FPS世界ランク1位の凸スナ、ニートを辞めて異世界でエンジニアになる~工業高校の資格と現代兵器で、健気なドワーフ娘を救い天下を取る~

月神世一

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EP 29

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カエルの王様、招き猫に睨まれる
スタラントの裏通り。
腐った水と安煙草の臭いが充満する『ゼニゲコ商業ギルド』の扉を、ラウスが開けた。
先ほどまでのゴルド商会の洗練された空気とは真逆の、淀んだ欲望の掃き溜めだ。
「……ゲッコーの旦那」
ラウスが声をかけると、奥の執務机で煙管を吹かしていたカエル族の男、ゲッコーが気だるげに顔を上げた。
「あ? ……お前はラウスや無いか?」
ゲッコーはギョロリとした目を細め、煙を吐き出した。
「何しに来たんや? ワテ言わんかったか? 『もう来んでええ』って。金にならん用済みは視界に入れるだけで不愉快なんや」
「今日は……俺の仲間を連れてきました」
ラウスは一歩横に退いた。その後ろから、マイユと英一が姿を現す。
「こんにちわ。ゲッコーさん」
マイユが努めて冷静に挨拶をした。
その顔を見た瞬間、ゲッコーが椅子を蹴って立ち上がった。
「何!? マミユやと!?」
ゲッコーの視線がラウスとマイユを行き来する。
「ラウス! どないなっとんねん! ワテが追い込みかけさせた相手とつるんどるやと!? 『仲間』!? ふざけんなよ!」
ゲッコーの怒声が響き、周囲に控えていた強面の用心棒たちが一斉に立ち上がり、武器に手をかけた。
「えっと……色々有りまして、今はマミユと英一の元で事業をやっております」
「てめぇ! 裏切りおって! ワテに喧嘩を売りに来たんか!?」
ゲッコーの顔が真っ赤に染まり、長い舌がチロチロと威嚇に動く。
英一がM24に手をかけようとした、その時だった。
「こんにちわ、ゲッコーさん」
鈴を転がすような、涼やかな声が響いた。
殺気立った男たちの間を縫うように、小柄な少女が音もなく進み出た。
「なんや! お前は! 部外者はすっこんで……いや……」
ゲッコーが怒鳴りつけようとして、その言葉が喉で凍りついた。
見間違えるはずがない。
その特徴的な三毛の耳。艶やかなチャイナドレス。そして何より、このスタラント経済を牛耳る「女帝」のオーラ。
「あ、貴女は……ゴルド商会の……ナーコ支店長……!?」
場の空気が一瞬で反転した。
用心棒たちが青ざめて武器から手を離し、直立不動になる。
「はい。お元気ですか? ゲッコーさん」
ナーコは扇子で口元を隠し、ニッコリと微笑んだ。その目は全く笑っていない。
「こ、こりゃ毎度! お、お元気ですとも!」
ゲッコーは慌てて机を回り込み、揉み手をしながら頭を下げた。冷や汗が滝のように流れている。
「こ、こんなむさ苦しい所に、何で支店長はんが直々に? 呼び出しくだされば、ワテの方から這ってでも伺いましたのに!」
相手は「ゴールド資格」を持つ超大物だ。ゲッコーごときが逆らえば、翌日には店ごと消滅させられる。
「いえ、今日は『マミユ様』が、ゲッコーさんとビジネスの話がしたいと言われたので……」
ナーコはチラリとマイユを見た。
「私が『相談』に乗っている所なんですニャ」
「ビ、ビジネス? ……マミユと?」
ゲッコーが呆気にとられてマイユを見る。
あの金のない小娘に、天下のナーコが「様」をつけて、相談に乗っている?
それはつまり、マイユの背後にゴルド商会という巨大な後ろ盾がついたことを意味していた。
(ど、どないなっとんねん……! あの娘、一体何を売り込みよったんや!?)
ゲッコーの脳内で高速の計算が走る。
敵対するか? いや、ナーコがいる時点で自殺行為だ。
ならば、媚びるしかない。
「そうなんです、ゲッコーさん」
マイユが一歩前に出た。
ナーコという最強の「魔除け」がある今、恐れるものは何もない。
「お話を……良いですか?」
マイユの毅然とした態度に、ゲッコーは脂汗を拭いながら、引きつった笑顔を作った。
「へ、へい! 勿論でごわす! ささ、どうぞお掛けになって!」
カエルの王様が、招き猫の威光の前に陥落した瞬間だった。
英一とラウスは顔を見合わせ、心の中でナーコの恐ろしさに合掌した。
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