田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一

文字の大きさ
14 / 180

EP 14

しおりを挟む
竜神のラーメン屋台、開業
 夏の日差しが和らぎ、夕暮れの涼しい風が吹き始めた頃。
 カイト農場に、暴力的なまでに食欲をそそる「匂い」が漂ってきた。
「くんくん……。なんだこの匂い?」
 農作業を終えた俺、カイトは鼻をひくつかせた。
 濃厚な豚骨スープの香り。焦がしネギの香ばしさ。そして、醤油ダレの芳醇な香り。
 俺の記憶にある「日本の夜」を呼び覚ます、あの匂いだ。
「ラーメン……? まさかな」
 異世界に来てから、パンやスープはあっても、本格的なラーメンにはお目にかかっていない。
 俺は匂いの元を辿って、農場の入り口へと向かった。
 そこに、「それ」はあった。
 赤提灯に『龍神軒』の文字。
 使い込まれた木造のリアカー。
 湯気を上げる寸胴鍋。
 紛れもなく、昭和の日本を彷彿とさせる「ラーメン屋台」が、俺の敷地内に勝手に店を広げていたのだ。
「い、いらっしゃい……?」
 俺がおそるおそる声をかけると、暖簾(のれん)の奥から低い声が響いた。
「おう。待っていたぞ、この土地の主よ」
 ヌッと顔を出したのは、白髪混じりのダンディな男だった。
 彫りの深い顔立ちに、鋭い眼光。口元には葉巻を咥えている。
 だが、その頭には「ねじり鉢巻」、腰には油で汚れた「前掛け」を締めており、完全に「頑固なラーメン屋の親父」スタイルだ。
 彼こそが、世界の調停者筆頭にして最強の竜神、デュークである。
「勝手に店を広げてすまんな。だが、我はどうしてもこの場所でなければならなかったのだ」
「はあ……。まあ、道端だし構いませんけど。どうしてまたウチの農場で?」
 デュークは寸胴を巨大なレンゲで混ぜながら、ニヤリと笑った。
「匂いだよ。貴様が育てた『ネギ』と、裏の牧場にいる『オーク育ての豚』……。あの極上の素材の匂いが、空の上にいた我の鼻を貫いたのだ」
 彼は寸胴を指差した。
「このスープを見ろ。数千年の時を経て完成させた、我の『黄金スープ』だ。だが、最後のピースが欠けていた。……それが、貴様のネギとチャーシューだ!」
 熱い。この店主、ラーメンへの情熱が重すぎる。
 だが、カイトは嫌いではなかった。職人気質の人間には敬意を払うのが農家の流儀だ。
「なるほど。俺の野菜を見込んでくれたってわけですね。いいですよ、ネギならいくらでも使ってください」
「うむ! 話が早くて助かる。ならば座れ! 一杯食わせてやる!」
 俺は丸椅子に座った。
 隣には、いつの間にかポチも座り、尻尾でリズムを取りながら丼を待っている。
 さらに、匂いに釣られたフェンリル(番犬)とフレア(洗濯係)も並んでいた。
「へいお待ち! 『特製・竜神麺』だ!」
 ドンッ!
 置かれた丼の中身を見て、俺は息を呑んだ。
 黄金色に輝くスープ。その上で、俺の育てたネギが宝石のように散りばめられ、分厚いチャーシューがトロトロに煮込まれている。
「いただきます!」
 俺は麺を一気に啜った。
 ズゾゾゾッ……!
「――ッ!? う、美味い!!」
 衝撃が脳天を突き抜けた。
 濃厚なのに後味はスッキリとした豚骨醤油。麺はコシがあり、スープを完璧に持ち上げる。
 何より、俺のネギの辛味と甘味が、スープの旨味を極限まで引き立てている。
「なんだこれ、店で食べるレベルじゃないぞ! 神の食べ物だ!」
「フハハハ! そうだろうそうだろう! ルチアナ(女神)から製法を聞き出し、我が独自に昇華させた至高の一杯だ!」
 デュークは高笑いした。
 ポチも「きゅるっ!(替え玉!)」と丼を突き出し、フェンリルに至っては「うめぇ! これなら一生ここで番犬やるわ!」と涙を流している。
 まさに、大盛況。
 カイト農場に、新たな名物スポットが誕生した瞬間だった。
 †
 ――悲劇が起きたのは、その数分後だった。
 上空から、疲れ切ったドラゴンが降りてきた。
 竜王ドラグラスである。
 彼は今日も、一族のゴタゴタで胃に穴が空きそうになり、カイトのキャベツを求めてやってきたのだ。
「はぁ……。今日も若者たちが『俺TUEEEしたい』と言って里を出ていった……。カイト殿、胃薬(キャベツ)をくれ……」
 フラフラと歩くドラグラスの目に、見慣れない赤提灯が飛び込んできた。
 そして、そこから漂う暴力的なまでに美味そうな匂い。
「む? 屋台か? カイト殿が新商売でも始めたのか?」
 ドラグラスは何気なく屋台に近づき、そして中の店主と目が合った。
「……あ?」
 時が止まった。
 ねじり鉢巻をした、渋いイケオジ。
 間違いない。一族の祭壇に祀られている御神体(ごしんたい)。
 竜人族が崇拝してやまない、偉大なる竜神デューク様その人ではないか。
(な、ななな、なぜ竜神様がここに!? しかも屋台!? 前掛け!?)
 ドラグラスの脳が処理落ちする。
 さらに、彼の視界に信じられない光景が飛び込んできた。
 竜神デュークが、「ほらよ、お待ち!」と言ってラーメンを出した相手。
 それは、竜人族にとっての禁忌であり始祖である、あのポチ様だった。
 【竜神様(神)が、ラーメンを作って、始祖様(王)に給仕している】
 ドラグラスの世界観が崩壊した。
 あまりのショックに、胃の痛みなど彼方へ吹き飛んだ。
「あ、あわわ……か、神よ……始祖よ……」
 ドラグラスが白目を剥いて震えていると、デュークが面倒くさそうに顔をしかめた。
「あ? なんだその貧相なツラは。……チッ、ドラグラスか。邪魔だぞ、湯切りのしぶきがかかる」
 神様からの第一声が「邪魔だ」だった。
「ひぃっ!? も、申し訳ございませんッ!!」
 ドラグラスはその場にジャンピング土下座をした。
 地面に額がめり込む。
「カイト殿ぉぉ! これは一体どういう状況なのですかぁぁ!?」
 ドラグラスの絶叫に、カイトは呑気にラーメンを啜りながら答えた。
「ああ、ドラグラスさん。いらっしゃい。この屋台の親父さん、すっげー腕がいいんだよ。知り合い?」
「し、知り合いどころか……!」
 崇拝対象です。と言おうとしたが、デュークが鋭い視線で「余計なことを言ったらスープの出汁にするぞ」と牽制してきたため、言葉を飲み込んだ。
「……へ、ヘイ。私の……遠い親戚の叔父のような方でして……」
「へえ、親戚だったのか! 通りで威厳があると思ったよ。じゃあドラグラスさんも一杯どう? おごるよ」
 カイトに勧められ、ドラグラスは震える手で丼を受け取った。
 神が作り、カイト(規格外)の素材が入り、始祖竜と並んで食べるラーメン。
 一口食べた瞬間、ドラグラスはあまりの尊さと美味さに、静かに意識を失った。
 †
 翌日。
 農場の片隅に、屋台「龍神軒」が正式オープンした。
 店主:頑固親父(竜神デューク)
 常連客:黒いトカゲ、不死鳥、狼男、胃痛持ちの中年(竜王)。
 カイトは満足げに看板を眺めていた。
「うん、農作業の後のラーメンは最高だな。いい店が入ってくれたよ」
 一方、デュークは寸胴をかき混ぜながら、空を見上げてニヤリと笑った。
 「ここには極上の豚とネギ、そして面白い連中がいる。……世界管理の仕事など、フレアに任せておけばよいわ」
 遠くの空で、仕事を丸投げされたフレア(本体は屋敷で掃除中)がくしゃみをしたような気がしたが、誰も気にしなかった。
 こうして、カイト農場の「カロリー」と「戦力」は、また一つ跳ね上がったのである。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。  そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。   しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。   ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。   武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」  登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。   これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。

『推しの「貧乏騎士」を養うつもりでしたが、正体は「王弟殿下」だったようです。

とびぃ
ファンタジー
応援ありがとうございます。 本作は多くの方にお届けする準備のため、2月6日(金)で、一旦、非公開といたします。 今後の展開については、是非、各電子書籍ストアなどでチェックいただければ幸いです。 短い間でしたが、たくさんのハートとお気に入りを ありがとうございました。 〜「管理人のふり」をして別荘に連れ込まれましたが、過保護な溺愛が止まりません〜 【作品紹介】社畜根性が染み付いた悪役令嬢、推しの『モブ騎士』を養うつもりが、国の裏支配者に溺愛されていました!? ◆あらすじ 「貴方を、私が養います!」  前世はブラック企業の社畜、現世は借金のカタに「豚侯爵」へ売られそうになっていた伯爵令嬢エリーゼ。  絶望的な状況の中、彼女が起死回生の一手として選んだのは、夜会で誰の目にも留まらずに立っていた「推し」の『背景(モブ)騎士』への求婚だった!  実家を捨て、身分を捨て、愛する推しを支える慎ましいスローライフを夢見て駆け落ちしたエリーゼ。  しかし、彼女は知らなかった。  自分が拾ったその騎士の正体が、実は冷酷無比な『影の宰相』にして、国一番の権力者である王弟殿下レオンハルトその人であることを――! ◆見どころポイント ① 勘違いが止まらない!「福利厚生」という名の規格外な溺愛  逃避行の馬車は王族仕様の超高級車、新居は湖畔の豪華別荘、家事は精鋭部隊(暗殺者)が神速で完遂!  あまりの厚遇に「近衛騎士団の福利厚生ってすごいのね!」と斜め上の解釈で感動する元社畜のエリーゼと、そんな彼女を「俺の全権力を使って守り抜く」と誓うレオンハルト様の、噛み合っているようで全く噛み合っていない甘々な新婚(?)生活は必見です。 ② 伝説の魔獣も「わんこ」扱い!?  庭で拾った泥だらけの毛玉を「お洗濯(浄化魔法)」したら、出てきたのは伝説の終焉魔獣フェンリル!  「ポチ」と名付けられ、エリーゼの膝の上を巡ってレオンハルト様と大人気ないマウント合戦を繰り広げる最強のペット(?)との癒やしの日々も見逃せません。 ③ 迫りくる追手は、玄関先で「お掃除(物理)」  エリーゼを連れ戻そうと迫る実家の魔手や悪徳侯爵の刺客たち。  しかし、彼らがエリーゼの目に触れることはありません。なぜなら、最強の執事と「お掃除スタッフ」たちが、文字通り塵一つ残さず「処理」してしまうから!  本人が鼻歌交じりにお菓子を焼いている裏で、敵が完膚なきまでに叩き潰される爽快な「ざまぁ」展開をお楽しみください。 ◆こんな方におすすめ! すれ違い勘違いラブコメが好き! ハイスペックなヒーローによる重すぎる溺愛を浴びたい! 無自覚な主人公が、周りを巻き込んで幸せになる話が読みたい! 悪役たちがコテンパンにされるスカッとする展開が好き!

異世界の底辺村で静かに暮らしたいだけなのに、気づけば世界最強の勇者だった件

fuwamofu
ファンタジー
「村の畑を守りたいだけなんだが…?」──勇者召喚に巻き込まれて異世界に来た青年レオン。しかし才能を測る水晶が“無能”を示したため、勇者パーティから追放される。失意のまま辺境の小村でのんびりスローライフを目指すが、土を耕せば豊穣の奇跡、狩りに出れば魔王級を一撃、助けた少女たちは次々と彼に恋をする。 本人はただ平穏に暮らしたいだけなのに、気づけば国を救い、人々に「救世の英雄」と讃えられていた──。 ざまぁ、逆転、ハーレム、爽快、全部乗せ! 無自覚最強スローライフ・ファンタジー開幕!

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

もふもふ精霊に愛された召喚士、実はエルフだった!? ~精霊の森の生き残りはやがて英雄となる~

しゃぼてん
ファンタジー
すぐに精霊と仲良しになれる孤児のイーアは、召喚術の才能を最強の召喚士に認められ、帝国の名門魔術学校グランドールに入学した。召喚術だけはすごいけどほかはだめ、そんなイーアは、万能天才少年な幼なじみや、いいところも悪いところもある同級生たちといっしょに学園生活を楽しんでいた。だけど、なぜかいつもイーアのことを見守る黄金色の霊獣がいる。  実はイーアは帝国の魔導士に滅ぼされた精霊とともに生きる民の生き残りだった。記憶がもどったイーアは、故郷を滅ぼした白装束の魔導士たちの正体、そして、学校の地下にかくされた秘密を追う。その結果、自分が世界を大きく変えることになるとは知らずに。 (ゆっくり成長。召喚獣は多いけど、バトルは少なめ、10万字に1回くらい戦闘しますが、主人公が強くなるのはだいぶ後です) 小説家になろう、カクヨムにも投稿しました。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

戦えない魔法で追放された俺、家電の知識で異世界の生存率を塗り替える

yukataka
ファンタジー
安全を無視したコスト削減に反対した結果、 家電メーカーの開発エンジニア・三浦恒一は「価値がない」と切り捨てられた。 降格先の倉庫で事故に巻き込まれ、彼が辿り着いたのは――魔法がすべてを決める異世界だった。 この世界では、魔法は一人一つが常識。 そんな中で恒一が与えられたのは、 元の世界の“家電”しか召喚できない外れ魔法〈異界家電召喚〉。 戦えない。派手じゃない。評価もされない。 だが、召喚した家電に応じて発現する魔法は、 戦闘ではなく「生き延びるための正しい使い方」に特化していた。 保存、浄化、環境制御―― 誰も見向きもしなかった力は、やがて人々の生活と命を静かに支え始める。 理解されず、切り捨てられてきた男が選ぶのは、 英雄になることではない。 事故を起こさず、仲間を死なせず、 “必要とされる仕事”を積み上げること。 これは、 才能ではなく使い方で世界を変える男の、 静かな成り上がりの物語。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

処理中です...