95 / 100
第九章 異議あり!学校法廷
EP 5
しおりを挟む
【開廷】被告人・創造神。罪状『職務怠慢』および『公金横領』
食堂での騒動を終えたリベラは、その足で本丸である「校長室」へと向かった。
学校の責任者(カイト)があの様子だ。トップである校長も推して知るべしだが、まずは挨拶と現状確認が必要だ。
「失礼しますわ。ゴルド商会のリベラです」
ノックをし、重厚な世界樹の扉を開ける。
そこは神聖な学び舎の頂点。
さぞかし威厳ある空間が広がっている……はずだった。
「うぃ~……ヒック。いけるわね、この芋焼酎……」
「……は?」
リベラの思考がフリーズした。
執務机の上には書類の山……ではなく、空になった一升瓶と、大量のスナック菓子の袋。
そして、校長の椅子でだらしなく足を投げ出し、ジャージ姿でスルメを齧っている創造神ルチアナの姿があった。
「あれぇ~? 誰ぇ~? 飲みなら参加費払ってよねぇ~」
「……これは?」
リベラの後ろからついてきたカイトとルーベンスも、部屋に入ってくる。
「何よぉ、私の勝手でしょ。校長室は私の城よぉ」
ルチアナは悪びれもせず、スルメを「クチャクチャ」と噛み千切った。
その瞬間。
リベラのこめかみに、青筋が「ピキピキ」と音を立てて浮かび上がった。
「職務中に……飲酒、ですか……」
リベラの周囲の空気が凍りつく。
教育者としてあるまじき行為。いや、社会人として終わっている。
「ルチアナ! 貴様!!」
たまらず事務長ルーベンスが怒鳴り込んだ。
「その酒と大量の菓子はどこから持ってきた! 天界からの配給は先週止めたはずだぞ!」
「え、えっとぉ……これはその……私のポケットマネーで、地球から通販を……」
ルチアナの目が泳ぐ。冷や汗がダラダラと流れ始める。
「嘘ですね」
冷徹な声と共に、天使長ヴァルキュリアが部屋の隅から現れた。彼女の手には一冊の帳簿が握られている。
「監査の結果、帳簿に不審な出金記録があります。『教材費:300万ゴールド』。……すべて、地球の商社への送金記録と一致しました。つまり、学校の運営費です」
「ま、まさか!? ば、バレた!?」
ルチアナは顔面蒼白になり、焼酎の瓶を取り落とした。
ガシャン! と瓶が割れる音が、彼女の社会的地位の崩壊音のように響く。
「……ルチアナ」
カイトが悲しげに眉を下げた。
「酷いよ。子供たちのための教科書代を、お酒に変えちゃうなんて……信じていたのに」
「あ、ああっ! 違うのカイト! これは、その、私の脳細胞を活性化させるためのガソリンで……!」
「言い訳無用ですわ!!」
リベラが叫んだ。
その瞳には、かつてないほどの正義の炎が燃え盛っている。
「カイト様の……そしてこの学校の未来のために! 貴女の罪、法の下に裁かせていただきます!」
リベラは右手を高く掲げた。
女神ルチアナから(面白半分で)与えられた、最強にして最悪のユニークスキル。
まさか、その最初の犠牲者が授与者本人になろうとは。
「スキル発動――【天上天下唯我独尊(ザ・コート)】ッ!!」
キィィィィィィンッ!!
世界が反転する。
校長室の壁が消え、空間が歪み、そこは無機質で神聖な「法廷」へと作り変えられた。
「な、何これ!? 魔力が……使えない!?」
ルチアナが慌てて魔法を使おうとするが、指先から火花一つ出ない。
物理法則も、神の権能も、カイトの概念干渉すらも無効化される、絶対公平なる法の結界。
ダンッ!!
高い壇上で、巨大な木槌(の代わりに聖槍グラニ)が叩きつけられた。
「これより、被告人ルチアナの『業務上横領』および『職務怠慢』に関する裁判を開廷します」
裁判官席に座っているのは、黒い法服をまとったヴァルキュリア。
検察席には、鋭い眼光のルーベンス。
弁護人席には、リベラ。
そして被告人席には、檻に閉じ込められたジャージ姿のルチアナ。
陪審員席には、ポカンとしているカイト、ポチ、そしてアレン(5歳)がランダム選出されて座らされていた。
「さて、被告人」
検察官ルーベンスが眼鏡を光らせ、領収書の束を突きつけた。
「この大量の『お菓子代』および『酒代』。これらは全て学校運営費から流用されたものですね? 証拠は全て揃っています。……さあ、罪を認めなさい!」
「ひぃぃッ! だ、だってぇ! ストレスが溜まってたんだもん!」
ルチアナが檻の格子を掴んで泣き叫ぶ。
圧倒的に不利な状況。
だが、リベラは静かに立ち上がった。
「異議あり(オブジェクション)。検察官、被告人を追い詰めすぎですわ」
「なっ……リベラ殿!? 貴女がスキルを発動したのでしょう!?」
「ええ。ですが、私は弁護士。どんな罪人にも弁護を受ける権利(ライツ)はあります」
リベラはニッコリと笑い、被告人席のルチアナに向き直った。
その目は「罪を憎んで人を憎まず」の慈愛に満ちている。
「安心なさい、ルチアナさん。貴女が『ダメな神様』であることは事実ですが、法は貴女を見捨てません。……さあ、戦いましょう。私たちの正義のために!」
「リ、リベラちゃぁぁん!!」
ルチアナが縋るように叫ぶ。
こうして、カイト農場史上初となる、神をも裁く「法廷バトル」の幕が切って落とされた。
食堂での騒動を終えたリベラは、その足で本丸である「校長室」へと向かった。
学校の責任者(カイト)があの様子だ。トップである校長も推して知るべしだが、まずは挨拶と現状確認が必要だ。
「失礼しますわ。ゴルド商会のリベラです」
ノックをし、重厚な世界樹の扉を開ける。
そこは神聖な学び舎の頂点。
さぞかし威厳ある空間が広がっている……はずだった。
「うぃ~……ヒック。いけるわね、この芋焼酎……」
「……は?」
リベラの思考がフリーズした。
執務机の上には書類の山……ではなく、空になった一升瓶と、大量のスナック菓子の袋。
そして、校長の椅子でだらしなく足を投げ出し、ジャージ姿でスルメを齧っている創造神ルチアナの姿があった。
「あれぇ~? 誰ぇ~? 飲みなら参加費払ってよねぇ~」
「……これは?」
リベラの後ろからついてきたカイトとルーベンスも、部屋に入ってくる。
「何よぉ、私の勝手でしょ。校長室は私の城よぉ」
ルチアナは悪びれもせず、スルメを「クチャクチャ」と噛み千切った。
その瞬間。
リベラのこめかみに、青筋が「ピキピキ」と音を立てて浮かび上がった。
「職務中に……飲酒、ですか……」
リベラの周囲の空気が凍りつく。
教育者としてあるまじき行為。いや、社会人として終わっている。
「ルチアナ! 貴様!!」
たまらず事務長ルーベンスが怒鳴り込んだ。
「その酒と大量の菓子はどこから持ってきた! 天界からの配給は先週止めたはずだぞ!」
「え、えっとぉ……これはその……私のポケットマネーで、地球から通販を……」
ルチアナの目が泳ぐ。冷や汗がダラダラと流れ始める。
「嘘ですね」
冷徹な声と共に、天使長ヴァルキュリアが部屋の隅から現れた。彼女の手には一冊の帳簿が握られている。
「監査の結果、帳簿に不審な出金記録があります。『教材費:300万ゴールド』。……すべて、地球の商社への送金記録と一致しました。つまり、学校の運営費です」
「ま、まさか!? ば、バレた!?」
ルチアナは顔面蒼白になり、焼酎の瓶を取り落とした。
ガシャン! と瓶が割れる音が、彼女の社会的地位の崩壊音のように響く。
「……ルチアナ」
カイトが悲しげに眉を下げた。
「酷いよ。子供たちのための教科書代を、お酒に変えちゃうなんて……信じていたのに」
「あ、ああっ! 違うのカイト! これは、その、私の脳細胞を活性化させるためのガソリンで……!」
「言い訳無用ですわ!!」
リベラが叫んだ。
その瞳には、かつてないほどの正義の炎が燃え盛っている。
「カイト様の……そしてこの学校の未来のために! 貴女の罪、法の下に裁かせていただきます!」
リベラは右手を高く掲げた。
女神ルチアナから(面白半分で)与えられた、最強にして最悪のユニークスキル。
まさか、その最初の犠牲者が授与者本人になろうとは。
「スキル発動――【天上天下唯我独尊(ザ・コート)】ッ!!」
キィィィィィィンッ!!
世界が反転する。
校長室の壁が消え、空間が歪み、そこは無機質で神聖な「法廷」へと作り変えられた。
「な、何これ!? 魔力が……使えない!?」
ルチアナが慌てて魔法を使おうとするが、指先から火花一つ出ない。
物理法則も、神の権能も、カイトの概念干渉すらも無効化される、絶対公平なる法の結界。
ダンッ!!
高い壇上で、巨大な木槌(の代わりに聖槍グラニ)が叩きつけられた。
「これより、被告人ルチアナの『業務上横領』および『職務怠慢』に関する裁判を開廷します」
裁判官席に座っているのは、黒い法服をまとったヴァルキュリア。
検察席には、鋭い眼光のルーベンス。
弁護人席には、リベラ。
そして被告人席には、檻に閉じ込められたジャージ姿のルチアナ。
陪審員席には、ポカンとしているカイト、ポチ、そしてアレン(5歳)がランダム選出されて座らされていた。
「さて、被告人」
検察官ルーベンスが眼鏡を光らせ、領収書の束を突きつけた。
「この大量の『お菓子代』および『酒代』。これらは全て学校運営費から流用されたものですね? 証拠は全て揃っています。……さあ、罪を認めなさい!」
「ひぃぃッ! だ、だってぇ! ストレスが溜まってたんだもん!」
ルチアナが檻の格子を掴んで泣き叫ぶ。
圧倒的に不利な状況。
だが、リベラは静かに立ち上がった。
「異議あり(オブジェクション)。検察官、被告人を追い詰めすぎですわ」
「なっ……リベラ殿!? 貴女がスキルを発動したのでしょう!?」
「ええ。ですが、私は弁護士。どんな罪人にも弁護を受ける権利(ライツ)はあります」
リベラはニッコリと笑い、被告人席のルチアナに向き直った。
その目は「罪を憎んで人を憎まず」の慈愛に満ちている。
「安心なさい、ルチアナさん。貴女が『ダメな神様』であることは事実ですが、法は貴女を見捨てません。……さあ、戦いましょう。私たちの正義のために!」
「リ、リベラちゃぁぁん!!」
ルチアナが縋るように叫ぶ。
こうして、カイト農場史上初となる、神をも裁く「法廷バトル」の幕が切って落とされた。
12
あなたにおすすめの小説
『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』
miigumi
ファンタジー
前世では病弱で、病室の窓から空を見上げることしかできなかった私。
そんな私が転生したのは、魔法と剣があるファンタジーの世界。
……とはいえ、勇者でも聖女でもなく、物語に出てこない“モブキャラ”でした。
貴族の家に生まれるも馴染めず、破門されて放り出された私は、街の片隅――
「しろくま通り」で、小さなお菓子屋さんを開くことにしました。
相棒は、拾ったまんまるのペンギンの魔物“ピノ”。
季節の果物を使って、前世の記憶を頼りに焼いたお菓子は、
気づけばちょっぴり評判に。
できれば平和に暮らしたいのに、
なぜか最近よく現れるやさしげな騎士さん――
……って、もしかして勇者パーティーの人なんじゃ?!
静かに暮らしたい元病弱転生モブと、
彼女の焼き菓子に癒される人々の、ちょっと甘くて、ほんのり騒がしい日々の物語。
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
最強陛下の育児論〜5歳児の娘に振り回されているが、でもやっぱり可愛くて許してしまうのはどうしたらいいものか〜
楠ノ木雫
ファンタジー
孤児院で暮らしていた女の子リンティの元へ、とある男達が訪ねてきた。その者達が所持していたものには、この国の紋章が刻まれていた。そう、この国の皇城から来た者達だった。その者達は、この国の皇女を捜しに来ていたようで、リンティを見た瞬間間違いなく彼女が皇女だと言い出した。
言い合いになってしまったが、リンティは皇城に行く事に。だが、この国の皇帝の二つ名が〝冷血の最強皇帝〟。そして、タイミング悪く首を撥ねている瞬間を目の当たりに。
こんな無慈悲の皇帝が自分の父。そんな事実が信じられないリンティ。だけど、あれ? 皇帝が、ぬいぐるみをプレゼントしてくれた?
リンティがこの城に来てから、どんどん皇帝がおかしくなっていく姿を目の当たりにする周りの者達も困惑。一体どうなっているのだろうか?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
エメラインの結婚紋
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
転生先の説明書を見るとどうやら俺はモブキャラらしい
夢見望
ファンタジー
レインは、前世で子供を助けるために車の前に飛び出し、そのまま死んでしまう。神様に転生しなくてはならないことを言われ、せめて転生先の世界の事を教えて欲しいと願うが何も説明を受けずに転生されてしまう。転生してから数年後に、神様から手紙が届いておりその中身には1冊の説明書が入っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる