフの横隔膜は破裂し、内臓に致命的なダメージを負っていただろう。
「あ……あ……?」
ランドルフは状況が理解できず、呆然とリアンを見下ろした。
だが、遅れてやってきた「死の恐怖」が、彼の本能を揺さぶった。
背筋を氷塊で撫でられたような悪寒。
心臓が早鐘を打ち、膝がガクガクと震え出す。
「ひっ……!?」
ランドルフの手から、高価な剣がカランと滑り落ちた。
「しょ、勝負あり!」
ボブが即座に判定を下す。
会場は静まり返っていた。
誰も、何が起きたのか見えなかったのだ。
ただ、ランドルフが剣を振り下ろした瞬間、次のコマではリアンが懐に入り、勝負が決まっていた。
「……父さんの剣が、ゴミだって?」
リアンは剣を引きながら、ランドルフにだけ聞こえる声量で囁いた。
その声は、地獄の底から響くように冷たく、重かった。
「……ひ、ひぃっ!」
「なら、そのゴミに手も足も出ずに負けたお前は……何だ?」
リアンは蔑むように見下ろした。
「『燃えるゴミ』にもなれない、ただの産業廃棄物か?」
「あ……あう……」
ランドルフは顔面蒼白になり、泡を吹いてその場にへたり込んだ。
プライドも、自信も、粉々に砕け散った。
「……ふん」
リアンは興味を失ったように背を向け、リングを降りた。
「す、すげぇ……」
「あいつ、何者だ……?」
「一歩も動かずに勝ったぞ……いや、動いたのか?」
生徒たちがざわめく中、リアンは無表情で元の位置に戻った。
「リアン! すごいすごい! かっこよかったよぉ!★」
ルナが飛びついてくる。
「……お見事です、リアン様」
クラウスだけが、驚愕と尊敬の眼差しを向けていた。
彼は見ていたのだ。リアンの踏み込みの速さと、無駄のない剣捌きを。
(あれが……『男爵』の剣……いや、シンフォニア流の実戦剣術か……!)
クラウスの中で、リアンへのライバル意識が炎のように燃え上がった。
一方、リアン本人は、心の中で盛大に溜息をついていた。
(……やってしまった。完全に目立った。モブ計画、破綻のお知らせだ)
だが、後悔はしていない。
父を侮辱された借りは返した。
スッキリした顔で野菜ジュースを取り出すリアンの横で、次なる波乱のカードがコールされた。
「次は女子部門! ルナ・シルフィード対キャルル!」
学園最強の「嵐」と「雷」が、激突する時が来た。
「始め!」
ボブ教師の合図と共に、ランドルフが動いた。
「うおおおっ! 見よ! これぞバースト家に伝わる『王宮流・疾風の構え』!」
ランドルフは派手に剣を振り回し、無駄にステップを踏みながら距離を詰めてくる。
キラキラと宝石が埋め込まれた剣が、太陽の光を反射して鬱陶しいほど輝く。
「どうだ! この華麗なる剣捌き! 田舎者の目には速すぎて見えまい!」
ランドルフは自信満々だ。
周囲の取り巻きたちも「おおっ!」「さすがランドルフ様!」と囃し立てる。
だが、リアンの目には、それは「隙だらけのダンス」にしか見えなかった。
(……重心が高い。剣の振りが大きすぎる。足元がお留守だ。……父さんの剣術とは比較にもならない)
リアンは、父アークスの剣を思い出した。
元S級冒険者である父の剣は、泥臭く、地味だ。
魔物を一撃で仕留めるための、生きるための剣。
「華」などない。あるのは「実利」のみ。
それを「ゴミ」と笑った目の前の男。
(……教育的指導だ)
リアンは、剣をダラリと下げたまま、一歩も動かなかった。
「なんだ? ビビって動けないのか? ならば、このまま終わらせてやる!」
ランドルフが間合いに入った。
大上段から、渾身の力を込めて振り下ろされる一撃。
「死ねぇぇぇ!!」
刃がリアンの頭蓋を砕く――その寸前。
トンッ
軽い音がした。
「……え?」
ランドルフの視界がブレた。
振り下ろしたはずの剣が、空を切っている。
リアンの姿が消えていた。
いや、消えたのではない。
最小限の動き――半歩だけ前に踏み込み、ランドルフの剣の軌道の内側(インサイド)に滑り込んだのだ。
ランドルフの剣は、リアンの背後を虚しく通過した。
そして、ランドルフの目の前には、リアンの冷徹な瞳があった。
「……終わりだ」
リアンの剣先は、ランドルフの鳩尾(みぞおち)の皮一枚手前で、ピタリと止まっていた。
寸止め(スンドメ)。
もし、これが実戦なら。
もし、リアンがもう数センチ腕を伸ばしていれば。
ランドルフの横隔膜は破裂し、内臓に致命的なダメージを負っていただろう。
「あ……あ……?」
ランドルフは状況が理解できず、呆然とリアンを見下ろした。
だが、遅れてやってきた「死の恐怖」が、彼の本能を揺さぶった。
背筋を氷塊で撫でられたような悪寒。
心臓が早鐘を打ち、膝がガクガクと震え出す。
「ひっ……!?」
ランドルフの手から、高価な剣がカランと滑り落ちた。
「しょ、勝負あり!」
ボブが即座に判定を下す。
会場は静まり返っていた。
誰も、何が起きたのか見えなかったのだ。
ただ、ランドルフが剣を振り下ろした瞬間、次のコマではリアンが懐に入り、勝負が決まっていた。
「……父さんの剣が、ゴミだって?」
リアンは剣を引きながら、ランドルフにだけ聞こえる声量で囁いた。
その声は、地獄の底から響くように冷たく、重かった。
「……ひ、ひぃっ!」
「なら、そのゴミに手も足も出ずに負けたお前は……何だ?」
リアンは蔑むように見下ろした。
「『燃えるゴミ』にもなれない、ただの産業廃棄物か?」
「あ……あう……」
ランドルフは顔面蒼白になり、泡を吹いてその場にへたり込んだ。
プライドも、自信も、粉々に砕け散った。
「……ふん」
リアンは興味を失ったように背を向け、リングを降りた。
「す、すげぇ……」
「あいつ、何者だ……?」
「一歩も動かずに勝ったぞ……いや、動いたのか?」
生徒たちがざわめく中、リアンは無表情で元の位置に戻った。
「リアン! すごいすごい! かっこよかったよぉ!★」
ルナが飛びついてくる。
「……お見事です、リアン様」
クラウスだけが、驚愕と尊敬の眼差しを向けていた。
彼は見ていたのだ。リアンの踏み込みの速さと、無駄のない剣捌きを。
(あれが……『男爵』の剣……いや、シンフォニア流の実戦剣術か……!)
クラウスの中で、リアンへのライバル意識が炎のように燃え上がった。
一方、リアン本人は、心の中で盛大に溜息をついていた。
(……やってしまった。完全に目立った。モブ計画、破綻のお知らせだ)
だが、後悔はしていない。
父を侮辱された借りは返した。
スッキリした顔で野菜ジュースを取り出すリアンの横で、次なる波乱のカードがコールされた。
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