『地球ショッピング』で異世界を快適に!~医学生、善行ポイントで現代物資を取り寄せ、兎の村を最強要塞に変える~

月神世一

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EP 38

知的好奇心と乙女たちの成長
​勇太が開いた「青空教室」は、子供たちだけでなく、パーティメンバーにも劇的な化学反応(ケミストリー)をもたらした。
​夜、集会所の一角。
ランプの灯りの下で、リーシャは勇太が取り寄せた『図解・化学の基礎』と『天体写真集』を、食い入るように見つめていた。
​「……信じられない。炎が燃えるには『酸素』が必要で、その酸素はこの空気中に2割しか含まれていない……?」
​リーシャが顔を上げ、勇太に問いかける。
​「ユウタ。もし、風魔法で空気中の『酸素』だけを集めて、そこに火種を投じたら……どうなるの?」
​「理論上は、燃焼効率が劇的に上がって、温度が高くなるはずだよ。赤い炎じゃなくて、青い炎になるくらいに」
​「青い……炎……」
​リーシャは庭へ飛び出すと、早速実験を始めた。
いつもの『ファイア・ボール』ではない。まず風魔法で周囲の空気を選別・圧縮し、中心に濃密な酸素の渦を作る。そこへ着火。
​ボッ!! シュゴオオオオオッ!!
​「きゃっ!?」
​爆音と共に生まれたのは、いつもの赤い火球ではなかった。
中心が透き通るような蒼色に輝く、超高温のプラズマごとき炎。
それが一瞬で薪を炭化させ、白い灰にしてしまった。
​「すごい……! 魔力消費は同じなのに、威力が倍以上だわ! これが『科学』の理(ことわり)なのね!」
​リーシャは興奮で頬を紅潮させた。
「感覚」で操っていた魔法に、「理屈」という骨組みが通った瞬間だった。彼女はもはや、ただのエルフの魔法使いではない。**「魔導科学者(マジック・サイエンティスト)」**への第一歩を踏み出したのだ。
​一方、キャルルもまた、別の種類の興奮に包まれていた。
彼女が読んでいるのは『実戦格闘術・解剖学図譜』。
骨格や筋肉の付き方、神経の通り道が詳細に描かれた専門書だ。
​「ユウタさん! 人間の顎(あご)って、こんなに弱い力で揺らせるんですね!」
​キャルルは自分の顎を触りながら、目を輝かせた。
​「これまでは『強く叩く』ことばかり考えてました。でも、この『テコの原理』を使えば……」
​翌日の組手。
ラトル相手に、キャルルは不思議な動きを見せた。
ラトルの豪腕を真正面から受け止めるのではなく、関節の可動域ギリギリを指先で押し、体勢を崩す。そして、無防備になった顎の先端を、トンファーで軽くかすめるように打った。
​「ぬおっ!?」
​ラトルが膝から崩れ落ちた。脳が揺れ、三半規管が麻痺したのだ。
​「すごい……! ほとんど力を使ってないのに!」
​「キャルル、今の動き、達人級だったよ!」
​勇太が拍手すると、キャルルはピョンピョン跳ねて喜んだ。
解剖学を知ることで、彼女の月影流は**「破壊する武術」から「制圧する武術」**へと洗練されつつあった。
​二人のあまりの急成長ぶりに、勇太は頼もしさと共に、心地よい責任感を感じていた。
自分の知識が、この世界で彼女たちの翼になっている。
​そんなある日の昼下がり。
二人の訓練を眺めていた勇太の背後に、巨大な影が差した。
​「……おい、ユウタ」
​振り返ると、イグニスが腕を組んで立っていた。
いつもの不遜な態度はどこへやら、少しモジモジしている。
​「あー、なんだ。……ズルくねえか?」
​「え?」
​「リーシャもキャルルも、お前の本のおかげで強くなってやがる。……俺様にもなんかねえのかよ。その、最強になれる本とかよぉ」
​どうやら、仲間はずれにされて拗ねていたらしい。
勇太は苦笑しつつ、ボードを展開した。
(斧の使い方の本もいいけど……イグニスにはもっと根本的なものがいいかもな)
​「分かった。イグニスには、とっておきの『バイブル』をやるよ」
​勇太が選んだのは、ボディビルダー向けの**『解剖学的筋力トレーニング論 ~最強のバルクアップと栄養学~』**というガチムチな表紙の本だった。
​「なんだこりゃ? 裸の男が笑ってる絵だが……」
​「筋肉を効率よくデカくする方法と、そのために必要な『食事』のことが書いてあるんだ」
​「なにっ!? 食事だと!?」
​イグニスの目の色が変わった。
​「『タンパク質』……『超回復』……!? なんてこった、俺様は今まで無駄な努力をしていたのか!? 肉を食うタイミングにも『ゴールデンタイム』があるだとぉぉ!?」
​イグニスは本をひったくると、岩陰に座り込んで熟読し始めた。
時折、「プロテイン……鶏のササミ……なるほど!」と唸り声を上げている。
彼が「科学的トレーニング」と「栄養管理」を身につけた時、その怪力はさらに手がつけられないものになるだろう。
​三者三様の進化。
ルナキャロット村での穏やかな日々は、来たるべき冒険に向けて、彼らの牙と爪を静かに、しかし確実に研ぎ澄ませていた。
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