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第三章 世界の秩序
EP 52
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月下の宴、そして深淵からの哄笑
【海底国家シーラン国】
魔族軍が消滅し、シーラン国には割れんばかりの歓声と、リリアーナ女王や魚人兵たちからの感激の嵐が吹き荒れていた。
本来なら、国を挙げての盛大な祝勝会が開かれるはずだった。
「フレア様! デューク様! フェリル様! 貴方様方は我等の救世主です! さぁ、最高の海鮮料理と美酒を用意させましたので……」
リリアーナが瞳を輝かせて宴への招待を口にした、その時である。
「さて。旦那様の元に帰りますわよ」
フレアがドレスの裾を翻し、冷徹に言い放った。
余韻など微塵もない。
「な……何!? もうか?」
デュークが目を丸くする。
「折角ご馳走が出てくるのに! シーランの魚料理は絶品なんだぞ! 食べたいぞ!」
フェリルも抗議の声を上げる。
しかし、フレアの背後には、不動明王も裸足で逃げ出すような怒りのオーラが渦巻いていた。
「お黙りなさい!!」
一喝。周囲の海水がビリビリと震える。
「こうしている間にも! あの小娘達(サリーとライザ)が! 『寂しかったでしょう、太郎様♡』などと言って、旦那様にへばり付いているかと思うと……キイイイイイ!! 想像しただけで羽が抜けそうですわ!!」
嫉妬と妄想が暴走していた。
魔族を殲滅した直後だというのに、彼女の敵はすでに「正妻の座を争うライバル」に移っている。
「やれやれ……。色ボケ鳥め」
デュークが呆れて首を振る。
「全くだよ。何だよ、このヒステリックなオバサンは」
フェリルがボソッと呟いた。
ピキッ。
フレアのこめかみに青筋が浮かんだが、今は制裁を加えている時間すら惜しい。
「さぁ、行きますわよ! デューク、出しなさい!」
「チッ……人使いの荒い」
デュークは巨大な竜王の姿に戻ると、不満げなフェリルと、殺気立ったフレアを背に乗せた。
ズドンッ!!
海底から一直線に浮上し、空へと飛び立つ。
音速を遥かに超えるスピードで、三柱はタロウ城へと帰還した。
【タロウ城・玉座の間】
「ただいま戻りましたわ! 旦那様ぁ♡」
窓から飛び込んできたフレアが、椅子に座っていた太郎に抱きついた。
幸い、サリーとライザは業務中だったため、フレアの懸念していた「イチャイチャ」は行われていなかった。
「お、お帰り。早かったね、みんな」
太郎は苦笑いしながら、三柱を出迎えた。
すぐに表情を引き締め、報告会が始まった。
「そうか……。シーラン国でも、魔族達は領土の占領よりも、国民の殺戮を優先していたか」
太郎は腕を組み、沈痛な面持ちで唸った。
エルフの里での一件と同じだ。彼らの目的は侵略ではない。
「えぇ、旦那様。その通りですわ」
フレアが真剣な表情で頷く。
「奴等がなりふり構わず『死』を撒き散らし、その穢れた魂を集めていたとなると……考えられる目的は一つ」
「魔王の復活、か」
「恐らくは。それも、通常の儀式では足りぬほどの、強大な存在の」
広間に重い沈黙が流れる。
だが、今は最悪の事態を回避できたことを喜ぶべきだろう。
「ありがとう。デューク、フレア、フェリル」
太郎は一人一人の目を見て、深く頭を下げた。
「君達がいてくれて本当に助かった。君達のお陰で、多くの命と、僕の大切な友人たちが難を逃れられた」
「ふん。我にかかれば造作もないことだ」
デュークはそっぽを向いたが、その尻尾は満足げに揺れていた。
「楽しかったから良いんだよ! 今度はご飯も食べさせてよね!」
フェリルもニカッと笑う。
【タロウ城・中庭】
その夜。
月下の元、城の中庭では二つの勝利を祝う宴会が開かれていた。
「さぁさぁ、お肉が焼けましたわよ!」
サクヤが手際よくステーキを配る。
「エルフの里が無事で本当に良かったです……!」
ヒブネが涙ぐみながら酒を飲む。
「リリーナちゃんのお母様も無事で何よりですわ!」
ヴァルキュリアがリリーナと手を取り合って踊っている。
笑顔と笑い声。
太郎が守りたかった「普通の幸せ」が、そこにはあった。
「平和だなぁ……」
太郎はビールを片手に月を見上げた。
この平穏が、いつまでも続けばいい。
だが、風に乗って運ばれてくる微かな不穏な気配を、太郎の本能は感じ取っていた。
【魔族国・ワイズ皇国】
一方、光の届かぬ地の底。
魔族たちの総本山、デスピア城の地下深くに、その部屋はあった。
無数の蝋燭が揺らめく中、魔族幹部デデリデが玉座に座っていた。
その前で、傷ついた部下が震えながら報告をしている。
「何だと!? エルフの里も、シーラン国も敗北しただと!?」
デデリデの怒声が響く。
ベリアルも、オクトパス将軍も討たれた。戦力的な損失は計り知れない。
「も、申し訳ありません……! しかし……!」
部下は恐怖に震えながら、一つの水晶を差し出した。
そこには、戦場で集められた膨大な数の「負の魂」が、ドス黒い光を放って渦巻いていた。
「魂は……魂は集めました! 目的は達しました!」
デデリデの目が、怪しく光った。
彼は水晶を手に取ると、口元を歪に歪めた。
「ふむ……。ベリアル達は無駄死にではなかったか」
彼は部屋の奥にある、二つの巨大な「棺」へと歩み寄った。
一つには禍々しい角の紋章。もう一つには、全てを噛み砕く牙の紋章。
「これで……足りる。かつて太郎に殺された『魔王ヴァルス』様。そして、太古より眠りし暴虐の王『魔王グレンデル』様」
デデリデは水晶を棺の上に掲げた。
魂が棺へと吸い込まれていく。
ドクン……ドクン……。
死していたはずの棺から、世界を震わせるほどの鼓動が響き始めた。
「二柱の魔王が同時に目覚める時、世界は真の闇に包まれる……!」
デデリデの高笑いが、地下空洞に反響する。
「今に見ていろ、人間共! そして太郎国! 貴様らの『平和』など、絶望の前の余興に過ぎん! フハハハハハハ!!」
二つの棺が、ギギギ……と音を立てて開き始めた。
その隙間から溢れ出すのは、かつてない絶望の気配。
世界の秩序は、今まさに崩れ去ろうとしていた。
――【世界の秩序編・完】――
【海底国家シーラン国】
魔族軍が消滅し、シーラン国には割れんばかりの歓声と、リリアーナ女王や魚人兵たちからの感激の嵐が吹き荒れていた。
本来なら、国を挙げての盛大な祝勝会が開かれるはずだった。
「フレア様! デューク様! フェリル様! 貴方様方は我等の救世主です! さぁ、最高の海鮮料理と美酒を用意させましたので……」
リリアーナが瞳を輝かせて宴への招待を口にした、その時である。
「さて。旦那様の元に帰りますわよ」
フレアがドレスの裾を翻し、冷徹に言い放った。
余韻など微塵もない。
「な……何!? もうか?」
デュークが目を丸くする。
「折角ご馳走が出てくるのに! シーランの魚料理は絶品なんだぞ! 食べたいぞ!」
フェリルも抗議の声を上げる。
しかし、フレアの背後には、不動明王も裸足で逃げ出すような怒りのオーラが渦巻いていた。
「お黙りなさい!!」
一喝。周囲の海水がビリビリと震える。
「こうしている間にも! あの小娘達(サリーとライザ)が! 『寂しかったでしょう、太郎様♡』などと言って、旦那様にへばり付いているかと思うと……キイイイイイ!! 想像しただけで羽が抜けそうですわ!!」
嫉妬と妄想が暴走していた。
魔族を殲滅した直後だというのに、彼女の敵はすでに「正妻の座を争うライバル」に移っている。
「やれやれ……。色ボケ鳥め」
デュークが呆れて首を振る。
「全くだよ。何だよ、このヒステリックなオバサンは」
フェリルがボソッと呟いた。
ピキッ。
フレアのこめかみに青筋が浮かんだが、今は制裁を加えている時間すら惜しい。
「さぁ、行きますわよ! デューク、出しなさい!」
「チッ……人使いの荒い」
デュークは巨大な竜王の姿に戻ると、不満げなフェリルと、殺気立ったフレアを背に乗せた。
ズドンッ!!
海底から一直線に浮上し、空へと飛び立つ。
音速を遥かに超えるスピードで、三柱はタロウ城へと帰還した。
【タロウ城・玉座の間】
「ただいま戻りましたわ! 旦那様ぁ♡」
窓から飛び込んできたフレアが、椅子に座っていた太郎に抱きついた。
幸い、サリーとライザは業務中だったため、フレアの懸念していた「イチャイチャ」は行われていなかった。
「お、お帰り。早かったね、みんな」
太郎は苦笑いしながら、三柱を出迎えた。
すぐに表情を引き締め、報告会が始まった。
「そうか……。シーラン国でも、魔族達は領土の占領よりも、国民の殺戮を優先していたか」
太郎は腕を組み、沈痛な面持ちで唸った。
エルフの里での一件と同じだ。彼らの目的は侵略ではない。
「えぇ、旦那様。その通りですわ」
フレアが真剣な表情で頷く。
「奴等がなりふり構わず『死』を撒き散らし、その穢れた魂を集めていたとなると……考えられる目的は一つ」
「魔王の復活、か」
「恐らくは。それも、通常の儀式では足りぬほどの、強大な存在の」
広間に重い沈黙が流れる。
だが、今は最悪の事態を回避できたことを喜ぶべきだろう。
「ありがとう。デューク、フレア、フェリル」
太郎は一人一人の目を見て、深く頭を下げた。
「君達がいてくれて本当に助かった。君達のお陰で、多くの命と、僕の大切な友人たちが難を逃れられた」
「ふん。我にかかれば造作もないことだ」
デュークはそっぽを向いたが、その尻尾は満足げに揺れていた。
「楽しかったから良いんだよ! 今度はご飯も食べさせてよね!」
フェリルもニカッと笑う。
【タロウ城・中庭】
その夜。
月下の元、城の中庭では二つの勝利を祝う宴会が開かれていた。
「さぁさぁ、お肉が焼けましたわよ!」
サクヤが手際よくステーキを配る。
「エルフの里が無事で本当に良かったです……!」
ヒブネが涙ぐみながら酒を飲む。
「リリーナちゃんのお母様も無事で何よりですわ!」
ヴァルキュリアがリリーナと手を取り合って踊っている。
笑顔と笑い声。
太郎が守りたかった「普通の幸せ」が、そこにはあった。
「平和だなぁ……」
太郎はビールを片手に月を見上げた。
この平穏が、いつまでも続けばいい。
だが、風に乗って運ばれてくる微かな不穏な気配を、太郎の本能は感じ取っていた。
【魔族国・ワイズ皇国】
一方、光の届かぬ地の底。
魔族たちの総本山、デスピア城の地下深くに、その部屋はあった。
無数の蝋燭が揺らめく中、魔族幹部デデリデが玉座に座っていた。
その前で、傷ついた部下が震えながら報告をしている。
「何だと!? エルフの里も、シーラン国も敗北しただと!?」
デデリデの怒声が響く。
ベリアルも、オクトパス将軍も討たれた。戦力的な損失は計り知れない。
「も、申し訳ありません……! しかし……!」
部下は恐怖に震えながら、一つの水晶を差し出した。
そこには、戦場で集められた膨大な数の「負の魂」が、ドス黒い光を放って渦巻いていた。
「魂は……魂は集めました! 目的は達しました!」
デデリデの目が、怪しく光った。
彼は水晶を手に取ると、口元を歪に歪めた。
「ふむ……。ベリアル達は無駄死にではなかったか」
彼は部屋の奥にある、二つの巨大な「棺」へと歩み寄った。
一つには禍々しい角の紋章。もう一つには、全てを噛み砕く牙の紋章。
「これで……足りる。かつて太郎に殺された『魔王ヴァルス』様。そして、太古より眠りし暴虐の王『魔王グレンデル』様」
デデリデは水晶を棺の上に掲げた。
魂が棺へと吸い込まれていく。
ドクン……ドクン……。
死していたはずの棺から、世界を震わせるほどの鼓動が響き始めた。
「二柱の魔王が同時に目覚める時、世界は真の闇に包まれる……!」
デデリデの高笑いが、地下空洞に反響する。
「今に見ていろ、人間共! そして太郎国! 貴様らの『平和』など、絶望の前の余興に過ぎん! フハハハハハハ!!」
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