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第十六章 月兎の初陣と、鬼神の深夜食堂
EP 3
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【襲来】リザードマンの群れと、野菜の香り
日が沈み、カイト農場が紫紺の闇に包まれ始めた頃。
北側の湿地帯から、鼻をつく腐敗臭と共に、不気味な気配が押し寄せていた。
ズズズ……。
泥を踏む音。
金属が擦れ合う音。
そして、爬虫類特有の湿った呼吸音。
茂みをかき分けて現れたのは、直立歩行するトカゲの戦士たち――リザードマンの大部隊だった。
その数、およそ100体。
手には錆びた剣や槍を持ち、粗末だが頑丈な革鎧を身に着けている。
『……ククク。匂うぞ、兄弟たちよ』
群れの先頭に立つ、一際大きな隊長格が舌をチロチロと出し、鼻腔を膨らませた。
『この芳醇なマナの香り……間違いない。人間どもの市場で高値で取引される、極上のSランク野菜だ』
リザードマンたちの目が、黄色くギラギラと輝いた。
彼らは飢えていた。
湿地帯の貧しい食糧事情に耐えかね、風に乗って漂ってきた「カイト農場の野菜」の香りに誘われてきたのだ。
『奪え。食い荒らせ。……邪魔する者は皆殺しだ』
『『『シャアアアアッ!!!』』』
リザードマンたちが雄叫びを上げ、農場の柵を乗り越えようとした、その時。
「――そこまでです」
凛とした声が、夜闇に響いた。
リザードマンたちが一斉に足を止める。
柵の上に、一人の少女が立っていた。
月明かりに照らされた、純白のうさ耳。
そして、不釣り合いなほど無骨な『鉄芯入り安全靴』。
「ここは私有地につき、立ち入り禁止ですよ? ……泥足で入ったら、掃除が大変なんです」
キャルルが腰に手を当てて見下ろす。
その背後には、平和に眠るカイト農場の畑が広がっている。
『……ああん? なんだその小さいメスは』
隊長格が嘲笑った。
『人間ですらない、ウサギの亜人か? ……おい、あんなチビ一匹に何ができる。我らは精強なるリザードマン大隊ぞ!』
リザードマンたちがゲラゲラと下卑た笑い声を上げる。
だが、キャルルは動じない。
彼女はチラリと、農場の館(本館)の方角を見た。
(今の時間、カイトさんはお風呂……。デュークさんはお昼寝……。そして龍魔呂さんは、離れで料理の仕込み中……)
主力メンバーは誰も気づいていない。
警報を鳴らせばすぐに駆けつけるだろうが、それでは意味がない。
(助けを呼んだら、私の評価が上がりません!)
キャルルの瞳の中で、野心がメラメラと燃え上がった。
(ここで私が一人で撃退すれば……龍魔呂さんはきっと褒めてくれるはず! 『よくやったキャルル。お前は俺の自慢のパートナーだ』って! そしてあわよくば、頭なでなでからの……キャーッ♡)
妄想が加速する。
恋する乙女にとって、目の前の100体の武装集団は、恐怖の対象ではなく「ポイント稼ぎのボーナスステージ」でしかなかった。
「……おい、聞いてんのかウサギ」
『無視か? 生意気な! まずはその耳を切り落としてやる!』
先走ったリザードマンの先兵が、槍を構えて飛びかかった。
「……うるさいですね」
キャルルが溜息をつく。
そして、ゆらりと身体を沈めた。
「私の愛の障害(邪魔者)になるなら……蹴り飛ばしますよ?」
シュンッ!!
キャルルの姿が掻き消えた。
次の瞬間、飛びかかったリザードマンの顔面に、鉄の塊(安全靴)がめり込んでいた。
ドガッ!!
『ゴギャッ!?』
リザードマンがボールのように吹き飛び、後続の仲間を巻き込んで転がっていく。
「さあ……かかってきなさい、トカゲさんたち」
キャルルが安全靴の底を地面に擦り付け、挑発的に手招きした。
「農場警備隊長キャルル、推して参ります!」
月夜の下、ワンオペ防衛戦の幕が上がった。
日が沈み、カイト農場が紫紺の闇に包まれ始めた頃。
北側の湿地帯から、鼻をつく腐敗臭と共に、不気味な気配が押し寄せていた。
ズズズ……。
泥を踏む音。
金属が擦れ合う音。
そして、爬虫類特有の湿った呼吸音。
茂みをかき分けて現れたのは、直立歩行するトカゲの戦士たち――リザードマンの大部隊だった。
その数、およそ100体。
手には錆びた剣や槍を持ち、粗末だが頑丈な革鎧を身に着けている。
『……ククク。匂うぞ、兄弟たちよ』
群れの先頭に立つ、一際大きな隊長格が舌をチロチロと出し、鼻腔を膨らませた。
『この芳醇なマナの香り……間違いない。人間どもの市場で高値で取引される、極上のSランク野菜だ』
リザードマンたちの目が、黄色くギラギラと輝いた。
彼らは飢えていた。
湿地帯の貧しい食糧事情に耐えかね、風に乗って漂ってきた「カイト農場の野菜」の香りに誘われてきたのだ。
『奪え。食い荒らせ。……邪魔する者は皆殺しだ』
『『『シャアアアアッ!!!』』』
リザードマンたちが雄叫びを上げ、農場の柵を乗り越えようとした、その時。
「――そこまでです」
凛とした声が、夜闇に響いた。
リザードマンたちが一斉に足を止める。
柵の上に、一人の少女が立っていた。
月明かりに照らされた、純白のうさ耳。
そして、不釣り合いなほど無骨な『鉄芯入り安全靴』。
「ここは私有地につき、立ち入り禁止ですよ? ……泥足で入ったら、掃除が大変なんです」
キャルルが腰に手を当てて見下ろす。
その背後には、平和に眠るカイト農場の畑が広がっている。
『……ああん? なんだその小さいメスは』
隊長格が嘲笑った。
『人間ですらない、ウサギの亜人か? ……おい、あんなチビ一匹に何ができる。我らは精強なるリザードマン大隊ぞ!』
リザードマンたちがゲラゲラと下卑た笑い声を上げる。
だが、キャルルは動じない。
彼女はチラリと、農場の館(本館)の方角を見た。
(今の時間、カイトさんはお風呂……。デュークさんはお昼寝……。そして龍魔呂さんは、離れで料理の仕込み中……)
主力メンバーは誰も気づいていない。
警報を鳴らせばすぐに駆けつけるだろうが、それでは意味がない。
(助けを呼んだら、私の評価が上がりません!)
キャルルの瞳の中で、野心がメラメラと燃え上がった。
(ここで私が一人で撃退すれば……龍魔呂さんはきっと褒めてくれるはず! 『よくやったキャルル。お前は俺の自慢のパートナーだ』って! そしてあわよくば、頭なでなでからの……キャーッ♡)
妄想が加速する。
恋する乙女にとって、目の前の100体の武装集団は、恐怖の対象ではなく「ポイント稼ぎのボーナスステージ」でしかなかった。
「……おい、聞いてんのかウサギ」
『無視か? 生意気な! まずはその耳を切り落としてやる!』
先走ったリザードマンの先兵が、槍を構えて飛びかかった。
「……うるさいですね」
キャルルが溜息をつく。
そして、ゆらりと身体を沈めた。
「私の愛の障害(邪魔者)になるなら……蹴り飛ばしますよ?」
シュンッ!!
キャルルの姿が掻き消えた。
次の瞬間、飛びかかったリザードマンの顔面に、鉄の塊(安全靴)がめり込んでいた。
ドガッ!!
『ゴギャッ!?』
リザードマンがボールのように吹き飛び、後続の仲間を巻き込んで転がっていく。
「さあ……かかってきなさい、トカゲさんたち」
キャルルが安全靴の底を地面に擦り付け、挑発的に手招きした。
「農場警備隊長キャルル、推して参ります!」
月夜の下、ワンオペ防衛戦の幕が上がった。
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