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EP 55
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アルクス大改造計画、夢のスーパー銭湯
新米領主としての初仕事である「サツマイモ・ヒヨコ計画」が軌道に乗り始めた頃。
アルクス伯爵となった太郎は、マルスと護衛のライザ、サリーを伴って領内の視察を行っていた。
街は活気づいていた。S級冒険者が領主になったという安心感と、ダンジョン特需で経済が回っているからだ。
しかし、太郎は鼻をひくつかせ、ある「問題点」に気づいた。
(……なんか、臭うな)
冒険者たちは汗と泥にまみれ、市民たちも決して清潔とは言えない。
この世界の庶民にとって、入浴は「体を濡らした布で拭く」か、夏場に行水をする程度。お湯に浸かる習慣は貴族の一部にしかない。
「う~ん……やっぱり、アルクスに公衆浴場が欲しいよね」
太郎は腕を組んで唸った。
日本人のDNAが、湯船を求めて叫んでいるのだ。
「公衆浴場、でございますか? 確かに、公衆衛生の観点からも有効ですが……」
マルスが手帳を取り出しながら答える。
「ただのお風呂じゃないよ。『スーパー銭湯』を作りたいんだ。サウナや岩盤浴、電気風呂にジェットバス完備のやつ!」
「すーぱーせんとう……? さうな? がんばんよく……とは?」
マルスが聞き慣れない単語に首を傾げた。
「えっと、言葉で説明するより見たほうが早いかな」
太郎はウィンドウを開き、『書籍・旅行ガイド』カテゴリから一冊の本を取り出した。
表紙には**『決定版! 癒やしのスーパー銭湯&スパガイド』**と書かれ、湯気立つ露天風呂やサウナの写真が載っている。
「これを見て。こんな施設を作りたいんだ」
「拝見します」
マルスは本を受け取り、ページをめくった。
パラパラ……。
マルスの目が、ページをめくるごとに見開かれていく。
「こ、これは!? 何と画期的な……!」
マルスは震えた。
そこには、ただお湯を溜めるだけではない、洗練された「癒やしの空間」があった。
熱した石に水をかけて蒸気を浴びる『サウナ』。
温めた石の上に寝転ぶ『岩盤浴』。
食事処や休憩所まで完備された、一つの巨大なアミューズメント施設。
「これがあれば、冒険者の疲労回復はもちろん、市民の憩いの場となり、他領からの観光客も呼び込めます! 莫大な経済効果が見込める!」
マルスの経営者としての勘が、この施設のヤバさを瞬時に理解した。
「直ちに建設準備に入りましょう! ……ですが、この複雑な給湯システムや配管、熱源の確保は、並の職人では不可能ですな」
マルスは近くに控えていた騎士に向かって叫んだ。
「おい! ガンダフを呼んで参れ! 至急だ!」
「は、ハハッ!」
数十分後。
かつて「必殺の矢」の開発で協力してくれたドワーフの名工、ガンダフが城の執務室にやってきた。
作業着は煤で汚れ、手には図面を握りしめている。
「なんでい? 領主様からの呼び出しだってんで来てみりゃあ。俺は忙しいんだぞ」
ガンダフは不機嫌そうに髭を撫でた。相手が伯爵だろうと、職人としての態度は崩さない。
「ガンダフよ、これを見ろ」
マルスは黙って、先ほどのスーパー銭湯の本を開き、施設の構造図や配管のイメージ図が載っているページを見せた。
「あぁ? なんだこりゃ……」
ガンダフは面倒くさそうに本を覗き込み――そして、固まった。
「な、何だこりゃあ!?」
ドワーフの目が釘付けになる。
循環式濾過装置(の概念図)、床暖房システム、サウナの熱気循環構造。
それは、この世界の技術レベルを数段飛ばした、未知のテクノロジーの塊だった。
「湯をただ沸かすんじゃねぇ……循環させて常に清潔に保つだと? それにこの『ジェットバス』ってのは、水圧でマッサージするのか!? 配管はどうなってる!?」
ガンダフは本を奪い取り、食い入るように見つめた。
未知への興奮で、その顔が紅潮している。
「どうかな、ガンダフさん。作れるかな?」
太郎が試すように尋ねた。
「あ、当たり前だ! 誰だと思っていやがる!」
ガンダフが顔を上げ、ニヤリと笑った。その瞳には、職人の魂(炎)が燃え盛っていた。
「火花鉱と水魔法石を組み合わせれば熱源はいける。配管はミスリル合金を使えば耐久性は問題ねぇ。……面白ぇ! やってやろうじゃねぇか!」
ガンダフは拳を突き上げた。
「よおし! 作るぞ! 世界一の『スーパー銭湯』をな!!」
「やった! さすがガンダフさん!」
「建設予定地は、城下町の広場周辺が良いでしょう!」
マルスも即座に地図を広げる。
領主の奇抜なアイデア、敏腕執事の経営手腕、そして伝説の職人の技術力。
三つの力が合わさり、アルクスに前代未聞の「癒やしの殿堂」が爆誕しようとしていた。
『ピカリも! ピカリもアヒルさん浮かべるー!』
ピカリも本に載っていた「黄色いアヒル」を見て大はしゃぎだ。
アルクス温泉郷化計画、ここに始動である。
新米領主としての初仕事である「サツマイモ・ヒヨコ計画」が軌道に乗り始めた頃。
アルクス伯爵となった太郎は、マルスと護衛のライザ、サリーを伴って領内の視察を行っていた。
街は活気づいていた。S級冒険者が領主になったという安心感と、ダンジョン特需で経済が回っているからだ。
しかし、太郎は鼻をひくつかせ、ある「問題点」に気づいた。
(……なんか、臭うな)
冒険者たちは汗と泥にまみれ、市民たちも決して清潔とは言えない。
この世界の庶民にとって、入浴は「体を濡らした布で拭く」か、夏場に行水をする程度。お湯に浸かる習慣は貴族の一部にしかない。
「う~ん……やっぱり、アルクスに公衆浴場が欲しいよね」
太郎は腕を組んで唸った。
日本人のDNAが、湯船を求めて叫んでいるのだ。
「公衆浴場、でございますか? 確かに、公衆衛生の観点からも有効ですが……」
マルスが手帳を取り出しながら答える。
「ただのお風呂じゃないよ。『スーパー銭湯』を作りたいんだ。サウナや岩盤浴、電気風呂にジェットバス完備のやつ!」
「すーぱーせんとう……? さうな? がんばんよく……とは?」
マルスが聞き慣れない単語に首を傾げた。
「えっと、言葉で説明するより見たほうが早いかな」
太郎はウィンドウを開き、『書籍・旅行ガイド』カテゴリから一冊の本を取り出した。
表紙には**『決定版! 癒やしのスーパー銭湯&スパガイド』**と書かれ、湯気立つ露天風呂やサウナの写真が載っている。
「これを見て。こんな施設を作りたいんだ」
「拝見します」
マルスは本を受け取り、ページをめくった。
パラパラ……。
マルスの目が、ページをめくるごとに見開かれていく。
「こ、これは!? 何と画期的な……!」
マルスは震えた。
そこには、ただお湯を溜めるだけではない、洗練された「癒やしの空間」があった。
熱した石に水をかけて蒸気を浴びる『サウナ』。
温めた石の上に寝転ぶ『岩盤浴』。
食事処や休憩所まで完備された、一つの巨大なアミューズメント施設。
「これがあれば、冒険者の疲労回復はもちろん、市民の憩いの場となり、他領からの観光客も呼び込めます! 莫大な経済効果が見込める!」
マルスの経営者としての勘が、この施設のヤバさを瞬時に理解した。
「直ちに建設準備に入りましょう! ……ですが、この複雑な給湯システムや配管、熱源の確保は、並の職人では不可能ですな」
マルスは近くに控えていた騎士に向かって叫んだ。
「おい! ガンダフを呼んで参れ! 至急だ!」
「は、ハハッ!」
数十分後。
かつて「必殺の矢」の開発で協力してくれたドワーフの名工、ガンダフが城の執務室にやってきた。
作業着は煤で汚れ、手には図面を握りしめている。
「なんでい? 領主様からの呼び出しだってんで来てみりゃあ。俺は忙しいんだぞ」
ガンダフは不機嫌そうに髭を撫でた。相手が伯爵だろうと、職人としての態度は崩さない。
「ガンダフよ、これを見ろ」
マルスは黙って、先ほどのスーパー銭湯の本を開き、施設の構造図や配管のイメージ図が載っているページを見せた。
「あぁ? なんだこりゃ……」
ガンダフは面倒くさそうに本を覗き込み――そして、固まった。
「な、何だこりゃあ!?」
ドワーフの目が釘付けになる。
循環式濾過装置(の概念図)、床暖房システム、サウナの熱気循環構造。
それは、この世界の技術レベルを数段飛ばした、未知のテクノロジーの塊だった。
「湯をただ沸かすんじゃねぇ……循環させて常に清潔に保つだと? それにこの『ジェットバス』ってのは、水圧でマッサージするのか!? 配管はどうなってる!?」
ガンダフは本を奪い取り、食い入るように見つめた。
未知への興奮で、その顔が紅潮している。
「どうかな、ガンダフさん。作れるかな?」
太郎が試すように尋ねた。
「あ、当たり前だ! 誰だと思っていやがる!」
ガンダフが顔を上げ、ニヤリと笑った。その瞳には、職人の魂(炎)が燃え盛っていた。
「火花鉱と水魔法石を組み合わせれば熱源はいける。配管はミスリル合金を使えば耐久性は問題ねぇ。……面白ぇ! やってやろうじゃねぇか!」
ガンダフは拳を突き上げた。
「よおし! 作るぞ! 世界一の『スーパー銭湯』をな!!」
「やった! さすがガンダフさん!」
「建設予定地は、城下町の広場周辺が良いでしょう!」
マルスも即座に地図を広げる。
領主の奇抜なアイデア、敏腕執事の経営手腕、そして伝説の職人の技術力。
三つの力が合わさり、アルクスに前代未聞の「癒やしの殿堂」が爆誕しようとしていた。
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