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EP 21
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竜人イグニスと初めての雑炊
ルナキャロット村の集会所。
運び込まれた巨躯の竜人族――イグニスが意識を取り戻したのは、勇太による点滴が一本空になった頃だった。
「……ん、ぐ……。ここは……?」
重い瞼を持ち上げると、ぼやけた視界に、心配そうに覗き込む人間の若者と、兎人、エルフの姿が映った。
「気が付きましたか! 良かった……」
若者――勇太が、心底ホッとしたように息を吐く。
「僕はナカムラ・ユウタ。ここはルナキャロット村です。貴方は海を漂流していて……僕たちの網にかかったんですよ」
「網だと……? そうか、俺は嵐で船をやられて……」
イグニスは上半身を起こそうとしたが、腕に力が入らない。
血管には管(点滴)が繋がれ、全身の傷は丁寧に縫合されている。
「……世話になったな。礼を言う」
イグニスは竜人族の誇りにかけて、掠れた声で、しかしはっきりと礼を述べた。
見た目は凶悪だが、義理堅い性格らしい。
「いえ、当然のことをしただけです。まだ動かないでくださいね、脱水と栄養失調が酷いので」
「ああ……。だが、医者殿。すまないが……」
イグニスの腹の底から、グゥゥゥゥ――ッと、雷鳴のような音が響き渡った。
そのあまりの音量に、部屋の空気が振動し、キャルルが「きゃっ」と耳を押さえて笑い出す。
「腹が、減った……。死ぬほど……。肉を、肉をくれ……」
「ダメです」
勇太は即答した。
「今の貴方の胃腸は弱りきっています。いきなり固形物や脂っこいものを食べたら、体がショックを起こして最悪の場合、死にます」
「な、なんだと……? 飯を食って死ぬだと……?」
「ええ。だから、まずは『リハビリ食』から始めましょう。……任せてください、最高に体に良くて、美味いものを作りますから」
勇太はニヤリと笑うと、ボードを展開した。
今のイグニスに必要なのは、消化が良く、エネルギーになり、体を温めるもの。
選んだのは**『卵雑炊セット』**だ。
新潟県産コシヒカリ(レトルトご飯)
「極み」あごだしパック
新鮮卵(トライバード)
刻みネギ、おろし生姜チューブ
勇太は手際よくカセットコンロをセットし、土鍋に水を張って「だしパック」を投入した。
火にかけるとすぐに、部屋の空気が一変した。
「……む?」
イグニスの鼻がピクリと動く。
磯の香りに似ているが、もっと上品で、奥深い香り。カツオとトビウオ(あご)の旨味が凝縮された湯気が、食欲を暴力的に刺激する。
「なんだ、この匂いは……。海の匂いがするが、嫌な生臭さがない……?」
「『出汁(だし)』と言って、僕の故郷の料理の命です」
勇太はご飯を投入して煮立たせ、最後に溶き卵を回し入れた。
半熟の状態で火を止め、刻みネギとおろし生姜を添える。
「はい、完成です。『特製・黄金卵雑炊』です」
差し出された土鍋の中では、黄金色のスープを吸った米と、ふわふわの卵が輝いていた。
「これが、飯……? 飲み物のような見た目だが……」
イグニスは疑わしそうにしながらも、レンゲでひと掬いし、口へと運んだ。
その瞬間。
カッ! と、黄金の瞳孔が限界まで見開かれた。
「――ッ!!?」
言葉が出ない。
魚介の濃厚な旨味(イノシン酸)と、昆布の旨味(グルタミン酸)の相乗効果。
それが、弱りきった五臓六腑に、染み渡るように広がっていく。
噛む必要すらない柔らかい米。卵の甘み。そして後から来る生姜のポカポカとした熱。
「う、旨い……ッ!!」
イグニスは震える声で唸った。
「なんだこれは! 故郷で食っていた焼き肉とは次元が違う! 優しい……とてつもなく優しい味だ……! 体の芯から力が湧いてくるようだ!」
「熱いので、ゆっくり食べてくださいね」
「待てぬッ!」
イグニスは豪快に、しかし一粒も残さぬように、夢中で雑炊をかき込んだ。
ハフハフと熱い息を吐きながら、土鍋を傾け、最後の一滴までスープを飲み干す。
「ぷはーッ!! ……生き返った!!」
空になった土鍋を置き、イグニスは満足げに天を仰いだ。
その目じりには、あまりの美味さと安堵からか、うっすらと涙が浮かんでいた。
「ユウタ、と言ったな。……お前は魔法使いか? それとも食の神か?」
「ただの医者で、料理好きですよ」
勇太が照れくさそうに笑うと、キャルルとリーシャも「よかったですね」と微笑みかけた。
「……改めて礼を言う。俺の名はイグニス・ドラグーン。竜人族の戦士だ」
イグニスは居住まいを正し、勇太の目を真っ直ぐに見据えた。
「訳あって故郷を捨て、海を渡ってきた。……だが、この一飯の恩は一生忘れん。俺の命と剣は、今この時からお前のものだ」
「いや、そんな重い話じゃなくて……。でも、友達になれたら嬉しいです」
「フッ、欲のない男だ。……いいだろう、『友達(ダチ)』か。悪くない」
イグニスはニカリと笑い、勇太に向けて大きな拳を突き出した。
勇太もまた、自分の拳をコツンと合わせる。
出汁の香りが漂う部屋で、種族を超えた新たな友情――そして最強の前衛職(タンク)――が、勇太のパーティに加わったのだった。
ルナキャロット村の集会所。
運び込まれた巨躯の竜人族――イグニスが意識を取り戻したのは、勇太による点滴が一本空になった頃だった。
「……ん、ぐ……。ここは……?」
重い瞼を持ち上げると、ぼやけた視界に、心配そうに覗き込む人間の若者と、兎人、エルフの姿が映った。
「気が付きましたか! 良かった……」
若者――勇太が、心底ホッとしたように息を吐く。
「僕はナカムラ・ユウタ。ここはルナキャロット村です。貴方は海を漂流していて……僕たちの網にかかったんですよ」
「網だと……? そうか、俺は嵐で船をやられて……」
イグニスは上半身を起こそうとしたが、腕に力が入らない。
血管には管(点滴)が繋がれ、全身の傷は丁寧に縫合されている。
「……世話になったな。礼を言う」
イグニスは竜人族の誇りにかけて、掠れた声で、しかしはっきりと礼を述べた。
見た目は凶悪だが、義理堅い性格らしい。
「いえ、当然のことをしただけです。まだ動かないでくださいね、脱水と栄養失調が酷いので」
「ああ……。だが、医者殿。すまないが……」
イグニスの腹の底から、グゥゥゥゥ――ッと、雷鳴のような音が響き渡った。
そのあまりの音量に、部屋の空気が振動し、キャルルが「きゃっ」と耳を押さえて笑い出す。
「腹が、減った……。死ぬほど……。肉を、肉をくれ……」
「ダメです」
勇太は即答した。
「今の貴方の胃腸は弱りきっています。いきなり固形物や脂っこいものを食べたら、体がショックを起こして最悪の場合、死にます」
「な、なんだと……? 飯を食って死ぬだと……?」
「ええ。だから、まずは『リハビリ食』から始めましょう。……任せてください、最高に体に良くて、美味いものを作りますから」
勇太はニヤリと笑うと、ボードを展開した。
今のイグニスに必要なのは、消化が良く、エネルギーになり、体を温めるもの。
選んだのは**『卵雑炊セット』**だ。
新潟県産コシヒカリ(レトルトご飯)
「極み」あごだしパック
新鮮卵(トライバード)
刻みネギ、おろし生姜チューブ
勇太は手際よくカセットコンロをセットし、土鍋に水を張って「だしパック」を投入した。
火にかけるとすぐに、部屋の空気が一変した。
「……む?」
イグニスの鼻がピクリと動く。
磯の香りに似ているが、もっと上品で、奥深い香り。カツオとトビウオ(あご)の旨味が凝縮された湯気が、食欲を暴力的に刺激する。
「なんだ、この匂いは……。海の匂いがするが、嫌な生臭さがない……?」
「『出汁(だし)』と言って、僕の故郷の料理の命です」
勇太はご飯を投入して煮立たせ、最後に溶き卵を回し入れた。
半熟の状態で火を止め、刻みネギとおろし生姜を添える。
「はい、完成です。『特製・黄金卵雑炊』です」
差し出された土鍋の中では、黄金色のスープを吸った米と、ふわふわの卵が輝いていた。
「これが、飯……? 飲み物のような見た目だが……」
イグニスは疑わしそうにしながらも、レンゲでひと掬いし、口へと運んだ。
その瞬間。
カッ! と、黄金の瞳孔が限界まで見開かれた。
「――ッ!!?」
言葉が出ない。
魚介の濃厚な旨味(イノシン酸)と、昆布の旨味(グルタミン酸)の相乗効果。
それが、弱りきった五臓六腑に、染み渡るように広がっていく。
噛む必要すらない柔らかい米。卵の甘み。そして後から来る生姜のポカポカとした熱。
「う、旨い……ッ!!」
イグニスは震える声で唸った。
「なんだこれは! 故郷で食っていた焼き肉とは次元が違う! 優しい……とてつもなく優しい味だ……! 体の芯から力が湧いてくるようだ!」
「熱いので、ゆっくり食べてくださいね」
「待てぬッ!」
イグニスは豪快に、しかし一粒も残さぬように、夢中で雑炊をかき込んだ。
ハフハフと熱い息を吐きながら、土鍋を傾け、最後の一滴までスープを飲み干す。
「ぷはーッ!! ……生き返った!!」
空になった土鍋を置き、イグニスは満足げに天を仰いだ。
その目じりには、あまりの美味さと安堵からか、うっすらと涙が浮かんでいた。
「ユウタ、と言ったな。……お前は魔法使いか? それとも食の神か?」
「ただの医者で、料理好きですよ」
勇太が照れくさそうに笑うと、キャルルとリーシャも「よかったですね」と微笑みかけた。
「……改めて礼を言う。俺の名はイグニス・ドラグーン。竜人族の戦士だ」
イグニスは居住まいを正し、勇太の目を真っ直ぐに見据えた。
「訳あって故郷を捨て、海を渡ってきた。……だが、この一飯の恩は一生忘れん。俺の命と剣は、今この時からお前のものだ」
「いや、そんな重い話じゃなくて……。でも、友達になれたら嬉しいです」
「フッ、欲のない男だ。……いいだろう、『友達(ダチ)』か。悪くない」
イグニスはニカリと笑い、勇太に向けて大きな拳を突き出した。
勇太もまた、自分の拳をコツンと合わせる。
出汁の香りが漂う部屋で、種族を超えた新たな友情――そして最強の前衛職(タンク)――が、勇太のパーティに加わったのだった。
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