FPS世界ランク1位の凸スナ、ニートを辞めて異世界でエンジニアになる~工業高校の資格と現代兵器で、健気なドワーフ娘を救い天下を取る~

月神世一

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EP 27

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金貨2万枚の重みと、ギルドマスターの釘
「……では、こちらが前金の『金貨2万枚』です。お確かめ下さいニャ」
ゴルド商会の応接室。
ナーコが優雅に指を鳴らすと、部下が黒塗りの重厚なジュラルミンケース(のような魔導金庫)をテーブルに置いた。
パカリ、と開けられた中には、目が眩むような黄金の輝きが詰まっている。
「は、はい……(確かめろって言われても、2万枚なんて数えられないわよ~! 日が暮れるわ!)」
マイユは心臓が口から飛び出しそうになりながらも、震える手で金貨の束を一つ手に取り、パラパラと確認するフリをした。
「……間違いありませんわ」
マイユは努めて冷静を装い、その膨大な富を自身の『魔法ポーチ』へと収納した。
ズシリ、と腰に感じる重み。それは物理的な重さではなく、責任の重さだった。
「結構ですニャ。では、今後共ご贔屓に、宜しくお付き合い下さいませ」
ナーコは深々とお辞儀をした。その頭上の『金色のマーカー』は、最後まで底知れない光を放っていた。
ゴルド商会の重厚な扉を出ると、スタラントの風が少し冷たく感じられた。
さっきまでのフカフカの絨毯とは違う、堅い石畳の感触。
「こ、これからどうするんだ? ……受け取っちまったぞ」
英一が乾いた笑いを漏らす。
手付金2億円相当。もう後戻りはできない。
「年間一千着? マジかよ……一日3着ペースだぞ? 休みなしで」
ラウスが頭を抱える。
試作品を作るのに数日かかったのだ。今の体制では物理的に不可能に近い。
「まずは……『素材』の確保ね」
マイユは魔法ポーチの紐を強く握りしめた。
「レッドオーガの買い取り優先権と、ドワーフ鋼の買い占め。それに……作業員をどうするかよね」
「レッドオーガ買い取り優先って……奴は強敵だぞ? そもそもそんなに個体数がいるのか? それに……」
ラウスは言葉を濁し、チラリと英一を見た。
「ダグドの旦那が許すかな? 特定の魔物の大量買い付けなんて言い出したら……」
「そ、それは……あくまでも『買い取り優先』だから。乱獲を依頼するわけじゃないわ」
マイユも少し顔を引きつらせたが、すぐに気を取り直した。
「それに、スタラント周辺だけじゃ数が足りないわ。大陸全部の支部から、レッドオーガの素材を集めれば……計算上は行けるわよ!」
「大陸全部……? そんなツテはあるのか?」
英一が尋ねる。物流網もネットもないこの世界で、それは途方もない話だ。
「う、う~ん……。と、とりあえず、冒険者ギルドに行きましょう! ギルドのネットワークを使えば何とか!」
冒険者ギルド本部。
相変わらずの喧騒の中、三人が入っていくと、受付のスミルが気づいた。
「スミルさん。ダグドさん居ますか?」
「あらマミユちゃん。ダグドさんなら奥に居るわよ。……ちょっと機嫌が悪そうだけど」
スミルが苦笑いしながら奥の執務室へ声をかけると、すぐに扉が開き、巨漢が現れた。
「……どうしたんだ?」
ダグドだ。
彼はマイユたちを一瞥すると、すぐに英一へと視線を移し、じろりと睨みつけた。
「ヒッ……」
英一の背筋が凍る。
殴られた頬の痛みが蘇るようだ。彼の頭上のマーカーは『黄色』だが、その眼光は『赤』に近い圧力を放っている。
「調子に乗るなよ」という無言の警告だ。
「えっと、ダグドさん。今日は依頼を出しに来たんです」
マイユが一歩前に出て、毅然と言った。
「今後、冒険者が『レッドオーガ』を討伐したら、その素材を最優先で私共に買い取らせて頂きたいんです」
「ほぉ……買い占めか?」
「もちろん、最優先する分の『上乗せ金(プレミアム)』はお支払いしますわ。ギルドへの手数料も弾みます」
金貨2万枚の資金力がある今、金に糸目はつけない作戦だ。
ダグドは腕組みをして、低い声で唸った。
「成る程なぁ。……だがよ」
ダグドの視線が、再び英一に突き刺さる。
「何にも悪い事をしてないレッドオーガを、見つけ次第片っ端から殺してこいって言ってるんじゃねぇだろな? ……おぃ」
「ッ……!」
英一は直立不動で首を横に振った。
あの時の教訓は骨身に染みている。もう二度と、命を軽んじるような真似はしない。その覚悟を目で訴える。
「と、当然ですわ!」
マイユが慌ててフォローする。
「あくまでも『討伐対象』になった……つまり、人に害をなしたり、街道に出現して依頼が出されたレッドオーガだけを、優先的に私共に回して頂ければと!」
ダグドはしばらく英一とマイユの目を見ていたが、やがてフンと鼻を鳴らした。
「……そうか。ならば良い」
張り詰めていた空気が緩む。
「正規の依頼で出た素材の行き先がどこになろうと、ギルドの知ったことじゃねぇ。高い金を払うなら、冒険者にとっても悪い話じゃねぇしな。……この取引は成立だ」
「あ、ありがとうございます!」
マイユは胸をなでおろし、さらに食い下がった。
「あ、あのダグドさん。ついでと言っては何ですが……他の街のギルド支部で出たレッドオーガの素材も、私共にお渡ししてくれるなんて……出来ないかしら?」
スタラント周辺だけでは数が知れている。大陸全土からの供給ルートがあれば、生産は安定する。
しかし、ダグドは即座に首を横に振った。
「そいつは無理だな」
「えっ……」
「顧客はマミユ、お前たちだけじゃないからな。レッドオーガの革は需要がある。防具屋、貴族、軍部……欲しい奴なんてゴロゴロいるんだ」
ダグドは現実的な問題を突きつけた。
「それに、輸送コストや保存の問題もある。何でわざわざ、遠く離れた『知らない街の工房』のために、他の支部のギルマスが便宜を図らなきゃならねぇ? 俺には他所の支部に命令する権限はねぇよ」
「そ、そうですか……」
マイユは肩を落とした。
ギルドはあくまで都市ごとの独立採算制に近い。大陸規模の物流を動かすには、ギルドマスターのコネクションだけでは不十分なのだ。
(やっぱり、甘くないわね……)
「分かりました。無理を言って申し訳ありません。……ありがとうございました、ダグドさん」
「おぅ。また来な。……おい坊主、真面目にやれよ」
ダグドは最後に英一の肩をバンと叩き(英一は少し沈んだ)、奥へと戻っていった。
ギルドを出た三人は、夕暮れの街に立ち尽くした。
「……近場の素材は確保できた。でも、千着には程遠いな」
英一が呟く。
資金はある。技術もある。だが、圧倒的に「モノ」と「ヒト」が足りない。
「どうする、マイユ?」
「……別の手を考えなきゃね」
マイユはゴルド商会のある方角を睨み、そして小さな工房のある下町の方角を見た。
「素材が来ないなら、取りに行くしかないわ。……それに、人手不足を解消する『秘策』も、試してみる価値があるかも」
エイイチ&マイユ工房の次なる課題は、生産ラインの革命だった。
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