3 / 45
EP 3
しおりを挟む
青いマーカーと銀貨の通行証
硝煙が風に流れていく。
英一はM24をスッと空間収納(インベントリ)にしまうと、改めて目の前の少女を見た。
身長は低いが、出るところは出ているドワーフの少女。
彼女の頭上には、視界のUIを通して鮮やかな『青色のマーカー(味方)』が輝いている。
「えっと、その……お、お礼がまだでしたね」
少女――マイユは、頬を少し赤らめながら、モジモジと指を組み合わせた。助けてもらった興奮と、目の前の奇抜な格好の男への興味が入り混じっているようだ。
「ぜ、是非ともアタシの家で薬草茶でも! お菓子もありますし、休憩していってくださいな!」
英一は少し躊躇った。
コミュ障の彼にとって、初対面の異性の家に行くなどハードルが高すぎる。
だが、視界のミニマップは、彼女が完全に「無害」で「友好的」であることを示していた。それに、この世界の情報も欲しい。
「えっと、その……」
英一は視線を少し逸らしながら、ボソリと答えた。
「……世話になるよ」
(まぁ、青マーカーだから罠ってことはないだろ。補給も兼ねて休ませてもらうか)
「はいっ! こっちです、英一様!」
マイユは花が咲いたような笑顔を見せると、英一の手を引いて歩き出した。
二人が向かったのは、森を抜けた先にある城塞都市『スタラント』。
石造りの高い城壁に囲まれたその街は、遠くからでも鍛冶場の煙突から煙が上がっているのが見え、活気に満ちているようだった。
城門の前には、槍を持った兵士たちが立って検問を行っている。
「やぁ、マイユちゃん。商売の帰りかい?」
顔馴染みらしい若い警備兵が、親しげに声をかけてきた。
「あ、警備の人。お疲れ様です~」
マイユは愛想よく挨拶を返すが、警備兵の視線はすぐに英一へと移った。
迷彩服に防弾チョッキ、フルフェイスに近いヘルメット。どう見てもこの世界の住人ではない。明らかに不審者だ。
「……ん? 君は誰だ? 見ない顔だし、その奇妙な服は……」
警備兵が警戒して槍を持ち直す。
英一の視界には、警備兵の頭上に『黄色のマーカー』が表示された。
(黄色……『中立(ニュートラル)』か。攻撃はしてこないが、対応次第で赤(敵)にも青(味方)にもなるNPCってとこだな)
英一がどう答えるべきか(「旅人です」と言うべきか、黙っているべきか)コミュ障特有の思考フリーズを起こしかけた時、マイユがスッと二人の間に割って入った。
「あ、警備兵さん! この人は怪しい人じゃないの!」
マイユは身振りを交えて、まくし立てる。
「森で魔物に襲われた私を助けてくれた、命の恩人なんです! 凄腕の傭兵さんで、遠い異国の衣装を着てるだけなんですよぉ」
「よ、傭兵……? にしては武器を持ってないようだが……」
「魔法使いの一種なんです! ね? だから心配しないで」
言いながら、マイユは自然な動作で警備兵の手に何かを握らせた。
キラリと光る銀貨(1,000円相当)。
通行料にしては少し多い、所謂「袖の下」だ。
「きちんと通行料は払うから。ね? 融通利かせてくださいな?」
マイユが上目遣いでニコリと微笑む。
ドワーフ族特有の商魂と、彼女自身の愛嬌。そして握らされた銀貨の重み。
警備兵は苦笑して、槍を下ろした。
「……分かったよ。マイユちゃんがそこまで言うなら、信用しよう」
「ありがとうございます~! やっぱりスタラントの兵隊さんは頼りになりますね!」
「へへっ、よせよ。通りな」
警備兵は機嫌よく道を開けた。
(……なるほど。これが『リアルな取引』ってやつか)
英一は感心した。ゲームなら選択肢を選んでスキルチェック判定が入るところだが、この世界ではコミュニケーションと金が物を言うらしい。
マイユの後ろについて門をくぐる際、英一は小さく警備兵に会釈した。
スタラントの街中は、活気と熱気に満ちていた。
カンカンと金属を叩く音、露店の呼び込みの声、そして見たこともない『ロックバイソン』が引く荷車の列。
「じゃあ、行きましょ英一さん! アタシの城へ!」
「あ、ああ……」
英一はキョロキョロと挙動不審になりながらも、彼女の後をついていく。
マイユに案内されて到着したのは、職人街の片隅にある一軒の建物だった。
看板には『マイユの万事屋工房(よろずやこうぼう)』と書かれており、店の前には歯車や金属片、謎のガラクタが山積みにされている。
「散らかってますけど、どうぞ!」
マイユが重い扉を開けると、中からはオイルと鉄の混じった、どこか懐かしい匂いがした。
それは英一が一日でバックレたとはいえ、かつて嗅いだ工場の匂いに似ていて――しかし、不思議と嫌な感じはしなかった。
「ここが、マイユの工房……」
英一はヘルメットを脱ぎ、その雑然とした、しかし職人の熱意が詰まった空間に足を踏み入れた。
硝煙が風に流れていく。
英一はM24をスッと空間収納(インベントリ)にしまうと、改めて目の前の少女を見た。
身長は低いが、出るところは出ているドワーフの少女。
彼女の頭上には、視界のUIを通して鮮やかな『青色のマーカー(味方)』が輝いている。
「えっと、その……お、お礼がまだでしたね」
少女――マイユは、頬を少し赤らめながら、モジモジと指を組み合わせた。助けてもらった興奮と、目の前の奇抜な格好の男への興味が入り混じっているようだ。
「ぜ、是非ともアタシの家で薬草茶でも! お菓子もありますし、休憩していってくださいな!」
英一は少し躊躇った。
コミュ障の彼にとって、初対面の異性の家に行くなどハードルが高すぎる。
だが、視界のミニマップは、彼女が完全に「無害」で「友好的」であることを示していた。それに、この世界の情報も欲しい。
「えっと、その……」
英一は視線を少し逸らしながら、ボソリと答えた。
「……世話になるよ」
(まぁ、青マーカーだから罠ってことはないだろ。補給も兼ねて休ませてもらうか)
「はいっ! こっちです、英一様!」
マイユは花が咲いたような笑顔を見せると、英一の手を引いて歩き出した。
二人が向かったのは、森を抜けた先にある城塞都市『スタラント』。
石造りの高い城壁に囲まれたその街は、遠くからでも鍛冶場の煙突から煙が上がっているのが見え、活気に満ちているようだった。
城門の前には、槍を持った兵士たちが立って検問を行っている。
「やぁ、マイユちゃん。商売の帰りかい?」
顔馴染みらしい若い警備兵が、親しげに声をかけてきた。
「あ、警備の人。お疲れ様です~」
マイユは愛想よく挨拶を返すが、警備兵の視線はすぐに英一へと移った。
迷彩服に防弾チョッキ、フルフェイスに近いヘルメット。どう見てもこの世界の住人ではない。明らかに不審者だ。
「……ん? 君は誰だ? 見ない顔だし、その奇妙な服は……」
警備兵が警戒して槍を持ち直す。
英一の視界には、警備兵の頭上に『黄色のマーカー』が表示された。
(黄色……『中立(ニュートラル)』か。攻撃はしてこないが、対応次第で赤(敵)にも青(味方)にもなるNPCってとこだな)
英一がどう答えるべきか(「旅人です」と言うべきか、黙っているべきか)コミュ障特有の思考フリーズを起こしかけた時、マイユがスッと二人の間に割って入った。
「あ、警備兵さん! この人は怪しい人じゃないの!」
マイユは身振りを交えて、まくし立てる。
「森で魔物に襲われた私を助けてくれた、命の恩人なんです! 凄腕の傭兵さんで、遠い異国の衣装を着てるだけなんですよぉ」
「よ、傭兵……? にしては武器を持ってないようだが……」
「魔法使いの一種なんです! ね? だから心配しないで」
言いながら、マイユは自然な動作で警備兵の手に何かを握らせた。
キラリと光る銀貨(1,000円相当)。
通行料にしては少し多い、所謂「袖の下」だ。
「きちんと通行料は払うから。ね? 融通利かせてくださいな?」
マイユが上目遣いでニコリと微笑む。
ドワーフ族特有の商魂と、彼女自身の愛嬌。そして握らされた銀貨の重み。
警備兵は苦笑して、槍を下ろした。
「……分かったよ。マイユちゃんがそこまで言うなら、信用しよう」
「ありがとうございます~! やっぱりスタラントの兵隊さんは頼りになりますね!」
「へへっ、よせよ。通りな」
警備兵は機嫌よく道を開けた。
(……なるほど。これが『リアルな取引』ってやつか)
英一は感心した。ゲームなら選択肢を選んでスキルチェック判定が入るところだが、この世界ではコミュニケーションと金が物を言うらしい。
マイユの後ろについて門をくぐる際、英一は小さく警備兵に会釈した。
スタラントの街中は、活気と熱気に満ちていた。
カンカンと金属を叩く音、露店の呼び込みの声、そして見たこともない『ロックバイソン』が引く荷車の列。
「じゃあ、行きましょ英一さん! アタシの城へ!」
「あ、ああ……」
英一はキョロキョロと挙動不審になりながらも、彼女の後をついていく。
マイユに案内されて到着したのは、職人街の片隅にある一軒の建物だった。
看板には『マイユの万事屋工房(よろずやこうぼう)』と書かれており、店の前には歯車や金属片、謎のガラクタが山積みにされている。
「散らかってますけど、どうぞ!」
マイユが重い扉を開けると、中からはオイルと鉄の混じった、どこか懐かしい匂いがした。
それは英一が一日でバックレたとはいえ、かつて嗅いだ工場の匂いに似ていて――しかし、不思議と嫌な感じはしなかった。
「ここが、マイユの工房……」
英一はヘルメットを脱ぎ、その雑然とした、しかし職人の熱意が詰まった空間に足を踏み入れた。
0
あなたにおすすめの小説
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立
黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」
「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」
ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。
しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。
「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。
だが、彼らは知らなかった。
ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを!
伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。
これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる