​「何か寄越せ」と女神を壁ドンしたら、最強通販スキルと婚姻届を渡された。元処刑人の俺は、異世界で小料理屋を営みたい

月神世一

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第二章 神、魔王、竜王の飲み会

EP 19

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始祖竜の卵、厨房で発見される
 翌朝。
 小料理屋『鬼灯(ほおずき)』の厨房に、カツン、カツンという軽快な音が響いていた。
 龍魔呂が朝食の仕込みをしている音だ。
 カウンターには、いつものように二日酔いの美女たちが並んで突っ伏している。
 昨日の「店内ビーチ化計画」でハシャギ過ぎた反動で、全員死に体だ。
「……おい。起きろ」
「んごぉ……あと5万年……」
「頭が割れるぅ……誰か『時間』戻して……」
 龍魔呂は呆れつつ、冷蔵庫から卵パックを取り出した。
 『地球ショッピング』で購入した、特選・朝採れ卵(10個入り)だ。
 今日の朝食は、シンプルにして至高のメニュー『卵かけご飯(TKG)』にする予定である。
「……あぁ?」
 パックを開けた龍魔呂の手が止まった。
 整然と並ぶ赤玉と白玉の中に一つだけ、明らかに異質な存在が混じっていたからだ。
 大きさはダチョウの卵ほど。
 殻の表面は虹色に輝き、脈打つように微かな光を放っている。
 そして何より、触るとほんのりと温かい。
「なんだこりゃ。……『当たり』か?」
 龍魔呂は首を傾げた。
 地球の養鶏技術も進歩したものだ。最近はこんなゲーミングPCみたいに光る卵も開発されたのか。
 あるいは、キャンペーンの景品かもしれない。
「ま、食えるなら何でもいいか」
 龍魔呂は深く考えず、その虹色の卵を手に取った。
 ずしりと重い。中身が詰まっている証拠だ。
「まずはコイツから味見だ」
 龍魔呂は丼に炊きたての銀シャリ(ご飯)を盛り、虹色の卵を振り上げた。
 そして、コンロの角に叩きつけようとした――その瞬間。
「――待ってぇぇぇぇぇッ!!!!」
 悲鳴が店内に響き渡った。
 カウンターで死んでいたはずの竜王シルヴィアが、音速を超えて厨房に飛び込んできたのだ。
「ダメェッ! 割らないでぇ! それ割ったら世界が終わるわよぉぉッ!」
 ガシッ!
 シルヴィアが龍魔呂の腕にしがみつく。
 その顔は蒼白で、ガタガタと震えている。
「あぁ? なんだ、てめぇが食いてぇのか?」
「違うわよ! よく見て! その神々しい輝き! 溢れ出る原始の魔力! それは……『始祖竜(オリジン・ドラゴン)の卵』よ!」
「……は?」
 龍魔呂の手が止まる。
 騒ぎを聞きつけて起きた魔王ラスティアが、卵を見るなり眼鏡を吹っ飛ばして腰を抜かした。
「う、嘘でしょ……!? エネルギー反応が測定不能(インフィニティ)!? もしその殻に傷がついたら、内部の魔力が暴走して大陸ごと消し飛ぶわよ!」
「なんでそんなモンが冷蔵庫に入ってんだ」
 龍魔呂が睨むと、シルヴィアが視線を泳がせた。
「あ、あの……昨日、酔っ払って散歩した時に……なんか綺麗な石が落ちてたから……『冷やしたら美味しいかな』って冷蔵庫に……」
「てめぇか」
 龍魔呂は卵を持ち直した。
 どうやら朝食にはできないらしい。
「チッ。紛らわしいモン拾ってくんじゃねぇ。……で、どうすんだこれ。捨てるか?」
「捨てないで! ていうか動かすのも危険よ! 今にも孵化しそうなの!」
 シルヴィアが卵に耳を当て、真剣な表情になる。
「……脈動が速くなってる。親竜の体温と魔力がないと、孵化不全で死んじゃうか、暴走して自爆するわ」
「親なんているわけねぇだろ」
「だから! 代わりの熱源が必要なの! 一定の温度で、優しく包み込むような……」
 龍魔呂は少し考え、厨房の隅を見た。
 そこには、黒く輝く文明の利器があった。
「……あるぞ。保温機能が」
 『極厚釜・圧力IHジャー』。
 龍魔呂は炊飯器の蓋を開け、中のご飯を別のおひつに移すと、空いた釜に布巾を敷き、虹色の卵を鎮座させた。
 そして、『保温(低め)』のボタンを押す。
「……これでいいか?」
「す、凄い……! 完璧な温度管理だわ! これなら孵化できるかも!」
 シルヴィアとラスティアが炊飯器を拝むように見つめる。
 龍魔呂はため息をつき、手を洗った。
「孵化するまで待ってらんねぇ。飯にするぞ」
 彼は改めて、普通の卵(赤玉)を手に取った。
 コン、パカッ。
 鮮やかなオレンジ色の黄身が、白米の上に滑り落ちる。
 そこに、特選醤油を回しかけ、箸で軽く崩す。
 黄金色の波紋が広がる。
「『卵かけご飯(TKG)』だ。……食え」
 出された丼。
 美女たちは、炊飯器(時限爆弾)を気にしつつも、目の前の朝食に抗えなかった。
 ズルッ、ハフッ。
「……ん!」
 濃厚な卵のコク。
 炊きたてご飯の熱で少し固まりかけた白身のトロトロ感。
 醤油の塩気が、全体の甘みを引き締める。
「美味しい……。シンプルなのに、なんでこんなに贅沢なのかしら」
「生卵を食べるなんて野蛮だと思ってたけど……この『のどごし』、癖になるわ」
 TKGの魔力が、彼女たちの不安を溶かしていく。
 だが。
 龍魔呂が自分の分を食べようとした時、異変が起きた。
 ドクンッ……ドクンッ……。
 炊飯器が、脈動に合わせて赤黒く明滅し始めたのだ。
 龍魔呂の身体から立ち昇る『闘気(オーラ)』が、まるで吸い込まれるように炊飯器へと流れていく。
「な、何!? 龍魔呂の気が吸われてる!?」
「ま、まさか……卵が龍魔呂を『親』だと認識して、エネルギー供給を求めているの!?」
 ラスティアが叫ぶ。
 龍魔呂は箸を止め、不機嫌そうに炊飯器を睨んだ。
「……あぁ? 俺の飯を横取りしようってのか? いい度胸じゃねぇか」
 龍魔呂は逆に、自身の膨大な闘気を炊飯器に叩き込んだ。
「食いたきゃ食え! 腹壊しても知らねぇぞ!」
 ゴゴゴゴゴゴ……!
 炊飯器がガタガタと激しく揺れる。
 虹色の光と、赤黒い闘気が混ざり合い、カオスな輝きが厨房を包み込む。
 パキッ。
 殻が割れる音がした。
「う、生まれるぅぅぅッ! 始祖竜が、炊飯器から生まれるわぁぁッ!」
 シルヴィアの絶叫と共に、小料理屋『鬼灯』の朝は、新たな伝説(トラブル)の幕開けを迎えようとしていた。
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