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第二章 神、魔王、竜王の飲み会
EP 3
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竜王の「終わらない唐揚げ(エンドレス・ナイト)」
魔王ラスティアが焼きシイタケと熱燗で幸福の海に沈んでいる横で、もう一人の怪物がカウンターを指でコツコツと叩いていた。
竜王シルヴィア・ドラグニルである。
彼女は、龍魔呂が『地球ショッピング』で購入したばかりのビールサーバーから注がれた、黄金色に輝くジョッキを片手に、不満げに頬を膨らませていた。
「ねぇ、店主。私の分は? ラスティアばっかりズルいわよ」
「あぁ? さっき突き出し(ポテサラ)出しただろ」
「あんなの瞬殺よ! もっとこう、このシュワシュワした苦いお酒(ビール)に合う、ガツンとくる肉料理が食べたいの!」
シルヴィアは肉食獣の瞳をギラつかせ、赤い舌で唇を舐めた。
竜王たるもの、一度火がついた食欲は、半端な料理では鎮火しない。
「……チッ。注文の多いババアだな」
「あら? 今、禁句(年齢の話)が聞こえたような……?」
店内の気温が氷点下になりかけたが、龍魔呂は無視して厨房に立った。
ビールに合う肉料理。
答えは一つしかない。
龍魔呂は冷蔵庫から、鶏肉(ブラジル産もも肉2kgパック)を取り出した。
そして、魔法の粉――『日清・から揚げ粉(醤油味)』の袋を開ける。
「……白い粉? また怪しい錬金術を使う気?」
「黙って見てろ」
龍魔呂の手際は早かった。
一口大にカットした鶏肉に、粉を塗(まぶ)す。
本来ならタレに漬け込む工程が必要だが、この魔法の粉はスパイスと調味料が完璧に配合されているため、その時間を短縮できる。
即席だが、味は裏切らない。
鍋にたっぷりのサラダ油を熱し、180度になったのを見計らって肉を投入する。
ジュワァァァァァァッ!!
重低音と共に、激しい泡が立ち上る。
脂とスパイスが熱せられる、暴力的なまでに香ばしい匂いが店内に充満した。
「んんっ……♡ 何この音、何この匂い……!」
シルヴィアの鼻がピクピクと動く。
シイタケの繊細な香りとは違う。もっと野性的で、本能を直接殴りつけてくるような「脂と肉」の誘惑。
パチパチッ。
気泡が小さくなり、きつね色に揚がったタイミングで引き上げる。
余熱で火を通すため、バットで数分休ませる。この「待ち」が肉汁を閉じ込める鍵だ。
「まだ? ねぇまだ?」
「待てができる犬(ケルベロス)を見習え」
「私は竜よ!」
龍魔呂は揚げたての唐揚げを皿に山盛りにし、横にカットレモンとマヨネーズを添えた。
「ほらよ。『鶏の唐揚げ』だ」
ドンッ。
山積みの肉の塔。
シルヴィアは歓声を上げ、フォークも使わずに素手で一つ掴み取った。
熱さなど気にしない。竜の皮は伊達ではないのだ。
ガリッ、サクッ!!
小気味よい音が響いた。
そして次の瞬間。
ジュワッ……!
衣の中に閉じ込められていた熱々の肉汁が、爆弾のように口の中で弾けた。
醤油、ニンニク、ショウガの風味。そして柔らかい鶏肉の旨味。
「んん~~~~っ!!♡」
シルヴィアが悶絶して天を仰いだ。
「熱ッ! でも美味ッ! 何これ、外側は岩のようにカリカリなのに、中から極上のスープが溢れてくるわ! これは肉の宝石箱!?」
咀嚼し、飲み込む。
口の中が脂で満たされたところに、冷えたビールを流し込む。
ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ……プハァッ!!
「最高……! これぞ王の食事よ!」
シルヴィアの手が止まらなくなった。
次々と唐揚げを口に放り込み、ビールで追う。無限機関の完成だ。
山のようにあった唐揚げが、みるみるうちに減っていく。
そして、最後の一個。
シルヴィアはそれを惜しむように口に入れ――皿が空になった。
「……あ」
シルヴィアの動きが止まる。
喪失感。
祭りの後のような寂しさが、竜王を襲った。
「無くなっちゃった……」
「食えば無くなる。当たり前だ」
龍魔呂が空いた皿を下げようとした。
だが、シルヴィアはその手首をガシッと掴んだ。
瞳孔が縦に割れ、妖しい光を放っている。
「イヤよ。私はまだ、この味を楽しみたいの」
「あぁ? なら追加注文し――」
「待てないわ。……だから、『戻す』」
シルヴィアが指を鳴らした。
パチンッ。
世界が一瞬、ぐにゃりと歪んだ。
時計の針が逆回転するような感覚。
龍魔呂が瞬きをした次の瞬間――。
空っぽだったはずの皿の上に、湯気を立てる山盛りの唐揚げが「復活」していた。
「なっ……!?」
龍魔呂が目を見開く。
幻覚ではない。熱も、匂いも、揚げたてそのものだ。
「ふふっ、私の権能『時間巻き戻し(リワインド)』よ。この皿の上の時間だけを、食べる前に戻したの。これで永遠に食べ続けられるわ♡」
シルヴィアは悪戯っぽく微笑み、再び唐揚げに手を伸ばそうとした。
――ダンッ!!!!
龍魔呂の包丁が、シルヴィアの指のギリギリ手前、テーブルに突き刺さった。
「……おい」
地獄の底から響くような声。
龍魔呂の背後に、赤黒い闘気がゆらりと立ち昇る。
「てめぇ……食い物をオモチャにしてんじゃねぇぞ」
「えっ? でも、減らないんだからエコでしょ? 貴方の手間も省けるし」
「ふざけんな。俺が込めた『手間』と、鶏の『命』はどうなる? てめぇが一度食って消化した事実は消えねぇんだよ」
龍魔呂にとって、料理は神聖な商売だ。
それを「時間を戻せばタダで無限に食える」などというチートで踏み躙ることは、絶対に許せない冒涜だった。
「食った分は、胃袋に入ってるはずだ。なのに皿に戻したってことは……てめぇ、在庫管理(インベントリ)をバグらせやがったな?」
宇宙の法則など知ったことではない。
龍魔呂が気にしているのは、店の「在庫」と「売上」の不整合だ。
食べた満足感を得ておきながら、商品は減っていないことにすれば、代金を払う義理がなくなる。それは無銭飲食(食い逃げ)と同じだ。
「ネギオォッ!!」
「はっ! ここに!」
執事ポーン、ネギオがシュバッと出現した。
片眼鏡を光らせ、手には分厚い請求書を持っている。
「計算終了しております、マスター。竜王様は時間操作により唐揚げ一人前を『無かったこと』にしようとしましたが、カロリー摂取と味覚の快楽は享受済み。よって、巻き戻された唐揚げは『追加注文』とみなします」
ネギオがシルヴィアに請求書を突きつける。
「現在、唐揚げ2人前、ビール3杯。さらに『時空間改竄による迷惑料』および『深夜割増料金』を加算。……支払いは現金でお願いします」
シルヴィアは目を丸くした。
人類が、いや、ただの料理人と使い魔が、竜王である自分に対して一歩も引かず、あまつさえ説教と請求をしてきたのだ。
「……へぇ」
シルヴィアの頬が、ポッと朱に染まった。
「私を……この竜王シルヴィアを叱る男なんて、数千年ぶりだわ……」
彼女はゾクゾクと震え、熱っぽい瞳で龍魔呂を見上げた。
「いいわね、龍魔呂。強い男……嫌いじゃないわ。むしろ、もっと強く言ってもらってもいいのよ?」
「……チッ。ドMかよ」
龍魔呂は包丁を引き抜き、吐き捨てた。
だが、シルヴィアはその冷たい視線にすら興奮し、嬉々として懐から宝石(ドラゴンの秘宝)を取り出した。
「払うわ! 倍でも3倍でも払うから、もっと私を罵って……じゃなくて、唐揚げちょうだい! さっきの『戻した分』も、ちゃんと責任取って食べるから!」
「……食い終わってから言え」
結局、シルヴィアは巻き戻した唐揚げも完食し、さらに追加注文を重ねた。
竜王の胃袋は底なしであり、龍魔呂の在庫と角砂糖が尽きるまで、狂乱の宴は続くことになる。
カウンターの隅で、ルナが「むぅ……ライバルが変態ばっかりですぅ……」と涙目で呟いていた。
魔王ラスティアが焼きシイタケと熱燗で幸福の海に沈んでいる横で、もう一人の怪物がカウンターを指でコツコツと叩いていた。
竜王シルヴィア・ドラグニルである。
彼女は、龍魔呂が『地球ショッピング』で購入したばかりのビールサーバーから注がれた、黄金色に輝くジョッキを片手に、不満げに頬を膨らませていた。
「ねぇ、店主。私の分は? ラスティアばっかりズルいわよ」
「あぁ? さっき突き出し(ポテサラ)出しただろ」
「あんなの瞬殺よ! もっとこう、このシュワシュワした苦いお酒(ビール)に合う、ガツンとくる肉料理が食べたいの!」
シルヴィアは肉食獣の瞳をギラつかせ、赤い舌で唇を舐めた。
竜王たるもの、一度火がついた食欲は、半端な料理では鎮火しない。
「……チッ。注文の多いババアだな」
「あら? 今、禁句(年齢の話)が聞こえたような……?」
店内の気温が氷点下になりかけたが、龍魔呂は無視して厨房に立った。
ビールに合う肉料理。
答えは一つしかない。
龍魔呂は冷蔵庫から、鶏肉(ブラジル産もも肉2kgパック)を取り出した。
そして、魔法の粉――『日清・から揚げ粉(醤油味)』の袋を開ける。
「……白い粉? また怪しい錬金術を使う気?」
「黙って見てろ」
龍魔呂の手際は早かった。
一口大にカットした鶏肉に、粉を塗(まぶ)す。
本来ならタレに漬け込む工程が必要だが、この魔法の粉はスパイスと調味料が完璧に配合されているため、その時間を短縮できる。
即席だが、味は裏切らない。
鍋にたっぷりのサラダ油を熱し、180度になったのを見計らって肉を投入する。
ジュワァァァァァァッ!!
重低音と共に、激しい泡が立ち上る。
脂とスパイスが熱せられる、暴力的なまでに香ばしい匂いが店内に充満した。
「んんっ……♡ 何この音、何この匂い……!」
シルヴィアの鼻がピクピクと動く。
シイタケの繊細な香りとは違う。もっと野性的で、本能を直接殴りつけてくるような「脂と肉」の誘惑。
パチパチッ。
気泡が小さくなり、きつね色に揚がったタイミングで引き上げる。
余熱で火を通すため、バットで数分休ませる。この「待ち」が肉汁を閉じ込める鍵だ。
「まだ? ねぇまだ?」
「待てができる犬(ケルベロス)を見習え」
「私は竜よ!」
龍魔呂は揚げたての唐揚げを皿に山盛りにし、横にカットレモンとマヨネーズを添えた。
「ほらよ。『鶏の唐揚げ』だ」
ドンッ。
山積みの肉の塔。
シルヴィアは歓声を上げ、フォークも使わずに素手で一つ掴み取った。
熱さなど気にしない。竜の皮は伊達ではないのだ。
ガリッ、サクッ!!
小気味よい音が響いた。
そして次の瞬間。
ジュワッ……!
衣の中に閉じ込められていた熱々の肉汁が、爆弾のように口の中で弾けた。
醤油、ニンニク、ショウガの風味。そして柔らかい鶏肉の旨味。
「んん~~~~っ!!♡」
シルヴィアが悶絶して天を仰いだ。
「熱ッ! でも美味ッ! 何これ、外側は岩のようにカリカリなのに、中から極上のスープが溢れてくるわ! これは肉の宝石箱!?」
咀嚼し、飲み込む。
口の中が脂で満たされたところに、冷えたビールを流し込む。
ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ……プハァッ!!
「最高……! これぞ王の食事よ!」
シルヴィアの手が止まらなくなった。
次々と唐揚げを口に放り込み、ビールで追う。無限機関の完成だ。
山のようにあった唐揚げが、みるみるうちに減っていく。
そして、最後の一個。
シルヴィアはそれを惜しむように口に入れ――皿が空になった。
「……あ」
シルヴィアの動きが止まる。
喪失感。
祭りの後のような寂しさが、竜王を襲った。
「無くなっちゃった……」
「食えば無くなる。当たり前だ」
龍魔呂が空いた皿を下げようとした。
だが、シルヴィアはその手首をガシッと掴んだ。
瞳孔が縦に割れ、妖しい光を放っている。
「イヤよ。私はまだ、この味を楽しみたいの」
「あぁ? なら追加注文し――」
「待てないわ。……だから、『戻す』」
シルヴィアが指を鳴らした。
パチンッ。
世界が一瞬、ぐにゃりと歪んだ。
時計の針が逆回転するような感覚。
龍魔呂が瞬きをした次の瞬間――。
空っぽだったはずの皿の上に、湯気を立てる山盛りの唐揚げが「復活」していた。
「なっ……!?」
龍魔呂が目を見開く。
幻覚ではない。熱も、匂いも、揚げたてそのものだ。
「ふふっ、私の権能『時間巻き戻し(リワインド)』よ。この皿の上の時間だけを、食べる前に戻したの。これで永遠に食べ続けられるわ♡」
シルヴィアは悪戯っぽく微笑み、再び唐揚げに手を伸ばそうとした。
――ダンッ!!!!
龍魔呂の包丁が、シルヴィアの指のギリギリ手前、テーブルに突き刺さった。
「……おい」
地獄の底から響くような声。
龍魔呂の背後に、赤黒い闘気がゆらりと立ち昇る。
「てめぇ……食い物をオモチャにしてんじゃねぇぞ」
「えっ? でも、減らないんだからエコでしょ? 貴方の手間も省けるし」
「ふざけんな。俺が込めた『手間』と、鶏の『命』はどうなる? てめぇが一度食って消化した事実は消えねぇんだよ」
龍魔呂にとって、料理は神聖な商売だ。
それを「時間を戻せばタダで無限に食える」などというチートで踏み躙ることは、絶対に許せない冒涜だった。
「食った分は、胃袋に入ってるはずだ。なのに皿に戻したってことは……てめぇ、在庫管理(インベントリ)をバグらせやがったな?」
宇宙の法則など知ったことではない。
龍魔呂が気にしているのは、店の「在庫」と「売上」の不整合だ。
食べた満足感を得ておきながら、商品は減っていないことにすれば、代金を払う義理がなくなる。それは無銭飲食(食い逃げ)と同じだ。
「ネギオォッ!!」
「はっ! ここに!」
執事ポーン、ネギオがシュバッと出現した。
片眼鏡を光らせ、手には分厚い請求書を持っている。
「計算終了しております、マスター。竜王様は時間操作により唐揚げ一人前を『無かったこと』にしようとしましたが、カロリー摂取と味覚の快楽は享受済み。よって、巻き戻された唐揚げは『追加注文』とみなします」
ネギオがシルヴィアに請求書を突きつける。
「現在、唐揚げ2人前、ビール3杯。さらに『時空間改竄による迷惑料』および『深夜割増料金』を加算。……支払いは現金でお願いします」
シルヴィアは目を丸くした。
人類が、いや、ただの料理人と使い魔が、竜王である自分に対して一歩も引かず、あまつさえ説教と請求をしてきたのだ。
「……へぇ」
シルヴィアの頬が、ポッと朱に染まった。
「私を……この竜王シルヴィアを叱る男なんて、数千年ぶりだわ……」
彼女はゾクゾクと震え、熱っぽい瞳で龍魔呂を見上げた。
「いいわね、龍魔呂。強い男……嫌いじゃないわ。むしろ、もっと強く言ってもらってもいいのよ?」
「……チッ。ドMかよ」
龍魔呂は包丁を引き抜き、吐き捨てた。
だが、シルヴィアはその冷たい視線にすら興奮し、嬉々として懐から宝石(ドラゴンの秘宝)を取り出した。
「払うわ! 倍でも3倍でも払うから、もっと私を罵って……じゃなくて、唐揚げちょうだい! さっきの『戻した分』も、ちゃんと責任取って食べるから!」
「……食い終わってから言え」
結局、シルヴィアは巻き戻した唐揚げも完食し、さらに追加注文を重ねた。
竜王の胃袋は底なしであり、龍魔呂の在庫と角砂糖が尽きるまで、狂乱の宴は続くことになる。
カウンターの隅で、ルナが「むぅ……ライバルが変態ばっかりですぅ……」と涙目で呟いていた。
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