​「何か寄越せ」と女神を壁ドンしたら、最強通販スキルと婚姻届を渡された。元処刑人の俺は、異世界で小料理屋を営みたい

月神世一

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EP 2

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森の破壊神(天然)との遭遇
 深い森の中。
 木々のざわめきと、鳥のさえずりだけが支配する静寂の空間に、場違いな電子音が響いた。
『初回ログインボーナスを確認しました。1万ポイント(1万円分)を付与します』
 龍魔呂はバイクを止め、目の前の虚空に浮かぶ半透明のウィンドウを睨みつけていた。
 女神ルチアナから押し付けられたスキル『地球ショッピング』だ。
「……チャージ式じゃなかったのかよ。まあいい」
 龍魔呂は慣れた手つきでフリック入力を行う。
 検索ワードは『角砂糖』。
 画面には見慣れた地球のメーカーの商品がズラリと並んだ。
 購入ボタンをタップすると、目の前の空間がピクセル状に歪み、一袋の角砂糖と缶コーヒーが実体化して落ちてきた。
 文字通りの「即日配送」どころか「0秒配送」だ。
「……便利だな」
 プルタブを開け、ブラックコーヒーで喉を潤す。
 そして、角砂糖を一つ、口へ放り込む。
 ガリッ、ボリッ。
 硬質な甘さが脳に染み渡り、異世界転移という異常事態に対するストレスをわずかに和らげた。
 その時だった。
 ズドオオオオオオオオン!!!!
 森の奥から、爆撃でも受けたような轟音が響き渡った。
 地面が揺れ、驚いた鳥たちが一斉に飛び立つ。
「あぁ?」
 龍魔呂の眉間に皺が寄る。
 今の音は、自然現象ではない。明らかに人為的な、それもかなり大規模な破壊音だ。
 彼は飲み干した空き缶を『地球ショッピング』のゴミ回収機能(有料:100円)で消滅させると、音のした方へと足音を消して歩き出した。
          ◇
 爆心地――いや、そこは数分前まで「森」だった場所だ。
 半径百メートルほどが綺麗さっぱり更地になっていた。木々は根こそぎ吹き飛ばされ、地面はピカピカに均されている。
 その中心に、一人の少女が立っていた。
 月光を編んだようなプラチナブロンドの長髪。
 透き通るような白い肌と、長い耳。
 森の妖精、あるいは女神と見紛うほどの美貌を持つエルフの少女――ルナ・シンフォニアである。
 彼女は身の丈ほどある豪奢な杖を振り回し、困ったような顔で独り言を呟いていた。
「う~ん、おかしいですねぇ。北に進んでいたはずなのに、また同じ景色……。木が邪魔で道が見えないのがいけないんです」
 彼女はニコリと微笑むと、再び杖を構えた。
「じゃあ、全部平らにしちゃえば迷いませんよね! 『ウィンド・ブラスト(極大)』ぉ~!」
 ドゴォオオオン!!
 軽い掛け声とともに放たれたのは、竜巻クラスの暴風だった。
 哀れな大木たちがマッチ棒のように宙を舞う。
 それは「整地」というにはあまりにも乱暴な、純粋な自然破壊だった。
(……なんだあの馬鹿は)
 木陰から様子を窺っていた龍魔呂は、呆れを通り越して感心していた。
 凄まじい魔力だ。だが、やっていることはただの迷子の八つ当たりである。
 その時、ルナがふと顔を上げた。
 そして、隠れていた龍魔呂と目が合う。
「あ! 人がいらっしゃいます~!」
 ルナの顔がパァッと輝いた。
 彼女にとって、この遭難(自作自演)における初めての第一村人発見である。
「すいませ~ん! 道を教えてくださぁ~い!」
 ルナは杖を放り出し、ドレスの裾を翻して駆け出した。
 しかし。
 彼女は気づいていなかった。
 自分が吹き飛ばした大木の根っこが、足元に残っていることを。
「あっ」
 ベタな展開である。
 ルナの足が引っかかり、体勢が崩れる。
 地面には、彼女自身が魔法でめくり上げた鋭利な岩が転がっていた。このまま倒れれば、その美しい顔面が岩に直撃するコースだ。
「きゃあぁ――!」
 ルナが目を瞑った、その瞬間。
 ドスッ。
 衝撃は訪れなかった。
 代わりに、鋼のような腕が、彼女の華奢な体を宙で受け止めていた。
「……はひ?」
 ルナが恐る恐る目を開ける。
 そこには、至近距離で彼女を見下ろす、凶悪な目つきの男――龍魔呂の顔があった。
 龍魔呂は瞬時に間合いを詰め、片腕で彼女を抱き止めたのだ。
「……前を見て歩け」
 低い声。
 龍魔呂に他意はない。かつて育てていた弟のユウも、よくこうやって転んでは泣いていた。その時の癖が出ただけだ。
 龍魔呂はルナを立たせると、無造作にその頭に手を置いた。
 そして、ポンポン、と二回叩く。
「怪我はねぇな。ならいい」
 それだけ言い捨てて、背を向ける。
 だが。
 背後からの反応がない。
「……おい?」
 龍魔呂が振り返ると。
 ルナは顔を茹で上がった蛸のように真っ赤にし、瞳を潤ませ、フルフルと震えていた。
(な、ななな、何ですか今のぉおおおお!?)
 ルナの脳内で、先程の光景がスロー再生される。
 転倒の危機からの、力強い抱擁。
 至近距離で見せた、鋭いけれど心配してくれている瞳。
 そして極めつけの、頭ポンポン。
 箱入り娘で、周囲から「姫様」と崇められてきたルナにとって、これほど乱暴に、しかし優しく扱われたのは生まれて初めての経験だった。
「はひぃ……♡」
 ルナの口から、情けない声が漏れる。
 彼女の脳内恋愛シミュレーション回路がショートし、結論が弾き出された。
『運命の殿方、確定です』
「だ、大丈夫ですぅ……! あ、あのっ、私、責任取りますからぁ!」
「あぁ?(何の話だ?)」
 龍魔呂は眉をひそめた。
 どうやら、この異世界に来て数十分で、早くも二人目の厄介な女に懐かれてしまったらしい。
 龍魔呂の受難と、世界経済の危機は、ここから加速していくことになる。
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