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EP 20
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海からの来訪者と竜の戦士
ルナキャロット村の防衛戦から数週間。
有刺鉄線とソ-ラーライトによって「夜の安全」を手に入れた勇太は、次に「食の安定」へと着手していた。
村は海に面しているが、漁獲量は不安定だ。主な漁法が、岩場からの釣りや、脆い植物繊維の網を使った小規模なものだったからだ。
「もっと効率的に、根こそぎ獲る方法があるはずだ……」
勇太はボードを展開し、**『漁具・アウトドア』**カテゴリを検索した。
そして、ラトルやウルジ、村の漁師たちを集めて、ある「革命的な素材」を見せた。
「なんだ、この網は? 蜘蛛の糸みたいに細くて軽いのに、手で引っ張ってもびくともしねえぞ!?」
ウルジが、勇太の出した**『業務用ナイロン製地引網(100m)』を引っ張り、驚愕の声を上げた。
従来の麻網とは次元が違う。水を含んでも重くならず、岩に擦れても切れず、腐らない。
勇太はこの網を使い、村人総出で行う「地引網漁」**を提案した。
そして、太陽が夏の日差しを注ぐ、波穏やかな午後。
ルナキャロット村の白い砂浜には、期待に胸を膨らませた村人たちが集結していた。
「いくぞー! 野郎ども、腰を入れて引けぇぇ!!」
「「「オーーーッ!!」」」
ラトルの野太い号令と共に、数十人の村人がロープを引く。
子供たちも、キャルルも、リーシャも一緒だ。
沖合に船で広げた巨大なナイロン網が、半円を描いて手繰り寄せられていく。
「お、重いっ!」「なんだこの手応えは!?」
「網が破れるぞ!?」「いや、ユウタの網は切れねえ! 思いっきり引け!」
ズズズッ、と砂浜を削りながら、網の本体が波打ち際に姿を現す。
その瞬間、海面が沸騰したように泡立った。
「うわあああ! 見ろ、銀色の山だ!」
網の中には、無数の魚がひしめき合い、太陽を反射してギラギラと輝いていた。
鯛に似た魚、青魚の群れ、見たこともない甲殻類。
予想を遥かに超える大漁だ。
「やったー!」「すごいぞユウタ!」「今夜は魚祭りだぁ!」
歓声が爆発する。
だが、網の中心部――一番重い部分が砂浜に引きずり上げられた時、勇太の目が点になった。
魚の山に混じって、海藻と流木に絡まった**「とてつもない異物」**が横たわっていたからだ。
「……あれは?」
魚ではない。
身の丈2メートルを超える巨躯。
全身を覆うのは、鋼鉄よりも硬そうな赤銅色(しゃくどういろ)の鱗。
側頭部から突き出た二本の鋭い角と、丸太のように太い尻尾。
それは、御伽噺に出てくる「竜」が、そのまま人の形をとったような姿だった。
「な、なんだこりゃあ!?」「り、竜人族(ドラゴニュート)……!?」
「おい、死んでるのか!?」
歓声が悲鳴に変わる。
竜人族。戦闘種族として名高い彼らは、この辺境では伝説に近い存在だ。
その威圧感は、気を失っていてもなお、草食動物である兎人たちを畏縮させるのに十分だった。
「みんな下がれ! 噛みつかれるぞ!」
ラトルが子供たちを庇うように前に出る。
だが、勇太は違った。医者の目が、即座に状況を分析していた。
(チアノーゼが出てる。脱水と低体温症、それに多量の出血……!)
「待ってくださいラトルさん! ……怪我をしています! まだ生きてる!」
勇太は恐怖心を押さえ込み、その巨体に駆け寄った。
首筋の鱗の隙間に指を当てる。
脈は弱く、速い。呼吸も浅い。
「酷い衰弱だわ……。見て、この傷。嵐に遭っただけじゃない。何か鋭利な刃物で斬られたような古傷がある」
リーシャも駆け寄り、杖をかざして診断する。
竜人の服はずたずたに裂け、握りしめられた手は、失った武器を求めているかのように硬直していた。
「このままだと死にます! すぐに集会場へ運んでください!」
「し、しかし……」
「ラトルさん! 敵か味方かは、助けてから考えましょう!」
勇太の気迫に、ラトルがハッとして頷いた。
「……ちっ、違げえねえ! 野郎ども、手を貸せ! こいつは岩みたいに重いぞ!」
男たち数人がかりで竜人を担ぎ上げ、村へと走る。
勇太は走りながらボードを操作し、必要な物資を検索した。
今必要なのは、ポーションでも魔法でもない。ショック状態にある体への、直接的な水分と栄養の補給だ。
集会場のベッドに竜人を寝かせると、勇太は手際よく動いた。
『医療用点滴セット』『リンゲル液』『抗生物質』。合計300P。
「ユウタ、それは……?」
キャルルが、透明なパックと管を見て目を丸くする。
「『点滴』と言って、血管に直接水と薬を入れる道具です。口から飲めない時はこれが一番早い」
勇太は竜人の太い腕を探り、硬い鱗と皮膚の隙間にある静脈を見つけ、慎重に針を刺した。
チューブの中を透明な液体が流れ、竜人の体へと吸い込まれていく。
その光景は、村人たちにとって魔法以上に神秘的な「医術」の儀式に見えた。
「すごい……。顔色が、少しずつ戻ってきてる」
数時間後。
日が傾き、集会場が夕焼けに染まる頃。
点滴が半分ほど減ったところで、竜人の喉がゴロゴロと鳴った。
「ん……ぐ、ぅ……」
低い、地響きのような唸り声。
赤銅色の瞼が震え、ゆっくりと持ち上がる。
そこに現れたのは、猛禽類のように鋭く、黄金に輝く縦長の瞳孔だった。
「――ッ!?」
竜人はガバッと上半身を起こし、反射的に腰へと手を伸ばした。
だが、そこにあるはずの剣はない。
代わりに、腕には透明な管(点滴)が繋がれ、目の前には不思議な服を着た人間と、兎人たちが心配そうに自分を見つめている。
「ここは……。貴様ら、は……」
重厚な声が響く。
勇太は一歩前に出て、静かに告げた。
「ルナキャロット村です。貴方は浜に打ち上げられていたんですよ」
黄金の瞳が勇太を射抜き、そして自分の腕の管へと視線を落とす。
海からの来訪者と、異界の医師。
新たな物語の歯車が、静かに回り始めた。
ルナキャロット村の防衛戦から数週間。
有刺鉄線とソ-ラーライトによって「夜の安全」を手に入れた勇太は、次に「食の安定」へと着手していた。
村は海に面しているが、漁獲量は不安定だ。主な漁法が、岩場からの釣りや、脆い植物繊維の網を使った小規模なものだったからだ。
「もっと効率的に、根こそぎ獲る方法があるはずだ……」
勇太はボードを展開し、**『漁具・アウトドア』**カテゴリを検索した。
そして、ラトルやウルジ、村の漁師たちを集めて、ある「革命的な素材」を見せた。
「なんだ、この網は? 蜘蛛の糸みたいに細くて軽いのに、手で引っ張ってもびくともしねえぞ!?」
ウルジが、勇太の出した**『業務用ナイロン製地引網(100m)』を引っ張り、驚愕の声を上げた。
従来の麻網とは次元が違う。水を含んでも重くならず、岩に擦れても切れず、腐らない。
勇太はこの網を使い、村人総出で行う「地引網漁」**を提案した。
そして、太陽が夏の日差しを注ぐ、波穏やかな午後。
ルナキャロット村の白い砂浜には、期待に胸を膨らませた村人たちが集結していた。
「いくぞー! 野郎ども、腰を入れて引けぇぇ!!」
「「「オーーーッ!!」」」
ラトルの野太い号令と共に、数十人の村人がロープを引く。
子供たちも、キャルルも、リーシャも一緒だ。
沖合に船で広げた巨大なナイロン網が、半円を描いて手繰り寄せられていく。
「お、重いっ!」「なんだこの手応えは!?」
「網が破れるぞ!?」「いや、ユウタの網は切れねえ! 思いっきり引け!」
ズズズッ、と砂浜を削りながら、網の本体が波打ち際に姿を現す。
その瞬間、海面が沸騰したように泡立った。
「うわあああ! 見ろ、銀色の山だ!」
網の中には、無数の魚がひしめき合い、太陽を反射してギラギラと輝いていた。
鯛に似た魚、青魚の群れ、見たこともない甲殻類。
予想を遥かに超える大漁だ。
「やったー!」「すごいぞユウタ!」「今夜は魚祭りだぁ!」
歓声が爆発する。
だが、網の中心部――一番重い部分が砂浜に引きずり上げられた時、勇太の目が点になった。
魚の山に混じって、海藻と流木に絡まった**「とてつもない異物」**が横たわっていたからだ。
「……あれは?」
魚ではない。
身の丈2メートルを超える巨躯。
全身を覆うのは、鋼鉄よりも硬そうな赤銅色(しゃくどういろ)の鱗。
側頭部から突き出た二本の鋭い角と、丸太のように太い尻尾。
それは、御伽噺に出てくる「竜」が、そのまま人の形をとったような姿だった。
「な、なんだこりゃあ!?」「り、竜人族(ドラゴニュート)……!?」
「おい、死んでるのか!?」
歓声が悲鳴に変わる。
竜人族。戦闘種族として名高い彼らは、この辺境では伝説に近い存在だ。
その威圧感は、気を失っていてもなお、草食動物である兎人たちを畏縮させるのに十分だった。
「みんな下がれ! 噛みつかれるぞ!」
ラトルが子供たちを庇うように前に出る。
だが、勇太は違った。医者の目が、即座に状況を分析していた。
(チアノーゼが出てる。脱水と低体温症、それに多量の出血……!)
「待ってくださいラトルさん! ……怪我をしています! まだ生きてる!」
勇太は恐怖心を押さえ込み、その巨体に駆け寄った。
首筋の鱗の隙間に指を当てる。
脈は弱く、速い。呼吸も浅い。
「酷い衰弱だわ……。見て、この傷。嵐に遭っただけじゃない。何か鋭利な刃物で斬られたような古傷がある」
リーシャも駆け寄り、杖をかざして診断する。
竜人の服はずたずたに裂け、握りしめられた手は、失った武器を求めているかのように硬直していた。
「このままだと死にます! すぐに集会場へ運んでください!」
「し、しかし……」
「ラトルさん! 敵か味方かは、助けてから考えましょう!」
勇太の気迫に、ラトルがハッとして頷いた。
「……ちっ、違げえねえ! 野郎ども、手を貸せ! こいつは岩みたいに重いぞ!」
男たち数人がかりで竜人を担ぎ上げ、村へと走る。
勇太は走りながらボードを操作し、必要な物資を検索した。
今必要なのは、ポーションでも魔法でもない。ショック状態にある体への、直接的な水分と栄養の補給だ。
集会場のベッドに竜人を寝かせると、勇太は手際よく動いた。
『医療用点滴セット』『リンゲル液』『抗生物質』。合計300P。
「ユウタ、それは……?」
キャルルが、透明なパックと管を見て目を丸くする。
「『点滴』と言って、血管に直接水と薬を入れる道具です。口から飲めない時はこれが一番早い」
勇太は竜人の太い腕を探り、硬い鱗と皮膚の隙間にある静脈を見つけ、慎重に針を刺した。
チューブの中を透明な液体が流れ、竜人の体へと吸い込まれていく。
その光景は、村人たちにとって魔法以上に神秘的な「医術」の儀式に見えた。
「すごい……。顔色が、少しずつ戻ってきてる」
数時間後。
日が傾き、集会場が夕焼けに染まる頃。
点滴が半分ほど減ったところで、竜人の喉がゴロゴロと鳴った。
「ん……ぐ、ぅ……」
低い、地響きのような唸り声。
赤銅色の瞼が震え、ゆっくりと持ち上がる。
そこに現れたのは、猛禽類のように鋭く、黄金に輝く縦長の瞳孔だった。
「――ッ!?」
竜人はガバッと上半身を起こし、反射的に腰へと手を伸ばした。
だが、そこにあるはずの剣はない。
代わりに、腕には透明な管(点滴)が繋がれ、目の前には不思議な服を着た人間と、兎人たちが心配そうに自分を見つめている。
「ここは……。貴様ら、は……」
重厚な声が響く。
勇太は一歩前に出て、静かに告げた。
「ルナキャロット村です。貴方は浜に打ち上げられていたんですよ」
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