​「何か寄越せ」と女神を壁ドンしたら、最強通販スキルと婚姻届を渡された。元処刑人の俺は、異世界で小料理屋を営みたい

月神世一

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EP 10

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女神、降臨。「来ちゃった♡」
 ドゴォォォォォン!!!!
 上空から降り注いだ光の塊が、広場の石畳に直撃した。
 隕石の衝突にも似た衝撃。土煙が舞い上がり、衝撃波が屋台の提灯を激しく揺らす。
「け、結界展開!」
 ネギオが瞬時に反応し、植物のドームを作って屋台と客を瓦礫から守る。
 土煙が晴れると、そこにはクレーターの中心で、ビシッとモデル立ちを決めている美女がいた。
 町娘風の質素な服を着ているが、その素材は神界の「天女の羽衣」であり、隠しきれないオーラが発光ダイオードのように周囲を照らしている。
 女神ルチアナだ。
「……ッ!」
 龍魔呂はベンチから立ち上がり、警戒態勢をとる。
 この女は危険だ。
 世界の管理者でありながら、職権乱用で俺をここに飛ばし、婚姻届を押し付けてきた元凶。
 ルチアナは龍魔呂を見つけると、満面の笑みで手を振った。
「やっほ~! 驚いた? サプライズよ、サ・プ・ラ・イ・ズ♡」
「……帰れ」
「んもう、照れ屋さんなんだから!」
 ルチアナは地面を蹴った。
 ヒュンッという音が聞こえた次の瞬間、彼女は龍魔呂の目の前に移動していた。縮地(しゅくち)などという生易しいものではない、座標移動だ。
「会いたかったわよ、私のダーリンッ!」
 ムギュッ。
 龍魔呂が反応する間もなく、ルチアナが正面から抱きついてきた。
 豊かな胸の感触が押し付けられ、甘い香水(神界ブレンド)の香りが鼻孔をくすぐる。
「……おい、離せ」
「ヤダ。有給取ってきたの。今日から私もここで暮らすんだから!」
「あぁ? ふざけんな、店が狭くなる」
「大丈夫、私神様だから! 衣食住フリーだし、なんならこの街ごとリフォームしてあげるわよ?」
 ルチアナが龍魔呂の頬にキスしようと顔を近づける。
 だが、その唇が届くことはなかった。
 ゴゴゴゴゴゴゴ……。
 地獄の底から響くような重低音が、二人の間に割って入ったからだ。
「……離れなさいよ、この泥棒猫」
 ルナである。
 先ほどまで龍魔呂に膝枕をしていた彼女が、今は般若のような形相で立ち上がっていた。
 その背後には、数十本の「光の槍(魔法)」が展開され、切っ先がルチアナに向けられている。
「あら?」
 ルチアナは余裕の笑みでルナを見た。
「誰かと思えば、現地の森林原住民(エルフ)ちゃんじゃない。私のダーリンに気安く触らないでくれる?」
 ブチッ。
 ルナのこめかみで何かが切れる音がした。
「げ、原住民……!? 私はハイエルフの王女、ルナ・シンフォニアです! 龍魔呂様は、私が森で拾ったんです! 第一発見者の権利は私にありますぅ!」
「ハァ? 拾った? 笑わせないでよ。彼をこの世界に送ったのは私(女神)。つまり私が生産者(プロデューサー)兼、正規の婚約者なのよ!」
 バチバチバチッ!!
 ルナの魔力と、ルチアナの神気が激突し、火花が散る。
 広場の空間が歪み、屋台の鍋がカタカタと震えだした。
「ネギオ! 避難誘導だ! このままだと街が消えるぞ!」
「了解しました! ニャングル殿、売上金を持って退避を!」
「ひぇぇ! 修羅場や! 色恋沙汰の喧嘩が一番タチ悪いんやぁ!」
 ネギオとニャングルが逃げ惑う中、二人の美女の口論はヒートアップしていく。
「大体ねぇ、貴方みたいなポンコツエルフに彼の世話ができるの? 私は『地球ショッピング』の管理者権限を持ってるのよ? ポイント無限付与だってできるんだから!」
「ズルです! そんなの愛じゃありません! 私は龍魔呂さんのために、毎日美味しい野菜を作って、膝枕して、耳かきだってしてあげるんです!」
「耳かき!? ……ぐぬぬ、やるじゃない。でも、私だって『神の膝枕(極上)』ができるわよ!」
 二人は龍魔呂の両腕を左右から引っ張り合った。
「龍魔呂さんは私のものですぅ!」
「いいえ、私のよ! さあ龍魔呂、選んで! この田舎娘か、世界の女神か!」
 二人の顔が、龍魔呂に迫る。
 究極の選択。
 世界中の男が羨む状況だろう。
 だが、龍魔呂の反応は――。
 ピロリン♪
 虚空から、軽快な電子音が鳴った。
 龍魔呂の目が、二人の美女を通り越し、宙に浮かんだ電子ボードへと釘付けになる。
「……あ」
 龍魔呂は、掴まれている両腕を強引に振りほどいた。
 そして、二人の顔面に掌底を突き出し、物理的に距離を取らせる。
「邪魔だ。どいてろ」
「えっ?」
「へ?」
 龍魔呂は真剣な眼差しで、電子ボードを操作し始めた。
 その指先は、神速の領域に達している。
「今、20時だ」
「は、はい。それが何か?」
「……『地球ショッピング』のタイムセールが始まった」
 龍魔呂が画面をタップする。
『業務用マヨネーズ(1kg) 50%OFF』
『特選・讃岐うどん(冷凍5食入り) 70%OFF』
『国産・高級角砂糖 ポイント10倍』
「……勝った」
 龍魔呂がガッツポーズをした。
 彼はルチアナの愛も、ルナの献身もどうでもよかった。
 ただ、明日の仕込みに必要なマヨネーズが半額で買えたこと、その一点のみに全神経を注いでいたのだ。
「……」
「……」
 ルナとルチアナは顔を見合わせた。
 そして、同時にため息をつく。
「……負けました。まさかマヨネーズに嫉妬する日が来るなんて」
「フフッ……さすが私の見込んだ男ね。女神の誘惑より、スーパーの特売を優先するなんて……ゾクゾクしちゃう♡」
 呆れるエルフと、さらに興奮する変態女神。
 龍魔呂は購入手続きを終えると、ようやく二人に向き直った。
 そして、手元に出現したマヨネーズのボトルを掲げて言い放つ。
「おい、お前ら」
「は、はいっ!」
「店を手伝うなら置いてやる。ただし、給料は出さねぇ。まかない(飯)のみだ。……文句あるか?」
 それは、実質的な「同居許可」だった。
 二人の表情が、花が咲くように輝いた。
「はいっ! 喜んで働かせていただきます、旦那様!」
「交渉成立ね! 神の接客術、見せてあげるわ!」
 こうして。
 元・処刑人の店主。
 天然のエルフ王女。
 降臨した残念女神。
 計算高い執事ポーン。
 金に汚い猫商人。
 世界で一番カオスで、世界で一番危険な小料理屋『鬼灯』のメンバーが揃った。
 龍魔呂は夜空を見上げ、角砂糖を口に放り込む。
 ガリッ。
「……賑やかになりそうだ」
 その呟きは、満更でもなさそうに夜風に溶けていった。
 しかし、彼はまだ知らない。
 この店が、やがて始祖竜を目覚めさせ、三国戦争を止め、世界の経済を支配することになる未来を。
 そして、マヨネーズ一つで竜王が泣いて喜ぶことになる、明日の騒動を。
 異世界小料理屋『鬼灯』。
 本日も、波乱万丈に開店準備中である。
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