6 / 46
EP 6
しおりを挟む
旅立ちの朝と、少女の決意
翌朝。
太郎は部屋で、ひとり黙々と作業をしていた。
ウィンドウを開き、『バッグ・トラベル用品』のカテゴリから必要なものを選んでいく。
【 ポリエステル製リュックサック(黒):300P 】
【 アルミ保温シート:100P 】
【 携帯用救急セット:100P 】
「よし……これくらいあれば、とりあえずは大丈夫か」
リュックに缶詰や水を詰め込んでいると、背後で扉が開いた。
「太郎さん? 何をしてるんですか?」
朝食の呼び出しに来たサリーが、荷造りされたリュックを見て目を丸くした。
太郎は手を止め、彼女の方に向き直った。
「うん。……僕は、村を出ようと思って」
「えっ……?」
サリーが持っていたお盆を取り落としそうになる。
「そんな!? ずっと村に居て良いんですよ? お父さんだって許してくれたし、村のみんなだって太郎さんのこと……!」
「うん、分かってる。みんな温かいし、ここは本当に良い村だ。でも……」
太郎は言葉を選びながら、自分の想いを伝えた。
「ありがたいけど、僕はこれ以上、君たちに甘えているわけにはいかない。それに……僕は自分のこのスキルで、世界を見てみたいんだ。僕の『100円ショップ』だって、外の世界ならもっと何か役に立つかも知れない」
「危険です!」
サリーが声を張り上げた。
「太郎さんは戦う力がないじゃないですか! 森でウルフに襲われた時だって、あんなに震えて……外にはもっと怖い魔物がいるんですよ!?」
「分かってる。でも、決めたんだ」
太郎の瞳は揺るがなかった。平和主義で穏やかな彼だが、一度決めたら譲らない芯の強さがそこにはあった。
サリーは唇を噛み締め、俯いた。そして――。
「……分かりました」
「分かってくれたか、サリ……」
「私も付いて行きます!」
「え!?」
予想外の言葉に、太郎は素っ頓狂な声を上げた。
「だ、駄目だよ! 君を巻き込むわけにはいかない! 危険だって言ったのはサリーじゃないか!」
「だから……だから! 一緒に行くって言ってるんじゃないですか!」
サリーが顔を上げると、その瞳には涙が溜まっていた。
「太郎さんは放っておいたらすぐ死んじゃいそうだし、世間知らずだし、騙されそうだし……! 私がいないと駄目なんです!」
「いや、でも……」
「太郎さんの馬鹿っ! 分からず屋!」
サリーは涙を拭いながら、真っ直ぐに太郎を睨みつけた。そこには、ただの親切心以上の熱い感情が宿っていた。
その剣幕に、太郎はたじろぎ、そして小さく苦笑した。
(……敵わないな)
彼女がいれば、これほど心強いことはない。それに何より、彼女と離れるのが寂しいと感じていたのは、太郎自身でもあった。
「……サリー、ありがとう。うん、一緒に行こう」
「……はい! 太郎さん!」
サリーはようやく、雨上がりのような眩しい笑顔を見せた。
旅の支度を整えた二人は、村長宅のリビングへと向かった。
サンガは腕組みをして、仁王立ちで二人を待っていた。どうやら、サリーの様子から全てを察していたようだ。
「そうか……行くか、太郎さんや」
「はい。サンガさん、本当にお世話になりました。命を助けていただいたこと、一生忘れません」
太郎が深く頭を下げると、サンガは寂しそうに、しかし満足そうに頷いた。
「なに、礼には及ばん。お主が村のガラクタを片付けてくれたおかげで、倉庫もスッキリしたしな。……サリーを、頼んだぞ」
「お父さん、行ってくるわね。たまには手紙送るから」
サリーもまた、覚悟を決めた顔で父親を見上げた。
サンガは大きな手で、娘の頭をワシワシと撫でた。
「ああ。気をつけてな。お前の選んだ道だ、好きにやってこい! ……だが、危なくなったらすぐに帰ってくるんだぞ!」
「もう、心配性なんだから」
村の入り口。
見送りに来てくれた村人たちに手を振り、二人は歩き出した。
目指すは、この大陸でも有数の大国「デルン王国」。
その中心に位置する巨大都市――中央都市アルクス。
冒険者ギルドの本部や大きな市場があり、多くの人々が集まる場所だ。そこなら、太郎のスキルを活かす道も見つかるかもしれない。
「行きましょう、太郎さん!」
「ああ!」
リュックを背負ったコンビニ店員と、杖を持った村娘。
凸凹コンビの冒険が、今ここに始まった。
翌朝。
太郎は部屋で、ひとり黙々と作業をしていた。
ウィンドウを開き、『バッグ・トラベル用品』のカテゴリから必要なものを選んでいく。
【 ポリエステル製リュックサック(黒):300P 】
【 アルミ保温シート:100P 】
【 携帯用救急セット:100P 】
「よし……これくらいあれば、とりあえずは大丈夫か」
リュックに缶詰や水を詰め込んでいると、背後で扉が開いた。
「太郎さん? 何をしてるんですか?」
朝食の呼び出しに来たサリーが、荷造りされたリュックを見て目を丸くした。
太郎は手を止め、彼女の方に向き直った。
「うん。……僕は、村を出ようと思って」
「えっ……?」
サリーが持っていたお盆を取り落としそうになる。
「そんな!? ずっと村に居て良いんですよ? お父さんだって許してくれたし、村のみんなだって太郎さんのこと……!」
「うん、分かってる。みんな温かいし、ここは本当に良い村だ。でも……」
太郎は言葉を選びながら、自分の想いを伝えた。
「ありがたいけど、僕はこれ以上、君たちに甘えているわけにはいかない。それに……僕は自分のこのスキルで、世界を見てみたいんだ。僕の『100円ショップ』だって、外の世界ならもっと何か役に立つかも知れない」
「危険です!」
サリーが声を張り上げた。
「太郎さんは戦う力がないじゃないですか! 森でウルフに襲われた時だって、あんなに震えて……外にはもっと怖い魔物がいるんですよ!?」
「分かってる。でも、決めたんだ」
太郎の瞳は揺るがなかった。平和主義で穏やかな彼だが、一度決めたら譲らない芯の強さがそこにはあった。
サリーは唇を噛み締め、俯いた。そして――。
「……分かりました」
「分かってくれたか、サリ……」
「私も付いて行きます!」
「え!?」
予想外の言葉に、太郎は素っ頓狂な声を上げた。
「だ、駄目だよ! 君を巻き込むわけにはいかない! 危険だって言ったのはサリーじゃないか!」
「だから……だから! 一緒に行くって言ってるんじゃないですか!」
サリーが顔を上げると、その瞳には涙が溜まっていた。
「太郎さんは放っておいたらすぐ死んじゃいそうだし、世間知らずだし、騙されそうだし……! 私がいないと駄目なんです!」
「いや、でも……」
「太郎さんの馬鹿っ! 分からず屋!」
サリーは涙を拭いながら、真っ直ぐに太郎を睨みつけた。そこには、ただの親切心以上の熱い感情が宿っていた。
その剣幕に、太郎はたじろぎ、そして小さく苦笑した。
(……敵わないな)
彼女がいれば、これほど心強いことはない。それに何より、彼女と離れるのが寂しいと感じていたのは、太郎自身でもあった。
「……サリー、ありがとう。うん、一緒に行こう」
「……はい! 太郎さん!」
サリーはようやく、雨上がりのような眩しい笑顔を見せた。
旅の支度を整えた二人は、村長宅のリビングへと向かった。
サンガは腕組みをして、仁王立ちで二人を待っていた。どうやら、サリーの様子から全てを察していたようだ。
「そうか……行くか、太郎さんや」
「はい。サンガさん、本当にお世話になりました。命を助けていただいたこと、一生忘れません」
太郎が深く頭を下げると、サンガは寂しそうに、しかし満足そうに頷いた。
「なに、礼には及ばん。お主が村のガラクタを片付けてくれたおかげで、倉庫もスッキリしたしな。……サリーを、頼んだぞ」
「お父さん、行ってくるわね。たまには手紙送るから」
サリーもまた、覚悟を決めた顔で父親を見上げた。
サンガは大きな手で、娘の頭をワシワシと撫でた。
「ああ。気をつけてな。お前の選んだ道だ、好きにやってこい! ……だが、危なくなったらすぐに帰ってくるんだぞ!」
「もう、心配性なんだから」
村の入り口。
見送りに来てくれた村人たちに手を振り、二人は歩き出した。
目指すは、この大陸でも有数の大国「デルン王国」。
その中心に位置する巨大都市――中央都市アルクス。
冒険者ギルドの本部や大きな市場があり、多くの人々が集まる場所だ。そこなら、太郎のスキルを活かす道も見つかるかもしれない。
「行きましょう、太郎さん!」
「ああ!」
リュックを背負ったコンビニ店員と、杖を持った村娘。
凸凹コンビの冒険が、今ここに始まった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる