2 / 53
EP 2
しおりを挟む
凸スナ、異世界に降り立つ
転移の光が収まると、そこは鬱蒼とした森の中だった。
鼻を突く土と草の匂い。どこかで鳥のさえずりが聞こえる。
「……ここは何処だ?」
英一は周囲を見渡す。
自分の体を見下ろして、彼は小さく声を上げた。
「てか、この服……『ガン・オブ・デストロイ(GoD)』のアバター装備そのまんまじゃねぇか」
着古したジャージではない。
頭にはタクティカルヘルメット、胴体にはセラミックプレート入りの防弾チョッキ、そして迷彩柄のバトルスーツ。背中には愛用の軍用リュックまで背負っている。
完全に「重装備の兵士」の姿だ。
その時、視界の右上に半透明のウィンドウがポップアップした。
『システム起動:タクティカル・ミニマップ展開』
「うおっ、マジで見えてる……」
視界の隅に表示された円形のレーダー。
そこに、光る点が複数現れた。
「……敵だ。赤いマーカー」
赤色は敵対生物(エネミー)。FPSの鉄則だ。
英一のゲーマー脳が瞬時に「日常モード」から「戦闘モード」へと切り替わる。
恐怖はない。これは彼が数千時間を費やした領域(ゲーム)だからだ。
「よし、俺の能力、試してやるぜ」
英一が右手を軽く振ると、空間が歪み、漆黒の銃身が現れる。
ボルトアクション式スナイパーライフル『M24 SWS』。
ずしりとした重みを感じながら、彼は走り出した。
隠れない。伏せない。
堂々と正面から突っ込む。それが世界ランク一位の「突撃スナイパー(凸スナ)」のスタイルだ。
森の開けた場所に出ると、緑色の肌をした小鬼――ゴブリンの集団がたむろしていた。
「ギャ?(なんだあいつ?)」
ゴブリンたちが奇妙な格好の人間(英一)に気づき、動きを止めた。
その一瞬の硬直。英一にとっては永遠にも等しい隙だ。
「遅い」
走りながらライフルを構え、スコープを覗く動作はコンマ数秒(クイック・スコープ)。
――ズドンッ!!
森の静寂を引き裂く轟音。
魔法の炸裂音とは違う、乾いた火薬の破裂音が響き渡る。
先頭にいたゴブリンの頭部が、何が起きたのかもわからぬままザクロのように弾け飛んだ。
「ギ、ギャッ!?」
「次」
ボルトを引いて排莢。次弾装填。
流れるような動作で、逃げ惑うゴブリンたちの背中を、眉間を、次々と撃ち抜いていく。
「ふぅ……感触は悪くない。リコイル(反動)もゲームのままだ」
全滅まで十秒足らず。
英一は硝煙の匂いを嗅ぎながら、再びミニマップに目を落とした。
「ん? 街らしき反応があるな……」
レーダーの端に、密集した反応がある。だが、その手前で奇妙な動きがあった。
「青いマーカー……これは『味方(フレンドリー)』か?」
青い点の周囲を、複数の大きな赤い点が取り囲んでいる。
青い点は激しく動き回り、逃げ惑っているように見えた。
「襲われてるのか? ……行くか」
英一はM24を片手に、森を疾走した。
「きゃ~~っ!! 助けて下さい~~!!」
森の小道を、少女が必死に駆けていた。
身長は130センチほど。栗色の髪をツインテールにし、フリルのついたエプロンドレスを着ている。見た目は幼い少女だが、その発育の良い体つきと、腰に下げた商売道具のポーチは、彼女がドワーフ族であることを示していた。
彼女の名はマミユ。20歳のドワーフの行商人だ。
「アタシなんて美味しくありませんことよ~! 食べるならもっと筋肉質のオジサンにしなさ~い!」
マミユの背後には、通常のゴブリンよりも二回りほど巨大な魔物――ホブゴブリンの群れが迫っていた。
棍棒を振り回し、涎を垂らしながらマミユを追い詰めていく。
「グガァァッ!」
一匹が先回りし、マミユの退路を塞いだ。
マミユは足をもつれさせ、その場に尻餅をついた。
「ひっ……!」
(あぁ、もうダメ……お父様、お母様、ごめんなさい……まだ素敵な彼氏も出来てないのにぃ!)
ホブゴブリンが棍棒を振り上げた、その時だった。
ザッ!
茂みを突き破り、迷彩服の男が飛び出してきた。
英一だ。
「グルァ?(人間?)」
ホブゴブリンたちは、突然現れた獲物に興味を惹かれ、一斉に英一の方を向いた。
「標的」が足を止め、こちらに顔を向けた。
FPSにおいて、それは「死」を意味する。
「的(マト)が俺を見てやがる。いい度胸だ」
英一の口元が微かに歪む。
距離は15メートル。スナイパーライフルには近すぎる距離だが、彼には関係ない。
走り込みの勢いを殺さず、一瞬で膝をつき、銃口を突き出した。
――ドォォォン!!
雷が落ちたような轟音。
マミユの目の前にいたホブゴブリンの上半身が、見えない衝撃によって粉砕された。
「え……?」
マミユが瞬きをする間に、英一はボルトを操作し、次弾を放つ。
ドンッ! ガチャン。ドンッ!
正確無比。
ホブゴブリンたちは、武器を構えることも、悲鳴を上げることも許されなかった。
頭部を、心臓を、音速を超えた鉛の弾丸が貫通し、次々と肉塊へと変えていく。
最後のホブゴブリンが崩れ落ちた時、あたりには再び静寂が戻った。
残ったのは、薬莢が地面に落ちる、カラン、カランという澄んだ音だけ。
マミユは腰を抜かしたまま、目の前の光景が信じられなかった。
魔法の詠唱もなしに、一瞬で魔物の群れを?
あの黒い杖のような武器は何?
そして、この奇妙な服を着た男は……。
マミユの目には、硝煙の中に立つ英一の姿が、逆光を受けて輝く騎士のように映っていた。
「あ、貴方は……?」
震える声でマミユが尋ねる。
(もしかして……アタシの王子様かしら?)
英一はミニマップを確認し、周囲の赤い反応が消えたことを確かめると、M24を肩に担ぎ直した。
そして、少しだけカッコつけて(コミュ障特有の早口を抑えて)答えた。
「俺か? ……俺は英一(えいいち)。多田野(ただの)英一だ」
「タダノ……エイイチ様……?」
「ああ。ただの、スナイパーだ」
その言葉の意味(Just a sniper)を誤解したまま、マミユの瞳はハート型に輝き始めていた。
転移の光が収まると、そこは鬱蒼とした森の中だった。
鼻を突く土と草の匂い。どこかで鳥のさえずりが聞こえる。
「……ここは何処だ?」
英一は周囲を見渡す。
自分の体を見下ろして、彼は小さく声を上げた。
「てか、この服……『ガン・オブ・デストロイ(GoD)』のアバター装備そのまんまじゃねぇか」
着古したジャージではない。
頭にはタクティカルヘルメット、胴体にはセラミックプレート入りの防弾チョッキ、そして迷彩柄のバトルスーツ。背中には愛用の軍用リュックまで背負っている。
完全に「重装備の兵士」の姿だ。
その時、視界の右上に半透明のウィンドウがポップアップした。
『システム起動:タクティカル・ミニマップ展開』
「うおっ、マジで見えてる……」
視界の隅に表示された円形のレーダー。
そこに、光る点が複数現れた。
「……敵だ。赤いマーカー」
赤色は敵対生物(エネミー)。FPSの鉄則だ。
英一のゲーマー脳が瞬時に「日常モード」から「戦闘モード」へと切り替わる。
恐怖はない。これは彼が数千時間を費やした領域(ゲーム)だからだ。
「よし、俺の能力、試してやるぜ」
英一が右手を軽く振ると、空間が歪み、漆黒の銃身が現れる。
ボルトアクション式スナイパーライフル『M24 SWS』。
ずしりとした重みを感じながら、彼は走り出した。
隠れない。伏せない。
堂々と正面から突っ込む。それが世界ランク一位の「突撃スナイパー(凸スナ)」のスタイルだ。
森の開けた場所に出ると、緑色の肌をした小鬼――ゴブリンの集団がたむろしていた。
「ギャ?(なんだあいつ?)」
ゴブリンたちが奇妙な格好の人間(英一)に気づき、動きを止めた。
その一瞬の硬直。英一にとっては永遠にも等しい隙だ。
「遅い」
走りながらライフルを構え、スコープを覗く動作はコンマ数秒(クイック・スコープ)。
――ズドンッ!!
森の静寂を引き裂く轟音。
魔法の炸裂音とは違う、乾いた火薬の破裂音が響き渡る。
先頭にいたゴブリンの頭部が、何が起きたのかもわからぬままザクロのように弾け飛んだ。
「ギ、ギャッ!?」
「次」
ボルトを引いて排莢。次弾装填。
流れるような動作で、逃げ惑うゴブリンたちの背中を、眉間を、次々と撃ち抜いていく。
「ふぅ……感触は悪くない。リコイル(反動)もゲームのままだ」
全滅まで十秒足らず。
英一は硝煙の匂いを嗅ぎながら、再びミニマップに目を落とした。
「ん? 街らしき反応があるな……」
レーダーの端に、密集した反応がある。だが、その手前で奇妙な動きがあった。
「青いマーカー……これは『味方(フレンドリー)』か?」
青い点の周囲を、複数の大きな赤い点が取り囲んでいる。
青い点は激しく動き回り、逃げ惑っているように見えた。
「襲われてるのか? ……行くか」
英一はM24を片手に、森を疾走した。
「きゃ~~っ!! 助けて下さい~~!!」
森の小道を、少女が必死に駆けていた。
身長は130センチほど。栗色の髪をツインテールにし、フリルのついたエプロンドレスを着ている。見た目は幼い少女だが、その発育の良い体つきと、腰に下げた商売道具のポーチは、彼女がドワーフ族であることを示していた。
彼女の名はマミユ。20歳のドワーフの行商人だ。
「アタシなんて美味しくありませんことよ~! 食べるならもっと筋肉質のオジサンにしなさ~い!」
マミユの背後には、通常のゴブリンよりも二回りほど巨大な魔物――ホブゴブリンの群れが迫っていた。
棍棒を振り回し、涎を垂らしながらマミユを追い詰めていく。
「グガァァッ!」
一匹が先回りし、マミユの退路を塞いだ。
マミユは足をもつれさせ、その場に尻餅をついた。
「ひっ……!」
(あぁ、もうダメ……お父様、お母様、ごめんなさい……まだ素敵な彼氏も出来てないのにぃ!)
ホブゴブリンが棍棒を振り上げた、その時だった。
ザッ!
茂みを突き破り、迷彩服の男が飛び出してきた。
英一だ。
「グルァ?(人間?)」
ホブゴブリンたちは、突然現れた獲物に興味を惹かれ、一斉に英一の方を向いた。
「標的」が足を止め、こちらに顔を向けた。
FPSにおいて、それは「死」を意味する。
「的(マト)が俺を見てやがる。いい度胸だ」
英一の口元が微かに歪む。
距離は15メートル。スナイパーライフルには近すぎる距離だが、彼には関係ない。
走り込みの勢いを殺さず、一瞬で膝をつき、銃口を突き出した。
――ドォォォン!!
雷が落ちたような轟音。
マミユの目の前にいたホブゴブリンの上半身が、見えない衝撃によって粉砕された。
「え……?」
マミユが瞬きをする間に、英一はボルトを操作し、次弾を放つ。
ドンッ! ガチャン。ドンッ!
正確無比。
ホブゴブリンたちは、武器を構えることも、悲鳴を上げることも許されなかった。
頭部を、心臓を、音速を超えた鉛の弾丸が貫通し、次々と肉塊へと変えていく。
最後のホブゴブリンが崩れ落ちた時、あたりには再び静寂が戻った。
残ったのは、薬莢が地面に落ちる、カラン、カランという澄んだ音だけ。
マミユは腰を抜かしたまま、目の前の光景が信じられなかった。
魔法の詠唱もなしに、一瞬で魔物の群れを?
あの黒い杖のような武器は何?
そして、この奇妙な服を着た男は……。
マミユの目には、硝煙の中に立つ英一の姿が、逆光を受けて輝く騎士のように映っていた。
「あ、貴方は……?」
震える声でマミユが尋ねる。
(もしかして……アタシの王子様かしら?)
英一はミニマップを確認し、周囲の赤い反応が消えたことを確かめると、M24を肩に担ぎ直した。
そして、少しだけカッコつけて(コミュ障特有の早口を抑えて)答えた。
「俺か? ……俺は英一(えいいち)。多田野(ただの)英一だ」
「タダノ……エイイチ様……?」
「ああ。ただの、スナイパーだ」
その言葉の意味(Just a sniper)を誤解したまま、マミユの瞳はハート型に輝き始めていた。
0
あなたにおすすめの小説
病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~
アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】
普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます)
【まじめなあらすじ】
主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、
「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」
転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。
魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。
友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、
「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」
「「「違う、そうじゃない!!」」」
これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。
※他サイトにも投稿中
※旧タイトル
病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる