​「何か寄越せ」と女神を壁ドンしたら、最強通販スキルと婚姻届を渡された。元処刑人の俺は、異世界で小料理屋を営みたい

月神世一

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第二章 神、魔王、竜王の飲み会

EP 17

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ライバル店出現? 「貴族の晩餐会」
 その日、小料理屋『鬼灯(ほおずき)』の平和は、またしても騒々しく破られた。
「おい! この店の店主はどこだ!」
 ランチタイムの真っ只中。
 純白のコックコートに身を包み、高い帽子を被った男が、数名の取り巻きを引き連れて店に入ってきた。
 男の髭は丁寧に手入れされており、その表情には隠しきれない傲慢さが滲み出ている。
「……あぁ? 俺だが」
 龍魔呂は中華鍋を振る手を止めずに答えた。
 男は鼻をヒクつかせ、店内の庶民的な空気(と漂うニンニク臭)に露骨な嫌悪感を示した。
「フン、なんと野蛮な匂いだ。私は城塞都市バルド随一の高級レストラン『ラ・ルミエール』の総料理長、ガストンである!」
 ガストンと名乗った男は、胸を張って宣言した。
「最近、我が店の客足が遠のいていると思えば……こんな薄汚い屋台に流れていると聞いた。貴族たちがこぞって『下町の味』などと珍重しているようだが、認めん! こんなものは料理ではない、ただの餌だ!」
 店内の空気が凍りついた。
 カウンターで昼酒を楽しんでいた魔王ラスティアと竜王シルヴィアが、殺気のこもった目でガストンを睨む。
「……誰かしら、あの三流料理人。消していい?」
「私の唐揚げを『餌』呼ばわりしたわね。……時間を戻して受精卵からやり直させるわよ?」
 龍魔呂は目で二人を制し、包丁を置いた。
 そして、ゆっくりとカウンター越しにガストンを見据える。
「……で? 何しに来たんだ。営業妨害なら叩き出すぞ」
「勝負だ!」
 ガストンは懐から手袋を取り出し、カウンターに叩きつけた。
「『食戟(料理対決)』を申し込む! 私が勝てば、この店は即刻閉店し、この街から出て行ってもらう。貴様のような料理人がいるだけで、この街の格式が下がるのだ!」
「……俺が勝ったら?」
「ハッ! ありえんが……もし私が負けたら、私の店の権利書を譲ってやってもいいぞ」
 取り巻きの貴族たちがクスクスと笑う。
 彼らはガストンの料理の信奉者であり、今回の審査員役らしい。
「いいだろう。……受けてやる」
 龍魔呂はニヤリと笑い、角砂糖を齧った。
 売られた喧嘩は、倍にして買うのが彼の流儀だ。
「テーマはどうする?」
「フン、貴様のような底辺に合わせてやろう。テーマは『肉料理』だ。ただし、最高級の!」
 ガストンはパチンと指を鳴らした。
 従者が恭しく運んできたのは、氷の入った銀の器。その中には、ピンク色に輝く巨大な肝臓が鎮座していた。
「最高級食材『幻獣のフォアグラ』だ! これを使って、貴族の舌を唸らせる至高の一皿を作ってみせよう!」
 圧倒的な食材の力。
 しかし、龍魔呂は動じなかった。
 彼は冷蔵庫から、薄汚れたビニール袋を取り出した。中に入っているのは、白くてブヨブヨした内臓肉。
「……なら、俺はコレだ。『牛のモツ(小腸)』だ」
「なっ……!?」
「モツだと!? あんなものはスラムの貧民か犬が食う『廃棄肉』ではないか!」
 ガストンと貴族たちが嘲笑する。
 この世界において、内臓は臭くて硬い「ゲテモノ」扱いであり、高級店で出されることはまずない。
「……黙って見てろ」
 調理開始のゴングが鳴った(ネギオが鍋を叩いた)。
 ガストンは華麗な手つきでフォアグラに塩胡椒を振り、バターを熱したフライパンで焼き始めた。
 濃厚な脂の香りが広がり、貴族たちが「おお……!」と感嘆の声を上げる。トリュフをふんだんに使ったソースが、勝利を確信させる。
 一方、龍魔呂は地味だった。
 彼はひたすら、モツの下処理をしていた。
 小麦粉で揉み洗いし、臭みの原因となるヌメリや汚れを徹底的に落とす。
 一度茹でこぼし、余分な脂とアクを抜く。
 そして、大根、人参、こんにゃくと共に鍋に入れ、たっぷりの生姜とニンニク、そして『特製合わせ味噌』を溶かし込んで煮込む。
 グツグツグツ……。
 派手さはない。
 だが、鍋から立ち上る蒸気には、どこか懐かしく、そして暴力的なまでに食欲をそそる「居酒屋の匂い」が宿っていた。
「完成だ」
 先に皿を出したのはガストンだった。
 『幻獣フォアグラのポワレ ~トリュフソースを添えて~』。
 見た目は芸術品のように美しい。
「素晴らしい! この濃厚な口溶け!」
「さすがガストン! 王族の晩餐に相応しい!」
 貴族たちが絶賛し、ガストンは勝ち誇った顔で龍魔呂を見下ろした。
 龍魔呂は無言で、茶色い煮込みが入った小鉢を並べた。
 上には刻みネギと、一味唐辛子が振られている。
「『特製・牛もつ煮込み』だ。……食ってみな」
 貴族たちは顔をしかめた。
 見た目は茶色一色。華やかさの欠片もない。
 しかし、漂ってくる味噌とニンニクの香りに、抗いがたい本能が刺激される。
 一人が、恐る恐るスプーンを口に入れた。
 パクッ。
「――っ!?」
 貴族の目がカッと見開かれた。
 臭みなど微塵もない。
 口の中で、トロトロに煮込まれた脂身がフワッと解ける。
 その甘みを、濃厚な味噌のコクと生姜の辛味がガッチリと受け止める。
 噛めば噛むほど、味が染み込んだ大根とこんにゃくがリズムを刻む。
「な、なんだこれは……!?」
「美味い……! フォアグラよりも濃厚で、それでいて後味がキレている!」
「酒だ! 誰か酒を持ってこい! この味は酒を呼んでいるぞ!」
 貴族たちが我を忘れて煮込みを貪り始めた。
 白米の上に煮込みを乗せ、汁ごとかきこむ者まで現れる。
 そこには「気品」などない。あるのは「食欲」という名の野性だけだ。
「ば、馬鹿な!? あんなゴミ肉が、私のフォアグラに勝るだと!?」
 ガストンが顔面蒼白で叫ぶ。
 彼は震える手で、龍魔呂の煮込みを口にした。
「……っ!」
 認めざるを得なかった。
 悔しいが、美味い。
 丁寧に、あまりにも丁寧に下処理されたモツは、雑味の一切ない純粋な旨味の塊へと昇華されていた。
「なぜだ……! なぜこんな味が……!」
「簡単なことだ」
 龍魔呂はエプロンで手を拭きながら、冷ややかに言った。
「てめぇのフォアグラ、血管の処理が甘かったぞ。素材の良さに胡坐(あぐら)かいて、一番大事な『下準備(プレップ)』をサボったな?」
 ガストンがハッと息を呑む。
「俺はモツを洗うのに1時間はかけた。臭みのある安物だからこそ、手間暇かけて磨けば宝石になる。……下処理をサボる奴に、料理人の資格はねぇよ」
 ズシン。
 その言葉は、ガストンのプライドを粉々に砕いた。
 彼は膝から崩れ落ち、完敗を認めた。
「……私の、負けだ」
          ◇
 勝負の後。
 ガストンたちはスゴスゴと退散し(権利書は龍魔呂が「いらねぇ、紙切れだ」と突き返した)、店には大量の煮込みが残った。
「やったー! あまりものゲット!」
「龍魔呂、熱燗! 熱燗つけて!」
 待ち構えていた魔王、竜王、女神、そしてメイド服(禁止されたがコッソリ着ている)のルナが群がってきた。
「ん~♡ このプルプルした脂、コラーゲンの塊ね!」
「フォアグラよりこっちの方が百倍美味しいわ! ご飯にかけて『もつ煮丼』にするのが正義よ!」
「七味たっぷりで……クゥ~ッ! 昼から背徳的ですぅ!」
 龍魔呂は、鍋底をさらいながら苦笑した。
「……たく、色気のない連中だ」
 そう言いながらも、彼は彼女たちのために新しい鍋を火にかけた。
 『鬼灯』の煮込みは、継ぎ足し継ぎ足し、さらに深みを増していく。まるで、この店のカオスな人間関係のように。
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