​『令和の空母打撃群、昭和のミッドウェーに現る 〜1佐・坂上真一、祖父の戦争を塗り替える〜』

月神世一

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EP 3

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提督の対峙
戦艦「大和」の艦長室は、この巨艦の中枢にありながら、異様な静寂に包まれていた。
タバコの紫煙が、西日を受けて筋をなしている。
山本五十六は、腕組みをしたまま、目の前の男たちを見据えていた。
「直轄御前艦隊『アマテラス』司令、1等海佐、坂上真一であります」
坂上は、寸分の隙もない挙手敬礼を行った。その隣で、同じく現代の自衛隊制服に身を包んだ女性が、凛とした声で続けた。
「同艦隊副長 兼 技術長、2等海JIS(ジス)・・・(言いよどむ)…2等海佐、菊池玲奈であります」
「大和」の艦長室にいるのは、山本五十六、そして参謀長の宇垣纏(うがき まとむ)ただ二人。
宇垣は、菊池が「2佐」と名乗った瞬間から、その顔を侮蔑と怒りで歪めていた。
「女…だと? 1佐、2佐? 馬鹿も休み休み言え! 貴様ら、一体何のつもりだ!」
宇垣がサーベルの柄に手をかけた。
無理もない。彼らの前にいる二人は、この時代の人間とはあまりにも異質だった。
清潔すぎる制服、見たこともない素材のブーツ、そして何より、この極限の状況下で微動だにしない坂上と、臆することなく宇垣を睨み返す菊池の「目」。
彼らは、「いずも」から発艦したMCH-101輸送ヘリで「大和」の後部甲板に降り立った。
プロペラを持たず、巨大なローターを回転させる「空飛ぶ船」の出現は、泊地の全艦艇にパニックを引き起こしかけたが、坂上は「これぞ御前艦隊の『飛空艇(ひくうてい)』である」の一言で黙らせた。
「宇垣参謀長、お座りください」
山本の静かな声が響く。
「…坂上1佐。単刀直入に聞こう。貴官らは何者だ。その『アマテラス』とやらの正体は」
坂上は、山本と真っ直ぐに視線を交わした。
(この男だ。この男なら、理解できる)
彼は、あらかじめ用意した「偽装(カバーストーリー)」を語り始めた。
「我々は、10年前、陛下の勅命により、欧州ドイツへ派遣された極秘艦隊の『残存部隊』であります」
「ドイツ…だと?」
「はっ。我々の任務は、欧州の最新技術――ジェットエンジン、ロケット兵器、そして『電算機』と『電探(レーダー)』の技術を習得し、日本の国力と融合させ、必勝の兵器を開発することにありました」
坂上は、菊池に目配せした。
菊池が一歩進み出て、持っていた銀色のジュラルミンケースをテーブルに置く。
「これが、その成果の一つ。高機能・小型電算機です」
彼女が蓋を開けると、そこにはタブレット端末が鎮座していた。
宇垣が「玩具(おもちゃ)ではないか」と嘲笑した。
菊池は意に介さず、電源を入れる。暗かった画面に、鮮やかな光が灯った。
「なっ…!」
そこに映し出されていたのは、彼らが今いる柱島泊地を、真上から写した、信じられないほど鮮明な「写真」だった。
「こ、これは…絵か?」
「いいえ、宇垣参謀長。これは、我が艦隊の『目』…成層圏を飛ぶ偵察機が、今この瞬間に撮影している『映像』です」
菊池が指で画面を滑らせると、映像は滑らかに移動し、呉の軍港を映し出した。
ドックで修理中の艦艇まで、くっきりと識別できる。
山本五十六の表情が変わった。彼はタバコを灰皿に押し付けた。
「…坂上1佐。君が言った『ミッドウェーの機密』とは、これか」
「これがもたらした情報、であります」
坂上は、菊池が操作するタブレットを指差した。
「山本長官。貴官のMI作戦は、既に米軍に察知されております」
「何だと?」宇垣が再び立ち上がった。
「貴官らが頼りにした『K作戦』…真珠湾への二式大艇による偵察は、5月21日、米軍に察知され、失敗しております」
「!!」
山本と宇垣が絶句した。それは、つい数日前に報告が上がったばかりの、トップシークレットだった。
坂上は畳み掛ける。
「米軍は、貴官らの海軍暗号(JN-25)を、ほぼ解読しております。『AFは淡水が不足している』という偽電に貴官らが食いついたことで、彼らは攻撃目標がミッドウェーであることを完全に確信した」
宇垣は、もはや怒りを通り越し、蒼白になっていた。暗号解読など、あり得ない。あってはならないことだった。
「そして、これが最大の機密です」
菊池が画面を切り替える。そこには、太平洋の広大な海図と、三つの「赤い点」が示されていた。
「米空母『エンタープライズ』『ホーネット』。そして、珊瑚海海戦で貴官らが『撃沈した』と誤認している『ヨークタウン』は、既に真珠湾を出港」
坂上は、海図上の一点を強く指差した。
「6月1日現在(※史実より早く到着した設定)、ミッドウェー北東、貴官らの南雲機動部隊の、ちょうど真横を突ける位置で、待ち伏せております」
艦長室が、死んだように静まり返った。
坂上が告げた内容は、連合艦隊の作戦計画が根底から崩壊していることを意味していた。
史実通りに進めば、南雲艦隊は何も知らずに奇襲を受け、空母4隻を失う。
「…信じられん」宇垣が呻いた。「貴様ら、米軍のスパイであろう!」
「参謀長」
坂上は、初めてその声に冷たい怒りを込めた。
「我々がスパイならば、あの『鉄の鳥(F-35B)』で、今この瞬間に『大和』の艦橋を吹き飛ばすことも、泊地の全艦艇を『ロケット弾(ミサイル)』で海の藻屑にすることも容易い」
彼は山本を真っ直ぐに見た。
「我々は、日本人です。ただ…貴官らとは、少しだけ『違う未来』を知っている」
ついに「偽装」の仮面が剥がれた。
山本は、しかし、驚かなかった。彼は全てを察していたかのように、静かに目を閉じた。
「…坂上1佐。君の要求は、なんだ」
坂上は、深く息を吸った。ここからが、本当の戦いだ。
「ミッドウェー海戦の『勝利』です」
「ほう。我々を助けると?」
「いいえ。我々『出雲艦隊』が、米機動部隊を殲滅します。F-35Bとイージス艦『まや』の力を使えば、南雲艦隊に指一本触れさせることなく、米空母3隻を半日(はんじつ)で海に沈めることが可能です」
宇垣の顔が、一瞬、期待に輝いた。
だが、坂上はそれを許さなかった。
「ただし、条件があります」
坂上は、一歩前に出た。
「勝利と引き換えに、帝国は、即時、米国との講和交渉に入ってください」
「なっ…貴様!」宇垣が抜刀した。「勝利を目前にして講和だと! 国賊め!」
「宇垣! 待て!」
山本が宇垣を制止した。
「坂上1佐。君の真意を聞こう」
「長官。貴官はご存知のはずだ。アメリカの工業力を。ミッドウェーで空母3隻を沈めたところで、米国は1年後には10隻を、2年後には30隻を浮かべてくる」
坂上の言葉は、山本自身が最も恐れていた未来そのものだった。
「そして…」
坂上は、故郷・広島の惨状を思い浮かべ、声を絞り出した。
「このまま戦争を続ければ、彼らは『新型爆弾』を完成させます。それは、一発で、都市を消滅させる兵器です」
「……」
「日本は焦土となり、敗北する。我々は、その未来を知っているからこそ、ここに来た」
坂上は、祖父が特攻で死んだという事実を、この男に重ねていた。
「山本長官。貴官の狙いは『短期決戦・早期講和』だったはず。我々はその『力』を提供します。だが、その力で得た勝利を、陸軍の暴走や『バスに乗り遅れるな』式の拡大主義に使わせることは、断じて許可しない」
それは、恫喝だった。
令和の軍人が、昭和の英雄に突きつけた、最後通牒。
「もし、この条件を飲めないというのなら…」
坂上は冷たく言い放った。
「我々は、史実通り、南雲艦隊が壊滅するのを見過ごします。あるいは…」
彼は、目の前の二人に告げた。
「我々が、米艦隊と日本艦隊、その両方を、この海域から排除します」
菊池が、タブレットの画面を切り替えた。
そこに映っていたのは、イージス艦「まや」から発射されるSM-3ミサイルが、大気圏外の模擬弾頭を撃ち落とす、21世紀の演習映像だった。
山本五十六には、それが何を意味するのか、正確に理解できた。
あの「鉄の鳥」も、「飛空艇」も、この「光る板」も、すべて本物だ。
そして、目の前の男の言葉も。
山本は、深く、深く息を吐き出した。
「…坂上1佐。君のコーヒーとやらを、一度、飲んでみたいものだな」
それは、事実上の「承諾」だった。
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