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EP 1
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「ようこそ、クソみたいな世界の皆様」
「――おい、聞こえてるか? 同接(どうせつ)100万人、ありがとな」
王都の夜景を見下ろす時計塔の上。
俺はカメラに向かって、芝居がかった動作で仮面を直した。
視界の端に、猛烈な勢いで流れる光の文字――『コメント』が見える。
『うおおおおおお! 今日もやるのか!?』
『待ってました義賊様!!』
『今日は誰を破滅させるの?ww』
『騎士団長が顔真っ赤にして探してたぞw』
熱狂、興奮、そしてどす黒い期待。
画面の向こうにいる何百万もの「共犯者」たちの熱気が、俺の体に魔力となって流れ込んでくる。
「さて、今夜のターゲットだが……この国の財務大臣だ。裏で人身売買をやってる証拠と、隠し金庫の中身。全部『公開処刑(生配信)』してやるから、ポップコーンの準備をして待っててくれ」
ニヤリと笑い、俺は夜の闇へと飛び出した。
これは、俺が底辺から這い上がり、この腐った国をひっくり返すまでの物語だ。
◇
話は、数時間前に遡(さかのぼ)る。
「カナタ、今日でお前をクビにする」
王都のギルド・VIPルーム。
国内最強と謳われるS級パーティ『王の剣』のリーダー、勇者グレンは、ソファにふんぞり返ってそう告げた。
「……理由を聞いても?」
「地味なんだよ、お前の配信」
グレンは吐き捨てるように言った。
俺の役目は「記録係」。戦闘の様子をスキルで撮影し、ギルドの公式チャンネルで配信することだ。
「俺たちの華麗な剣技が見たいのに、お前のカメラワークは分析臭くてつまらねぇ。それに、最近は自動撮影の魔道具(ドローン)もある。レベル1のお前みたいな荷物持ち(ポーター)に、報酬を分けるのが無駄なんだよ」
「俺の『遠隔視(スペクテイター)』は、罠の発見にも役立ってるはずだ」
「うるせえな! 決定事項だ。装備と手切れ金は没収な。今まで俺たちみたいなS級と一緒にいられただけ感謝しろよ」
周囲の取り巻き――聖女も魔導師も、誰も俺を庇わなかった。むしろ「やっと消えるの?」と嘲笑している。
……そうか。こいつらにとって俺は、仲間じゃなくて「便利な道具」ですらなかったのか。
「分かった。……せいぜい、死なないように頑張れよ」
俺はギルド証をテーブルに叩きつけ、部屋を出た。
背後で「負け惜しみかよw」と爆笑する声が聞こえた。
◇
外は冷たい雨が降っていた。
所持金ゼロ。宿もない。
路地裏の軒先で雨宿りをしていると、不意に怒鳴り声が聞こえた。
「おい! この商品に傷をつけやがって!」
太った商人が、幼い獣人の少女を蹴り飛ばしていた。
少女は首輪をつけられ、泥水の中で震えている。
「痛い、ごめんなさい、ごめんなさい……!」
「うるせぇ! 見栄えが悪くなるだろうが! 損した分は体で払ってもらうぞ!」
最悪の光景だ。
だが、ここは王都。巡回中の騎士がいるはずだ。
そう思った矢先、角を曲がってきた騎士団の隊長が、その現場を目撃した。
助かる――そう思った俺が馬鹿だった。
「おや、ゴルド商会の旦那。あまり騒がしくしないでくださいよ」
「おっと、これは騎士様。……いつも『世話』になってますなぁ」
商人はニタリと笑い、騎士のポケットに金貨の袋をねじ込んだ。
騎士は重さを確かめると、満足げに頷く。
「ふむ。何も見なかったことにしましょう。……ああ、その汚いガキの処分はご自由に」
騎士は笑いながら去っていった。
少女の絶望に染まった瞳と、商人の卑下た笑い声だけが残される。
――プツン。
俺の中で、何かが切れる音がした。
勇者パーティも、騎士団も、この国の法律も。
全部、腐りきっている。
正しさなんてどこにもない。力と金を持っている奴が、弱者を踏みにじって笑っているだけだ。
(……許せねぇ)
胸の奥で、黒い炎が燃え上がる。
俺には力がない。剣も魔法も使えない。
だがある。俺には、あいつらが「地味だ」と切り捨てた『遠隔視(スペクテイター)』がある。
このスキルは、視界を飛ばすだけじゃない。
魔力を過剰(オーバー)ロードさせれば、映像を強制的に――人々の持つ「水晶端末」へねじ込める。
俺はポケットから、安物の仮面を取り出した。
かつて祭りで買った、道化の仮面だ。
「法が裁かないなら、俺が裁く」
俺は仮面を被り、スキルを発動した。
ターゲットは、目の前のクソ野郎。
接続先(チャンネル)は――王都の全端末。
『――接続開始(コネクト・オン)』
空中に浮かべた不可視のカメラアイが、商人の醜悪な顔をアップで捉える。
「あー、テステス。……ようこそ、クソみたいな世界の皆様」
俺は声を低く加工し、雨の中に踏み出した。
「今夜は特別番組だ。『王都の法を守る騎士様と、人身売買商人の感動的な癒着現場』をお届けするぜ」
商人がぎょっとして振り返る。
「な、なんだ貴様は!?」
「俺か? 俺は……そうだな」
俺はカメラに向かって、指を鳴らした。
「ただの通りすがりの『怪盗』だよ。……さあ、お前の全て(金と名誉)を置いていけ」
その瞬間。
俺の視界の端にあるカウンターが、異常な速度で跳ね上がった。
【現在の視聴者数:12,408人】
祭りの始まりだ。
「――おい、聞こえてるか? 同接(どうせつ)100万人、ありがとな」
王都の夜景を見下ろす時計塔の上。
俺はカメラに向かって、芝居がかった動作で仮面を直した。
視界の端に、猛烈な勢いで流れる光の文字――『コメント』が見える。
『うおおおおおお! 今日もやるのか!?』
『待ってました義賊様!!』
『今日は誰を破滅させるの?ww』
『騎士団長が顔真っ赤にして探してたぞw』
熱狂、興奮、そしてどす黒い期待。
画面の向こうにいる何百万もの「共犯者」たちの熱気が、俺の体に魔力となって流れ込んでくる。
「さて、今夜のターゲットだが……この国の財務大臣だ。裏で人身売買をやってる証拠と、隠し金庫の中身。全部『公開処刑(生配信)』してやるから、ポップコーンの準備をして待っててくれ」
ニヤリと笑い、俺は夜の闇へと飛び出した。
これは、俺が底辺から這い上がり、この腐った国をひっくり返すまでの物語だ。
◇
話は、数時間前に遡(さかのぼ)る。
「カナタ、今日でお前をクビにする」
王都のギルド・VIPルーム。
国内最強と謳われるS級パーティ『王の剣』のリーダー、勇者グレンは、ソファにふんぞり返ってそう告げた。
「……理由を聞いても?」
「地味なんだよ、お前の配信」
グレンは吐き捨てるように言った。
俺の役目は「記録係」。戦闘の様子をスキルで撮影し、ギルドの公式チャンネルで配信することだ。
「俺たちの華麗な剣技が見たいのに、お前のカメラワークは分析臭くてつまらねぇ。それに、最近は自動撮影の魔道具(ドローン)もある。レベル1のお前みたいな荷物持ち(ポーター)に、報酬を分けるのが無駄なんだよ」
「俺の『遠隔視(スペクテイター)』は、罠の発見にも役立ってるはずだ」
「うるせえな! 決定事項だ。装備と手切れ金は没収な。今まで俺たちみたいなS級と一緒にいられただけ感謝しろよ」
周囲の取り巻き――聖女も魔導師も、誰も俺を庇わなかった。むしろ「やっと消えるの?」と嘲笑している。
……そうか。こいつらにとって俺は、仲間じゃなくて「便利な道具」ですらなかったのか。
「分かった。……せいぜい、死なないように頑張れよ」
俺はギルド証をテーブルに叩きつけ、部屋を出た。
背後で「負け惜しみかよw」と爆笑する声が聞こえた。
◇
外は冷たい雨が降っていた。
所持金ゼロ。宿もない。
路地裏の軒先で雨宿りをしていると、不意に怒鳴り声が聞こえた。
「おい! この商品に傷をつけやがって!」
太った商人が、幼い獣人の少女を蹴り飛ばしていた。
少女は首輪をつけられ、泥水の中で震えている。
「痛い、ごめんなさい、ごめんなさい……!」
「うるせぇ! 見栄えが悪くなるだろうが! 損した分は体で払ってもらうぞ!」
最悪の光景だ。
だが、ここは王都。巡回中の騎士がいるはずだ。
そう思った矢先、角を曲がってきた騎士団の隊長が、その現場を目撃した。
助かる――そう思った俺が馬鹿だった。
「おや、ゴルド商会の旦那。あまり騒がしくしないでくださいよ」
「おっと、これは騎士様。……いつも『世話』になってますなぁ」
商人はニタリと笑い、騎士のポケットに金貨の袋をねじ込んだ。
騎士は重さを確かめると、満足げに頷く。
「ふむ。何も見なかったことにしましょう。……ああ、その汚いガキの処分はご自由に」
騎士は笑いながら去っていった。
少女の絶望に染まった瞳と、商人の卑下た笑い声だけが残される。
――プツン。
俺の中で、何かが切れる音がした。
勇者パーティも、騎士団も、この国の法律も。
全部、腐りきっている。
正しさなんてどこにもない。力と金を持っている奴が、弱者を踏みにじって笑っているだけだ。
(……許せねぇ)
胸の奥で、黒い炎が燃え上がる。
俺には力がない。剣も魔法も使えない。
だがある。俺には、あいつらが「地味だ」と切り捨てた『遠隔視(スペクテイター)』がある。
このスキルは、視界を飛ばすだけじゃない。
魔力を過剰(オーバー)ロードさせれば、映像を強制的に――人々の持つ「水晶端末」へねじ込める。
俺はポケットから、安物の仮面を取り出した。
かつて祭りで買った、道化の仮面だ。
「法が裁かないなら、俺が裁く」
俺は仮面を被り、スキルを発動した。
ターゲットは、目の前のクソ野郎。
接続先(チャンネル)は――王都の全端末。
『――接続開始(コネクト・オン)』
空中に浮かべた不可視のカメラアイが、商人の醜悪な顔をアップで捉える。
「あー、テステス。……ようこそ、クソみたいな世界の皆様」
俺は声を低く加工し、雨の中に踏み出した。
「今夜は特別番組だ。『王都の法を守る騎士様と、人身売買商人の感動的な癒着現場』をお届けするぜ」
商人がぎょっとして振り返る。
「な、なんだ貴様は!?」
「俺か? 俺は……そうだな」
俺はカメラに向かって、指を鳴らした。
「ただの通りすがりの『怪盗』だよ。……さあ、お前の全て(金と名誉)を置いていけ」
その瞬間。
俺の視界の端にあるカウンターが、異常な速度で跳ね上がった。
【現在の視聴者数:12,408人】
祭りの始まりだ。
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