120 / 251
第三章 世界の秩序
EP 1
しおりを挟む
均衡を破る者、家系ラーメンを啜る
竜王デュークが太郎の元に住み着き、ラーメンやサウナ、そして昼寝に興じる堕落した(幸せな)日々を送るようになって数ヶ月。
一見平和に見えるその光景は、しかし、世界のパワーバランスを大きく崩す要因となっていた。
大陸の遥か南方。
決して人が立ち入ることのできない秘境、『聖なる泉』。
虹色の霧がかかるその泉のほとりで、炎の羽衣を纏った美しい女性が、苛立ちに眉をひそめていた。
「……あのアホトカゲ(竜王)は、一体何を考えているの?」
彼女の名はフレア。
太古より生きる伝説の『不死鳥(フェニックス)』であり、世界の浄化と再生を司る管理者の一柱である。
「竜王デュークが、太郎とかいう人間の男と契約を結んだ? しかも、その理由が『豚骨ラーメン』と『サウナ』ですって!?」
フレアは持っていた報告書(風の精霊からの伝言)を燃やした。
「ふざけないでよ! 彼が仕事を放り出したせいで、大陸の魔素調整の仕事が全部私に回って来てるじゃない! 最近、肌荒れが酷いのもそのせいよ!」
フレアの怒りの炎が、周囲の森を焼きそうになる。
「……一度、文句を言ってやらないと気が済まないわね」
一方、大陸の最北端。
全てが凍りつく『氷雪大地』。
吹雪が吹き荒れる氷の城で、一人の銀髪の青年が退屈そうに大あくびをしていた。
「ふぁ~あ……」
彼の名はフェンリル。
世界を凍らせる力を持ち、破壊と冬を司る『狼王』である。
「退屈だなぁ……。ここ数百年、面白い喧嘩相手もいないし」
フェンリルは氷の玉座でゴロゴロと寝返りを打った。
「デュークとも遊べないし、つまらないなぁ。あいつ、最近人間の国に入り浸ってるらしいけど……」
フェンリルの獣のような瞳がキラリと光った。
「そうだ……遊びに行こう。久しぶりに全力で噛み付いたら、あいつも目が覚めるかも」
ヒュオオオオ……!
次の瞬間、フェンリルの姿は猛吹雪と共に掻き消えた。
そんな世界の激震など露知らず。
太郎国では、今日も平和な時間が流れていた。
「じゃあ、行ってくるよ」
「うむ。今日のスープの出来は期待できそうだ」
太郎とデュークは、ウキウキとした足取りで城を出ようとしていた。
「いってらっしゃいませ、太郎様」
「お土産、期待していますわ」
見送るサリーとライザが微笑ましそうに囁き合う。
「すっかり仲良くなりましたね、あの二人」
「えぇ、そうですですね。まるで長年連れ添った兄弟のようですわ」
城下町。
太郎国のラーメン文化は日々進化を遂げ、今や様々なジャンルの店が軒を連ねていた。
「で? デューク。今日は何処に行くんだ?」
「うむ、我が最近見つけた店が有るのだ。『家系(いえけい)』ラーメンだがな」
「家系か! こってり豚骨醤油に、太麺、そしてほうれん草と海苔!」
「その通りだ。主よ、ライスを忘れるなよ? スープに浸した海苔でライスを巻いて食う。これぞ正義だ」
「分かってるねぇ~」
二人はマニアックな会話をしながら、路地裏の赤提灯を目指していた。
すると、向こうから一人の銀髪の青年が、ふらりと歩いてきた。
整った顔立ちだが、その身に纏う空気は絶対零度のように冷たく、鋭い。
「やぁ、竜王。久しぶり」
青年が気安く声をかけた。
デュークが足を止める。サングラスを少しずらし、黄金の瞳で青年を見た。
「ん? 貴様は……フェンリルでは無いか」
「フェンリル!?」
太郎が驚く。神話に出てくる狼の王だ。またとんでもないのが現れた。
「今まで何処に行ってたんだよ、デューク」
フェンリルは拗ねた子供のように頬を膨らませた。
「僕は遊び相手が居なくて、つまらかったんだぞ? ずっと氷の城で寝てたんだから」
「我は忙しいのだ。今は『麺・硬め、味・濃いめ、油・多め』の事しか考えられん」
デュークが素っ気なく通り過ぎようとする。
しかし、フェンリルはその前に立ちはだかり、ニヤリと笑った。その笑顔からは、純粋ゆえに恐ろしい殺気が溢れ出していた。
「つれないなぁ。……さぁ、デューク。僕と遊ぼうよ。昔みたいに、大陸の一つや二つ、消し飛ばすくらいの喧嘩(あそび)をしよう?」
フェンリルの足元から、パキパキと地面が凍りつき始める。
ラーメンを食べる前に、国が氷河期になりそうな緊急事態。
太郎は冷や汗を流しながら、この「究極の兄弟喧嘩」をどう止めるか、必死に頭を回転させた。
「(ま、まずは……ラーメンで釣るしかないか!?)」
世界の管理者たちが集結しつつある太郎国。
その秩序は、一杯のラーメンにかかっていた。
竜王デュークが太郎の元に住み着き、ラーメンやサウナ、そして昼寝に興じる堕落した(幸せな)日々を送るようになって数ヶ月。
一見平和に見えるその光景は、しかし、世界のパワーバランスを大きく崩す要因となっていた。
大陸の遥か南方。
決して人が立ち入ることのできない秘境、『聖なる泉』。
虹色の霧がかかるその泉のほとりで、炎の羽衣を纏った美しい女性が、苛立ちに眉をひそめていた。
「……あのアホトカゲ(竜王)は、一体何を考えているの?」
彼女の名はフレア。
太古より生きる伝説の『不死鳥(フェニックス)』であり、世界の浄化と再生を司る管理者の一柱である。
「竜王デュークが、太郎とかいう人間の男と契約を結んだ? しかも、その理由が『豚骨ラーメン』と『サウナ』ですって!?」
フレアは持っていた報告書(風の精霊からの伝言)を燃やした。
「ふざけないでよ! 彼が仕事を放り出したせいで、大陸の魔素調整の仕事が全部私に回って来てるじゃない! 最近、肌荒れが酷いのもそのせいよ!」
フレアの怒りの炎が、周囲の森を焼きそうになる。
「……一度、文句を言ってやらないと気が済まないわね」
一方、大陸の最北端。
全てが凍りつく『氷雪大地』。
吹雪が吹き荒れる氷の城で、一人の銀髪の青年が退屈そうに大あくびをしていた。
「ふぁ~あ……」
彼の名はフェンリル。
世界を凍らせる力を持ち、破壊と冬を司る『狼王』である。
「退屈だなぁ……。ここ数百年、面白い喧嘩相手もいないし」
フェンリルは氷の玉座でゴロゴロと寝返りを打った。
「デュークとも遊べないし、つまらないなぁ。あいつ、最近人間の国に入り浸ってるらしいけど……」
フェンリルの獣のような瞳がキラリと光った。
「そうだ……遊びに行こう。久しぶりに全力で噛み付いたら、あいつも目が覚めるかも」
ヒュオオオオ……!
次の瞬間、フェンリルの姿は猛吹雪と共に掻き消えた。
そんな世界の激震など露知らず。
太郎国では、今日も平和な時間が流れていた。
「じゃあ、行ってくるよ」
「うむ。今日のスープの出来は期待できそうだ」
太郎とデュークは、ウキウキとした足取りで城を出ようとしていた。
「いってらっしゃいませ、太郎様」
「お土産、期待していますわ」
見送るサリーとライザが微笑ましそうに囁き合う。
「すっかり仲良くなりましたね、あの二人」
「えぇ、そうですですね。まるで長年連れ添った兄弟のようですわ」
城下町。
太郎国のラーメン文化は日々進化を遂げ、今や様々なジャンルの店が軒を連ねていた。
「で? デューク。今日は何処に行くんだ?」
「うむ、我が最近見つけた店が有るのだ。『家系(いえけい)』ラーメンだがな」
「家系か! こってり豚骨醤油に、太麺、そしてほうれん草と海苔!」
「その通りだ。主よ、ライスを忘れるなよ? スープに浸した海苔でライスを巻いて食う。これぞ正義だ」
「分かってるねぇ~」
二人はマニアックな会話をしながら、路地裏の赤提灯を目指していた。
すると、向こうから一人の銀髪の青年が、ふらりと歩いてきた。
整った顔立ちだが、その身に纏う空気は絶対零度のように冷たく、鋭い。
「やぁ、竜王。久しぶり」
青年が気安く声をかけた。
デュークが足を止める。サングラスを少しずらし、黄金の瞳で青年を見た。
「ん? 貴様は……フェンリルでは無いか」
「フェンリル!?」
太郎が驚く。神話に出てくる狼の王だ。またとんでもないのが現れた。
「今まで何処に行ってたんだよ、デューク」
フェンリルは拗ねた子供のように頬を膨らませた。
「僕は遊び相手が居なくて、つまらかったんだぞ? ずっと氷の城で寝てたんだから」
「我は忙しいのだ。今は『麺・硬め、味・濃いめ、油・多め』の事しか考えられん」
デュークが素っ気なく通り過ぎようとする。
しかし、フェンリルはその前に立ちはだかり、ニヤリと笑った。その笑顔からは、純粋ゆえに恐ろしい殺気が溢れ出していた。
「つれないなぁ。……さぁ、デューク。僕と遊ぼうよ。昔みたいに、大陸の一つや二つ、消し飛ばすくらいの喧嘩(あそび)をしよう?」
フェンリルの足元から、パキパキと地面が凍りつき始める。
ラーメンを食べる前に、国が氷河期になりそうな緊急事態。
太郎は冷や汗を流しながら、この「究極の兄弟喧嘩」をどう止めるか、必死に頭を回転させた。
「(ま、まずは……ラーメンで釣るしかないか!?)」
世界の管理者たちが集結しつつある太郎国。
その秩序は、一杯のラーメンにかかっていた。
0
あなたにおすすめの小説
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari@七柚カリン
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命
yukataka
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
転生幼子は生きのびたい
えぞぎんぎつね
ファンタジー
大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。
だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。
神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。
たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。
一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。
※ネオページ、カクヨムにも掲載しています
捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~
荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。
それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。
「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」
『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。
しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。
家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。
メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。
努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。
『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』
※別サイトにも掲載しています。
「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」
チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。
だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。
魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。
だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。
追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。
訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。
そして助けた少女は、実は王国の姫!?
「もう面倒ごとはごめんだ」
そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる