スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します

月神世一

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第三章 世界の秩序

EP 39

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神兵騎士団長、初めての不採用通知(おいのり)
​【大衆レストラン『猫の尻尾亭』・バックヤード】
​ガチャリ、ガチャリ……。
油の染み付いた床を、聖なるミスリル銀のグリーブ(足甲)が踏みしめる。
​「失礼致します! 面接に参りました、ヴァルキュリアであります!」
​狭い従業員室に、神兵騎士団長の凛とした声が響き渡った。
彼女の手には、羊皮紙に達筆な文字で書かれた『履歴書』が握られている。
​机の向こうで、店長(中年男性、少しハゲ気味)は引きつった笑みを浮かべていた。
目の前にいるのは、黄金の鎧に身を包んだ、絶世の美女。
どう見てもウェイトレスの面接に来る格好ではない。コスプレにしては質感が本物すぎる。
​「あ、あー……。店長です。この度はホールスタッフ急募のご応募、ありがとうございます……」
「よろしくお願い致します! 私の全てをこの店に捧げる所存です!」
​ヴァルキュリアが直立不動で敬礼する。
その気迫に、店長は少しのけぞった。
​「そ、そうですか。では履歴書を……」
​店長は恐る恐る羊皮紙を受け取り、目を通した。
​【氏名】 ヴァルキュリア
【年齢】 永遠の17歳(実年齢:数千歳)
【住所】 神界セレスティア・第1宮殿騎士団寮
【職歴】 神兵騎士団長(現職)
【資格】 神聖魔法1級、対邪神戦闘免許皆伝
​店長の手が震え始めた。
「えっと……名前はヴァルキュリアさん……。住所は『神界セレスティア』って……何ですか? これは。新しい劇団の設定か何かで?」
​「いいえ! 実在する場所です!」
ヴァルキュリアは目を輝かせて説明を始めた。
​「神界セレスティアは、遥か天空の彼方にある聖域! 我ら神兵騎士達が住まい、偉大なる女神ルチアナ様の元に集う、光溢れる場所になります!」
「は、はぁ……。か、神? 神兵? 女神? ……(ヤバイ人が来たな)」
​店長は冷や汗を拭った。
この国、最近変なのが多いとは聞いていたが、まさか自分の店に来るとは。
​「えぇっと……ヴァルキュリアさん。一旦設定は置いておいて……貴方の特技とか、この仕事に活かせる得意な事は何ですか?」
​店長は助け舟を出した。
「力仕事が得意」とか「笑顔に自信がある」とか、そういう答えを期待して。
​しかし、ヴァルキュリアは真剣な眼差しで、腰の神槍(今は魔力で縮小して携帯中)を撫でた。
​「はい! 特技でありますね!」
​彼女は自信満々に答えた。
​「背中の光翼を展開して空を飛び! 神槍グラニに最大出力の神気を注ぎ込み! 敵陣中央目掛けて音速で突進し! 脳天から串刺しにする必殺技『ホーリー・ランス』が得意であります!」
​「…………」
​店長はペンを落とした。
脳裏に、自分の店が音速の突撃で瓦礫の山になる映像が浮かんだ。
​「えぇっと……あのですね、うちはレストランでして。接客業なんですけど……」
「承知しております!」
「串刺しにする機会は、ちょっと無いというか……」
「ご安心ください!」
​ヴァルキュリアはドンと胸を叩いた。
​「私の武力があれば! 食い逃げ犯や泥酔した悪漢、クレーマーなどが来ても、バッタバッタと薙ぎ払い、塵一つ残さず消滅させることができます!」
​「いやいやいや! 事件になっちゃうから! 消滅させちゃダメだから!」
​店長の胃がキリキリと痛み出した。
この人は悪気がない。本気で「接客=敵の排除」だと思っている。
採用したら、初日で店が物理的に潰れる。
​店長は深いため息をつき、履歴書をそっと返した。
​「……ヴァルキュリアさん」
「はい! いつから働けばよろしいでしょうか!?」
「今回は……ご縁が無かったと言う事で」
​「え?」
​ヴァルキュリアの動きが止まった。
​「え、縁が……無い? それはつまり……?」
「不採用です。お引き取りください」
​「な、何故ですか!? 私の戦力が不足していると!? でしたら『神盾シュテル』も併用して……!」
「戦力過剰なんです! お願いですから帰ってください!」
​【城下町・路上】
​カツーン、カツーン……。
店を出たヴァルキュリアの足取りは、鉛のように重かった。
鎧の輝きさえも、心なしか曇って見える。
​「な、何故……」
​彼女は空を見上げた。
​「私は神界最強の騎士……。数多の魔物を屠り、幾多の戦場を駆け抜けてきた……。なのに、たかだか人間の飯屋の採用試験一つ突破できないと言うの……?」
​彼女の手には、突き返された履歴書が握りしめられている。
『不採用』。
その三文字は、邪神の一撃よりも重く、ヴァルキュリアのプライドを粉砕した。
​「リリーナちゃん……ごめんなさい……。私には、ハンバーガー代を稼ぐ力すらない無能な騎士です……」
​ヴァルキュリアはとぼとぼと歩き出した。
その背中は小さく丸まり、すれ違う子供に「あ、コスプレのお姉ちゃんが泣いてるー」と指差される始末だった。
​しかし、彼女はまだ知らない。
この後、別の場所で「その過剰な破壊力」を求めている職場(土木工事現場や冒険者ギルドの荒事)があることを。
戦乙女の「お仕事探し」の旅は、まだ始まったばかりである。
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