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第七章 6歳児の勇者
EP 16
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嵐と雷(ルナ対キャルル)後編
「行くよ~! 地獄龍(ヘル・ドラゴン)ちゃん、やっちゃえ~!★」
ルナが高らかに杖を掲げた瞬間、学園の空が暗転した。
リングの中央に、禍々しい漆黒の魔法陣が展開される。
ズゴゴゴゴゴ……ッ!!
地面から這い出てきたのは、全身が黒い炎で構成された巨大な竜――『地獄龍』だった。
それは本来、宮廷魔導師クラスが数人がかりで儀式を行って召喚するような、戦略級の破壊兵器だ。
「……は?」
ボブ教師が初めて目を見開いた。
「ちょ、おい! 待て! それは授業の範囲を超えてるぞ!?」
だが、ルナには聞こえていない。
彼女は無邪気に笑いながら、目の前の獲物を指差した。
「全部、食べちゃって!★」
グオオオオオオオッ!!
地獄龍が咆哮し、その巨大な顎(あぎと)を開いた。
全てを飲み込み、消滅させる虚無の炎が、キャルルへと殺到する。
観客席の生徒たちは、腰を抜かして悲鳴を上げることすら忘れていた。
対するキャルルは、迫り来る絶望を前にして――ふふっと笑った。
「危ないなぁ……。そんな悪い子は……」
彼女は腰を低く落とし、地面に両手をついた。
クラウチングスタートの姿勢。
特注ブーツ『雷兎(ライト)』が、過剰な魔力充填によって紫色のスパークを散らし始める。
「お・し・お・き♡」
バヂヂヂヂッ!!
キャルルの全身から、黄金の『闘気』が噴出した。
それは雷光と混じり合い、彼女の姿を光の弾丸へと変える。
「いっけぇぇぇーー!!」
ドォォォォォォンッ!!
爆音。
いや、それは音が置き去りにされた証拠だった。
キャルルがダッシュした瞬間、地面がクレーターのように陥没し、衝撃波が周囲の結界を内側から歪ませた。
その速度――マッハ1(音速)突破。
「なっ!?」
ルナが反応する暇もなかった。
地獄龍は主の危機を察知し、即座にその巨体でルナを庇うように立ち塞がった。黒い炎の壁が、絶対防御の盾となる。
「無駄だよぉ!」
キャルルは止まらない。
彼女はトップスピードのままジャンプすると、空中の見えない足場(衝撃波の壁)を蹴った。
ガギィィィン!!
空中で軌道を変える『三角蹴り』。
雷を纏ったその蹴りは、地獄龍の防御ごと空間を貫いた。
「えっ……?」
地獄龍の腹を突き破り、黒い炎を霧散させながら、キャルルの足がルナの懐へと吸い込まれる。
「『月影流・鐘打ち』!!」
ズドォォン!!
「がはっ……!?」
キャルルの膝が、ルナの腹部に深々と突き刺さった。
もちろん、刃物のような殺傷力はない打撃だ。だが、その衝撃は鐘を突くように内臓を揺さぶる。
ルナの体は「く」の字に折れ曲がり、砲弾のように吹き飛んだ。
魔法障壁に背中から激突し、ズズズ……と滑り落ちる。
地獄龍は主の意識が飛んだことで、霧のように消滅した。
静寂。
圧倒的な静寂が、訓練場を支配した。
「……あ」
キャルルは着地し、ピョコピョコと耳を動かした。
そして、白目を剥いて倒れているルナを見て、慌てて口元を押さえた。
「ごめ~ん! やりすぎちゃった! 人参パワーが出過ぎちゃって……」
テヘペロ、と舌を出すキャルル。
その足元のアスファルトは、摩擦熱でドロドロに溶けていた。
「しょ、勝者! キャルル!」
ボブが震える声でコールする。
医療班が駆け寄ろうとした、その時。
「……んぅ……」
瓦礫の山から、ルナがむくりと起き上がった。
腹を押さえながらも、その顔には苦痛ではなく、満面の笑みが浮かんでいた。
「す、凄ぉ~い……! ルナの地獄龍ちゃんを破っちゃった……!」
ルナはヨロヨロと立ち上がり、キャルルに抱きついた。
「キャルルちゃん! 強いね! かっこいいね!★」
「え? 怒ってないの?」
「ううん! ルナ、強い子大好き! 今日から親友(マブダチ)ね! お友達になろ!★」
「わぁい! なろなろー!」
二人の少女は、廃墟と化したリングの上でキャッキャと手を取り合った。
その光景は微笑ましいが、背景の被害総額を考えると誰も笑えなかった。
「……怪物だ」
「あいつらと同じクラスとか、死ぬぞ……」
生徒たちが戦慄する中、リアンだけが深く溜息をついていた。
(……これで女子のトップが決まった。次は……俺か)
「続いて、男子決勝! リアン・シンフォニア 対 クラウス・アルヴィン!」
ボブの声が響く。
リアンは立ち上がった。
横には、すでに剣を抜き、青い炎のような闘志を燃やすクラウスがいた。
「行くぞ、リアン。……あの化け物たちを見た後だ。我々も、相応の『死闘』を見せねばなるまい」
「……いや、俺は普通に終わりたいんだけど」
リアンの願いも虚しく、運命のライバル対決――泥沼の決勝戦が始まろうとしていた。
「行くよ~! 地獄龍(ヘル・ドラゴン)ちゃん、やっちゃえ~!★」
ルナが高らかに杖を掲げた瞬間、学園の空が暗転した。
リングの中央に、禍々しい漆黒の魔法陣が展開される。
ズゴゴゴゴゴ……ッ!!
地面から這い出てきたのは、全身が黒い炎で構成された巨大な竜――『地獄龍』だった。
それは本来、宮廷魔導師クラスが数人がかりで儀式を行って召喚するような、戦略級の破壊兵器だ。
「……は?」
ボブ教師が初めて目を見開いた。
「ちょ、おい! 待て! それは授業の範囲を超えてるぞ!?」
だが、ルナには聞こえていない。
彼女は無邪気に笑いながら、目の前の獲物を指差した。
「全部、食べちゃって!★」
グオオオオオオオッ!!
地獄龍が咆哮し、その巨大な顎(あぎと)を開いた。
全てを飲み込み、消滅させる虚無の炎が、キャルルへと殺到する。
観客席の生徒たちは、腰を抜かして悲鳴を上げることすら忘れていた。
対するキャルルは、迫り来る絶望を前にして――ふふっと笑った。
「危ないなぁ……。そんな悪い子は……」
彼女は腰を低く落とし、地面に両手をついた。
クラウチングスタートの姿勢。
特注ブーツ『雷兎(ライト)』が、過剰な魔力充填によって紫色のスパークを散らし始める。
「お・し・お・き♡」
バヂヂヂヂッ!!
キャルルの全身から、黄金の『闘気』が噴出した。
それは雷光と混じり合い、彼女の姿を光の弾丸へと変える。
「いっけぇぇぇーー!!」
ドォォォォォォンッ!!
爆音。
いや、それは音が置き去りにされた証拠だった。
キャルルがダッシュした瞬間、地面がクレーターのように陥没し、衝撃波が周囲の結界を内側から歪ませた。
その速度――マッハ1(音速)突破。
「なっ!?」
ルナが反応する暇もなかった。
地獄龍は主の危機を察知し、即座にその巨体でルナを庇うように立ち塞がった。黒い炎の壁が、絶対防御の盾となる。
「無駄だよぉ!」
キャルルは止まらない。
彼女はトップスピードのままジャンプすると、空中の見えない足場(衝撃波の壁)を蹴った。
ガギィィィン!!
空中で軌道を変える『三角蹴り』。
雷を纏ったその蹴りは、地獄龍の防御ごと空間を貫いた。
「えっ……?」
地獄龍の腹を突き破り、黒い炎を霧散させながら、キャルルの足がルナの懐へと吸い込まれる。
「『月影流・鐘打ち』!!」
ズドォォン!!
「がはっ……!?」
キャルルの膝が、ルナの腹部に深々と突き刺さった。
もちろん、刃物のような殺傷力はない打撃だ。だが、その衝撃は鐘を突くように内臓を揺さぶる。
ルナの体は「く」の字に折れ曲がり、砲弾のように吹き飛んだ。
魔法障壁に背中から激突し、ズズズ……と滑り落ちる。
地獄龍は主の意識が飛んだことで、霧のように消滅した。
静寂。
圧倒的な静寂が、訓練場を支配した。
「……あ」
キャルルは着地し、ピョコピョコと耳を動かした。
そして、白目を剥いて倒れているルナを見て、慌てて口元を押さえた。
「ごめ~ん! やりすぎちゃった! 人参パワーが出過ぎちゃって……」
テヘペロ、と舌を出すキャルル。
その足元のアスファルトは、摩擦熱でドロドロに溶けていた。
「しょ、勝者! キャルル!」
ボブが震える声でコールする。
医療班が駆け寄ろうとした、その時。
「……んぅ……」
瓦礫の山から、ルナがむくりと起き上がった。
腹を押さえながらも、その顔には苦痛ではなく、満面の笑みが浮かんでいた。
「す、凄ぉ~い……! ルナの地獄龍ちゃんを破っちゃった……!」
ルナはヨロヨロと立ち上がり、キャルルに抱きついた。
「キャルルちゃん! 強いね! かっこいいね!★」
「え? 怒ってないの?」
「ううん! ルナ、強い子大好き! 今日から親友(マブダチ)ね! お友達になろ!★」
「わぁい! なろなろー!」
二人の少女は、廃墟と化したリングの上でキャッキャと手を取り合った。
その光景は微笑ましいが、背景の被害総額を考えると誰も笑えなかった。
「……怪物だ」
「あいつらと同じクラスとか、死ぬぞ……」
生徒たちが戦慄する中、リアンだけが深く溜息をついていた。
(……これで女子のトップが決まった。次は……俺か)
「続いて、男子決勝! リアン・シンフォニア 対 クラウス・アルヴィン!」
ボブの声が響く。
リアンは立ち上がった。
横には、すでに剣を抜き、青い炎のような闘志を燃やすクラウスがいた。
「行くぞ、リアン。……あの化け物たちを見た後だ。我々も、相応の『死闘』を見せねばなるまい」
「……いや、俺は普通に終わりたいんだけど」
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