​「何か寄越せ」と女神を壁ドンしたら、最強通販スキルと婚姻届を渡された。元処刑人の俺は、異世界で小料理屋を営みたい

月神世一

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第二章 神、魔王、竜王の飲み会

EP 18

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夏だ! 水着だ! 店内ビーチ化計画
​ その日は、城塞都市バルドの歴史上、最も暑い日だった。
 太陽が殺意を持って地上を灼き、石畳の上で目玉焼きが焼けるほどの猛暑。
​ 小料理屋『鬼灯(ほおずき)』の店内もまた、地獄の釜のような有様だった。
​「暑いぃぃぃ……! 無理ぃぃぃ……!」
​ カウンターの上で、竜王シルヴィアが液状化していた。
 普段の威厳ある姿はどこへやら、テーブルにベチャリと張り付き、舌を出して喘いでいる。
​「鱗(うろこ)の間が蒸れるのよぉ……。乾燥してひび割れそう……。龍魔呂ぉ、水ぅ……冷たい水ぅ……」
「……チッ。うるせぇトカゲだな」
​ 龍魔呂もまた、額に汗を浮かべ、首筋にタオルを巻いていた。
 この世界の冷却魔法道具は高価で効率が悪い。店内の温度は上がる一方だ。
​ 隣では、魔王ラスティアが白衣を脱ぎ捨て、キャミソール姿で団扇を扇いでいる。
 女神ルチアナに至っては、冷蔵庫のドアを開けっ放しにして涼もうとし、ネギオに「電気代の無駄です」と閉め出されていた。
​「あーもう! こんな日は仕事なんてしてられないわ! 海! 海に行きたい!」
「海なんてここから馬車で3日かかるわよ……。移動するだけで干物になるわ」
​ 限界を迎えた美女たち。
 龍魔呂は角砂糖を口に放り込み、電子ボードを操作した。
​「……しゃーねぇ。涼むか」
​ ポチッ。
​ 龍魔呂が厨房の奥から取り出したのは、レトロな白鳥のマークが入った、鈍く輝く鋳鉄製の機械。
 そして、透き通るような巨大な『純氷(ブロックアイス)』。
​「何それ? 拷問器具?」
「黙って見てろ」
​ 龍魔呂は氷をセットし、ハンドルを回す(電動だが、あえて手回しの風情を楽しむ)。
​ シャリ、シャリ、シャリ……。
​ 涼やかな音が響く。
 刃によって薄く削られた氷が、雪のように舞い落ち、ガラスの器に山を作っていく。
 そこに、鮮やかな青色のシロップ――『ブルーハワイ』をたっぷりと回しかける。
​「ほらよ。『かき氷』だ」
​ ドンッ。
 青い山脈。
 見るからに涼しげなその物体に、シルヴィアが飛びついた。
​「氷!? 食べるわ!」
​ スプーンですくい、大口でパクッ。
​「んん~っ! 冷たぁ~い♡ 生き返るぅ……!」
​ そう叫んだ直後。
​「――キィィィィィィン!!」
​ シルヴィアが頭を押さえて悶絶した。
​「痛い! 頭が! 脳みそが凍った!? 敵襲!? 氷結魔法の攻撃!?」
「ただのアイスクリーム頭痛だ。一気に食うからだ」
​ 龍魔呂が呆れて解説する横で、ラスティアとルチアナもかき氷に食らいついた。
​「美味しい……! ただの氷なのに、このフワフワした食感……!」
「この青い蜜、何の味か分からないけど、南国の味がするわ!」
​ 三人はかき氷でクールダウンし、ようやく人心地ついた。
 だが、これで終わる彼女たちではない。
​「……ねぇ、龍魔呂。かき氷のおかげで気分は『夏』になったけど……やっぱり足りないわ」
​ ルチアナが空になった器を見つめて言った。
​「『雰囲気(ロケーション)』よ! 波の音、白い砂浜、そして開放感! それがないと夏は始まらないわ!」
「ここは内陸の盆地だ。諦めろ」
「嫌よ! ラスティア、あんたの空間魔法でなんとかならないの!?」
​ 話を振られたラスティアが、眼鏡をキラリと光らせた。
​「……ふむ。理論上は可能ね。この店の座標に、私のプライベートビーチの空間位相を重ね合わせれば……」
​ ラスティアが杖を振り、複雑な術式を展開した。
​「空間展開:『真夏の幻影(ファントム・ビーチ)』!」
​ カッ!!
​ 視界が白く染まる。
 そして、光が収束した時――。
​ ザザァ……ン。
​ 波の音が聞こえた。
 薄汚い屋台の床が、白く輝く砂浜に変わっていた。
 壁は消え失せ、見渡す限りのエメラルドグリーンの海と、青い空が広がっている。
 天井には太陽(魔法の光源)が燦々と輝いていた。
​「す、すげぇ……」
「店内を改装したのか!?」
​ 客たちがどよめく。
 小料理屋『鬼灯』の店内(物理的には六畳一間ほどのスペース)が、無限に広がる南国リゾートに変貌していたのだ。
​「きゃっほーう! 海だぁぁぁ!」
​ ルチアナが歓声を上げ、一瞬で光に包まれる。
 変身魔法。
 現れたのは、布面積が極端に少ない、純白のマイクロビキニ姿の女神。
​「どう龍魔呂! 私の美貌、直視できる!?」
​ 続いてシルヴィア。
 彼女は野性的なヒョウ柄の紐ビキニになり、豊満な肢体をこれでもかと見せつける。
​「ふふっ、竜王のナイスバディにひれ伏しなさい!」
​ ラスティアは、黒いボンデージ風のハイレグ水着。知的さと妖艶さが同居した危険なデザインだ。
​「紫外線対策もバッチリよ。……さあ、泳ぐわよ!」
​ 三人の美女が波打ち際(カウンターの前)ではしゃぎ回る。
 まさに地上の楽園。酒池肉林。
​ そんな中、一人だけ浮かない顔をしている少女がいた。
 ルナである。
​「むぅ……皆さん、大人げないですぅ。露出度が高ければいいってもんじゃありません!」
​ ルナが着ているのは、なぜか紺色のワンピースタイプ。
 胸元に『3-A ルナ』と書かれた白いゼッケンがついている。
 そう、**『スクール水着(旧型)』**だ。
​「なんで私はこれなんですかぁ! ネギオ! 発注ミスじゃないの!?」
「いいえ姫様。地球の文献によると、これこそが『清楚』と『マニアック』を両立させた最強の水着と記載されておりました」
「騙された気がしますぅ~!」
​ ルナが泣き叫ぶが、一部の男性客(特にリュウ)からは「おお……スク水エルフ……尊い……」と拝まれていた。
​          ◇
​ 「……おい」
​ カオスなビーチの中心で、一人だけ冷静な男がいた。
 龍魔呂である。
 彼はいつの間にか、紺色の『甚平(じんべい)』に着替え、頭にねじり鉢巻きをしていた。
 完全に、海の家のオヤジスタイルだ。
​「遊んでないで、注文しろ。……腹減ってんだろ?」
​ 龍魔呂がドンと置いたのは、涼しげなガラスの皿。
 黄色い中華麺の上に、キュウリ、ハム、錦糸卵、紅生姜が綺麗に盛り付けられ、酸味の効いたタレがかかっている。
 皿の縁には練りカラシ。
​「『冷やし中華』だ。……始めました」
​「冷やし……中華?」
​ 水着美女たちが集まってくる。
 麺を啜る。
​ ズルズルッ。
​「――んっ!」
​ 酸っぱい!
 酢醤油のタレが、暑さでダレた体に染み渡る。
 冷たく締められた麺のコシ。
 キュウリのシャキシャキ感。
 そして、時折鼻に抜けるカラシの刺激。
​「美味しい! さっぱりしてるのに、ごま油の風味が食欲をそそるわ!」
「この酸味……疲労回復に最適ね。計算され尽くした夏バテ防止食だわ!」
「ハムがいっぱい入ってる! マヨネーズかけてもいい!?」
​ 美女たちは、水着姿で冷やし中華を貪り食った。
 その光景は、リゾートなのか大衆食堂なのか判別不能だったが、全員の顔には満面の笑みが浮かんでいた。
​ 龍魔呂は、甚平の袖で汗を拭い、またハンドルを回し始めた。
​「……へい、かき氷追加な」
​ 結局、その日は「海の家・鬼灯」として大繁盛し、ラスティアが魔力切れで空間を維持できなくなるまで、狂乱の宴は続いた。
 なお、翌日。
 店内の床が砂まみれになっており、龍魔呂が全員に「掃除が終わるまで飯抜き」を宣告したのは言うまでもない。
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