FPS世界ランク1位の凸スナ、ニートを辞めて異世界でエンジニアになる~工業高校の資格と現代兵器で、健気なドワーフ娘を救い天下を取る~

月神世一

文字の大きさ
1 / 53

EP 1

しおりを挟む
最期と始まりのラグ
​カチャカチャカチャ、ッターン!
​薄暗い六畳一間。モニターの明かりだけが照らすその部屋で、多田野英一(23)は神速のマウス捌きを見せていた。
​画面の中、架空空想3D型FPSゲーム『ガン・オブ・デストロイ(GoD)』の世界において、彼の操るアバターは戦場を疾走していた。スコープを覗く時間はコンマ数秒。遭遇した敵の頭部を正確に撃ち抜き、即座に次へ走る。
芋砂(待ち伏せスナイパー)を狩り尽くす恐怖の遊撃手。世界ランキング一位、「凸スナのエイイチ」。それがここでの彼の名だ。
​「……よし、ドン勝」
​ヘッドセットを外し、英一は大きく息を吐いた。
途端に、現実は重くのしかかってくる。
​「英一! いつまで起きてるの! 電気代もタダじゃないんだからね!」
「……うっせぇな」
​階下から母親の怒鳴り声が聞こえた。妹に至っては、最近口も利いてくれない。廊下ですれ違えば「うわ、ニート菌が移る」と露骨に避けられる始末だ。
工業高校を出て、自動車工場に就職した。でも、初日で辞めた。あの上司の怒鳴り声、理不尽な命令、油の匂い。全てが無理だった。
​「……課金、しねぇとな」
​新しい迷彩スキンが出たのだ。
英一は音を立てないようにリビングへ忍び込み、置いてあった親父の財布から一枚、紙幣を抜き取った。
罪悪感? そんなもの、とうの昔に麻痺している。いや、そう思わないとやっていられない。
​「……全てはあの上司が悪いんだ。俺は悪くない。俺には才能があるんだ、場所が悪いだけなんだ……」
​玄関を出て、夜の冷たい空気に触れながら、英一は虚しく呟いた。
握りしめた千円札は、手汗で少し湿っていた。
​コンビニでWebマネーを購入し、店を出た。
深夜の交差点は静まり返っている。信号は赤。
​ふと、視線を落とすと、横断歩道の真ん中に小さな影があった。
猫だ。
黒い子猫が、アスファルトの熱に惹かれたのか、ちょこんと座り込んでいる。
​「……おい、危ないぞ」
​英一が声をかけた、その時だった。
遠くからエンジン音が轟いた。深夜の配送トラックだ。激務なのか、居眠り運転なのか、信号が変わっていることに気づく様子がない。猛スピードで交差点へ突っ込んでくる。
​(あ――)
​思考するより早かった。
工業高校で叩き込まれた「危険予知」か、それともFPSで培った「反射神経」か。
英一の体は、理屈や恐怖を置き去りにして飛び出していた。
​猫を抱きかかえ、路肩へ放り投げる。
ドンッ、という鈍い衝撃。
空が回った。
熱いとも、痛いともつかない感覚が一瞬だけ走り、やがて英一の意識はブラックアウトした。
​「……ん、あ~……起きましたか? 多田野英一さん」
​どこか気だるげな、女性の声がした。
メンソールのタバコの匂いが鼻をかすめる。
​英一が目を開けると、そこは真っ白な空間だった。
目の前には、場違いなパイプ椅子に座り、足を組んでいる女性がいる。
美しい顔立ちをしているが、着ているのは高校の芋ジャージ。足元は便所サンダルのようなゴム草履。そして手には、火のついた細いタバコ『ピアニッシモ』。
​「え? ここは? ……あんたは誰だ?」
「ここは審判の場。私の名はルチアナ。まぁ、『女神』と言った方が分かりやすいかしら?」
​ルチアナと名乗った女は、ふぅーっと煙を吐き出した。
​「女神……? じゃあ、俺、死んだのか……そっか……」
​呆気ない幕切れだった。
親の金を盗んで、コンビニの帰りに轢かれて死ぬ。最悪の人生だ。
​「う~ん、貴方は惜しいんですよねぇ」
​ルチアナは手元の資料――どう見ても安っぽいバインダー――をめくりながら言った。
​「自動車整備士に溶接、危険物に電気工事士……資格はいっぱい持ってる。FPSの反射神経も世界一。才能はあるのに、引きこもってニートになっちゃって。宝の持ち腐れとはこのことです」
「えっ……?」
「まぁ、私の大好きな猫ちゃんを助けてくれたので、特別に機会を与えましょう」
​ルチアナはサンダルをペタペタ鳴らして歩み寄り、英一の顔を覗き込んだ。
​「『アナステシア世界』。剣と魔法、そして魔獣が跋扈する世界に行く機会を」
「そ、それって……異世界転生って奴か?」
「そうです。貴方のその腐らせている才能、向こうなら使い道があるかも知れません」
​ルチアナはニヤリと笑うと、指をパチンと鳴らした。
​「特典として、スキルは貴方の大好きなFPS『ガン・オブ・デストロイ』のシステムをそのまま使えるようにしてあげます。銃も、弾薬も、ミニマップもね」
​英一は呆然とした。
あの大好きなゲームの世界の力を持って、やり直せるのか?
あの上司もいない、俺を馬鹿にする家族もいない世界で。
​「……あ、ありがとう」
​英一は顔を上げ、ルチアナの目を真っ直ぐに見た。
コミュ障の彼が、他人の、しかも女性の目をこれほどはっきりと見据えたのは数年ぶりのことだった。
​「……ふふっ」
​ルチアナは少しだけ驚いた顔をして、それから満足げに微笑んだ。
​「ようやく、私の目を見て、まともな会話ができましたね。その目ができるなら、きっと大丈夫」
​彼女は吸い殻を携帯灰皿に押し込むと、英一の背中をポンと押した。
​「では、多田野英一さん。良い異世界転生を。――たまには私の神殿に、お布施(タバコ)を持ってきなさいよ?」
​その言葉を最後に、英一の体は光に包まれ、白い空間から吸い込まれるように消えていった。
​残されたルチアナは、誰もいない空間で大きく伸びをした。
​「さて……あの子、どうなるかしら。ま、とりあえず今日はもう閉店ガラガラ~」
​彼女はジャージのポケットからスマホを取り出すと、どこかへ通話をかけ始めた。
​「あ、もしもしラスティア? 今から女子会やんない? いい酒が入ったのよ……」
​気がつくと、英一は鬱蒼とした森の中に立っていた。
土の匂い、風の音。
そして視界の端には、見慣れた半透明のUI――ミニマップと残弾数表示――が浮かんでいる。
​「……マジだ」
​右手をかざすと、空間が歪み、重厚なスナイパーライフル『M24』が実体化して掌に収まった。
ずしりとした冷たい鋼鉄の感触。これが、俺の新しい相棒。
​「やってやる……今度こそ、逃げずに」
​多田野英一、23歳。
元ニートで世界ランク一位の凸スナ。
アナステシア世界での、彼の新しい人生(ゲーム)が始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】 普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます) 【まじめなあらすじ】  主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、 「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」  転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。  魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。  友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、 「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」 「「「違う、そうじゃない!!」」」  これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。 ※他サイトにも投稿中 ※旧タイトル 病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...