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第八章 スローライフな学校を作る
EP 6
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カイト、学校を作ろうと思い立つ
「学校……ですか?」
セーラが目を丸くした。
カイトのリビングには、まだお茶を啜っているセーラと、隙あらば財布から金を抜こうとしているリュウ、そしてポチを枕にして寝てしまったアレンがいる。
「うん。アレンくんを見てて思ったんだ」
カイトは寝息を立てるアレンの頭を優しく撫でた。
「彼はまだ小さいけど、力が有り余ってる。それに、この農場には他にもルナ(見た目は子供)や、最近移住してきた亜人の子供たちもいるだろ? 彼らが一日中、何もせずにただ遊んでいるだけなのは、教育によくないと思ってさ」
「それは……確かに、母親として常に悩んでいたことです」
セーラが表情を曇らせる。
本来ならアレンは王都の貴族学校に通う年齢だ。しかし、父が「勇者(パチンコ狂い)」で母が「聖女(パート主婦)」という特殊な家庭環境、そして何よりアレン自身の規格外な身体能力がそれを許さない。
普通の学校に行けば、体育の授業でドッジボールをしただけで死人が出る(ボールが音速を超えるため)。
「でも、受け入れてくれる場所がないんです。アレンの力は強すぎますし……魔族や亜人の子と一緒に学べる場所なんて、この大陸には……」
「だから、作るんだよ」
カイトはあっけらかんと言った。
「僕が作る。この農場の中にね」
◇
「……正気ですか?」
数分後。
呼び出された魔族宰相ルーベンスは、眉間のシワを深くしてカイトを睨んでいた。
彼は右手には愛用のコーヒー、左手にはタバコ。完全に「休憩中のオッサン」モードだったが、話の内容を聞いて仕事モード(胃痛顔)に切り替わった。
「カイト殿。学校運営というのは、建物を建てれば終わりではないのですよ? カリキュラム、教師の確保、そして何より『安全管理』。アレン殿下や魔族の子供が暴れたら、校舎など一撃で消し飛びますぞ」
ルーベンスは現実的な問題を淡々と指摘する。
彼は知っているのだ。子供の魔力暴走がいかに恐ろしいかを。ましてやここは、Sランクの化け物予備軍が集まる場所だ。
「うん、だからさ」
カイトはニカっと笑い、一枚の紙をテーブルに広げた。
「僕が設計図を書いてみたんだ。『寺子屋』みたいな、アットホームな学び舎をイメージしてね」
「ほう、寺子屋……」
ルーベンスはコーヒーを啜りながら、その図面を覗き込んだ。
「ぶふぉッ!!?」
そして、盛大にコーヒーを吹き出した。
「汚いなぁ、ルーベンスさん」
「ば、馬鹿な! 何ですかこれは!?」
ルーベンスの手が震えている。
そこに描かれていたのは、カイトの言う「寺子屋」の設計図だった。
だが、その構造は異常だった。
基礎: 地下50メートルまでオリハルコンの杭を打ち込み、耐震・耐魔法構造を完備。
壁材: 『世界樹』の巨木をそのまま加工し、衝撃吸収術式を多重展開。
窓: ダイヤモンドガラス(厚さ30cm)。
校門: サルバロスの石垣をさらに強化した『自動迎撃システム付き城門』。
「……カイト殿。これは学校ではありません」
ルーベンスは震える声で指摘した。
「これは『対・神話級ドラゴン用・最終防衛要塞』です」
「え? そうかな? 子供たちが元気に暴れても壊れないように、ちょっと頑丈にしただけだよ?」
カイトは不思議そうに首を傾げる。
彼の「ちょっと頑丈」の基準は、ポチ(始祖竜)が全力で体当たりしても無傷なレベルだ。
「それにほら、教室も工夫してるんだ。理科室には『エリクサー生成キット』を置いて、家庭科室の包丁はミスリル製にして……」
「待て待て待て! 待ってください!」
ルーベンスは額を押さえた。頭痛が痛い。
この男に常識を説いても無駄だ。だが、このままでは「学校」という名の軍事基地が爆誕し、世界各国のスパイが卒倒することになる。
「……教師は。教師はどうするおつもりで?」
「ああ、それなら心当たりがあるよ。みんないい人たちだし、子供好きだからね」
カイトは指折り数え始めた。
「校長はルチアナ(創造神)でしょ、魔法はラスティア(魔王)とルナ(大賢者)、体育はデューク(竜王)とフェンリル(狼王)にお願いしようかなって」
「……あ、あの……」
ルーベンスの顔色から血の気が引いていく。
その布陣は、学校ではない。
『ラグナロク(世界最終戦争)』のスターティングメンバーだ。
「セーラさんも、アレンくんのために保健室の先生を手伝ってくれるって言うし。龍魔呂さんには給食をお願いするつもり」
「(……給食だけが唯一の救いか)」
ルーベンスは天を仰いだ。
龍魔呂の飯は美味い。それだけが、この地獄の要塞学校における唯一のオアシスになるだろう。
「どうかな、ルーベンスさん。事務とか、手伝ってくれない?」
カイトの純粋な瞳が、ルーベンスを見つめている。
断れば、もっとデタラメな方向に暴走する未来が見える。ならば、自分が内部に入って被害を最小限に食い止める(コントロールする)しかない。
それが、苦労人ルーベンスの悲しい性(さが)だった。
「……はぁ。分かりました」
ルーベンスはタバコを灰皿に押し付け、覚悟を決めたように言った。
「私が事務長を引き受けましょう。……ただし! 予算管理と対外折衝は全て私に任せていただきます。いいですね?」
「やった! ありがとうルーベンスさん!」
カイトは満面の笑みでルーベンスの手を握った。
「じゃあ、善は急げだ。明日からさっそく着工しよう! ガンテツ(ドワーフ王)とサルバロスさんにも声をかけなきゃ!」
嬉々として部屋を出て行くカイト。
残されたルーベンスは、冷めきったコーヒーを見つめ、深く、深く溜息をついた。
「……胃薬を、多めに発注しておくか」
こうして、カイト農場史上最大のプロジェクト――『カイト分校(仮)』の建設が決定した。
それは、世界の教育水準を(物理的にも魔力的にも)数千年進める、伝説の学び舎の始まりであった。
「学校……ですか?」
セーラが目を丸くした。
カイトのリビングには、まだお茶を啜っているセーラと、隙あらば財布から金を抜こうとしているリュウ、そしてポチを枕にして寝てしまったアレンがいる。
「うん。アレンくんを見てて思ったんだ」
カイトは寝息を立てるアレンの頭を優しく撫でた。
「彼はまだ小さいけど、力が有り余ってる。それに、この農場には他にもルナ(見た目は子供)や、最近移住してきた亜人の子供たちもいるだろ? 彼らが一日中、何もせずにただ遊んでいるだけなのは、教育によくないと思ってさ」
「それは……確かに、母親として常に悩んでいたことです」
セーラが表情を曇らせる。
本来ならアレンは王都の貴族学校に通う年齢だ。しかし、父が「勇者(パチンコ狂い)」で母が「聖女(パート主婦)」という特殊な家庭環境、そして何よりアレン自身の規格外な身体能力がそれを許さない。
普通の学校に行けば、体育の授業でドッジボールをしただけで死人が出る(ボールが音速を超えるため)。
「でも、受け入れてくれる場所がないんです。アレンの力は強すぎますし……魔族や亜人の子と一緒に学べる場所なんて、この大陸には……」
「だから、作るんだよ」
カイトはあっけらかんと言った。
「僕が作る。この農場の中にね」
◇
「……正気ですか?」
数分後。
呼び出された魔族宰相ルーベンスは、眉間のシワを深くしてカイトを睨んでいた。
彼は右手には愛用のコーヒー、左手にはタバコ。完全に「休憩中のオッサン」モードだったが、話の内容を聞いて仕事モード(胃痛顔)に切り替わった。
「カイト殿。学校運営というのは、建物を建てれば終わりではないのですよ? カリキュラム、教師の確保、そして何より『安全管理』。アレン殿下や魔族の子供が暴れたら、校舎など一撃で消し飛びますぞ」
ルーベンスは現実的な問題を淡々と指摘する。
彼は知っているのだ。子供の魔力暴走がいかに恐ろしいかを。ましてやここは、Sランクの化け物予備軍が集まる場所だ。
「うん、だからさ」
カイトはニカっと笑い、一枚の紙をテーブルに広げた。
「僕が設計図を書いてみたんだ。『寺子屋』みたいな、アットホームな学び舎をイメージしてね」
「ほう、寺子屋……」
ルーベンスはコーヒーを啜りながら、その図面を覗き込んだ。
「ぶふぉッ!!?」
そして、盛大にコーヒーを吹き出した。
「汚いなぁ、ルーベンスさん」
「ば、馬鹿な! 何ですかこれは!?」
ルーベンスの手が震えている。
そこに描かれていたのは、カイトの言う「寺子屋」の設計図だった。
だが、その構造は異常だった。
基礎: 地下50メートルまでオリハルコンの杭を打ち込み、耐震・耐魔法構造を完備。
壁材: 『世界樹』の巨木をそのまま加工し、衝撃吸収術式を多重展開。
窓: ダイヤモンドガラス(厚さ30cm)。
校門: サルバロスの石垣をさらに強化した『自動迎撃システム付き城門』。
「……カイト殿。これは学校ではありません」
ルーベンスは震える声で指摘した。
「これは『対・神話級ドラゴン用・最終防衛要塞』です」
「え? そうかな? 子供たちが元気に暴れても壊れないように、ちょっと頑丈にしただけだよ?」
カイトは不思議そうに首を傾げる。
彼の「ちょっと頑丈」の基準は、ポチ(始祖竜)が全力で体当たりしても無傷なレベルだ。
「それにほら、教室も工夫してるんだ。理科室には『エリクサー生成キット』を置いて、家庭科室の包丁はミスリル製にして……」
「待て待て待て! 待ってください!」
ルーベンスは額を押さえた。頭痛が痛い。
この男に常識を説いても無駄だ。だが、このままでは「学校」という名の軍事基地が爆誕し、世界各国のスパイが卒倒することになる。
「……教師は。教師はどうするおつもりで?」
「ああ、それなら心当たりがあるよ。みんないい人たちだし、子供好きだからね」
カイトは指折り数え始めた。
「校長はルチアナ(創造神)でしょ、魔法はラスティア(魔王)とルナ(大賢者)、体育はデューク(竜王)とフェンリル(狼王)にお願いしようかなって」
「……あ、あの……」
ルーベンスの顔色から血の気が引いていく。
その布陣は、学校ではない。
『ラグナロク(世界最終戦争)』のスターティングメンバーだ。
「セーラさんも、アレンくんのために保健室の先生を手伝ってくれるって言うし。龍魔呂さんには給食をお願いするつもり」
「(……給食だけが唯一の救いか)」
ルーベンスは天を仰いだ。
龍魔呂の飯は美味い。それだけが、この地獄の要塞学校における唯一のオアシスになるだろう。
「どうかな、ルーベンスさん。事務とか、手伝ってくれない?」
カイトの純粋な瞳が、ルーベンスを見つめている。
断れば、もっとデタラメな方向に暴走する未来が見える。ならば、自分が内部に入って被害を最小限に食い止める(コントロールする)しかない。
それが、苦労人ルーベンスの悲しい性(さが)だった。
「……はぁ。分かりました」
ルーベンスはタバコを灰皿に押し付け、覚悟を決めたように言った。
「私が事務長を引き受けましょう。……ただし! 予算管理と対外折衝は全て私に任せていただきます。いいですね?」
「やった! ありがとうルーベンスさん!」
カイトは満面の笑みでルーベンスの手を握った。
「じゃあ、善は急げだ。明日からさっそく着工しよう! ガンテツ(ドワーフ王)とサルバロスさんにも声をかけなきゃ!」
嬉々として部屋を出て行くカイト。
残されたルーベンスは、冷めきったコーヒーを見つめ、深く、深く溜息をついた。
「……胃薬を、多めに発注しておくか」
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