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EP 11
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鍛冶師ウルジと薙刀の夢
ルナキャロット村での生活が日常になり始めた頃。
自警団の教官役も板についてきた勇太だったが、その心には一つの小さな、しかし無視できない違和感が燻っていた。
(……やっぱり、槍じゃしっくりこない)
ラトルから託された長槍は、確かに業物だ。
だが、槍の本質は「点(突き)」だ。
対して、勇太の身体に染み付いている薙刀の動きは、「線(斬撃)」と「面(払い)」、そして石突を使った「打撃」の複合技だ。
今の槍では、薙刀特有の遠心力を活かした斬り上げや、柄を使ったいなし技が、どうしてもワンテンポ遅れる。
(100%の力を出すには、やはり『薙刀』が必要だ……)
訓練後、そんな顔をして自分の掌を見つめていたからだろう。
敏いキャルルが、タオルを渡しながら声をかけてきた。
「ユウタさん。もしかして、槍だと戦いにくいですか?」
「え? ああ、いや……戦いにくいわけじゃないんだけど、一番慣れている武器とは重心が違ってね」
「やっぱり! なんだか動きに少しだけ迷いがある気がしたんです。……だったら、ウルジ爺さんのところに行きましょう!」
「ウルジ爺さん?」
「はい! この村一番の鍛冶師さんです。すっごく頑固で口も悪いですけど、腕は確かですから!」
キャルルは「善は急げです!」と勇太の手を引き、有無を言わさず歩き出した。
連れてこられたのは、村の外れ、工房区画の中でもひときわ大きな石造りの建物だった。
近づくだけで、肌がジリジリと焼けるような熱気を感じる。
カーン! カーン!
腹に響くような、重くリズミカルな槌の音が、周囲の空気を震わせていた。
「ここです!」
キャルルが重い鉄の扉を押し開ける。
途端に、熱風と共に鉄と煤の匂いが鼻孔を突いた。
中は薄暗いが、中央にある炉の赤々とした炎が、主の姿を影絵のように浮かび上がらせている。
筋肉の鎧をまとったような、小柄だが岩のように頑強な老人。
煤で真っ黒に汚れた長い兎耳をねじり鉢巻で縛り上げ、玉のような汗を散らしながら、真っ赤に焼けた鉄塊を叩いている。
「ウルジ爺さーん! お客さんだよー!」
キャルルの大声に、老人は槌を止め、ジュウッという音と共に鉄を冷却水に突っ込んだ。
「ああん? ……誰かと思えばキャルルか。なんだ、またトンファーの金具を飛ばしたのか?」
「むっ、今日は違います! お願いがあって来たの! このユウタさんに、新しい武器を作って欲しいんです!」
「武器だぁ?」
ウルジは、ギロリと鋭い眼光で勇太を睨みつけた。その目は、ただの老人ではない、一芸を極めた職人特有の厳しい光を宿している。
「人間か。……腰にいい槍を下げてるじゃねえか。ラトルの野郎が大事にしてた槍だろ、それで十分じゃねえのか」
「いえ、この槍は素晴らしいものです。ですが……僕の流派には合わないんです」
勇太は一歩前に出ると、持参した羊皮紙(村で手に入れたもの)と木炭を取り出した。
「僕が使いたいのは、『薙刀(ナギナタ)』という武器です。作っていただけませんか」
「ナギナタ? ……聞いたことねえな。グレイブの親戚か?」
「似ていますが、違います。……こういう形状です」
勇太は、近くの作業台でサラサラと図面を描き始めた。
医学生としてのデッサン力と、長年使い込んだ相棒の記憶。
描き出されたのは、優美な曲線を描く刃と、長い柄を持つ武器の設計図だった。
「ほほう……」
ウルジが身を乗り出し、脂ぎった指で図面をなぞる。
「長い柄に、反りのある刃……。これじゃあ『突き』の威力が落ちるぞ。重心も先重(さきおも)りになる。扱いづらいだけの奇形じゃねえか」
プロならではの指摘。だが、勇太は怯まなかった。
「おっしゃる通り、重心は先端に寄ります。ですが、その遠心力を利用するんです」
勇太は図面を指差しながら、熱っぽく語った。
「この『反り』があることで、引いて斬る動作が滑らかになります。さらに、長い柄をテコにして回転させることで、叩き斬る威力は斧にも匹敵する。……つまり、槍の間合いで、剣の斬撃と、斧の破壊力を両立させる武器なんです」
「……槍の間合いで、剣と斧の威力、か」
ウルジの目の色が変わった。
単なるワガママな注文ではない。理にかなった、実戦のための機能美。
職人の魂に火がついた瞬間だった。
「……面白い。理屈は分かった」
ウルジはニヤリと笑うと、煤けた手で顎をさすった。
「だが、こいつを作るにはバランスが肝だ。柄の素材はただの樫じゃダメだ、しなりが足りねえ。芯に鉄を通すか……いや、それじゃ重すぎる。『アイアンウッド』の古木を使うか」
「素材はお任せします。この世界で手に入る、一番頑丈なもので」
「はん、言うじゃねえか。……いいぜ、引き受けてやる」
ウルジは作業台に拳を叩きつけた。
「ただし! 金なんぞはいらねえが、条件がある」
「条件、ですか?」
「ああ。出来上がったら、一番最初にワシに見せろ。その『ナギナタ』とやらが、ワシの打った鉄に相応しい動きをするのか……お前の演武で証明してみせろ」
それは、職人から使い手への挑戦状だった。
「……望むところです」
勇太は深く頭を下げた。
「よし! ならば話は早い。一週間だ。最高の一振りを仕上げてやるから、首を洗って待ってな!」
そう言うと、ウルジはもう勇太たちを見ていなかった。
炉の火力を上げるふいごを操作し、棚の奥から厳重に包まれた鉱石を取り出し始める。その背中は、すでに「創造」の世界に入り込んでいた。
カーン! カーン!!
先ほどよりも高く、澄んだ音が響き始める。
それは、勇太の新たな相棒が産声を上げ始めた音だった。
「よかったですね、ユウタさん! 爺さんがあんなに乗り気になるなんて珍しいですよ!」
「ああ……楽しみだ」
勇太は、期待に胸を膨らませながら、熱気に満ちた鍛冶場を後にした。
自分専用の武器。それは、この異世界で生きていく覚悟を、物理的な形にすることでもあった。
【ピンポンパンポーン♪】
【善行ポイントが 10 P 加算されました】
【現在所持ポイント: 95 P】
(え、これにもポイントが?)
どうやら「異文化技術の提供」も、この世界では評価対象になるらしい。
あと5ポイントで、ついに100ポイントの大台だ。
勇太は自身の掌を見つめた。
一週間後、この手に馴染む「最強の武器」が握られる日を夢見て。
ルナキャロット村での生活が日常になり始めた頃。
自警団の教官役も板についてきた勇太だったが、その心には一つの小さな、しかし無視できない違和感が燻っていた。
(……やっぱり、槍じゃしっくりこない)
ラトルから託された長槍は、確かに業物だ。
だが、槍の本質は「点(突き)」だ。
対して、勇太の身体に染み付いている薙刀の動きは、「線(斬撃)」と「面(払い)」、そして石突を使った「打撃」の複合技だ。
今の槍では、薙刀特有の遠心力を活かした斬り上げや、柄を使ったいなし技が、どうしてもワンテンポ遅れる。
(100%の力を出すには、やはり『薙刀』が必要だ……)
訓練後、そんな顔をして自分の掌を見つめていたからだろう。
敏いキャルルが、タオルを渡しながら声をかけてきた。
「ユウタさん。もしかして、槍だと戦いにくいですか?」
「え? ああ、いや……戦いにくいわけじゃないんだけど、一番慣れている武器とは重心が違ってね」
「やっぱり! なんだか動きに少しだけ迷いがある気がしたんです。……だったら、ウルジ爺さんのところに行きましょう!」
「ウルジ爺さん?」
「はい! この村一番の鍛冶師さんです。すっごく頑固で口も悪いですけど、腕は確かですから!」
キャルルは「善は急げです!」と勇太の手を引き、有無を言わさず歩き出した。
連れてこられたのは、村の外れ、工房区画の中でもひときわ大きな石造りの建物だった。
近づくだけで、肌がジリジリと焼けるような熱気を感じる。
カーン! カーン!
腹に響くような、重くリズミカルな槌の音が、周囲の空気を震わせていた。
「ここです!」
キャルルが重い鉄の扉を押し開ける。
途端に、熱風と共に鉄と煤の匂いが鼻孔を突いた。
中は薄暗いが、中央にある炉の赤々とした炎が、主の姿を影絵のように浮かび上がらせている。
筋肉の鎧をまとったような、小柄だが岩のように頑強な老人。
煤で真っ黒に汚れた長い兎耳をねじり鉢巻で縛り上げ、玉のような汗を散らしながら、真っ赤に焼けた鉄塊を叩いている。
「ウルジ爺さーん! お客さんだよー!」
キャルルの大声に、老人は槌を止め、ジュウッという音と共に鉄を冷却水に突っ込んだ。
「ああん? ……誰かと思えばキャルルか。なんだ、またトンファーの金具を飛ばしたのか?」
「むっ、今日は違います! お願いがあって来たの! このユウタさんに、新しい武器を作って欲しいんです!」
「武器だぁ?」
ウルジは、ギロリと鋭い眼光で勇太を睨みつけた。その目は、ただの老人ではない、一芸を極めた職人特有の厳しい光を宿している。
「人間か。……腰にいい槍を下げてるじゃねえか。ラトルの野郎が大事にしてた槍だろ、それで十分じゃねえのか」
「いえ、この槍は素晴らしいものです。ですが……僕の流派には合わないんです」
勇太は一歩前に出ると、持参した羊皮紙(村で手に入れたもの)と木炭を取り出した。
「僕が使いたいのは、『薙刀(ナギナタ)』という武器です。作っていただけませんか」
「ナギナタ? ……聞いたことねえな。グレイブの親戚か?」
「似ていますが、違います。……こういう形状です」
勇太は、近くの作業台でサラサラと図面を描き始めた。
医学生としてのデッサン力と、長年使い込んだ相棒の記憶。
描き出されたのは、優美な曲線を描く刃と、長い柄を持つ武器の設計図だった。
「ほほう……」
ウルジが身を乗り出し、脂ぎった指で図面をなぞる。
「長い柄に、反りのある刃……。これじゃあ『突き』の威力が落ちるぞ。重心も先重(さきおも)りになる。扱いづらいだけの奇形じゃねえか」
プロならではの指摘。だが、勇太は怯まなかった。
「おっしゃる通り、重心は先端に寄ります。ですが、その遠心力を利用するんです」
勇太は図面を指差しながら、熱っぽく語った。
「この『反り』があることで、引いて斬る動作が滑らかになります。さらに、長い柄をテコにして回転させることで、叩き斬る威力は斧にも匹敵する。……つまり、槍の間合いで、剣の斬撃と、斧の破壊力を両立させる武器なんです」
「……槍の間合いで、剣と斧の威力、か」
ウルジの目の色が変わった。
単なるワガママな注文ではない。理にかなった、実戦のための機能美。
職人の魂に火がついた瞬間だった。
「……面白い。理屈は分かった」
ウルジはニヤリと笑うと、煤けた手で顎をさすった。
「だが、こいつを作るにはバランスが肝だ。柄の素材はただの樫じゃダメだ、しなりが足りねえ。芯に鉄を通すか……いや、それじゃ重すぎる。『アイアンウッド』の古木を使うか」
「素材はお任せします。この世界で手に入る、一番頑丈なもので」
「はん、言うじゃねえか。……いいぜ、引き受けてやる」
ウルジは作業台に拳を叩きつけた。
「ただし! 金なんぞはいらねえが、条件がある」
「条件、ですか?」
「ああ。出来上がったら、一番最初にワシに見せろ。その『ナギナタ』とやらが、ワシの打った鉄に相応しい動きをするのか……お前の演武で証明してみせろ」
それは、職人から使い手への挑戦状だった。
「……望むところです」
勇太は深く頭を下げた。
「よし! ならば話は早い。一週間だ。最高の一振りを仕上げてやるから、首を洗って待ってな!」
そう言うと、ウルジはもう勇太たちを見ていなかった。
炉の火力を上げるふいごを操作し、棚の奥から厳重に包まれた鉱石を取り出し始める。その背中は、すでに「創造」の世界に入り込んでいた。
カーン! カーン!!
先ほどよりも高く、澄んだ音が響き始める。
それは、勇太の新たな相棒が産声を上げ始めた音だった。
「よかったですね、ユウタさん! 爺さんがあんなに乗り気になるなんて珍しいですよ!」
「ああ……楽しみだ」
勇太は、期待に胸を膨らませながら、熱気に満ちた鍛冶場を後にした。
自分専用の武器。それは、この異世界で生きていく覚悟を、物理的な形にすることでもあった。
【ピンポンパンポーン♪】
【善行ポイントが 10 P 加算されました】
【現在所持ポイント: 95 P】
(え、これにもポイントが?)
どうやら「異文化技術の提供」も、この世界では評価対象になるらしい。
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セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
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