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2歳児の勇者
EP 7
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伝説の独り歩きと、迫りくる国
深夜 ルナハン川流域
炎の勢いが衰え、黒煙と焦げ臭さが充満する河川敷。
そこには、折り重なるようにして絶命した100体のオーガの山が築かれていた。
「……さて。弓丸、騎士丸。撒菱(まきびし)を回収しろ」
センチネルが静かに命じる。
オーガの死因は「火災」と「酸欠」だ。それはいい。自然発火や落雷と言い張れなくもない。
だが、地面にばら撒かれた鉄製の撒菱は、明らかに人工物であり、この世界にはない形状をしている。これが残っていれば、「誰か」が意図的に罠を張った証拠になる。
弓丸と騎士丸は、泥まみれになりながら、一つ一つ撒菱を拾い集め、魔法ポーチへと回収していく。
「……これが一番手間がかかるな」
センチネル(リアン)は、ため息交じりに呟いた。
(調理(ハンティング)は一瞬だが、後片付け(クレンリネス)は地味な作業だ。だが、三つ星の厨房と同じ。片付けまでが仕事だ)
作業を終え、センチネルは改めてオーガの死体の山を見上げた。
(……さて。100体のオーガが一夜にして全滅だ。流石に大騒ぎになるな)
(だが、これで父さんも母さんも、戦場に出なくて済む)
「……当分は大人しくしていよう」
センチネルたちは、証拠隠滅を完璧に済ませると、待機していた竜丸に乗り込んだ。
漆黒の翼が羽ばたき、小さな暗殺者たちは誰にも見られることなく、シンフォニア家の子供部屋へと帰還した。
翌朝 ルナハン騎士団本部 作戦室
朝の光が差し込む作戦室。だが、その空気は戦慄と困惑に包まれていた。
リアン(2歳)は、自宅のベビーベッドでオニヒメに着替えさせてもらいながら、イヤホン越しにその会話を盗聴していた。
『信じられるか!? アークス!』
ゼノン団長の声が、ノイズ混じりに響く。
『斥候からの第一報だ……。オーガ達が、一夜で全部死んだんだ! それも、ただ死んだんじゃない。焼死と……窒息死だ!』
『……そんな事が』
アークスの声にも、震えが混じっている。
『100体ものオーガが、一夜で? 魔法による攻撃ですか?』
『いや、魔法部隊の解析では、魔力の残滓(ざんし)は一切検知されなかった。現場に残っていたのは……燃え尽きた大量の藁(わら)と、油の臭いだけだ』
ゼノンが机を叩く音が聞こえる。
『一体どうなってるのか……。大規模な火計による殲滅。こんな芸当、軍隊規模でなければ不可能だ』
『……例の、謎のエルフの仕業ですかね』
アークスが、以前の「オーク暗殺」を引き合いに出す。
『森の番人たるエルフが、大規模な精霊魔法……いや、自然の力を利用した罠で、森を守ったとすれば』
『……そうとしか思えん』
ゼノンが重々しく同意する。
『だが、これはもう一都市の騎士団が抱え込める案件じゃない。単独か集団かは知らんが、100体のオーガを瞬殺する戦力が、この森に潜んでいるということだ』
ゴクリ、と唾を飲む音が聞こえるようだった。
『俺は上に……帝都の軍上層部に報告する。エライ事が起きるぞ』
『……国が、動きますね』
アークスの緊張した声。
『もしかすると、「魔導調査局」や「近衛騎士団」が派遣されるかもしれません』
子供部屋
プツッ。
リアンはイヤホンを外した。
その顔からは、赤ん坊らしい愛らしさが消え失せていた。
(……やべぇ)
リアンは青ざめた。
(「魔導調査局」? 「近衛騎士団」? 国家権力の中枢が出てくるのかよ!?)
「謎のエルフ」というスケープゴートが、勝手に強大化しすぎた。
もし、帝国の優秀な調査官が来て、現場に残った微量な「ライターオイルの成分」や「注射器の痕跡」から、異界(地球)の技術に気づいたら?
あるいは、街中を捜索され、シンフォニア家の屋根裏にある「大量の武器と道具」が見つかったら?
(……俺は、父さんたちを守りたかっただけなのに……)
リアンは頭を抱えた。
(……まずい。これ以上派手に動けば、尻尾を掴まれる。ほとぼりが冷めるまで、マグナギア部隊は完全封印だ)
(しばらくは……「ただの可愛い2歳児」に徹するしかない)
リアンは決意を固め、部屋に入ってきたマーサに向かって、とびっきりの笑顔を向けた。
「ママ! おはよ!」
「まぁ、おはようリアン! 今日も元気ね!」
裏では国家規模の騒動に発展しつつある中、首謀者である2歳児は、全力で「無実」を演じ始めた。
深夜 ルナハン川流域
炎の勢いが衰え、黒煙と焦げ臭さが充満する河川敷。
そこには、折り重なるようにして絶命した100体のオーガの山が築かれていた。
「……さて。弓丸、騎士丸。撒菱(まきびし)を回収しろ」
センチネルが静かに命じる。
オーガの死因は「火災」と「酸欠」だ。それはいい。自然発火や落雷と言い張れなくもない。
だが、地面にばら撒かれた鉄製の撒菱は、明らかに人工物であり、この世界にはない形状をしている。これが残っていれば、「誰か」が意図的に罠を張った証拠になる。
弓丸と騎士丸は、泥まみれになりながら、一つ一つ撒菱を拾い集め、魔法ポーチへと回収していく。
「……これが一番手間がかかるな」
センチネル(リアン)は、ため息交じりに呟いた。
(調理(ハンティング)は一瞬だが、後片付け(クレンリネス)は地味な作業だ。だが、三つ星の厨房と同じ。片付けまでが仕事だ)
作業を終え、センチネルは改めてオーガの死体の山を見上げた。
(……さて。100体のオーガが一夜にして全滅だ。流石に大騒ぎになるな)
(だが、これで父さんも母さんも、戦場に出なくて済む)
「……当分は大人しくしていよう」
センチネルたちは、証拠隠滅を完璧に済ませると、待機していた竜丸に乗り込んだ。
漆黒の翼が羽ばたき、小さな暗殺者たちは誰にも見られることなく、シンフォニア家の子供部屋へと帰還した。
翌朝 ルナハン騎士団本部 作戦室
朝の光が差し込む作戦室。だが、その空気は戦慄と困惑に包まれていた。
リアン(2歳)は、自宅のベビーベッドでオニヒメに着替えさせてもらいながら、イヤホン越しにその会話を盗聴していた。
『信じられるか!? アークス!』
ゼノン団長の声が、ノイズ混じりに響く。
『斥候からの第一報だ……。オーガ達が、一夜で全部死んだんだ! それも、ただ死んだんじゃない。焼死と……窒息死だ!』
『……そんな事が』
アークスの声にも、震えが混じっている。
『100体ものオーガが、一夜で? 魔法による攻撃ですか?』
『いや、魔法部隊の解析では、魔力の残滓(ざんし)は一切検知されなかった。現場に残っていたのは……燃え尽きた大量の藁(わら)と、油の臭いだけだ』
ゼノンが机を叩く音が聞こえる。
『一体どうなってるのか……。大規模な火計による殲滅。こんな芸当、軍隊規模でなければ不可能だ』
『……例の、謎のエルフの仕業ですかね』
アークスが、以前の「オーク暗殺」を引き合いに出す。
『森の番人たるエルフが、大規模な精霊魔法……いや、自然の力を利用した罠で、森を守ったとすれば』
『……そうとしか思えん』
ゼノンが重々しく同意する。
『だが、これはもう一都市の騎士団が抱え込める案件じゃない。単独か集団かは知らんが、100体のオーガを瞬殺する戦力が、この森に潜んでいるということだ』
ゴクリ、と唾を飲む音が聞こえるようだった。
『俺は上に……帝都の軍上層部に報告する。エライ事が起きるぞ』
『……国が、動きますね』
アークスの緊張した声。
『もしかすると、「魔導調査局」や「近衛騎士団」が派遣されるかもしれません』
子供部屋
プツッ。
リアンはイヤホンを外した。
その顔からは、赤ん坊らしい愛らしさが消え失せていた。
(……やべぇ)
リアンは青ざめた。
(「魔導調査局」? 「近衛騎士団」? 国家権力の中枢が出てくるのかよ!?)
「謎のエルフ」というスケープゴートが、勝手に強大化しすぎた。
もし、帝国の優秀な調査官が来て、現場に残った微量な「ライターオイルの成分」や「注射器の痕跡」から、異界(地球)の技術に気づいたら?
あるいは、街中を捜索され、シンフォニア家の屋根裏にある「大量の武器と道具」が見つかったら?
(……俺は、父さんたちを守りたかっただけなのに……)
リアンは頭を抱えた。
(……まずい。これ以上派手に動けば、尻尾を掴まれる。ほとぼりが冷めるまで、マグナギア部隊は完全封印だ)
(しばらくは……「ただの可愛い2歳児」に徹するしかない)
リアンは決意を固め、部屋に入ってきたマーサに向かって、とびっきりの笑顔を向けた。
「ママ! おはよ!」
「まぁ、おはようリアン! 今日も元気ね!」
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