FPS世界ランク1位の凸スナ、ニートを辞めて異世界でエンジニアになる~工業高校の資格と現代兵器で、健気なドワーフ娘を救い天下を取る~

月神世一

文字の大きさ
28 / 53

EP 28

しおりを挟む
毒を以て毒を制す、黄金の盾
冒険者ギルドを出た三人は、夕暮れの冷たい風に吹かれていた。
手元には資金がある。技術もある。だが、それを形にするための「パイプ」が決定的に欠けていた。
「う~ん……絶対に、このままでは足りないわ」
マイユは深く溜息をついた。
スタラント近郊のレッドオーガだけでは、年間1,000着というノルマの数十分の一も満たせない。
「どうするかな……。レッドオーガを片っ端から倒して良いなら簡単なんだが、ダグドさんに釘を刺されたしな」
英一も腕組みをして唸る。
ゲームなら「リポップ待ち」や「乱獲」ができるが、現実は生態系やギルドのルールが壁となる。
重苦しい沈黙の中、今まで黙って考え込んでいたラウスが、意を決したように口を開いた。
「……マミユ。……『ゲッコー』の所に行こうぜ」
「えっ!?」
マイユが弾かれたように顔を上げた。
「ゲッコー? 誰だ?」
「英一さん、前に借金取りのラウスさんを送り込んできた、あの『ゼニゲコギルド』の親玉よ。お父さんが借金してた相手……」
マイユの声が震える。彼女にとってゲッコーは、家庭を壊しかけた憎き相手であり、トラウマの象徴だ。
「ラウスさん、正気? あのカエル男と手を組むなんて……」
「ああ、正気だ。……ゲッコーは性悪で腐った野郎だが、『金儲け』は大好きなんだ。そこだけは間違いない」
ラウスは真剣な眼差しで続けた。
「あいつは闇ルートや密輸組織にも顔が利く。正規のギルドが手を出せないような場所から素材をかき集めたり、荒っぽい連中を使って数を揃えることに関しては、ダグドの旦那より上だ」
「でも……足元を見られて、色々条件を付けられそうね。最悪、また工房を乗っ取ろうとするかも……」
「だが、他に道はねぇだろ?」
ラウスの言葉は残酷なまでの真実だった。
正規ルートがダメなら、裏ルートを使うしかない。
「……そうね」
マイユは数秒間目を閉じ、カッと目を開いた。
「『毒を以て毒を制す』……。使えるものは何でも使う。それが経営者よね」
覚悟を決めたマイユだったが、すぐに不安げに眉を寄せた。
「でも……このまま私たちがゲッコーの所に行っても、また舐められて追い返されるか、法外な手数料を吹っかけられるのがオチだわ」
相手は海千山千の高利貸し。マイユたちだけでは交渉力が弱すぎる。
「なら、ナーコさんに相談すれば?」
英一が提案した。
「ナーコさん?」
「あぁ。さっき契約したばかりだし、ゴルド商会の支店長だ。彼女と一緒に行けば、ゲッコーの奴も無下には出来ない……か」
ラウスがポンと手を打った。
ゲッコーにとってナーコは、雲の上の存在。睨まれたら終わりの相手だ。
「そうね……! 『虎の威を借る狐』作戦ね。相談してみましょう!」
三人は踵を返し、再びゴルド商会の扉を叩いた。
突然の再訪にも関わらず、ナーコは嫌な顔一つせず、再び応接室へと通してくれた。
「あら? マミユ様。如何なされましたか? 何か契約に不備でも?」
ナーコが小首を傾げる。
「いえ、違うんです。ナーコさん、実は……コンバット装備の事で、素材調達に悩んでいて」
マイユは正直に現状を話した。
正規ルートの限界と、裏ルート――ゼニゲコギルドの利用を考えていること。
「えぇ、えぇ。……成る程」
ナーコは静かに頷きながら聞いていた。
「そこで、ゼニゲコギルドのギルドマスター、ゲッコーさんに商談を持ちかけたくて……。もし可能なら、ナーコさんに『見届け人』になって頂ければ、と」
マイユは恐る恐る切り出した。
これはゴルド商会の業務外の頼みだ。厚かましいお願いであることは百も承知だった。
「成る程。私が見届け人になれば、あのカエルさんも妙な真似は出来ない……そういうことですね?」
ナーコは扇子で口元を隠し、一拍置いた。
その沈黙に、マイユたちの心臓が早鐘を打つ。
「分かりました」
ナーコはあっさりと、花が咲くような笑顔で承諾した。
「よ、宜しいんですか!? 私共の為に、わざわざスラム街のギルドまで……」
「マミユ様」
ナーコはマイユの手を取り、真っ直ぐにその瞳を見つめた。
「私共と貴女方は、最早同じ利益を享受する『対等なパートナー』なんですよ? コンバットスーツの生産が遅れれば、私共も損をします。貴女方の障害を取り除くのは、私の仕事でもありますニャ」
「ナーコさん……」
「そう畏まらないで下さい。私たちは『運命共同体』なのですから」
その言葉に、英一も胸を打たれた。
この少女は、本当に自分たちのことを考えてくれている。
「いつでも、私をお使い下さい。……私共は、『お金以外』ならいつでもお貸しします」
ナーコはニッコリと笑い、決定的な一言を放った。
「何せ、『タダ』ですからニャ♪」
その瞬間、室内の空気が一瞬だけ冷やりとしたものに変わった気がした。
「あ、ありがとうございます! ナーコさん!」
マイユは純粋に感謝し、頭を下げた。
英一もホッとした表情をしている。
だが、ラウスだけは、背筋に冷たいものが走るのを感じていた。
(……タダより高い物はねぇってな)
商人が「タダ」で動く。それはつまり、金銭以上の「借り」を作ることと同義だ。
ナーコは今、マイユたちに恩を売り、逃げられないように鎖を繋いだのだ。
あのゲッコーですら、彼女にとっては手駒の一つに過ぎないのだろう。
「では、参りましょうか。……久しぶりに、下町のお散歩も悪くありませんわね」
ナーコが立ち上がる。
その背中は、頼もしいと同時に、底知れない恐ろしさを纏っていた。
最強の「黄金の盾」を連れて、三人は因縁の相手・ゲッコーの元へと向かう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】 普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます) 【まじめなあらすじ】  主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、 「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」  転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。  魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。  友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、 「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」 「「「違う、そうじゃない!!」」」  これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。 ※他サイトにも投稿中 ※旧タイトル 病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

処理中です...