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EP 36
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ピンクの戦車と、忘却の彼方
『ラビット・グランドマスター』の完成に、工房は達成感に包まれていた。
ピンク色に輝く装甲、愛らしいウサギの顔、そして凶悪なニンジンの砲塔。
三人と一人の天才(変態)技術者たちは、オイルまみれの手で互いを称え合った。
「完璧だ……。これならどんな悪路も走破できる」
「可愛さも最強よ! まさにグランドマスターの名に相応しいわ!」
一通り盛り上がった後、ふと訪れた静寂の中で、英一が首を傾げた。
「……で、えっと。俺たち、何しにドワーフ国に来たんだっけ?」
その一言が、冷水のように場の空気を冷やした。
「…………あっ」
マイユの動きがピタリと止まる。
魔改造の熱狂に浮かされ、脳内のメモリから完全に消え去っていた「現実」が、急速にロードされていく。
「そ、そうよ……! 『ドワーフ鋼』よ!!」
マイユが顔面蒼白で叫んだ。
「それを大量にゲットしに来たんだったわ! 車を改造してキャッキャしてる場合じゃありませんわーーッ!!」
「そうだぜ。当初の目的はそれだ。……危ねぇ、俺も完全に忘れてた」
ラウスも額の汗を拭う。
年間1,000着のノルマ。違約金10万金貨。そのプレッシャーが、ニンジンの砲塔の陰から再び鎌首をもたげてきた。
「あ~ヤバいヤバい。遊んでる場合じゃなかった……」
英一たちが頭を抱えていると、メルセスが興味深そうにゴーグルをずらした。
「え? 何々? ただの観光じゃないの?」
「うーん……」
マイユは少し迷った。
本来、他国の技術者に極秘プロジェクトの内情を話すのは御法度だ。
だが、メルセスとは共に汗を流し、同じ「技術屋の魂」を共有した。彼女なら、この技術の価値を正しく理解し、悪用しないという確信があった。
「……メルセスなら、教えても良いかな」
マイユは決心し、『魔法ポーチ』から深紅のベストを取り出した。
「これよ。私たちがここへ来た理由は」
「……!」
メルセスが息を呑む。
彼女は無言で『コンバット・スーツ』を受け取ると、再びゴーグルを装着し、食い入るように観察し始めた。
「こ、これは……!?」
彼女の指が、MOLLEシステムの帯をなぞり、ドワーフ鋼のプレート配置を確認する。
「いや、何この防御力……。それに、この『拡張性』……。今までに無いコンセプトだわ。魔力を均一に分散させる回路も完璧……。美しい……」
エルフの魔工師としての目が、その革新性を一瞬で見抜いた。
単なる防具ではない。これは「システム」そのものだ。
「これをね、1年間に『一千着』作らないといけないの。ゴルド商会との契約で」
「い、一千着ぅ!?」
メルセスが素っ頓狂な声を上げる。
「ええ。その為には、最高品質の『ドワーフ鋼』が大量に要るの。スタラントの市場に出回る量じゃ全然足りないのよ」
マイユが切実な目で訴える。
ドワーフ鋼は、ドワーフ族が製法を秘匿する希少金属。総本山であるドワーフ国でさえ、よそ者に大量に卸すことは稀だ。
「成る程ね……。事情は分かったわ」
メルセスはコンバットスーツを丁寧に返すと、腕組みをして考え込んだ。
「普通のルートじゃ無理ね。ドワーフのギルドは閉鎖的だし、一見さんにはクズ鉄しか売らないわ」
「やっぱり……」
「でも」
メルセスは悪戯っぽくウィンクをした。
「貴女たち、運が良いわよ。私、変り者の友達が多いの」
「え?」
「『ガルドフ』を紹介してあげるわ」
「ガルドフ……?」
「ええ。ドワーフ族の商人なんだけど、私と似ててね……『新しい技術』には目がない変人よ。彼なら、このコンバットスーツの価値を理解して、裏のルートからでも最高級の鋼を融通してくれるはずだわ」
「ほ、本当ですか!?」
マイユが身を乗り出す。
「ええ。それに、彼は今ちょうど、この近くの『鋼の市場(スチール・マーケット)』に来ているはずよ」
メルセスは作業台のメモにサラサラと地図を描いた。
「このグランドマスターで行けばすぐよ。……紹介状代わりに、私の工具を一つ貸してあげる。それを見せれば話を聞いてくれるわ」
「ありがとう、メルセス! 貴女は命の恩人ですわ!」
「ふふ、お礼なら今度、その『銃』の構造も見せて頂戴ね♡」
メルセスは英一を見て妖艶に笑った。
英一は背筋に寒気を感じつつも、強力なコネクションを得たことに安堵した。
「よし、行こう! ガルドフって商人の所へ!」
「おう! 鋼を手に入れて、とっとと帰って生産開始だ!」
一行は、ピンク色の悪魔『ラビット・グランドマスター』に乗り込み、新たな希望を胸に再出発した。
目指すはドワーフの商人、ガルドフ。
変人エルフの友達なら、きっと一筋縄ではいかない相手だろうが、今の彼らには最強の「商品」と「車」がある。恐れるものは何もなかった。
『ラビット・グランドマスター』の完成に、工房は達成感に包まれていた。
ピンク色に輝く装甲、愛らしいウサギの顔、そして凶悪なニンジンの砲塔。
三人と一人の天才(変態)技術者たちは、オイルまみれの手で互いを称え合った。
「完璧だ……。これならどんな悪路も走破できる」
「可愛さも最強よ! まさにグランドマスターの名に相応しいわ!」
一通り盛り上がった後、ふと訪れた静寂の中で、英一が首を傾げた。
「……で、えっと。俺たち、何しにドワーフ国に来たんだっけ?」
その一言が、冷水のように場の空気を冷やした。
「…………あっ」
マイユの動きがピタリと止まる。
魔改造の熱狂に浮かされ、脳内のメモリから完全に消え去っていた「現実」が、急速にロードされていく。
「そ、そうよ……! 『ドワーフ鋼』よ!!」
マイユが顔面蒼白で叫んだ。
「それを大量にゲットしに来たんだったわ! 車を改造してキャッキャしてる場合じゃありませんわーーッ!!」
「そうだぜ。当初の目的はそれだ。……危ねぇ、俺も完全に忘れてた」
ラウスも額の汗を拭う。
年間1,000着のノルマ。違約金10万金貨。そのプレッシャーが、ニンジンの砲塔の陰から再び鎌首をもたげてきた。
「あ~ヤバいヤバい。遊んでる場合じゃなかった……」
英一たちが頭を抱えていると、メルセスが興味深そうにゴーグルをずらした。
「え? 何々? ただの観光じゃないの?」
「うーん……」
マイユは少し迷った。
本来、他国の技術者に極秘プロジェクトの内情を話すのは御法度だ。
だが、メルセスとは共に汗を流し、同じ「技術屋の魂」を共有した。彼女なら、この技術の価値を正しく理解し、悪用しないという確信があった。
「……メルセスなら、教えても良いかな」
マイユは決心し、『魔法ポーチ』から深紅のベストを取り出した。
「これよ。私たちがここへ来た理由は」
「……!」
メルセスが息を呑む。
彼女は無言で『コンバット・スーツ』を受け取ると、再びゴーグルを装着し、食い入るように観察し始めた。
「こ、これは……!?」
彼女の指が、MOLLEシステムの帯をなぞり、ドワーフ鋼のプレート配置を確認する。
「いや、何この防御力……。それに、この『拡張性』……。今までに無いコンセプトだわ。魔力を均一に分散させる回路も完璧……。美しい……」
エルフの魔工師としての目が、その革新性を一瞬で見抜いた。
単なる防具ではない。これは「システム」そのものだ。
「これをね、1年間に『一千着』作らないといけないの。ゴルド商会との契約で」
「い、一千着ぅ!?」
メルセスが素っ頓狂な声を上げる。
「ええ。その為には、最高品質の『ドワーフ鋼』が大量に要るの。スタラントの市場に出回る量じゃ全然足りないのよ」
マイユが切実な目で訴える。
ドワーフ鋼は、ドワーフ族が製法を秘匿する希少金属。総本山であるドワーフ国でさえ、よそ者に大量に卸すことは稀だ。
「成る程ね……。事情は分かったわ」
メルセスはコンバットスーツを丁寧に返すと、腕組みをして考え込んだ。
「普通のルートじゃ無理ね。ドワーフのギルドは閉鎖的だし、一見さんにはクズ鉄しか売らないわ」
「やっぱり……」
「でも」
メルセスは悪戯っぽくウィンクをした。
「貴女たち、運が良いわよ。私、変り者の友達が多いの」
「え?」
「『ガルドフ』を紹介してあげるわ」
「ガルドフ……?」
「ええ。ドワーフ族の商人なんだけど、私と似ててね……『新しい技術』には目がない変人よ。彼なら、このコンバットスーツの価値を理解して、裏のルートからでも最高級の鋼を融通してくれるはずだわ」
「ほ、本当ですか!?」
マイユが身を乗り出す。
「ええ。それに、彼は今ちょうど、この近くの『鋼の市場(スチール・マーケット)』に来ているはずよ」
メルセスは作業台のメモにサラサラと地図を描いた。
「このグランドマスターで行けばすぐよ。……紹介状代わりに、私の工具を一つ貸してあげる。それを見せれば話を聞いてくれるわ」
「ありがとう、メルセス! 貴女は命の恩人ですわ!」
「ふふ、お礼なら今度、その『銃』の構造も見せて頂戴ね♡」
メルセスは英一を見て妖艶に笑った。
英一は背筋に寒気を感じつつも、強力なコネクションを得たことに安堵した。
「よし、行こう! ガルドフって商人の所へ!」
「おう! 鋼を手に入れて、とっとと帰って生産開始だ!」
一行は、ピンク色の悪魔『ラビット・グランドマスター』に乗り込み、新たな希望を胸に再出発した。
目指すはドワーフの商人、ガルドフ。
変人エルフの友達なら、きっと一筋縄ではいかない相手だろうが、今の彼らには最強の「商品」と「車」がある。恐れるものは何もなかった。
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