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EP 22
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奪われた武具と竜人の焦燥
ルナキャロット村の集会所。
瀕死の重傷を負っていた竜人イグニスの回復速度は、勇太の医学的予想を遥かに超えていた。
その原動力となったのは、リーシャの魔法でも、キャルルの献身でもなく――勇太が「地球ショッピング」で取り寄せた、ある「劇薬」だった。
「うおおおっ!! 辛ぇ! だが、力が湧いてきやがる!!」
集会所に、イグニスの野太い声が響く。
彼が貪り食っているのは、勇太特製の**『激辛カツカレー(大盛り)』**だ。
とろりとした褐色のルーと、サクサクの衣を纏った豚カツ。そして、鼻腔を突き抜けるスパイスの香り。
「ユウタ! この『カレー』とかいう料理、最高だぜ! 食うたびに胃袋が熱くなって、身体中の血が沸騰するようだ!」
「はは、竜人族の口に合うとは思ってたけど……まさか毎日リクエストされるとはね」
勇太は苦笑しながら、空になった皿を受け取った。
火を司る竜の因子を持つ彼にとって、スパイスの刺激は魔力ポーション以上の活力剤になるらしい。
数日前まで寝たきりだったのが嘘のように、今のイグニスはベッドから起き上がり、岩のような筋肉を取り戻しつつあった。
だが――身体の充実に反して、彼の心には暗い影が落ちていた。
ふと、イグニスが自分の巨大な掌を見つめ、虚空を握りしめる動作をする。
そこに「あるはずのもの」がない空虚さ。
「……ユウタ。俺の船は見つかってないんだったな」
「うん。村のみんなが海岸線を探してくれてるけど……今のところ、残骸すら」
「そうか……。俺の大事な『戦斧(アクス)』と『大盾(シールド)』も、海の藻屑か……」
イグニスが深くため息をつく。
竜人族の戦士にとって、武具は魂の片割れだ。ましてや彼ほどの戦士が愛用していた武具となれば、代えの利かない逸品だろう。
丸腰の今の彼は、牙を抜かれた獅子のようなものだ。
その時だった。
集会所の扉が乱暴に開かれ、若い兎人の青年が転がり込んできた。
「た、大変だ! ラトル団長! ユウタ様!」
「どうした、そんなに慌てて!」
「海岸線の見回りに行ったら……東の岩場に、難破船が引っかかってるのを見つけたんです!」
「なんだと!?」
イグニスが弾かれたように立ち上がる。
「だ、だが……俺たちが着いた時には、すでに先客がいました。……コボルト族の群れです!」
「ッ!?」
「奴ら、船の中を漁って……何かデカい金属の塊みたいなのを、ごっそり奪っていきました。おそらく、あれは……」
ドォォォンッ!!
イグニスの拳が、近くの木のテーブルを粉砕した。
勇太たちが息を呑む中、赤銅色の顔が憤怒で赤黒く染まっていく。
「コボルト……あの卑しい犬コロどもが……! 俺の船を、俺の『魂』を漁っただとぉっ!?」
誇り高き竜人の武具が、ハイエナのようなスカベンジャー(屍肉あさり)に汚された。
その屈辱は、死ぬことよりも耐え難い。
「許さん……! 今すぐ取り返してやる!」
殺気を撒き散らし、外へ出ようとするイグニス。だが、病み上がりの足がもつれ、巨体が傾く。
「っと! 無茶だよイグニス!」
「落ち着きなさい、まだ身体は本調子じゃないわ!」
勇太とリーシャが慌てて支える。
「離せッ! 俺の戦斧がなきゃ、俺は……!」
「だから、僕たちが行くって言ってるんだ!」
勇太の鋭い声に、イグニスが動きを止めた。
「……あ?」
「君一人で行かせはしない。言っただろう、僕たちはもう『友達』だって」
勇太はイグニスの目を真っ直ぐに見据えた。
「君の武器は、僕たちのパーティにとっても必要な戦力だ。コボルトなんかに渡してたまるか」
「ユウタ……」
「行きましょう、イグニスさん! 私も許せません、泥棒なんて!」
キャルルが憤慨して拳を握る。
「コボルトの巣穴なら、魔力の痕跡ですぐに見つけられるわ。……行きがけの駄賃に、焼き払ってあげる」
リーシャも静かに、しかし冷たい怒りを燃やしている。
三人の覚悟を見て、イグニスの目から殺気が消え、代わりに熱いものが込み上げた。
彼は鼻をすすり、ニカリと笑った。
「……へっ、お人好しな連中だぜ。頼む、手を貸してくれ」
「任された」
準備は迅速に行われた。
勇太は「地球ショッピング」で、全員分のスポーツドリンク(電解質補給用)と、カロリーメイトのような携帯食、そしてグロックの予備弾薬を補充した。
問題は、丸腰のイグニスの武器だ。
「おい、トカゲの旦那! これを持ってきな!」
鍛冶師ウルジが、よろめきながら「何か」を担いでやってきた。
それは、建築資材用の「鉄箍(てつたが)を嵌めた樫の丸太」だった。
ただの資材だが、重量は50キロを超えている。
「俺の工房にあった端材だ。あんたの戦斧に比べりゃ爪楊枝だろうが、素手よりはマシだろ」
「……ふん、悪くねえ重さだ」
イグニスはそれを片手で軽々と受け取ると、ブンッと空気を引き裂く音を立てて振り回した。
並の人間なら持ち上げることすら困難な質量兵器。それを小枝のように扱う怪力に、勇太は戦慄した。
(このパワー……やっぱり、とんでもない戦力になるぞ)
「コボルトの群れは、東の岬の洞窟へ向かいました!」
報告を受けたラトルが頷く。
「よし、村の守りは俺たちに任せろ。ユウタ、暴れてこい!」
「はい、行ってきます!」
勇太の号令一下。
蒼き薙刀の勇太。
剛脚のキャルル。
殲滅魔法のリーシャ。
そして、鉄の丸太を担いだ憤怒の竜人イグニス。
最強の布陣となった一行は、コボルト族の痕跡を追って、東の海岸線へと疾走した。
ルナキャロット村の集会所。
瀕死の重傷を負っていた竜人イグニスの回復速度は、勇太の医学的予想を遥かに超えていた。
その原動力となったのは、リーシャの魔法でも、キャルルの献身でもなく――勇太が「地球ショッピング」で取り寄せた、ある「劇薬」だった。
「うおおおっ!! 辛ぇ! だが、力が湧いてきやがる!!」
集会所に、イグニスの野太い声が響く。
彼が貪り食っているのは、勇太特製の**『激辛カツカレー(大盛り)』**だ。
とろりとした褐色のルーと、サクサクの衣を纏った豚カツ。そして、鼻腔を突き抜けるスパイスの香り。
「ユウタ! この『カレー』とかいう料理、最高だぜ! 食うたびに胃袋が熱くなって、身体中の血が沸騰するようだ!」
「はは、竜人族の口に合うとは思ってたけど……まさか毎日リクエストされるとはね」
勇太は苦笑しながら、空になった皿を受け取った。
火を司る竜の因子を持つ彼にとって、スパイスの刺激は魔力ポーション以上の活力剤になるらしい。
数日前まで寝たきりだったのが嘘のように、今のイグニスはベッドから起き上がり、岩のような筋肉を取り戻しつつあった。
だが――身体の充実に反して、彼の心には暗い影が落ちていた。
ふと、イグニスが自分の巨大な掌を見つめ、虚空を握りしめる動作をする。
そこに「あるはずのもの」がない空虚さ。
「……ユウタ。俺の船は見つかってないんだったな」
「うん。村のみんなが海岸線を探してくれてるけど……今のところ、残骸すら」
「そうか……。俺の大事な『戦斧(アクス)』と『大盾(シールド)』も、海の藻屑か……」
イグニスが深くため息をつく。
竜人族の戦士にとって、武具は魂の片割れだ。ましてや彼ほどの戦士が愛用していた武具となれば、代えの利かない逸品だろう。
丸腰の今の彼は、牙を抜かれた獅子のようなものだ。
その時だった。
集会所の扉が乱暴に開かれ、若い兎人の青年が転がり込んできた。
「た、大変だ! ラトル団長! ユウタ様!」
「どうした、そんなに慌てて!」
「海岸線の見回りに行ったら……東の岩場に、難破船が引っかかってるのを見つけたんです!」
「なんだと!?」
イグニスが弾かれたように立ち上がる。
「だ、だが……俺たちが着いた時には、すでに先客がいました。……コボルト族の群れです!」
「ッ!?」
「奴ら、船の中を漁って……何かデカい金属の塊みたいなのを、ごっそり奪っていきました。おそらく、あれは……」
ドォォォンッ!!
イグニスの拳が、近くの木のテーブルを粉砕した。
勇太たちが息を呑む中、赤銅色の顔が憤怒で赤黒く染まっていく。
「コボルト……あの卑しい犬コロどもが……! 俺の船を、俺の『魂』を漁っただとぉっ!?」
誇り高き竜人の武具が、ハイエナのようなスカベンジャー(屍肉あさり)に汚された。
その屈辱は、死ぬことよりも耐え難い。
「許さん……! 今すぐ取り返してやる!」
殺気を撒き散らし、外へ出ようとするイグニス。だが、病み上がりの足がもつれ、巨体が傾く。
「っと! 無茶だよイグニス!」
「落ち着きなさい、まだ身体は本調子じゃないわ!」
勇太とリーシャが慌てて支える。
「離せッ! 俺の戦斧がなきゃ、俺は……!」
「だから、僕たちが行くって言ってるんだ!」
勇太の鋭い声に、イグニスが動きを止めた。
「……あ?」
「君一人で行かせはしない。言っただろう、僕たちはもう『友達』だって」
勇太はイグニスの目を真っ直ぐに見据えた。
「君の武器は、僕たちのパーティにとっても必要な戦力だ。コボルトなんかに渡してたまるか」
「ユウタ……」
「行きましょう、イグニスさん! 私も許せません、泥棒なんて!」
キャルルが憤慨して拳を握る。
「コボルトの巣穴なら、魔力の痕跡ですぐに見つけられるわ。……行きがけの駄賃に、焼き払ってあげる」
リーシャも静かに、しかし冷たい怒りを燃やしている。
三人の覚悟を見て、イグニスの目から殺気が消え、代わりに熱いものが込み上げた。
彼は鼻をすすり、ニカリと笑った。
「……へっ、お人好しな連中だぜ。頼む、手を貸してくれ」
「任された」
準備は迅速に行われた。
勇太は「地球ショッピング」で、全員分のスポーツドリンク(電解質補給用)と、カロリーメイトのような携帯食、そしてグロックの予備弾薬を補充した。
問題は、丸腰のイグニスの武器だ。
「おい、トカゲの旦那! これを持ってきな!」
鍛冶師ウルジが、よろめきながら「何か」を担いでやってきた。
それは、建築資材用の「鉄箍(てつたが)を嵌めた樫の丸太」だった。
ただの資材だが、重量は50キロを超えている。
「俺の工房にあった端材だ。あんたの戦斧に比べりゃ爪楊枝だろうが、素手よりはマシだろ」
「……ふん、悪くねえ重さだ」
イグニスはそれを片手で軽々と受け取ると、ブンッと空気を引き裂く音を立てて振り回した。
並の人間なら持ち上げることすら困難な質量兵器。それを小枝のように扱う怪力に、勇太は戦慄した。
(このパワー……やっぱり、とんでもない戦力になるぞ)
「コボルトの群れは、東の岬の洞窟へ向かいました!」
報告を受けたラトルが頷く。
「よし、村の守りは俺たちに任せろ。ユウタ、暴れてこい!」
「はい、行ってきます!」
勇太の号令一下。
蒼き薙刀の勇太。
剛脚のキャルル。
殲滅魔法のリーシャ。
そして、鉄の丸太を担いだ憤怒の竜人イグニス。
最強の布陣となった一行は、コボルト族の痕跡を追って、東の海岸線へと疾走した。
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