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第三章 中間管理職と3柱
EP 1
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激辛! 四川麻婆豆腐とオコゲの初ブレス
その夜、小料理屋『鬼灯(ほおずき)』の店内は、地獄のような赤さと、暴力的な刺激臭に包まれていた。
「……ゲホッ、ゲホッ! 凄い匂いだわ……目が、目が痛い!」
「換気! ネギオ、換気を最大になさい! 粘膜が焼けるわ!」
カウンターの美女たちが涙目で騒いでいる。
だが、その手にはしっかりとレンゲが握られ、視線は厨房の中華鍋に釘付けだった。
ジュワァァァァァァッ!!
龍魔呂が強火で鍋を振る。
炒められているのは、たっぷりの牛ひき肉と、真っ赤な『豆板醤(トウバンジャン)』、そして黒い『豆鼓(トウチ)』。
そこに鶏ガラスープを注ぎ、賽の目に切った木綿豆腐を投入する。
グツグツと煮立つ地獄の池。
仕上げに、水溶き片栗粉でとろみをつけ、最後に鍋肌から『ラー油』を回し入れる。
そして、決め手となる『花椒(ホアジャオ)』の粉末を、親の仇のように振りかける。
「へい、お待ち」
ドンッ。
出されたのは、土鍋の中でマグマのように煮えくり返る**『陳麻婆豆腐(激辛)』**だ。
「……さあ、戦いの時間だ」
龍魔呂が不敵に笑う。
今日のテーマは『麻(マー)』と『辣(ラー)』。
痺れる辛さと、熱い辛さの二重奏だ。
「い、いくわよ……! 竜王の威厳にかけて、この赤に打ち勝ってみせる!」
シルヴィアが震える手でレンゲを口に運んだ。
ハフッ、ハフッ、パクッ。
「――っ!!!!」
ドカン!
口の中で爆弾が炸裂した。
舌を突き刺す唐辛子の熱。そして、遅れてやってくる花椒の強烈な痺れ。ビリビリと電流が走ったかのように感覚が麻痺する。
「辛らぁぁぁぁいッ!! でも……美味ぁぁぁいッ!!」
シルヴィアが絶叫した。
「何これ!? 痛いのに、レンゲが止まらない! ひき肉の旨味と豆腐の熱さが、辛さの波に乗って襲ってくるわ!」
「分析不能……! 脳内麻薬(エンドルフィン)がドバドバ出てるわ!」
ラスティアも汗だくになりながら、麻婆豆腐を白飯(銀シャリ)にバウンドさせて掻き込む。
辛い。熱い。でも美味い。
白飯の甘みが、辛さを中和し、そしてまた辛さを欲させる。
「ビール! ビールちょうだい! 口の中を消火してぇ!」
「私は水! 氷水ぅぅ!」
店内は阿鼻叫喚の激辛パーティーと化していた。
◇
――バンッ!!!!
そのカオスな饗宴を、無粋な音が遮った。
入り口の引き戸が、乱暴に蹴破られたのだ。
「オラァァァッ! ここか、『鬼灯』って店はよぉ!」
「調子に乗って商売してるらしいなぁ! 挨拶がねぇぞ、挨拶が!」
ドカドカと踏み込んできたのは、黒い革鎧に身を包んだ強面の男たち。
背中には、赤い目の蛇の刺繍――闇組織『黒蛇(ブラック・スネーク)』の下部構成員たちだ。
彼らは手に棍棒やナイフを持ち、威圧的に店内を見渡した。
「俺たちは『黒蛇』だ! この店を潰されたくなかったら、売上金の半分と、そこのいい女たちを――」
リーダー格の男が怒鳴り散らす。
しかし。
「辛らぁぁぁ! 舌が! 舌が痺れるぅぅ!」
「ハフハフッ! 龍魔呂、ご飯おかわり!」
「汗で化粧が落ちるぅ! でも食べるぅ!」
誰も聞いていなかった。
シルヴィアたちは激辛トリップ状態で、周囲の状況など目に入っていない。
男たちは無視されたことに顔を赤くした。
「て、てめぇら! 俺たちを無視する気か!?」
「おい店主! 聞こえてんだろ! 俺たちを誰だと思って……」
男の一人が、龍魔呂に掴みかかろうとカウンターに近づく。
龍魔呂は中華鍋を洗いながら、面倒くさそうに顔を上げた。
「……あぁ? うるせぇな。今、忙しいんだよ」
「なっ、なんだその態度は!」
「あと、戸を閉めろ。花椒の香りが逃げるだろ」
「ふざけんなァァァッ!!」
男が激昂し、近くの椅子を蹴り上げようとした。
その時。
「きゅ?」
カウンターの上で、黒い物体が動いた。
チビドラゴンのオコゲである。
彼は龍魔呂の肩から降り、シルヴィアが食べている真っ赤な麻婆豆腐を不思議そうに覗き込んでいた。
「おいオコゲ。それは子供には早いぞ」
龍魔呂が止める前に、オコゲは好奇心に負けて、小さじ一杯分の麻婆タレをペロリと舐めてしまった。
瞬間。
オコゲの虹色の瞳が、カッと見開かれた。
「――きゅ!?」
全身の鱗が逆立つ。
生まれて初めて体験する「激辛」。
ドラゴンの本能が、口内の異物を排除しようと反応する。
オコゲは大きく息を吸い込んだ。
「くしゅんッ!!!!」
それは、ただのくしゃみだった。
だが、相手は「始祖竜」の幼体である。
吸い込まれた空気は体内で圧縮され、激辛スパイスの刺激と共に、高密度のエネルギーへと変換された。
ズドォォォォォォォォォンッ!!!!
オコゲの口から、漆黒の極太ビーム(ブレス)が放たれた。
それは一直線に入り口へと向かい――そこに立っていた『黒蛇』の男たちを飲み込んだ。
「あ、あぎゃあああああああ!?」
凄まじい熱量と衝撃波。
男たちは悲鳴を上げる間もなく、枯れ葉のように吹き飛ばされ、店の外の石畳を転がっていった。
……シーン。
静寂が戻った店内。
入り口の扉は消滅し、外の景色がよく見えるようになっていた。
男たちは全員、黒焦げのアフロヘアーになって気絶している。
「きゅぅ……(お口が痛い)」
オコゲは涙目になり、龍魔呂の胸に飛び込んだ。
龍魔呂はオコゲの頭を撫でつつ、壊れた入り口を見て舌打ちをした。
「……チッ。ブレス吐く時は外でやれって言っただろ」
「きゅ~ん……」
龍魔呂は、手近にあった牛乳(オコゲ用)を飲ませてやり、辛さを中和してやった。
「あら? 今、何か通った?」
「虫じゃない? それより龍魔呂、シメのラーメン入れて!」
激辛中毒者たちは、襲撃があったことすら気づいていなかった。
龍魔呂は、外に転がるアフロ集団を一瞥し、ネギオを呼び出した。
「ネギオ。ゴミ掃除と、入り口の修理だ。請求書は『黒蛇』とやらに回しとけ」
「承知いたしました。……慰謝料込みで、たっぷり請求させていただきます」
ネギオが眼鏡をキラリと光らせる。
小料理屋『鬼灯』に手を出した代償は、激辛麻婆よりも高くつくことになりそうだ。
「へい、おかわりだ。……食ったら働けよ」
龍魔呂は再び鍋を振る。
今夜も、平和でスパイシーな夜が更けていく。
その夜、小料理屋『鬼灯(ほおずき)』の店内は、地獄のような赤さと、暴力的な刺激臭に包まれていた。
「……ゲホッ、ゲホッ! 凄い匂いだわ……目が、目が痛い!」
「換気! ネギオ、換気を最大になさい! 粘膜が焼けるわ!」
カウンターの美女たちが涙目で騒いでいる。
だが、その手にはしっかりとレンゲが握られ、視線は厨房の中華鍋に釘付けだった。
ジュワァァァァァァッ!!
龍魔呂が強火で鍋を振る。
炒められているのは、たっぷりの牛ひき肉と、真っ赤な『豆板醤(トウバンジャン)』、そして黒い『豆鼓(トウチ)』。
そこに鶏ガラスープを注ぎ、賽の目に切った木綿豆腐を投入する。
グツグツと煮立つ地獄の池。
仕上げに、水溶き片栗粉でとろみをつけ、最後に鍋肌から『ラー油』を回し入れる。
そして、決め手となる『花椒(ホアジャオ)』の粉末を、親の仇のように振りかける。
「へい、お待ち」
ドンッ。
出されたのは、土鍋の中でマグマのように煮えくり返る**『陳麻婆豆腐(激辛)』**だ。
「……さあ、戦いの時間だ」
龍魔呂が不敵に笑う。
今日のテーマは『麻(マー)』と『辣(ラー)』。
痺れる辛さと、熱い辛さの二重奏だ。
「い、いくわよ……! 竜王の威厳にかけて、この赤に打ち勝ってみせる!」
シルヴィアが震える手でレンゲを口に運んだ。
ハフッ、ハフッ、パクッ。
「――っ!!!!」
ドカン!
口の中で爆弾が炸裂した。
舌を突き刺す唐辛子の熱。そして、遅れてやってくる花椒の強烈な痺れ。ビリビリと電流が走ったかのように感覚が麻痺する。
「辛らぁぁぁぁいッ!! でも……美味ぁぁぁいッ!!」
シルヴィアが絶叫した。
「何これ!? 痛いのに、レンゲが止まらない! ひき肉の旨味と豆腐の熱さが、辛さの波に乗って襲ってくるわ!」
「分析不能……! 脳内麻薬(エンドルフィン)がドバドバ出てるわ!」
ラスティアも汗だくになりながら、麻婆豆腐を白飯(銀シャリ)にバウンドさせて掻き込む。
辛い。熱い。でも美味い。
白飯の甘みが、辛さを中和し、そしてまた辛さを欲させる。
「ビール! ビールちょうだい! 口の中を消火してぇ!」
「私は水! 氷水ぅぅ!」
店内は阿鼻叫喚の激辛パーティーと化していた。
◇
――バンッ!!!!
そのカオスな饗宴を、無粋な音が遮った。
入り口の引き戸が、乱暴に蹴破られたのだ。
「オラァァァッ! ここか、『鬼灯』って店はよぉ!」
「調子に乗って商売してるらしいなぁ! 挨拶がねぇぞ、挨拶が!」
ドカドカと踏み込んできたのは、黒い革鎧に身を包んだ強面の男たち。
背中には、赤い目の蛇の刺繍――闇組織『黒蛇(ブラック・スネーク)』の下部構成員たちだ。
彼らは手に棍棒やナイフを持ち、威圧的に店内を見渡した。
「俺たちは『黒蛇』だ! この店を潰されたくなかったら、売上金の半分と、そこのいい女たちを――」
リーダー格の男が怒鳴り散らす。
しかし。
「辛らぁぁぁ! 舌が! 舌が痺れるぅぅ!」
「ハフハフッ! 龍魔呂、ご飯おかわり!」
「汗で化粧が落ちるぅ! でも食べるぅ!」
誰も聞いていなかった。
シルヴィアたちは激辛トリップ状態で、周囲の状況など目に入っていない。
男たちは無視されたことに顔を赤くした。
「て、てめぇら! 俺たちを無視する気か!?」
「おい店主! 聞こえてんだろ! 俺たちを誰だと思って……」
男の一人が、龍魔呂に掴みかかろうとカウンターに近づく。
龍魔呂は中華鍋を洗いながら、面倒くさそうに顔を上げた。
「……あぁ? うるせぇな。今、忙しいんだよ」
「なっ、なんだその態度は!」
「あと、戸を閉めろ。花椒の香りが逃げるだろ」
「ふざけんなァァァッ!!」
男が激昂し、近くの椅子を蹴り上げようとした。
その時。
「きゅ?」
カウンターの上で、黒い物体が動いた。
チビドラゴンのオコゲである。
彼は龍魔呂の肩から降り、シルヴィアが食べている真っ赤な麻婆豆腐を不思議そうに覗き込んでいた。
「おいオコゲ。それは子供には早いぞ」
龍魔呂が止める前に、オコゲは好奇心に負けて、小さじ一杯分の麻婆タレをペロリと舐めてしまった。
瞬間。
オコゲの虹色の瞳が、カッと見開かれた。
「――きゅ!?」
全身の鱗が逆立つ。
生まれて初めて体験する「激辛」。
ドラゴンの本能が、口内の異物を排除しようと反応する。
オコゲは大きく息を吸い込んだ。
「くしゅんッ!!!!」
それは、ただのくしゃみだった。
だが、相手は「始祖竜」の幼体である。
吸い込まれた空気は体内で圧縮され、激辛スパイスの刺激と共に、高密度のエネルギーへと変換された。
ズドォォォォォォォォォンッ!!!!
オコゲの口から、漆黒の極太ビーム(ブレス)が放たれた。
それは一直線に入り口へと向かい――そこに立っていた『黒蛇』の男たちを飲み込んだ。
「あ、あぎゃあああああああ!?」
凄まじい熱量と衝撃波。
男たちは悲鳴を上げる間もなく、枯れ葉のように吹き飛ばされ、店の外の石畳を転がっていった。
……シーン。
静寂が戻った店内。
入り口の扉は消滅し、外の景色がよく見えるようになっていた。
男たちは全員、黒焦げのアフロヘアーになって気絶している。
「きゅぅ……(お口が痛い)」
オコゲは涙目になり、龍魔呂の胸に飛び込んだ。
龍魔呂はオコゲの頭を撫でつつ、壊れた入り口を見て舌打ちをした。
「……チッ。ブレス吐く時は外でやれって言っただろ」
「きゅ~ん……」
龍魔呂は、手近にあった牛乳(オコゲ用)を飲ませてやり、辛さを中和してやった。
「あら? 今、何か通った?」
「虫じゃない? それより龍魔呂、シメのラーメン入れて!」
激辛中毒者たちは、襲撃があったことすら気づいていなかった。
龍魔呂は、外に転がるアフロ集団を一瞥し、ネギオを呼び出した。
「ネギオ。ゴミ掃除と、入り口の修理だ。請求書は『黒蛇』とやらに回しとけ」
「承知いたしました。……慰謝料込みで、たっぷり請求させていただきます」
ネギオが眼鏡をキラリと光らせる。
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