FPS世界ランク1位の凸スナ、ニートを辞めて異世界でエンジニアになる~工業高校の資格と現代兵器で、健気なドワーフ娘を救い天下を取る~

月神世一

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EP 2

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凸スナ、異世界に降り立つ
​転移の光が収まると、そこは鬱蒼とした森の中だった。
鼻を突く土と草の匂い。どこかで鳥のさえずりが聞こえる。
​「……ここは何処だ?」
​英一は周囲を見渡す。
自分の体を見下ろして、彼は小さく声を上げた。
​「てか、この服……『ガン・オブ・デストロイ(GoD)』のアバター装備そのまんまじゃねぇか」
​着古したジャージではない。
頭にはタクティカルヘルメット、胴体にはセラミックプレート入りの防弾チョッキ、そして迷彩柄のバトルスーツ。背中には愛用の軍用リュックまで背負っている。
完全に「重装備の兵士」の姿だ。
​その時、視界の右上に半透明のウィンドウがポップアップした。
​『システム起動:タクティカル・ミニマップ展開』
​「うおっ、マジで見えてる……」
​視界の隅に表示された円形のレーダー。
そこに、光る点が複数現れた。
​「……敵だ。赤いマーカー」
​赤色は敵対生物(エネミー)。FPSの鉄則だ。
英一のゲーマー脳が瞬時に「日常モード」から「戦闘モード」へと切り替わる。
恐怖はない。これは彼が数千時間を費やした領域(ゲーム)だからだ。
​「よし、俺の能力、試してやるぜ」
​英一が右手を軽く振ると、空間が歪み、漆黒の銃身が現れる。
ボルトアクション式スナイパーライフル『M24 SWS』。
ずしりとした重みを感じながら、彼は走り出した。
​隠れない。伏せない。
堂々と正面から突っ込む。それが世界ランク一位の「突撃スナイパー(凸スナ)」のスタイルだ。
​森の開けた場所に出ると、緑色の肌をした小鬼――ゴブリンの集団がたむろしていた。
​「ギャ?(なんだあいつ?)」
​ゴブリンたちが奇妙な格好の人間(英一)に気づき、動きを止めた。
その一瞬の硬直。英一にとっては永遠にも等しい隙だ。
​「遅い」
​走りながらライフルを構え、スコープを覗く動作はコンマ数秒(クイック・スコープ)。
​――ズドンッ!!
​森の静寂を引き裂く轟音。
魔法の炸裂音とは違う、乾いた火薬の破裂音が響き渡る。
先頭にいたゴブリンの頭部が、何が起きたのかもわからぬままザクロのように弾け飛んだ。
​「ギ、ギャッ!?」
「次」
​ボルトを引いて排莢。次弾装填。
流れるような動作で、逃げ惑うゴブリンたちの背中を、眉間を、次々と撃ち抜いていく。
​「ふぅ……感触は悪くない。リコイル(反動)もゲームのままだ」
​全滅まで十秒足らず。
英一は硝煙の匂いを嗅ぎながら、再びミニマップに目を落とした。
​「ん? 街らしき反応があるな……」
​レーダーの端に、密集した反応がある。だが、その手前で奇妙な動きがあった。
​「青いマーカー……これは『味方(フレンドリー)』か?」
​青い点の周囲を、複数の大きな赤い点が取り囲んでいる。
青い点は激しく動き回り、逃げ惑っているように見えた。
​「襲われてるのか? ……行くか」
​英一はM24を片手に、森を疾走した。
​「きゃ~~っ!! 助けて下さい~~!!」
​森の小道を、少女が必死に駆けていた。
身長は130センチほど。栗色の髪をツインテールにし、フリルのついたエプロンドレスを着ている。見た目は幼い少女だが、その発育の良い体つきと、腰に下げた商売道具のポーチは、彼女がドワーフ族であることを示していた。
​彼女の名はマミユ。20歳のドワーフの行商人だ。
​「アタシなんて美味しくありませんことよ~! 食べるならもっと筋肉質のオジサンにしなさ~い!」
​マミユの背後には、通常のゴブリンよりも二回りほど巨大な魔物――ホブゴブリンの群れが迫っていた。
棍棒を振り回し、涎を垂らしながらマミユを追い詰めていく。
​「グガァァッ!」
​一匹が先回りし、マミユの退路を塞いだ。
マミユは足をもつれさせ、その場に尻餅をついた。
​「ひっ……!」
(あぁ、もうダメ……お父様、お母様、ごめんなさい……まだ素敵な彼氏も出来てないのにぃ!)
​ホブゴブリンが棍棒を振り上げた、その時だった。
​ザッ!
​茂みを突き破り、迷彩服の男が飛び出してきた。
英一だ。
​「グルァ?(人間?)」
​ホブゴブリンたちは、突然現れた獲物に興味を惹かれ、一斉に英一の方を向いた。
「標的」が足を止め、こちらに顔を向けた。
FPSにおいて、それは「死」を意味する。
​「的(マト)が俺を見てやがる。いい度胸だ」
​英一の口元が微かに歪む。
距離は15メートル。スナイパーライフルには近すぎる距離だが、彼には関係ない。
走り込みの勢いを殺さず、一瞬で膝をつき、銃口を突き出した。
​――ドォォォン!!
​雷が落ちたような轟音。
マミユの目の前にいたホブゴブリンの上半身が、見えない衝撃によって粉砕された。
​「え……?」
​マミユが瞬きをする間に、英一はボルトを操作し、次弾を放つ。
​ドンッ! ガチャン。ドンッ!
​正確無比。
ホブゴブリンたちは、武器を構えることも、悲鳴を上げることも許されなかった。
頭部を、心臓を、音速を超えた鉛の弾丸が貫通し、次々と肉塊へと変えていく。
​最後のホブゴブリンが崩れ落ちた時、あたりには再び静寂が戻った。
残ったのは、薬莢が地面に落ちる、カラン、カランという澄んだ音だけ。
​マミユは腰を抜かしたまま、目の前の光景が信じられなかった。
魔法の詠唱もなしに、一瞬で魔物の群れを?
あの黒い杖のような武器は何?
そして、この奇妙な服を着た男は……。
​マミユの目には、硝煙の中に立つ英一の姿が、逆光を受けて輝く騎士のように映っていた。
​「あ、貴方は……?」
​震える声でマミユが尋ねる。
(もしかして……アタシの王子様かしら?)
​英一はミニマップを確認し、周囲の赤い反応が消えたことを確かめると、M24を肩に担ぎ直した。
そして、少しだけカッコつけて(コミュ障特有の早口を抑えて)答えた。
​「俺か? ……俺は英一(えいいち)。多田野(ただの)英一だ」
​「タダノ……エイイチ様……?」
​「ああ。ただの、スナイパーだ」
​その言葉の意味(Just a sniper)を誤解したまま、マミユの瞳はハート型に輝き始めていた。
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